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女王陛下のシークレットサービス  作者: わんこ先生
第一章 Magic's friend is...
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第一章 004 そういう問題じゃない!もっとこう・・・!!

 食事を終えた後ツカサは魔王に自室を案内された。窓の外から月明かりが豪奢なベッドを照らす様はこの部屋をより華やかに魅せた。

 部屋の入り口付近に立つツカサは辺りを見渡す。机や棚、クローゼット等必要なものは全て揃っているようだ。


 「ここを好きに使っていいぞ。」


 魔王はそう言ってその豪華なベッドの上に腰を下ろしてポンポンと柔らかい布団を叩いた。

 魔王の姿が月明かりに照らされ、何を思い出したかはわからないがツカサをノスタルジーな気持ちにさせる。


 「こんな大きい俺に部屋もったいないです」


 「そうだな」


 「否定してください」


 クスクスと笑う魔王。ツカサも魔王の隣に腰を下ろす。


 「そういえばツカサ。お主とは()だ契約をしていなかったな。」


 図書館で「正式な契約を致す」と魔王が言っていたことを思い出したツカサ。


 「契約ってなんですか?書面での雇用契約ですか?」


 「書面では致さないが、まぁそんなものだ。アンやヴァーミリア、イリーナそして今日はいないがジェイヴィンという家政婦もこの契約を結んでいる。」


 書面以外で契約を結ぶ方法があるらしい。この世界のことだから魔法で何かするのだろうと勘ぐるツカサ。それと同時に契約しているのが4人だけという違和感も感じた。


 「あれ?あと一人研究科がいるって言っていませんでした?」


 「あぁ、オタはちょっと特殊でな。なんというか・・・。まぁ会えばわかる。」


 苦笑いをする魔王。何やら嫌な予感がしてならないツカサだった。


 「まぁいい。早速だが契約を交わそう。察しているとおり魔法でだ」


 「どうすればいいのでしょうか」


 「私の前に手を出してくれ」


 ツカサは手を差し出したがツカサ、余りにも可愛い頭が目の前にあったため行動を誤ってしまった。


 「誰か頭に手を載せろと言った。」


 ピクピクと柳眉(りゅうび)を震わせる魔王。


 「すみません、つい」


 どうやら素で間違ってしまったらしい。よくあることだ。


 「まぁよい。私の胸の前に手を出せ。くれぐれも胸を触るなどするなよ。」


 前科一犯。ツカサには覗きの罪があるため警戒をしている。ちゃんと魔王の胸の前に手の甲差しを出したツカサ。その手に重なるように魔王は手を乗せた。

 しっかり手を前に差し出してくれたことに対する安心した表情から一変、魔王は座り直し不安そうな顔でツカサの眼を見て話した。


 「ツカサよ。もしノロが明日明後日にでも見つかったらどうするのだ?ここで面倒を見るという話はノロが見つかるまでということであったが・・・。」


 そう、図書館で口頭で約束したときは見つかるまでという話だった。ノロが見つかればツカサの能力(ちから)は必要なくなるし魔王がツカサの面倒をみる義理もなくなるのだから・・・。

 魔王が不安そうな顔で言っているのはこのこと。もし仮にノロが早く見つかったらツカサはどうなってしまうのか、文字の読み書きもできないツカサがこの世界で生きていけるのかと心配しているのだ。例えセクハラをされてもお人好しの魔王はツカサが心配だった。

 そんなツカサは月を見ながらなんの気もなしに応えた。


 「俺はそれでも全然構いません。むしろ、行くあてのない怪しい俺をこの家に招き入れたことに感謝しているくらいです。魔王様が俺に気を使う必要はないです。」


 魔王が求めていた答えはそれではない。だが魔王はその表情を変えずに続けた。


 「そうか・・・では、とりあえずノロが見つかるまでにしておくか・・・」


 だが流石はツカサ。魔王に顔を向けると、なんとなくだが心配そうな顔をしていることに気づいた。読心術を習得しているツカサにとってそのような些細な表情の変化を見逃したりはしない。アニメや漫画の主人公みたいに鈍くはないツカサはここで魔王が喜ぶ最善の言動を取ってみせたのだ。


「あー。でもせっかくだし、この世界での生活に慣れるまでだったらここで住まわせて欲しいな・・・とか思ったりして。それに字も未だ教えてもらっていませんしね」


 ツカサはこんなことは普段言わない。それも照れくさそうにいうなんて今までの諜報部員ツカサであったら考えられないことだった。

 そんなツカサを見て魔王はニヤリと笑って答えてやった。


 「なんだ、なんだ。本当は不安なのではないか。全く、(はじ)めからそう言えばいいものを。お主は意外と()いところもあるみたいだな。ナーッハッハッハ」


 満足そうに笑う魔王からは先ほどの心配そうな面影は跡形もなく消えていた。

 そんな魔王の表情を見て顔を綻ばすツカサ。魔王のお人好しさに呆れてもいた。


 「あまり調子に乗らないでください。と、言うよりこの手いつまでこうしてるんですか?」


 ツカサはいつまでも重ねている手になんとなく高揚感を感じながらも苦言を呈した。


 「そうであったな。忘れておったわ。んじゃ、ツカサお主がこの世界に慣れるまでという契約でよろしいな?」

 

 再度確認をする魔王に対しツカサは肯定した。


 「そういうことでいいです」


 「ふふっ、素直じゃないやつめ。では往くぞ。」


 魔王は目を閉じ、ツカサの手を覆うようにもう片方の手でツカサの(てのひら)を挟んだ。


 「我、この者がこの世で平穏な暮らしを出来るまでの間、(あるじ)として全うする事を盟約に誓う」


 魔王は片目を開けツカサに顎で催促した。


 「我、この幼女の従者として身を捧げる事を盟約に誓う」


 「誰が幼・・・!」


 魔王の声は虚しく、ツカサの手から発せられた(まばゆ)い光りによって(はば)まれた。

その光はまるで閃光榴弾が部屋に投げ込まれたかのごとく燦爛(さんらん)し、窓や扉の隙間から部屋の外へ漏れ出すほどの眩さだった。

ツカサも目を瞑りながら手の甲に何やら温かみを感じていた。魔王の手のひらとは別の暖かさだった。

瞼の裏から発光が収まったのを確認し、二人は同時に目を開けた。


 「わお」


 温かみの正体はこれだった。ツカサの手には紅い色でAの横棒を斜めにしたような紋章が描かれており、なんとなくだがツカサの心の中で魔王に仕えているという気持ちが芽生えていた。

 魔王は立ち上がり、窓際へ往き振り返る。長く綺麗なその黒髪が月明かりに照らされている。


 「なんだか不思議な気持ちであろう?それが主従の契約だ。お主にはこれから私のいうことは絶対服従だぞ」


 「え!?」


 さらっと衝撃的な発言にツカサは目を丸くして驚くほかない。なんというご褒・・・ゲフンゲフン。なんていう恐ろしい契約をしてしまったんだ。

 だが魔王はニヤリと笑って強気で言った。


「う・そ・だ」


 してやったりといったような顔で小悪魔的な笑顔を魅せた。いたずら成功!とでも言わんばかりのその幼い笑顔はなんだかツカサを安心させた。

 だが、同時に儚くも脆くも捉えることができた。でもそれがなんだか美しかった。


 「魔王様って綺麗ですね」


 ツカサは魔王の目を見てそう言った。小気味に笑ってみせる笑顔から一転、顔を引きつらせ頬を染め慌てふためく魔王がとった行動は・・・。


 「い、いきなり何を言っておるのだ!阿呆!アホ!間抜けッ!」


 ツカサの胸ぐらを掴み往復ビンタをかました。20秒くらい。


 「あまり調子に乗るな」


 「痛い・・・仕返しのつもりだったのにさらに仕返しされてしまった・・・」


 魔王は腕を組み「ふんっ」と鼻を鳴らしてそっぽを向き、横目で真っ赤に頬を腫らしたツカサを見る。涙目のツカサも笑顔でそれに答える。

 そうか、我々が感じていた違和感はこれだった。ツカサが笑うこと、ましてや表情をコロコロ変えるようなことなど諜報部時代のツカサではあえりないことだったのだ。無口で冷静沈着、クールなスパイということで各国の諜報機関や犯罪組織で認識されていたツカサだが、こちらの世界に来てからその面影など一切感じさせない。表情豊かになりすぎだし!!饒舌になりすぎだよ!!

 そう、仕事柄常に緊張状態であるツカサが笑ったのは約5年ぶり。ちょうどツカサの師匠がこの世を去ったあたり、そして諜報活動が本格的になってきたあたりからツカサはめっきり笑わなくなったはずだがどうやら感情を失ったわけではなかったらしい。感情を抑えていたということだったのか。

 まるで、サービス残業、クソ上司、低賃金の三コンボが揃った企業から脱サラしたサラリーマンのように表情が豊かになった。もちろんツカサがいた組織は残業なし、優良上司、高賃金が揃っていたのだが常に命の危険に晒されるというリスクがあった。多分それが無意識に感情を抑制していたのだろう。

 なぜツカサがここまで表情を崩すようになったのか。それはツカサにしかわからない。それに今そのことについて追求するのは望ましいことではない。今は魔王とツカサの(ちぎり)の余韻に浸るべきであろう。


 「それより魔王様、契約っていうのはこれで終わりですか?先ほど魔王さまが言ったように何か制約みたいなのはあるのですか?」


 「とくにはない。」


 そっぽを向きながらそう言った。


 「えぇ・・・」


 困惑した表情で魔王を見上げる。

 ツカサのその表情が不満だったのか。魔王はツカサを見て言った。


 「ふん!メリットがないとは言っていない!お主には何も教えてやらん!」


 「そんな冷たいこと言わないでくださいよ。だいたい褒めたのですから素直に喜んだらどうですか?」


 「そういう問題じゃない!!そもそも、もっとこう・・・ッ!!」


 言葉を詰まらせたと思ったら魔王は「はぁ・・・」とため息を着きツカサの前に立った。


 「この紋章が印されている者はこれを見せるだけであらゆる公共機関や施設の利用がタダになる!図書館や病院、宿泊施設などは旅先でも困らない!何故かって?この紋章は家紋のようなものでこれには特殊な魔法が施されておる。専用の魔法で読み取ることによりこの紋章が私の従者であるということの証明ができるというわけだ!わかったか!!」


 若干イラついてるのが口調から見て取れる。


「見せるだけでいいんですか?」


 「そうだ!まぁ、タダとは言っても宿泊施設や医療機関の料金は全部私のところへ請求が来るのだけどな・・・」


 なにか苦い経験があるのだろうか・・・。魔王は肩を落としまた溜息をつく。


 「それより、ツカサ。なんだかんだ言ってお主にはこれから役に立ってもらう。今日はゆっくり休むのだな。」


 魔王はツカサの肩にポンっと手を置きそういった。


 「もちろんです。雇われた以上仕事は果たしますよ」


 ベッドから立ち上がったツカサは魔王様の頭を撫でてそう言った。


 「だーかーらー!そういうことを軽々しくするなーー!!」


 ツカサの手を払い除ける魔王の頬は、月明かりしか灯りのないこの部屋でもわかるくらい紅潮し、口元を歪ませていた。魔王の言葉を借りるなら「()いやつめ」だ。

だが、こんな悠長なやり取りもこれからの起こりうる物語の激動に比べたら些細なもの。ツカサの眼によって物語は急速に、迅速に進展するのだから。

 ツカサの眼が与えたものは探し求めていたノロの手掛かり。そして余りにも残酷で非情で冷酷な現実。

 魔王とツカサはこの現実に立ち向かうとともに、この国の陰に潜む大きな闇と対峙することになるのだから。


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