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夏祭り

本棚の上に飾ってある、熊のぬいぐるみを見て思い出す。

今も、大切な想いで。



夏休みに入って、最初の出校日。

二週間ぶりに会う友達は、日焼けしていて、真っ黒だ。

日誌の答え合わせをして、教室内の掃除を済ませると、解散になった。

解離際に。

「亜耶ちゃん。今日、近くの神社で、夏祭りがあるんだけど、クラスの皆と一緒に行かない?」

仲の良い未來ちゃんがクラスの子数人連れて、私のところに来た。

お祭りか…。

行きたいけど、許してもらえるかわからないから、保留にしておいた方がいいよね。

「今直ぐに返事できないから、帰ってから連絡しても良いかな?」

と返した。

学校の登下校は良いけど、他の場所に行くのは大人の人と一緒じゃないとダメ!ってキツく言われてるから…。

「うん。一緒に行けると良いね」

ニッコリと微笑まれて、私も頷いた。


家に帰るとキッチンに居るお母さんに引っ付いて。

「お母さん。今日神社でお祭りがあるだって。クラスの友達に誘われたの行っても良いでしょ?」

って、聞くと。

「駄目!」

と一言で返された。

「何で?友達も一緒に行けるの楽しみにしてるんだよ。だから…」

「駄目です。子どもだけで行って、何かあったらどうするの?今回は、御断りしなさい!」

って、頭ごなしに駄目の一点張り。

私も友達と遊べること、楽しみにしてたから。

「そんなのあるわけないじゃん。行くもん!」

って、口に出した。

「駄目なものは駄目です。そんなことよりも、宿題終わらせてしまいなさい!」

って、お母さんの口調が強まった。

そんな事って、私にとっては大事なことだよ。

「もう、良いもん!絶対に行くもん!!お母さんなんか、大嫌い!!!」

って、啖呵を切って自分の部屋に行き、ベッドにダイブした。


何で、駄目なの?

私も、皆と一緒に遊びたいのに…。


ポロポロと涙が溢れて、枕を濡らしていく。


コンコン。

部屋のドアがノックされた。

「亜耶。入って良いか?」

って声がかかる。

返事をする前にガチャってドアが開き、中に入ってくる。

足音が段々近付いてきて、ギシッてベッドの片隅が沈んだ。

「亜耶?」

優しい声音で私を呼び、頭を撫でてくれる。

「か、かってに…ヒック…はいって…こない…ヒック…で…よ」

言葉も、つっかえつっかえで、自分が情けなくなってくる。

お祭りに行けないだけで、泣きじゃくるなんて…。

私が、もう少し大きかったら、友達と行けたのかな、何て思いながら、仰向けになり目元をゴシゴシと強く拭う。

「ダメだよ、そんなに強く擦っちゃ。余計に赤くなっちゃうよ」

私の腕を掴み、優しく指先で涙をぬぐう遥さん。

「亜耶。お祭りに行きたいのか?」

遥さんが、上から覗き込んできて聞いてきた。

私は、コクリと頷いて。

「今日、出校日だったの。仲の良いい未來ちゃんが、帰りがけに誘ってくれたの。クラスの友達も一緒なの。だけど、その場で返事できないから、後で連絡するって言って帰って来たの。だけど、ダメって言われちゃった…」

私は、涙をポロポロこぼした。

遥さんに起こされて、抱き締められた。

「亜耶がどうしても行きたいって言うのであれば、俺が連れてってあげるけど、どうする?」

遥さんの言葉に顔をあげれば、優しくこちらを伺っている眼差しを向けていた。

私は、その眼に捕らわれ。

「お祭り、行きたいです」

って、素直に言葉にしていた。

「ん。じゃあ、お母さんに許しを得に行こうか。俺も一緒なら、許してもらえるから、な」

って、遥さんがニッコリと笑いながら、私の目許の涙を優しく指先で払う。

私は、その言葉に頷いた。


遥さんと一緒にしたに降りていき。

「お母さん。お祭り、遥さんと一緒に行っても良い?」

再度聞く。

「俺からもお願いします。友達との楽しい思い出、作らせてあげたいですから…」

って、遥さんがお母さんに頭を下げてくれる。

お母さんが、呆れた顔をして。

「ハァ…。仕方がないわね。遥さんの言うことを守るのよ。遥さん、亜耶の事、宜しくお願いしますね」

遥さんに頭を下げた。

「はい。任せてください」

苦笑交じりで遥さんが、答えた。

「よかったな」

って、私に囁くように言い、私は満面の笑みを浮かべて頷いた。


それから、未來ちゃんに電話をし、待ち合わせの場所と時間を聞き、遥さんの事を伝えると電話を切った。


その後、慌ただしく準備をして家を出た。



「亜耶。その浴衣、かわいい」

隣に居る遥さんが言う。

「かわいいのは、浴衣だけですか」

私は、ちょっとだけ頬を膨らませた。

今着ている浴衣は、藍色に大輪の向日葵の花が描かれている。

髪は、耳の後ろでお団子にしてシュシュで括っている。

「亜耶自身は、前からかわいいって言ってるだろ。浴衣姿の亜耶は、もっとかわいいってこと」

って、ニコニコしながら、耳許で言う遥さん。

ちょ、そんな台詞、小学生に言わないでください。

顔が、一気に熱を持つ。

私は、両手で顔を扇いだ。


待ち合わせの神社の鳥居に近付くと。

「亜耶!こっち、こっち」

って、未來ちゃんが大きく手を振っている。

「あの子達が、そうなのか?」

遥さんが、目線だけで聞いてきた。

「うん。学校でも仲が良いんだよ」

私がそう言うと、そっちに駆け出した。

「亜耶。走るな」

遥さんの言葉を背に受けなから、皆のところに到着。

女の子の殆どが、浴衣を着ていた。

「遅くなってごめん」

私が言えば。

「大丈夫だよ。で、後ろに居る人が電話で言ってた人?」

未來ちゃんが、遥さんに釘付けになっていた。

「うん。お兄ちゃんの友達で、高橋遥さん」

未來ちゃんの言葉に遥さんを紹介する。

「今晩は。高橋遥です。よろしくな」

遥さんが、笑顔で挨拶する。

それを見た女の子達が、顔を赤く染めていた。

私は、不思議に思いながら見ていた。


「全員揃ったところで、行こうか」

そう声をあげたのは、クラスのムードメーカーの井原くん。

クラスの三分の一の参加人数で、ゾロゾロと鳥居を潜り抜ける。

時折、夜店で買ったりしながらお社の方に向かって進む。

「亜耶。はぐれるといけないから、手を繋いどこうか」

って、遥さんが言ってきた。

確かに、人通りも増えてきてたから、はぐれる可能性もでてきている。だけど。

「私、そんなに子どもじゃないもん」

って言い返して、遥さんの前を歩く。

後ろで、溜め息をついてる遥さん。

だって、手なんか繋いだら、絶対にからかわれるもん。そんな恥ずかしい事したくない。

「亜耶。かき氷食べない?」

未來ちゃんが、振り向き様に屋台を指す。

「食べる、食べる」

ちょうど喉も乾いてたしね。

屋台の最後尾に並んで順番を待つ。

自分の番になり、お店の人にお金を渡してかいた氷のカップを貰う。

「シロップは、好きなのを好きなだけかけていってくれ」

って言われて、悩んだ。

だって、五種類のうち二つまで絞れたんだ、でもどっちも捨てがたくて。

「亜耶は、イチゴにしとけば。俺が、レモンにするから、半分にすれば両方食えるだろ」

後ろから、遥さんが言ってきた。

って言うか、何でわかったんだろう?

イチゴとレモンで悩んでたこと…。

顔に出てたのかな?何て思いながら、イチゴのシロップをかけた。

かき氷を口にしながら、暫く歩いていると。

「高橋さん。射的やろ!」

男の子達が、射的の屋台を見つけて遥さんの腕を引っ張る。

「ん、あぁいいぞ」

遥さんも何となく嬉しそうに返事をしてる。

私たちもその後に続いた。

射的の的の景品が、種類豊富に棚にところ畝ましと並べられている。

「亜耶、これ持ってて」

さっきのかき氷を渡され。

「亜耶は、どれが欲しい?」

って、振り向き様に聞かれて。

「一番上の棚にある、熊のぬいぐるみが欲しい」

って、絶対に無理だと思ってる物を選んだ。

「ん、わかった」

遥さんが、ライフル(?)みたいなのを構える。

真剣な眼差しで、獲物を狙う遥さんは、今まで見たこともないく、ちょっとだけ"ドキッ"ってなった。

普段から、そういう姿を見せられたら、ドキドキが止まらないんだろうなぁ…。何て思いながら遥さんを見ていた。

そして、狙いが定まったのか、"バン!"って撃ちならす遥さん。

見れば、狙い通りに熊のぬいぐるみに充てて、落とした。

えっ…う、そ。本当に落としちゃったよ。

「スッゲー!なぁなぁ、コツ教えて!!」

男の子達が、遥さんに群がる。

「コツ…ねぇ…。強いて言うなら、重心がどこにあるかだろうなぁ」

って、遥さん、中途半端に答える。

落としたぬいぐるみを店の人が遥さんに渡している。

遥さんは、それを受けとると私にくれた。

「ほら、ご所望のものだ。後は、何が欲しいんだ?」

って聞いてきたから、目についた物を言って全て落として見せた。

凄すぎます、遥さん。

どこまで、完璧主義なんですか?

景品が手に持ちきれなくて、お店の人が袋をくれた(熊は、入らなかったけど)。

「遥さん、ありがとう。熊さん(このこ)大切にするね」

私は、熊さんを抱き締めて言うと。

「ん。今度は、熊の友達を買ってやるな」

って、遥さんが私の頭にポンって手をのせた。


その後も、ヨーヨー釣りや金魚すくいをしたりしながら、夜店を見て回る。

歩き回ってるうちに足が痛くなって、見てみたら鼻緒が当たってる部分が擦れて皮が捲れていた。

「亜耶。ちょっと外れようか」

遥さんが私の腕をとり、人通りの少ない場所に出た。


遥さんは、私の前に屈むと下駄から足をはずした。

「こんなにして…。痛いだろ?」

って、優しく言葉をかけてきたと思ったら、ビリって紙を破る音がした。

見れば、遥さんの手には、バンソコがあり、それを捲れてる場所に貼ってくれた。

「…ありがと」

ポツリと呟けば。

「どういたしまして」

微笑む遥さん。

その微笑みに照れながら、どうしたら良いのかわからなくて。

「あっ、りんご飴」

って、屋台を指差しちゃった。

「ん?ほんとだ。亜耶、好きだよな。一本買ってやるよ」

って、遥さんが下駄を履かせてくれて、そのまま手を繋いで店に歩み寄る。

「どれがいいんだ?」

遥さんが聞いてきたから、私は並んでるりんご飴を物色して。

「これがいい」

と指を差した。

「じゃあ、これで…」

遥さんそのりんご飴を捕りお金を払った。

「毎度あり」

お店の人の元気な声を背中で聞き、皆のところに戻ろうと足を向けた。その途中で、飴細工のお店を見つけて、立ち止まった。

鼈甲色の飴が、間接照明に照らされて、綺麗に輝いてる。

そんな私に気付いた遥さんが。

「亜耶?」

不思議そうに呼び掛けてくる。

「欲しいの?」

私の顔を覗き込むようにして、遥さんが聞いてきた。

「……うん」

何故か、素直に頷いてた。

遥さんがクスリと笑ったかと思ったら。

「どれ?」

って聞いてきた。

「この、ウサギさんが良い」

って指を差して言えば。

「これ?」

遥さんも確認するかのように指を差す。

私は、ゆっくりと頷いた。

「そう、わかった。すみません。これください」

遥さんが、ウサギを指して言うと店主がそれをとってくれて、遥さんに渡して、お金を払っている。

「ありがとな」

店主に言われて、頭を軽く下げてその場を後に…。



私は、熊のぬいぐるみを片手で抱き締め、もう片方の手は遥さんと繋がっている。

遥さんの方には、りんご飴とウサギの飴細工、それと射的で取った景品。

なんだか、とても恥ずかしいんだけど…。

人が多いから仕方がないっていったらそれまでなんだけどね。

鳥居の近くに行くと皆が居て、思い思い楽しんだみたいで、話に花を咲かせている。

「亜耶。遅かったね」

未来ちゃんが、声をかけてきた。

「うん。足、少し痛めちゃって、歩きづらかったから…」

嘘は、ついてないから良いよね。

「もう、遅いし。帰ろっか」

そういう声が上がり、解散に。

皆それぞれ、同じ方向の子と帰っていく。

「亜耶、またね。おやすみ。高橋さんも、お休みなさい」

未來ちゃんが、少し顔を赤らめて言う。

「うん、またね。気を付けてね」

「お休み。気を付けてな」

二人で未來ちゃんを見送った。

「俺達も帰るか」

「うん」

私は、遥さんの言葉に頷き、家に向かう。


「遥さん。今日は、ありがとう。とっても楽しかった」

私が言うと。

「ん、いいよ。亜耶が楽しんでくれたのなら、俺は充分だ」

って、遥さんが笑顔で言った。


遥さん。

遥さんがあの時言ってくれなかったた、私行くことができなかったんだよね。

ありがとうだけじゃ足りないかもしれないけど…。

今は、少しでも遥さんの力になれたらって思うよ。



P.S.

あの後、本当に遥さんが、私の誕生日にウサギのぬいぐるみをプレゼントしてくれました。



実は、亜耶が駄々をこねている時に遥さんは雅斗の部屋でレポートしてましたとさ。

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