出会い
あれは、小学校二年の夏だった。
突然、はる兄が家来たと思ったら、そのまま出掛ける事になった。
一体何処に行くのか、わからないまま着いて行く。
誰かと待ち合わせをしてるみたいで、慌ててるはる兄。
そに道中で。
「真由と同じ歳の女の子と、一緒に遊んであげて欲しい」
とはる兄言われた。
どうやったら、私と同じ歳の女の子とはる兄が知り合いになるんだろう?
と疑問には感じたが、それは聞かないでおいた。
待ち合わせ場所に着いたのか、はる兄が辺りをキョロキョロしてる。
「オーイ、雅斗。悪い、遅くなった」
目的の人物を見つけたのか、大きな声でそう叫ぶはる兄。
ちょっと、恥ずかしいじゃない。
私は、隣に居るはる兄を睨んだ。
「あ、遥。その娘が、真由ちゃん」
はる兄が、声をかけた人が声をかけてきた。
「あぁ。真由、挨拶は?」
はる兄が、急かしてきた。
「芹沢真由です。よろしくお願いします」
そう言って、ペコリと頭を下げた。
「えっと、鞠山亜耶です。こちらこそよろしくお願いしますね」
って、雅斗さんの横に居た女の子が花が綻ぶような笑顔で頭を下げた。
本当に同い年なの?
もう少し上のお姉さんに見える。
それに、名字の鞠山って、あの財閥に関係してるのかなぁ?
私が、疑問を持ってはる兄を見上げると、私の疑問を感じたのか、ゆっくりと首を縦に振り、口許に指を一本立てて秘密だと訴えてる。
やっぱり…。
だけど、何処かお嬢様らしく見えないのは、何故だろう?
そう考えていれば。
「遥。本当に良いのか?」
雅斗さんが、はる兄に聞いている。
亜耶ちゃんが、そんな二人のやり取りを不安そうに見ている。
「うん、良いよ。雅斗は、デートに行ってこいよ。時間、迫ってるんだろ?」
ニコニコしながら言うはる兄。
こんな顔見た事無いよ。
「ありがとう。亜耶、遥の言う事ちゃんと聞けよ」
雅斗さんが、亜耶ちゃんの目線まで屈み、頭に手をやって言う。
「うん、わかってるよ。お兄ちゃん、早く行かないと由華さんに怒られちゃうよ」
って、子供扱いされたくないのか、少し口を尖らせて言う亜耶ちゃん。
何、この子。何で、こんなに可愛く出来るの?
はる兄を見れば、目尻を下げて見てるし…。
「あぁ…。じゃあ、遥、亜耶の事頼むな。時間は守れよ」
雅斗さんは、はる兄の返事も聞かずに走って行ってしまった。
「さてと。二人共、何処か行きたい所はあるか?」
はる兄が、屈んで聞いてきた。
あれ、何時もと対応が違うじゃん。
これ、亜耶ちゃんが居るからだよね。
私だけだと、屈んで目線を合わせるような事しないもん。
「あ…あの…。私、遊園地に…行ってみたい…です」
亜耶ちゃんが、恥ずかしそうに俯きながら、そう言葉にした。
この子、顔に直ぐ出るんだな。
今も、顔を真っ赤にしてるし…。
はる兄もそんな亜耶ちゃんを見て、赤くしてる。
えっと、もしかしてだけど…はる兄、亜耶ちゃんの事…。
ロリ…否、もう少し様子を見た方がいいか。
「亜耶が行きたいのなら、遊園地にしようか。真由は、それで良い?」
私に話しを振るはる兄。
「うん、いいよ」
って言うか、たぶんはる兄の中では、もう決定してる事だろうね。
「真由ちゃん。本当に良いの?」
亜耶ちゃんが、私を見て言う。
「うん。今、私が行きたいって思ったところ、無かったから。亜耶ちゃんが行きたいなら、それで良いよ」
って、返したら、パッと花が咲いたかの様に満面な笑みを浮かべて。
「ありがとう、真由ちゃん」
お礼を言われた。
その笑顔にこっちが、赤面しちゃったじゃない。
チラリとはる兄を見れば、顔を真っ赤にさせて、口許を片手で覆い隠してるし…。
これで、確信できたよ。
はる兄が、亜耶ちゃんの事本気で好きなんだって…。だから、一緒に出掛ける口実に私を利用(言葉悪いかも)したんだ。
立派なロリコンだけどね。
私たちとはる兄の歳の差、十違うもの。十分ロリだよね。
「そうと決まれば、行くぞ」
はる兄が立ち上がり、私たちの背中を押した。
遊園地に行くには、公共施設を使わないと行けない。
その分、警戒をしないといけないのだが…。
何にかって?
人拐いやら、人拐いやら、人拐いやら…。
何処から狙われてくるかわからないから、余計に警戒して仕舞う。
はる兄一人に負担をかけさせるわけにいかないから、ね。
「どうした、真由?そんなに警戒心剥き出しにして?」
はる兄が、不思議そうな顔をして言う。
何で、そんなに暢気で居られるの?
逆に私の方が、不思議だった。
亜耶ちゃんには、気付かれてないみたいだけど。
「何かあったら、困るでしょ?」
私の言葉に。
「あぁ。大丈夫だよ。何も起きないから」
って、クスリと笑うはる兄。
頭に?マークが沢山浮かぶ。
「この車輌には、SPが乗ってるからね」
小声で教えてくれた。
はい?SPですと…。
私は、頭をキョロキョロさせた。
「真由ちゃん?どうかした?」
亜耶ちゃんが、小首を傾げて言う。
「何でもないよ。それより、なんで遊園地に行きたいの?」
と問いかけたら。
「笑わない?」
恥ずかしそうにして、聞いてきたから、ゆっくりと頷いた。
「あの…。今まで、行った事が…無くて…。学校に友達の話を聞いて、行ってみたいって思ってたの…」
顔を赤らめて言う、亜耶ちゃん。
「えっ!今まで行った事無いの?」
思わず、声が大きくなってしまった。
それに反応して、更に顔を赤くして頷いた亜耶ちゃん。
「じゃあ、今日は一杯遊ぼう」
私が笑ってそう言えば、亜耶ちゃんも笑顔を浮かべて。
「うん!!」
って、元気に頷く亜耶ちゃんが、可愛くてしかたがない。
そんな亜耶ちゃんをギュウウって、抱き締めるとオロオロしだした。
「こら、真由。亜耶が、困ってるだろうが」
すかさずはる兄が、私から亜耶ちゃんを引き離す。
「……ありがとう」
亜耶ちゃんの小さな声。
これ、はる兄に向けての言葉だ。
「…ん、良いよ。それより、外見てごらん。もうじき見えてくるよ」
はる兄に言われて、外を見れば、観覧車、ジェットコースターのレールが見えてきた。
亜耶ちゃんを見れば、目をキラキラさせて見いっている。
「亜耶、真由。二人は手を繋いで歩けよ。迷子になったら、大変だからな」
はる兄が、電車を降りる前に言う。
「はーい。亜耶ちゃん」
素直に返事をして、亜耶ちゃんに手を差し出せば、その上に重ねてくれた。
亜耶ちゃんの手、思ってたより小さい。
そんな事を思いながら、電車を降りた。
遊園地の入り口ゲートに着くと、亜耶ちゃんが。
「すっごーい!!」
って、口を大きく開けて、見上げていた。
ポカンとした顔をする亜耶ちゃん。
そんな姿をクスクス笑っていたら、恥ずかしそうに私の方を向いて。
「真由ちゃん。そんなに笑わなくても…」
頬を膨らませて言う亜耶ちゃん。
「二人共、ここで待ってて」
はる兄が、逃げるようにチケット売り場に行く。
はる兄、耳まで赤くなってる。
そんな姿を見ていたら。
「ねぇ、真由ちゃん。遥さんとは、どういう関係なの?」
興味本位なのか、それとも違う意味で私に対して警戒する為に聞いてきたのかは、よくわからないけど横を向けば、少しだけ顔を強わらせている亜耶ちゃん。
はる兄からは、何も聞いてないのかなと思った。
「はる兄とは、いとこだよ。うちの父親とはる兄の母親が、姉弟なの。で、私は一人っ子だから、よくはる兄に遊びに連れてってもらってるの」
私の説明に、ちょっとだけ、本の一瞬だったけど、ホッとした顔を見せた亜耶ちゃん。
えっ…、もしかして、亜耶ちゃんもはる兄の事を…。
まさか…ねぇ。
小学生が、高校生をなんて…。
あり得ない…事もないのか…な。
「お待たせ。中に入るぞ」
はる兄が、笑みを浮かべて言う。
入り口ゲートを潜り中に入れば、別世界のよう。
亜耶ちゃんのテンションがマックスになってた。
「何から、乗るんだ?」
はる兄が、声を掛けてきた。
亜耶ちゃんが戸惑っていた。
初めて来たんだから、当然だと思う。
「はる兄。私、ジェットコースターに乗りたい」
助け船になるかが、わからないけどそう告げると。
「お前、まだ身長足りてないだろうが…。他のにしろ」
って、はる兄が、私を諌める。
たぶん、亜耶ちゃんの事を心配したんだろう。
「じゃあ、コーヒーカップ」
次の提案をしたら。
「よし、それにしよう」
と言って、歩き出したはる兄に遅れないように着いて行った。
コーヒーカップでは、中央にあるハンドルをクルクル回して、はる兄を酔わせ。お化け屋敷には、亜耶ちゃんを驚かせ過ぎて、泣かしてしまい。ゴーカートでは、三人で競争して、バイキングでは、絶叫しまくり、メリーゴーランドでは、はる兄が白馬に乗って、私と亜耶ちゃんが馬車に座り楽しんだ。
「そろそろお昼にしよう」
はる兄の言葉に頷き、園内に在るレストランに足を向けた。
中に入れば、女の人がはる兄を見てくる。
まぁ、はる兄はカッコいいもんね。
客席の間を歩いて、空いてる席を探す。
「やっぱ、空いてないなぁ…」
はる兄の呟くが聞こえた。
私たちも、キョロキョロ見渡して、席を探す。
「あ…」
亜耶ちゃんが、声をあげたと思ったら、指を差した。
そこには、二席だけ空いていた。
私たちは三人、椅子が足りない。
「二人は、そこに座りな。俺は、他を…」
はる兄がそう言って、行こうとするのを亜耶ちゃんが裾を持って止めた。
「どうした、亜耶?」
亜耶ちゃんは、俯きながら。
「…一緒に座ろ。遥さん」
って、顔を赤くして言う。
一緒に座るって…。
えっ…。
「良いのか、亜耶?恥ずかしいのイヤじゃなかった?」
はる兄がそう聞けば。
「…恥ずかしいけど、でも、遥さんが居ないのはイヤ」
って、耳まで赤くして、亜耶ちゃんが言った。
ちょ…待ってよ。
この小動物は、何を言ってるの?
自分から、餌食に行くなんて…。
同じ歳の筈なのに、何でこんなに"女"を感じるの?
はる兄も、真っ赤な顔をしてるし…。
「あ~、もう…。亜耶には、敵わないなぁ…。わかった、一緒に座ろ。真由は、そっちに座りな」
はる兄に言われて、向かい側に座る。
はる兄は、椅子に腰を下ろすと亜耶ちゃんを抱き上げて、膝に座らせた。
はる兄が、やたらと幸せそうな顔をする。
亜耶ちゃんは、亜耶ちゃんで、何処と無しか嬉しそうな顔をしてる。
三人でメニューを覗き込みワイワイと決めて、楽しく食事をした。
午後も色々と回り、途中で喉が乾いたから近くにあったベンチに座る。その間にはる兄が、飲み物を買いに行ってくれた。
「真由には、オレンジな。亜耶にはお茶を買って来た」
そう言って、はる兄が、飲み物を手に渡してくれる。
何で、亜耶ちゃんはお茶なんだろう?
不思議に思っていたら。
「ジュース、飲めないから…」
亜耶ちゃんが、ポツリと呟いた。
ジュースが飲めない?
「あぁ。亜耶、果汁百パーセントのジュースじゃないと飲めないんだよ」
はる兄が、説明してくれた。
「そうなんだ」
それって、逆に言えば贅沢な気もするが…。
「そろそろ最後の乗り物にしよう」
はる兄が、言う。
「うん、そうだね」
そう答えた亜耶ちゃんが、とても寂しそうに見えた。
あぁ、相当楽しかったんだなと思った。
「そんな顔をするなよ。また、連れてきてやるから、な」
はる兄は、亜耶ちゃんに滅茶苦茶甘い。
今日一日一緒に居て、そう思った。
「本当…に」
亜耶ちゃんが、弱々しく聞けば。
「亜耶が行きたくなったら、何時でも連れていってやるよ」
はる兄は、亜耶ちゃんの目線まで屈んで、頭を撫でる。
「約束だからね」
そう言う亜耶ちゃんは、笑顔だった。
「ほら、最後に何に乗るんだ?」
はる兄が、再度聞いてきた。
私と亜耶ちゃんが、同じ方向を指差していた。
「観覧車か…。じゃあ、行こうか」
はる兄が、ゆっくりと歩き出した。
私たちも、後を追った。
観覧車に乗り込むと、私と亜耶ちゃんが隣同士に座り、はる兄が向かい側に座った。
ゆっくりと上に上がって行く、ゴンドラ。
亜耶ちゃんが、横ではしゃいでいる。
そに度にゴンドラが少し揺れる。
「すっごーい!景色綺麗」
そんな風にはしゃげる亜耶ちゃんが、羨ましい。
それに、はる兄を笑顔に…色んな表情にさせる事が出きる唯一の人だとも…。
「さぁ、帰るぞ。雅斗との約束もあるからな」
はる兄が、亜耶ちゃんに向かって言う。
亜耶ちゃんが、ビクリと肩を震わした。
どうしたんだろう?
「うん…」
日が沈む前に園を出て、電車に乗り込んだ。
「遥さん。連れていってくれてありがとう」
亜耶ちゃんが、お礼を言い出した。
「ん?亜耶が、楽しめたなら俺はそれで良いよ」
はる兄が、目を細めて亜耶を見る。
まるで、愛しい人を見てるみたいだ。
「真由ちゃんも、ありがとうね。また、一緒に遊べる?」
亜耶ちゃんが、聞いてきた。
「うん、遊ぼう。亜耶ちゃんからのお誘いなら、断らないよ」
私がそう答えると、嬉しそうな顔を見せてくれた。
改札口を出れば、雅斗さんが壁に寄りかかって、立っていた。
「お兄ちゃん、ただいま」
亜耶ちゃんが、雅斗さんの方に駆けて行く。
その後ろ姿を切な気に見つめてる、はる兄。
「はる兄。亜耶ちゃんの事好きなんでしょ?」
私は、隣に居るはる兄にそう問い詰める。
「えっ…あ…、ちょ…何を…言って…」
はる兄が、慌て出した。
うん、もうこれは、確定だね。
普段なら、そこまで動揺しないもん。
それに、亜耶ちゃんも満更でもないようだし…。
これは、見守るしかないか…。
二人の想いが、繋がれば良いなぁ…。
「遥さん、真由ちゃん。またね」
亜耶ちゃんの声。
私は、慌てて。
「うん。また、遊ぼうね」
そう答えていた。
それからと言うもの、はる兄と一緒に亜耶ちゃんと遊ぶことが多くなり、中学に入ったらお互いが忙しくなり、連絡さえ取らなくなった。
八年前のあの日から、私は二人の恋を応援してたんだ。
だから、今幸せそうな二人を見れる事、とても嬉しいんだ。
今後も、二人の事応援していくつもり。
だって、大好きな二人なんだもの。
私も、頑張ろう。
透くんと何時までも一緒に居るために…。




