失恋の痛み
義幸に電話した後、オレは窓側に背を預けて正門の方を見据えていた。
たった今、彼女が校舎からでて正門にゆっくりと近付いて行くのが見える。
正門に近付いて行く彼女の後ろ姿を只、見てるしか出来ないオレ。
ここからじゃ、遠くてぼんやりとしか見れない。
二人のシルエットが重なったのをずっと見る事なんか出来なくて、オレは壁に沿うようにしゃがみこんだ。
なんでだよ…。
おれ、彼女の事、ずっと見てきたのに彼女の事、全然わかってなかったんだな。わかったつもりでいたんだ。
思い返せば、彼女が本当に困って頼ってきたのって一・ニ回。
勉強だって、俺が教えるよりも彼女から教わった方が多い。
それに、オレの方が彼女との時間の共有してたのに、何であの人は意図も簡単に彼女を奪っていくんだよ。
少なくともあの時は、彼女も嫌ってた筈なのに…。
もしかしたら、彼女はオレと付き合う前から、あの人の事が好きだった。なのに、何かがあって"オレと付き合う"って言ったんじゃないかって思えてしまう。
只の憶測でしかないが…。
暫くの間、脱力してた足に力を入れて立ち上がる。
もう、二人とも帰ったよな。
オレは、鞄を手に下駄箱に向かった。
靴を履き替えようとしていたら、携帯が鳴った。
オレは、それに出る事もなく家に向かって歩き出した。
家に近付くと玄関先に見知った顔が二つ会った。
「悠磨。電話にも出ないから、心配したんだぞ」
義幸が、オレに駆け寄りそう言う。
「あぁ…悪い」
無気力なオレに心配そうに見てくる義幸と順一。
「なぁ、オレの家に来ないか?そこで、話を聞くから…」
順一が、義幸に聞いたのか、そう提案してくれたが、オレは首を横に振った。
「悪い。今日は一人に「させるわけねぇだろ。全部、話しちまえ。その方が、スッキリするって」」
オレの言葉に被せるように義幸が言う。
「順一、そっち持て」
義幸が順一に指図する。
左側の腕を義幸が、右側の腕を順一がしっかりと掴んでた。
「ちょ…、お前ら…」
オレの抵抗虚しく引きつられる。
「俺等、親友だろ。辛いのなら、話して楽になれ」
順一が、ニッコリと笑みを向けてくる。
ハァー。
こいつらには、叶わない。
「…わかった」
オレがそう言えば、両腕をとられたまま、順一の家に連行された。
順一の部屋に入り込み。
「お茶でいいか?」
順一が聞いてきたから、オレと義幸は頷いた。
順一が戻ってくるまで、沈黙が続いた。
「お待たせ」
そう言って、お茶をテーブルに置く順一。
「…で、亜耶ちゃんに振られたって、どう言うこと?」
順一が、腰を下ろしながら直球で聞いてきた。
まんまだけど…。
うーん、どう話そうか…。
言葉を選んでる間も、二人は急かすこと無く待っていてくれた。
「簡単に言えば、亜耶の想い人がオレじゃなかった…って事かな」
似せ笑いが浮かぶ。
「ちょっ、待て。そんな顔して笑うな。痛いだけだ。ちゃんと順を追って話せ」
義幸が、困惑してる。
そうだろうな。
「あのさぁ、昨年の十二月のテスト前にクラスで集まって、勉強会したの覚えてる?」
オレが、二人に聞けば。
「あぁ。亜耶ちゃんの婚約云々の人が来た時の」
順一が、思い出すように言う。
「うん。亜耶が思ってたのは、その人。何かの衝動で、オレと付き合うことにしたんだと思う」
自分で言ってて虚しいが、今思えば、そうとしか思えないんだ。
一生懸命にあの人を忘れようとし、オレを好きになろうと頑張ってたから…。
「どういう事だよ」
義幸が、納得いかないって顔をしてる。
「それって、亜耶ちゃんが悠磨を利用してたってことか?」
順一の顔が歪む。
違うな。
「利用とは、少し違う。だって、亜耶はオレを好きになろうとしてたから」
オレの言葉に二人が驚く。
そう、あの時の水族館デート。
亜耶は、何かを思い出したかのように微笑んでた。
あれは、あの人の事を思い出してたんだって、今ならわかる。
「じゃあ、なんで…」
「オレが、頼りなかったっていう事かな…。亜耶は、オレを信頼出来るほどの思いが生まれなかったって事じゃないかな」
付き合い初めの頃は、お互いが意識し過ぎて何となくギクシャクしてて、それでも温かい気持ちになれた。
がや
"亜耶は、オレのだから、何処にも行かない"って慢心してたんだと思う。
でも、よく考えればわかったんだ。
亜耶が俺なんかで満足する事なんて、無いんだって…。
亜耶の近くには、甘やかしてくれる大人の男性が居る(あの人に限らず)。
それなのに…オレは…。
「悠磨、どうした?もう、亜耶ちゃんの事、諦めるのか?」
順一が真顔で聞いてきた。
「諦められるわけ無いだろ…。でも、オレの想いはもう届かないんだ…」
そう、亜耶の気持ちはあの人のところへいってる。
オレは、諦めるしかない。
あんなカッコつけて、別れたのに…情けなさ過ぎる。
「そんなのやってみないとわからないだろ!」
義幸が、真剣な顔をして言う。
「あの二人を見ていればわかるよ。お互いに思いやって、心の底から惹かれ合ってる二人の間に入る隙なんて無いよ」
レク(あの時)のあの言葉は、あの人を想っての言葉。
俺に対しての言葉は、何もなかった。
ホロリと温かい何かが頬を伝っていく。
「あれ…おかし…いな…」
オレはそう言いながら、それを拭うが止まらない。
「悠磨…」
二人の顔が歪む。
「今日は、思う存分に泣け。そして、新しい恋を見つけろ」
そう言って、義幸が背中を擦る。
順一もオレの背を叩く。
亜耶。
君にとってオレは、どん存在だった?
少しでも、オレの事好きになってくれた?
オレは、君を見てるだけで、幸せになれたんだ。
君が、居たから頑張ろうと思えたし、辛い事も平気だった。
亜耶が好き。別れてもまだ好きだ。
女々しいと思われても、好きは変えられない。
新しい恋が芽生えるまでの間でいいから、想わせて…。
亜耶、ありがとう。
また、友達として付き合えたらいいなぁ。
オレは、胸の中でそう呟いた。