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最後の日記

作者: kehikehi

世界は滅ぶのだろう。いや、人類はか。


何十年も前の映画でこれと似たようなことがあった気がする。


死者が動き回る疫病が発生してから、今日で1年がたった。


人は、人類は滅亡へと歩みを進めている。


映画と違ったのは、ゾンビになった物は案外普通に腐って骨になっていったこと。そして早々に国家というものが無くなったことだろう。


まあ、必然的に都市には人が密集するので当然といえば当然のことなのだろう。


あるけど探せど、人は見つからない。あるのは骨ばかりだ。


僕が生き残ったのは、本当に偶然な、そして奇跡的なことだった。それが幸せなことかはわからないけれども。


食料の調達は、どうとでもなっている。インスタント食品は偉大だった。


問題は、僕の精神がいつまでもつのか、これに尽きるだろう。

これといった理由はないけれど、日記を残そうと思う。


9/8

今日は晴れていた。まだまだ暑い。クーラーを懐かしむ。

愛車のオフロードの調子が悪い。

明日はバイク屋を探そう。


9/9

昼になって急に天気が崩れてきた。近くの建物に逃げこむと、パチンコ屋だった。骨もなにもない、確かに逃げ込むような場所じゃないし、けれどもお菓子やタバコがのこっていた。

持てるぶんだけありがたく頂戴する。


9/10

バイク屋を見つける前に、バイクが動かなくなった。

本屋にあったメンテ本を見ながら必死に修理をする。

頼む、動いてくれ。


9/12

今日まで手を尽くしたが、素人のではどうにもならないと分かった。

道端に咲いていた花を見つけたので、それをハンドルに差しておいた。

さよならセロー。僕が最後に買ったバイク。


歩きながら、涙が止まらなかった。


9/15

今さらながら、バイク屋を見つけた。

よりどりみどりなのに、つい同じ型のバイクを探してしまう。

クロスカブというバイクした。

なんとなくオフロードっぽいカブ。

君とは、どこで 一緒にいられるだろう。


9/18

車からガソリンを抜く作業が面倒だったが、ホームセンターで手に入れたホースが便利だ。

昔、父親に聞いた方法でガソリンを抜く。

少し口に入ったら、聞いたとおりに口のなかが燃えるような熱さを感じた。

色々な感情が渦巻いて、涙が出た。


9/25

こんな世界になってから、始めて人と出合った!

中年の女性だった。車で走っているところを僕が見つけた。

色々な話をした。

時間だけは、もて余すほどにあるのだ。


9/26

彼女が、これまでどんな風に生きていたかを僕は知らないが、そうしてしまう理由が、彼女にはあったのだろう。


腹を、ナイフで刺されていた。

寝ているときだった。

うめく僕をよそに、彼女はバイクにのせていた食料や燃料を車にのせて去っていった。


9/27

傷口が痛む。

それ以上に寂しさが、心を痛め付ける。


9/30

傷が膿んできた。

意識が朦朧とする。

一軒家に上がり込み、寝る。

死んでしまったほうが楽といままで何回も思ったが、実際に死にそうになると、怖くてどうにかなってしまいそうだった 。


10/1

これで、日記を書くのは終わりになりそうだ。

刺された腹が膨れている。

体が熱っぽい。


後悔が、色々ある。

最後は家で死にたかったし、もっと色々なことをしたかった。

家族に会いたい、友達に会いたい。

寂しいのは嫌だ。

死にたくない。

きっといくら紙があっても書ききれないほどの思いがある。

後悔がある。

もし、生きていたら、家に帰ろう

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― 新着の感想 ―
[一言] 彼はジーニアスである
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