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2014年/短編まとめ

物語愛好彼女

作者: 文崎 美生

「ん、新刊」


ドサドサと置かれた本は私の読むべき本。


十数冊の小説だ。


私は一番上の本を手に取り表紙を撫でた。


紙とインクの匂いが愛おしい。


「有難う、愛してる」


私がそう言うと相手はあからさまに顔を顰めた。


そしてその表情のまま私が愛しているのは本だろう、と言う。


まぁ、そうだけど。


本を開きながら笑えば溜息が降ってくる。


失礼な人。


本を読み始める私が座るソファーに同じく腰を下ろす彼。


そのまま体を此方に倒して来る。


重いし猫っ毛だから擽ったい。


「いつになったら俺を愛してくれる?」


私を見上げながら小説の文字を隠すように本を押さえ込む彼。


骨ばった大きな白い手。


男の手だと思う。


そして、ペンだこが出来てインクに汚れたその手。


……作家の手だ。


物語を描くその手が私は好きだ。


本にブックマークを挟み彼の手を握った。


私よりも高い体温が心地いい。


私は顔に笑顔を貼り付ける。


好きよ、大好きよ。


「愛してるわ」


私の言葉に苦虫を噛み潰したような顔をする彼と、その顔を見て笑みを濃くする私。


ごめんね、と心の中で謝るんだ。


彼は私の『愛してる』の本当の意味を知っている。


だから『いつになったら、俺を愛してくれる』と聞くんだ。


私は本が好きだから、大好きだから、人が作るものは愛せても本人は愛せない。


私が愛しているのは彼の手。


彼の世界。


彼の才能。


『彼』を愛せない。


私が愛せるのは『彼』の欠片だけなのだ。

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