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たぁんぺぇんしゅー

冷たい雨に撃たれて

作者: みざり


蝶々Pのabout_meが好きです。

音楽と小説の違いはあれど、あのような世界を描けるようになりたいものです。






 リーズ・ファフナーは探偵を自称している。

 近所の連中には「冒険者か、何でも屋じゃないのか?」と聞かれるがリーズにとって自分のしていることは探偵だった。


 異世界に転生してから、すでに29年経っている。それこそ初めは前の世界と違うことだらけで困惑することばかりだったが、20年以上生きていけば、いい加減に慣れた。

 気づけば前の人生よりも長生きしているのだ。そりゃ、慣れるだろうと思う。




 その日は雨の降る日だった。

 春とはいえ、この季節の雨は随分と冷たい。


 (別に急ぎの依頼もないのだから、今日は一日大人しくするかねぇ……)


 リーズはソファーに寝そべり煙草をくゆらせながら、今日を寝てすごすことを決めた。

 よくよく考えれば、最近はこうしてゆっくり休むこともなかったのだから、たまに休んだところで罰は当たらんだろう。


 (……それに春の雨は嫌いだしな)


 彼は目を閉じた。




* * * * * 




 懐かしい夢を見た。

 友人が死んだと知った、冷たい雨の日のことだった。


 「……ンァ?」


 神様も非道いことをする。

 折角の休みに人が心地好く眠っていたというのに、こんな夢を見せることはないだろうと思う。


 「……もしかして、罰が当たったってか?」


 もう寝ている気分でもなくなってしまった。

 眠気のとれない目を擦り、ソファーから起き上がる。

 時計を見れば、まだ二時間と経っていない。


 (コーヒーの一杯でも淹れれば眠気も覚めるだろ……)


 コーヒーの苦味に思わず顔をしかめる。

 元々コーヒーはそんなに好きではないのだから飲まなきゃ良いだけなのだが、もうコーヒーを淹れるのもクセになってしまった。


 (……あいつはよく俺が顔をしかめながら飲むのを笑ってやがったな)


 クツクツとどこか卑屈な笑いが漏れる。

 どうにも感傷的になっているらしい。

 あんな夢を見たのだ、仕方がないと言えば仕方がないのだろう。




* * * * *




 少し俺の話をしよう。

 俺は商家の三男として生まれた。

 ありがたいことに家はそこそこ裕福で、三男である俺に勉強を施せるだけの余裕があった。

 けれど、三男の俺が家の商売を継げるわけでもなく、俺は15のときに家を出た。


 今でこそ探偵なんてけったいな仕事しているが、当時の俺には二つの道しかなかった。

 親に頼んでどこかの商家にコネで入ることと、冒険者になることだった。

 勉強の機会を与えてもらえただけ感謝していたからこれ以上の苦労をかけるのもなんだったから、俺は冒険者になることを選んだ。

 ま、男として冒険者に憧れたってのもあるがな。


 そんなわけで冒険者になった俺は世界中を回った。

 前世の記憶があって殺しには抵抗もあったが、案外殺伐とした世界だ。慣れないと死ぬのは俺だった、っていう話だ。


 そんであちこち回るうちに色んな経験をした。

 それこそ定番なゴブリン退治やら、盗賊退治に、戦争にも参加した。

 女を知ったのは殺しにも慣れて、金に余裕の出来始めた18ごろだったかね? 今となりゃ、ぼったくられたのも笑い話だ。

 一回なんかドラゴン退治にも出たこともあった。

 あれは化けもんだった。あちこち回って色んな経験をしたもんだから、地上最強ってやつを舐めてた。

 今生きてるのも運が良かったとしか言えないしな。

 ドラゴン退治は100人以上参加したのに帰れたのは、たったの19人だったんだからな。

 死んだ奴らの家族に、そのことを伝えに行ったんだが、あれが一番キツかった。

 泣き崩れたり、怒鳴る奴らはまだ良いんだが、堪えるように俺にありがとうって言ってくる奴を見たときには、思わず俺が泣きそうだった。


 そのあと生き残った連中と酒を飲んだが、もう怒ってんのか泣いてるのか、笑ってんのかわからないくらいベロベロに酔うまで飲んだね。


 そんときに一番気の合った奴がいた。

 奴はトールって言ったんだが、それ以来、よく一緒に依頼を受けて、終わったら一緒に酒を飲んで騒ぐ。

 そんな友人付き合いが2年ぐらいだったか続いて、25になった俺は引退を決めた。


 そんなわけで前から拠点を構えるなら、と決めていた街に移ることをトールに話した。

 一緒に来るかと聞いたが、奴はまだ冒険がしたいと語っていた。そんな奴に俺は苦笑していた。

 その日は朝まで飲んで騒いだ。


 それから一週間して準備を整え、またなと告げトールの奴と別れた。




* * * * * 




 (そうだよなぁ、またなって言って別れたんだ……)


 回想を打ち切って思う。

 結局、二度と会えなくなってしまった友人のことを。

 この世界はわりと文化が発達しているから、写真に似たものもあった。

 白黒だがドラゴン退治のときに一枚だけ記念に撮っていたのがあった。


 (なぁ、トール。お前が死んでから3年も過ぎたんだ、全く早いものだよなぁ)


 白黒の写真を見ながら考える、トールが死んだと知らされた日のことを―――




* * * * *




 それはやはり今日みたいに雨の降る日だった。

 今の街に拠点を構え事務所を開いてから、一年が過ぎたぐらいだった。

 街中での雑務を片付けることに慣れて、たまに冒険者ギルドに顔を出して、人気のない討伐依頼なんか引き受けるようになった頃だった。


 古馴染みが拠点を訪ねてきた。ドラゴン退治で一緒に生き残った二人だった。

 二人は夫婦で冒険者をしているのが珍しかったから、よく覚えていた。

 歓迎しながらも硬い表情の二人を訝しみなぎら、なんか用かと訊ねると言いづらそうにして、俺に告げた。


 トールが死んだ、と。


 あまりのことに呆然とした俺に二人のうち旦那の方が淡々と告げていた。

 トールの奴はまたドラゴン退治の依頼を受けたこと、前回の経験からリーダーに選ばれたこと、二人もこの依頼を受けたから知っていた。

 今回もドラゴンは強かった。それは前から参加していたのが何人かいたから、よく言い聞かせていたらしい。

 けれど一部のメンバーがドラゴンの強さを目の当たりにして、暴走したと。

 そのせいでバランスが崩れたから、トールは撤退を決めた。

 そして、トールは殿を務めたらしい。


 二人から告げられた事実に俺は項垂れた。

 このときになって初めて、俺がドラゴン退治で遺族達に伝えたときに感謝した人の気持ちがわかった。

 あの人達は自分の気持ちを吐き出したくなかったのだろう。色んな思い出までこの激情と一緒に流れてしまいそうだったから。


 二人は最後にトールの形見だと言って渡してくれたものがあった。

 それはネックレスだった。

 趣味で細工をやっていたトールがドラゴンの鱗から削って作った首飾り。

 かなり精巧で綺麗だったから冗談でくれと言ったら最高傑作だからやんねーと言って、ケチと言うと墓場まで持っていくなんて笑っていた。


 今度こそ限界だった。


 目の前に二人がいるのにも気にせずに、トールのネックレスを胸に抱いて声を上げて泣き崩れた。

 



* * * * * 




 机の上に写真を投げ出し、今も首元で揺れるネックレスをつまみ上げ見る。


 「……お前は何を思ってこれを残したのか、今でも俺にはわからんよ」



 結局、そのあとは別に仇を討ちに行ったりするでもなく、いつも通りの日常を送った。

 どことなく空虚な気もしたが、これでも良いかと思い、逃げるように働き続けた。

 気づけば3年経っていた。

 これじゃ、罰が当たっても当然かもしれない。なにせ親友のことを三年間も忘れようとしていたのだから。

 でも、と思う。


 「忘れらんねぇだろうなぁ」


 誰も知らないことだが、この事務所には二種類のコーヒー豆がある。

 一つは客に出したり、いつも飲んでたりする安いのと、リーズがわざわざ探してまでうまいコーヒー豆を仕入れたものだ。


 「……俺はお前に自慢したかったんだよ。お前が好きなうまいコーヒー出してさ。ここが俺の城だって、羨ましいだろうって。

 俺はまだ一度だって飲んでねぇんだよ。……お前が来てくんなきゃ、いつまでも空けらんねぇんだよ」



 雨が窓を打つ音が響く。

 最後の一口になってしまったコーヒーはさっきよりもずっと苦く感じた。





はてさて、書いてはみたもののどのジャンルにすべきかがわかりません。

ファンタジーにしては少し薄い気もしますし、誰か教えてくれませんかね?

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