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盲目少女  作者: 三宮祐吏
3/7

episode-03

 私の待遇は破格であった。


 病んでしまった母への治療費入院代など、バカにならないというのにさらっと出してくれる。私自身も病院に行かせてもらえた。

 それから通信制だが高校の勉強をさせてもらえた。

 その見返りは彼の家の中の家事と、時折体を差し出すくらいだった。ちなみに臓器は売らずに済んだ。

 借金と労働が見合っていない気がして抗議したこともあるが、彼にはそれで満足らしい。


***


 数年もすればヤクザにもなれるというものである。

 もともと情緒というものにかけているのだろうか、彼の全身が血生臭くても花火の様な臭いがしても、なにも思う事はなかった。

 彼は武等派のヤクザらしく、昨今はインテリヤクザしかいないと思っていた私にはなんだか新鮮なものだった。おまけに地位も高いらしい。そこまで詳しくないし、知りたいとも思わない。

 意外に良好な私たちの関係は、互いに踏み込まないという事で成り立っていた。


「おかえりなさいませ」

 私が彼を出迎えると、彼は乱暴に私の頭をなでた。

「?」

 そうしてスーツを押しつけてお風呂に向かった彼に疑問を持ちながら夕飯の支度を始める。

 温めなおして彼を待っていると、彼はぼそりとった。

「お前の兄貴」

「? 借金のかたにした兄が?」

「お前はどうしたい?」

 何を言っているのだろうか。

 そんなの、もちろん決まっている。

「復讐したい」

 もちろんできればの話だ。兄はどこに行ったのかもう数年も知らない。別のヤクザにでも殺されているのではないだろうか。

「してみるか?」

「……できるのですか?」

 つい、敬語が出た。彼に慣れた頃から敬語なんて忘れてしまったけれど。今は彼の後ろ後光が差している。ように感じる。

 確認するように顔を上げれば、彼はにやりと笑ったような気がした。

 この時の私の目は、自分に似てきたと、彼は後にそう漏らした。――見えていないはずなのに。


***


 復讐もしたかったが、それよりも少しだけ今の兄の様子が気になった。女に貢がせて、借金を押しつけて人を不幸にする生活を続けているのだろうか。

 無理を言って、彼に死んだふりをしてもらう事にする。

 すんなりとだまされた兄は、彼の家に転がり込んできた。

 私も上手くだまされているようにふるまう。


 兄は相変わらずダメ人間だった。

 しかも、私が妹だという事も気が付いていない。

 毎日……というか四六時中欲を孕んだ眼をしている。妹に欲情するレベルにまで堕ちたというのだ。気持ち悪い。気持ち悪い!

 期限は1週間だったが、私は3日目で根を上げた。自分で言いだした事だと言え、非常に後悔している。


 毎日パチンコに出掛けて一日を過ごす。

 クスリにでも手を出しているかと思っていたが、そこまではなかった様だ。

 しかし、トチ狂ってるのか、自分が殺した相手――と思っている彼――についてよく話した。

 あっけなく死んだとか、弾が胸に当たったとか。

 彼がどうやって死んだふりをしたか知らないが、彼は確実に生きている。兄ごときに殺せるような人間ではない。クズにも落ち切れず、まっとうな人間にもなりきれない癖に。何を言っているのだろう。


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