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盲目少女  作者: 三宮祐吏
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episode-02

 兄が蒸発した。


 私が覚えている兄と言うのは、まだ兄が小学生に上がった時くらいだ。

 当初幼稚園に通っていた私を兄はいつもいじめ歩いていたのを覚えている。かと言ってそんなにいじめがひどかったわけではない。子供のやる事だ、たまにボールをぶつけられたりするくらいの軽いものだった。

 しかし兄は変わった。

 中学生になってタバコを吸い始めた。気管が弱い私に向かってわざと煙を吐いた。そのたびに私は新鮮な空気を吸おうと過呼吸になっていた。

 考えてみればかなり年の離れた妹ができて、なんだかいやな気持になったのだろう。なんとなくわかる様な気もする。

 高校にも行かずに、兄は遊び歩くようになった。

 どこで何をしていたのかは知らないけれども、父が借金を押しつけられたと夜中に母へ漏らしていたのを知っている。


 心やさしい父と、内気な母。


 この二人の間に、どうしてあんな兄ができたのかは今でも疑問だ。

 父は借金返却に奔走するも、自転車操業。毎月一定額を払うのに精いっぱいで、利子は溜まって行くばかり。服も自由に買えないし、本来なら病院に行かなくてはならないけれども行くことさえままならない。お小遣いも貰えないから満足に友達と遊ぶことだってできなかった。

 そんな辛い中学校時代。

 父がやむのも当然と言える。自分に多額の保険金をかけて、父は事故死してしまった。

 発生した保険金は葬式代にあてられた。

 今まで私は兄が残した借金の額を知らなかったが、利子は残りの保険金なんかでは払えきれないくらいに膨らんでいたようだった。

 母はあまりにもの額にあっという間に倒れた。母が借金の額を正式に把握していなかったというのは、私にとって意外だった。

 私は毎日ヤクザに取り立てられる日々。頑張って勉強して入学できたレベルの高い高校すらも辞めなくてはならない状況になってしまった。

 なぜ遊び歩いていた兄の代わりに、真面目に生きていた私が辛い目に合わなくてはいけなかったのか。


***


 高校を辞めて、たかが中卒の私にできることと言えば、その身を売る事くらいである。

 ただ自分の身を売るだけではまだ借金返済には足りない。臓器を売らなくてはいけない。売り渡しても大丈夫な臓器は何なのだろうか。

 そんな事を知るはずもない。

 そういうのは専門家に任せるべきだろう。ヤクザにコンタクトをとることにした。


「一番価格の高い臓器は、どこですか?」

 開口一番そう聞けば、なぜか目の前のヤクザは微妙な顔をした。いや、そんな気配がした。私の両目は小学校に上がった時にほとんど失明しかけていて、何もかもぼんやりとしか見えていない。70㎝くらいしか離れていないはずの対面のヤクザの顔もほとんど見えていなかった。おぼろげに輪郭が見える程度。

 進んで借金返済に奔走しているというのに、どうしてそんな顔をされなければならないのだろう。

「お前あれか。臓器売れば借金消えっと思ってんの?」

 せせら笑い、タバコの煙をかけられる。

 いまだに気管が弱い私は涙目になってむせた。

「ごほ、ごほっ。……思ってません。臓器を売った後、風俗にでも売り飛ばして下さって結構です」

「華のJKが風俗とか言うなよ」

「……」

では何と言えばいいのか。どうだっていいじゃないか。そんな呼び方くらい。

「高校は辞めました」

「……なんで?」

このヤクザは事情を知らないのだろうか。

怪訝な目で見ると、ヤクザは笑った。

「いやいや。わぁってるよ。アレだろ。兄の借金のカタにされたんだろ。かぁーぃそうになぁ」

「……」

 心もこもっていない目が私を見た。

「そんな可哀そうな私を助けると思って、高く売れる場所を教えてください」

 付き合ってられない。そう思ってせかすように言うと、なぜか目の前の男は上から下まで舐めまわすように私を見て言った。


「どうせ自分を売るなら、俺に売られたらどうだ?」




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