第1章 『ボクは』
生、の彼を見てみよう
『おかあさんへ どうしてボクを いきかえらせたの
ボクは しにたかったんだよ』
紺野祥二は、人目をはばからず泣き叫ぶ母親に、引きずられるようにして走っていた。
『 ボクは きいちくんに いじめられていました
あと おむかいの まことくんとたかしくんも
いっしょでした せんせいにいっても
それはいじめじゃないといわれました
だから ボクは しにたいとおもいました
でもボクは じぶんで しぬのはむずかしいとおもったので
おねえちゃんに たのみました
おねえちゃんは いっしゅんで ぼくをころしてくれました
でも つぎに めがさめたら またいきていました
おかあさんは ないてくれたけど やっぱりボクはしにたいので
もういちど おねえさんに たのみます
おかあさん ありがとう こんどこそ
さようなら』
目の前で、母親が狂ったように泣き叫んでいるのが遠く聞こえた。
呆然と 祥二はその様子を見ていた。
脳裏には、あの時の無機質な瞳を思い浮かぶ。
少年の瞳は、ゆっくり母親に焦点を合わせ、そして黒服を着ている祥二を
うつろな目で見た。
その口がゆっくりと動く。
「ど う し て」
祥二は、布団から跳ね起きた。
全身が汗をかいていて、とても気持ちが悪かった。
「私はあの子のためを思って生き返らせてもらったのに、あの子はそれを良しとしなかった。
あの子が2回も死んだのは私の責任です。どうか牧師様もお気を悪くなさらないでください。」
気落ちしながらも、自分に深々と頭を下げた母親の姿をいまだに思い出す。
「…もう10年も前のことなのにな」
そっと呟くと、後ろから腕がゆっくりと祥二の体にまとわりついた。
「…どうしたの?朝から怖い顔しちゃって」
祥二は、その腕に身を任せ、もう一度体を布団に横たえた。
腕の持ち主が体重をこちらにもたせ、首元に手を回してくる。
むき出しの体から体温が伝わってくる。今はその体温に身を任せてもいいと思った。
「…昔のこと?」
「その話は詮索しない約束だろ」
「そうね、昔のことになると祥二はいつもそうなるんだから」
「俺のことをよく知ってるような口ぶりだな」
「年のくせに妙に子供っぽいところとか?」
「…余計なお世話だ」
そう言うと、鈴の音のような笑い声が返ってきた。
なおさらバツが悪い空気になり、祥二は黙り込む。
初夏の陽気と、まだ春のようなさわやかなやわらかい風が体をなでる。
「…ねえ、もう少し寝ない?」
「そうだな…」
シャワーを浴びたかったが、今はもう少し静寂が欲しかった。
隣りから規則正しい寝息が聞こえてきても祥二はずっと天井を見上げていた。
祥二をもっと若く作りたかった