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小話 彼の隣に並んだら4










「・・・い、ミナ。ミナ、起きろ」

彼の腕にゆらゆら揺られて離宮に辿り着いた私は、何度も揺さぶられて目を開けた。

「そんなに気持ち良かったか・・・?」

うっかり眠ってしまったことは、しっかり気づかれていたらしい。それにしても、いつの間にうとうとしてしまっていて、いつの間にソファに座っていたのだろうか。

「う、んん・・・ごめんね、揺れが気持ちよくって・・・」

「大人しくしていてくれて、確かに助かったんだが・・・」

欠伸をして目を擦った私に、彼が苦笑している。

「・・・体調が悪いのか?」

頭に霞がかかっているような、ふわふわした意識の中で彼の言葉を聞いた私は、額に大きな手が当てられたことに気がついた。

「ああそれ、好き・・・」

温かくて、覆われている感じがなんともいえず心地良い。目を閉じてうっとりと呟いた私に、彼のため息が降ってくる。

「こら、寝るな。

 ・・・お前、これから何するのか分かってるか」

「んー・・・けっこんしき・・・」

「本当に結婚する気、あるのか・・・?」

そんなふうに呆れないで欲しい。大きな腕の中で、ゆらゆら大人しく揺られてしまっては眠くもなるのだ。しかも、いつもと違う格好をしているからなのか、普段のそれよりも丁重で、大きな卵を抱えて歩いているかのような、そんな優しい揺れだった。つい、甘えたくなってしまう。

子どもが寝起きにぐずるように相槌を打っていると、ふいに彼が声を落とした。

「・・・取りやめにするか」

その刹那、意識が覚醒した私は勢いよく首を振る。自分でも驚くほど焦って首を振ったから、頭がくらくらした。

それを見た彼は苦笑して膝をつくと、私の頬に触れる。そして、深い緑色をした瞳を柔らかく細めた。

「ごめんね、寝ちゃって・・・」

そっと言葉を紡ぐ。すると、彼は意地悪な表情を浮かべて口を開いた。

「寝不足か?

 ・・・昨日は、言われた通り控えたんだが・・・」

低い、私の好きなバリトンの声が意地悪なことを言うから、思わず顔を顰めてしまう。そんな私を見た彼は、苦笑混じりに「悪い」と呟いて、私の眉間に指先で触れた。そのまま、ぐりぐりと揉むようにされる。いつも私がしているようなことを真似たのだと分かって、可笑しくて噴出してしまった。


差し出されるグラスを、お礼を言って受け取る。ひんやりした水が喉を通る感覚に、頭の中がすっきり晴れた。

彼が髪を直すと言って、私の背後に回る。

「そろそろ、人が集まり始める頃だろうな」

「・・・うん」

いよいよだと思うと、否応なしに鼓動が跳ねる。私は頷いて、静かに目を閉じた。今度は眠るだめではなく、心を落ち着けるためだ。

「緊張してるか」

「・・・シュウは、緊張してないの?」

彼が平然と手を動かして囁くから、つい問い返してしまう。こういう時、相手の顔を見ないで済むのはありがたかった。

「俺は・・・そうだな。不思議な気持ちではあるな」

「不思議?」

「ああ。

 戦争中に西の前線へ行った時の緊張感とも、団長に就任した時の緊張感とも違う」

淡々と語るその声は、とても緊張しているようには思えない。きっと、やせ我慢でも何でもなく、緊張していないのだろうけれど・・・羨ましい限りだ。

そして、考えを巡らせているうちに、ふいに思い至ったことに納得して、声を漏らす。

「そっか・・・シュウが緊張してないなら、私は緊張してても大丈夫だよね」

肩の力を抜いた私を、彼は鼻で笑った。ジェイドさん達にするのとは違う、嫌味のない、頬を緩めたついでに吐息が漏れたような、甘さのある仕草だ。知り合って間もない頃は戸惑ったけれど、今では私の好きな彼の仕草のひとつになっていた。

「大丈夫だ。

 お前は困ったら笑っておけ」

「全然参考にならない・・・」

何をどう考えたら“笑っておけ”になるのか分からないけれど、ともかく困ったことになっても彼が助けてくれるという意味だと受け取った私は、そっと息を吐いて思い返す。


彼から聞いたこの国の結婚式は、私の予想とは全く違っていた。結婚式といえば、新郎が花嫁に靴を履かせることと、証人となる参列者の前で婚姻届を書くこと。それが暗黙の了解だ。

婚姻届は、前もって取りに行ったものがあるので、それを準備係の人に渡してある。

花嫁に靴を履かせることに関しては、ついさっきやっと理解出来たところだ。

式の最中に、彼が私に靴を履かせるらしい、ということは説明を受けていたのだけれど、まさか靴を履かずに移動するなんて思いもしなかった。彼の話では、花嫁を逃がさないためだというけれど・・・。

ともかく、式ではまず新郎が花嫁を抱き上げた格好で登場する。そして、用意された場所に花嫁を座らせた新郎が、この日のために用意した靴を履かせるらしい。

靴を履かせるという儀式は、他の国でも行われているそうで、どこかの王族が張り切って、花嫁のために宝石をちりばめた靴を用意したとかしなかったとか・・・ちなみに詳しい儀式の内容も豆知識も、アンから教わった。

・・・自分のために用意された靴がどんなものなのか知りたい私は、思い切って彼に尋ねてみたけれど、やはり教えてはもらえず・・・楽しみに待っている、というわけだ。

そして靴を履かせてもらった花嫁は、新郎に祝福を与える。これは、大昔の騎士の慣習に由来するらしい。

祝福・・・知識はあるけれど、それも向こうの世界の小説やファンタジー映画の一場面だ。想像力に欠ける私では、その場面で自分がどんなことをするのかが鮮明にならないまま、今日を迎えてしまったのだけれど・・・きっと、困ったら彼が何とかしてくれるだろう。

結婚式で必ずする儀式めいた手順はその2つで、それが終わったら、晴れて夫婦になった2人から幸せのおすそわけが始まるわけだけれど・・・残念ながら、そのあたりの話は聞いても教えてもらえていないのだ。

主役の1人が、自分が何をするのか知らないなんて有り得るの・・・と彼に尋ねたら、「楽しみにしていろ」と笑われた。そういうことじゃなくて・・・と言い返す気力も殺がれた私は、結局そのまま放置してしまった。


それから、この国には宗教らしい宗教がないことを、つい最近知った。

今まで気にしなかった私も私だけれど、向こうの世界では宗教が浸透していない生活をしてきたのだから、仕方ないということにして・・・。

大事なのは、この国には宗教がない、という事実。冠婚葬祭の手順が世代や地方によって異なることがよくあるらしい。基準となるものがないのだから、式の内容に流行も生まれやすいだろう。

小耳に挟んだ話では、蒼も白も準備に余念がないそうだ。仕事そっちのけで、楽しんで準備を進めていたとかいないとか。

・・・私、一体どうなるんだろうか。



「行くぞ」

時間だと知らせに来てくれた人に返事をかえした彼が、私の手にブーケを握らせる。そして抱きかかえられた私が呼吸を整えて頷いたのを見て、苦笑した。

「・・・生贄みたいだな」

「縁起でもないこと言わないでよ・・・」

「悪い」

くすくす笑う彼をひと睨みした私は、楽しそうに頬を緩めているのを見て、目じりを下げる。結局、彼が楽しそうにしているなら、それでいいような気がしてしまって。

カーテンを閉め切った離宮の一室で髪を直してもらっていた私は、突然大きな窓が開け放たれて驚いた。薄暗さに目が慣れていたから眩しくて、思わずブーケをかざして影を作る。

春の風が吹きこんで、ほのかに甘い香りがした。だんだんと目が慣れてきて、私はそっと顔を覗かせる。視界に入ってきたのは、色彩豊かなドレスに身を包んだ女性たちと、黒や紺、グレーで正装した男性たちだった。

「・・・え、」

行くぞ、と彼は言ったと思うのだけれど・・・まさか、この部屋が庭に繋がっているなんて思わなかった。


思わず声を漏らした私を一瞥した彼は、ゆっくりと一歩を踏み出す。かさ、と草を踏む音が聞こえる。降り注ぐ陽の光で、むき出しになっている肩が暖かい。周りは静かで、参列してくれている人達が固唾を飲んで私達に視線を注いでいた。

どうやら、驚いているのは参列者も同じだったらしい。それぞれが思い思いの場所で歓談していたらしく、半ば唖然としている顔も見える。

足元を、風がくすぐっていく。

「大丈夫か」

静けさの中、囁きが耳に響く。

「うん」

ブーケで口元を隠したままそっと囁き返すと、見上げた先で深い緑色の瞳が細められた。

・・・綺麗。

胸の内で呟いた私に気づいたのか、彼が鼻を鳴らす。かさりと草を踏むたびに視界が上下して、頬が緩んだ。

やがて彼がひな壇のように、周りよりも高く用意された場所に乗ると、くるりと来た方へと体を向ける。すると自然と私の視界もくるりと回って、参列者の顔ぶれがやっと分かった。

蒼と白の騎士、事務官、アンやノルガ、ディディアさんとヴィエッタさん・・・私達2人の関係者というと自然と王宮関係者だ。

式は家族だけで、パーティーに知人友人を招くのが一般的らしいけれど、陛下の従兄弟である彼の結婚パーティーはお披露目の夜会ということになる。当然夜会に知人友人を招くことは出来ないし、騎士団関係者は夜会では仕事が割り振られている。そういう事情もあって、私達の結婚式は大所帯だった。

なんせ参加出来る騎士と事務官だけでも、かなりの人数になるのだ。たくさんの視線が自分に注がれている気分になって、私は頭の先からつま先まで、ガチガチに固まってしまっていた。

私達の登場に、呆気にとられていた参列者が集まってきたのだろう。最初に感じたよりも、人数が多くなっている気がしてしまう。

息を飲んで、その顔ぶれを見回していた私は、彼が口を開く気配に視線を上げる。深い緑の瞳が、遠くに投げられていた。

「・・・参列に、感謝する」

・・・何を言うのかと思えば、ずいぶんと愛想のない挨拶だ。

けれど静かで穏やかなその言葉は、自然とその場に溶けていって、しんと静まり返った庭に心地良く響いた。小鳥の囀りが、相槌を打つように聞こえてくる。

彼にとっては、同僚や部下ばかりだ。でも、私にとっては上司やお世話になっている先輩たちばかり。

失礼があってはいけないと、咄嗟に口を開いていた。

「ありがとう、ございます・・・」

声を発した時点で周囲の視線に負けた私は、尻すぼみになってしまった言葉を何とか吐き出して、視線を彷徨わせる。すると、そんな私に目を瞠っていた彼が微笑んで、額に唇を寄せた。

ひゅう、と口笛が聞こえる。それはすぐに、拍手と歓声のようなものに変わった。

「わ・・・」

ゆっくりと下ろされた私は、用意されたクッションに埋もれながら声を漏らす。ふかふかで、真綿で包まれているようだ。

・・・用意してくれた人に、どこで手に入れたのか訊いておこう。

ここで眠ったらぐっすりだろうな、などと一瞬気が逸れた私の耳に、参列者のため息が聞こえてきた。続いて、感嘆のような声も。


何だろう、と視線を向けると、大人達の間を縫うように歩いてきたのは、小さな・・・出会った頃よりも少し大きくなった皇子さまだった。深紅のクッションに載せた靴を、両手で慎重に運んでいる。

「リオン君・・・」

「ミミおめでとー!」

妹姫の誕生からしばらく、情緒不安定で私にべったりだった彼は、すっかりお兄さんのカオをするようになっていた。甘えん坊さんなのは変わらないけれど、それでも毎日成長している姿を見ている私としては、こうして自分に与えられた役目をこなして得意そうにしているところを見てしまうと、どうにも胸が震えてしまいそうになる。

私の小さな皇子さまは、鼻の穴を膨らませて言い放つと、シュウに靴を押し付けて私の所へやってきた。私はいつものように突進してきた小さな体を抱きしめて「ありがとう」とだけ囁く。

母親であるレイラさんから「子守が変わってしまうのか」という不安を抱いていることを聞いていた私は、その背中をゆっくり擦った。

「格好良かったよ」

「ほんと?」

「うん。ありがとね、リオン君」

2人で抱きしめ合っていると、ふいにリオン君が「わっ」と声を上げた。そして、そのまま柔らかい温もりが離れていく。

「やだ、ミミーっ」

見れば、シュウが眉間にしわを寄せて、リオン君を片手で抱えていた。

・・・誘拐犯に見える。

素直な感想を胸にしまって、どうしたものかと考えていると、参列者がくすくす笑い出すのが分かる。この場合、笑われているのは私ではないはずだ。

「シュバリエルガ、皇子をこちらへ」

ふいに聞こえた声に、我に返る。声の主に目を向けると、そこにはバードさんがいた。リオン君は夜会には出席出来ないから、バードさんと一緒に結婚式に顔を出しに来たのだろう。すぐに王宮に戻るだろうとは思うけれど・・・。

「はい、お願いします」

「ああ」

バードさんの元で騎士見習いをしていたこともあってか、シュウは彼を敬うことを忘れない。下手をしたら、シュウが唯一心を込めて敬語を遣う相手かも知れない。

「ミーナ殿」

「あ、はい」

2人のやり取りと、荷物のように受け渡されるリオン君の様子が心配で見守っていた私に、バードさんが言葉をかける。私は、はっとして居住まいを正した。

すると、バードさんの渋い顔が柔らかく溶ける。

「お幸せに。

 私がこのようなことをお願いするのも、何か違うような気がするのですが・・・」

いつになく優しく穏やかな口調に、私の鼓動が跳ねた。もともとお顔のよろしい壮年の男性には弱いのだ。視覚的に。

「シュバリエルガを、よろしくお願いしますね。

 ・・・あなたの笑顔が、彼の幸せだと思って下さい」

「はい」

舞い上がりかける感情を抑えつつ、神妙に頷く。バードさんはそんな私にひとつ頷くと、リオン君を抱き上げたまま去って行った。彼の背中越しに、私に向かって手を振っている皇子さまに微笑んで、手を振り返す。

胸の中に、じんわりと温かいものが広がっているのを感じた私は、思わず彼を見上げた。微笑みが零れて、誰かの口笛が聞こえる。

「だんちょー、くつー!」

こういう野次めいたものの言い方をするのは、大抵蒼の若い騎士だ。

普段から聞いているシュウはそのひと言に片手を上げると、リオン君の持ってきてくれた靴を片方、手に取る。

靴は真っ白で、リボンが付いている。

・・・どうやって履くんだろう。

純粋な疑問に気を取られた私は、急にドレスの裾を捲り上げられて絶句した。膝が出て、参列者が驚いているのが気配で分かる。跪いた彼の頭以外のものに視線を向けるのが怖くて、その動作を凝視しているよりほかない。

すると、彼が周りに誰もいないかのように辺りを占めた空気を無視して、無駄のない動きで私に靴を履かせた。サイズもぴったりだ。そして、靴から伸びる白くてふわりとしたリボンを、くるぶしのところに巻きつけて蝶々結びをした。

「・・・すっげー所有欲・・・」

この声は分かる。ノルガだ。呆れたように呟く声が辺りに響いた。

私がその呟きに赤面している間に、シュウがもう片方の靴を履かせてくれる。こういう時、彼は恥ずかしくないのだろうか。

ちなみに私は恥ずかしい。つむじから湯気が出ていると思う。

「靴は履かせるけど逃がさない、ってことか・・・あれじゃへんた、」

アンの呟きが、途中で遮られる。気になって2人を探すと、ノルガがアンの口を押さえているところを目撃してしまった。

・・・変態、って言おうとしたんだろうなぁ・・・。

否定し切れない自分が悲しくて、そっと胸の内でため息を吐いていると、リボンを結び終えたらしい彼の指が、私の顎をなぞった。


「・・・立て」

短く告げられて、言われた通りに立ち上がる。いつもの靴よりも、ヒールのおかげで視界が広い気がして戸惑ってしまう。参列者の温かい眼差しも、なんだかくすぐったくて頬が緩んでしまいそうだ。

いつの間にか緊張が緩んで、周りを見回すだけの余裕が出来ている自分に感嘆してしまう。そして、“笑っておけ”と言われたことを思い出して、そっと微笑んで彼を見る。

すると、少しだけ眼下に見渡せる参列者の中から、ディディアさんが私に言った。

「キス、してあげて下さい」

本人はこっそり言ったつもりなのだろうけれど・・・。その声は、ディディアさんの言う通りの展開になることを、暗黙の了解として固唾を飲んで見守っていた参列者の耳にもしっかり聞こえていたらしい。すぐに、野次のような催促が始まった。

「え、ええ?!」

戸惑う私が彼を見ても、にやりと口角を上げるだけだ。

・・・そういえば、助けるなんてひと言も言われてなかった・・・!

気がついてももう遅い。彼は私に手を差し伸べることなく、ただ楽しそうに目を細めている。

「愛する者の口付けが、命の危険から騎士を守ると言われているのです。

 ですから、お守り代わりだと思って、ね?」

「そ、そうなんですか・・・?」

諭されているような気がしてならないけれど、理屈を飲み込んだ私は気を決して、楽しそうにしている彼を仰ぎ見た。

「そんなに怖い顔で祝福を授けてどうするんですか・・・。

 それじゃ、お守りにはなりませんよ」

ヴィエッタさんの呆れ果てています、とでも言わんばかりの声が飛んでくる。

「そ、そんなこと言ったって・・・」

「一度の口付けは、一度の奇跡を。

 二度なら、二度。

 月並みですけれど、与える愛の大きさと深さが、騎士を強くする、という意味ですから」

う、と尻込みした私に、ディディアさんがやはり諭すようにして言葉をかけた。


息を吸って、吐く。今まで当然のように無意識に繰り返してきたことなのに、なんだかそれすら上手く出来ない。

私は、思い切り息を吐き出してから、そっと彼を手招きした。

それまで野次めいた何かが飛び交っていた辺りが静まり返る。小鳥の囀りが響いて、彼の前髪が揺れた。肩にかかる後れ毛がくすぐったくて、目を細める。

それまで戸惑う私を見て楽しそうにしていた彼が、ふいに真剣な目をして顔を近づけてくる。私はその両の頬を包んで、そっと唇を寄せた。

周囲で、息を飲む気配がする。

彼の目が伏せられたのを見た私は、鼓動が跳ねた。

ちゅ、と小さな音を立ててその頬に口付けて、ゆっくりと一歩さがる。

「もう十分強いから、これでもいいよね・・・?」

頬を押さえて呆けている彼に、窺うようにして言葉を紡ぐ。すると、彼の表情が強張った。同時に、顔がすぐ近くにきた。いや、私が彼に腰を抱かれて引き寄せられたのか。

そして、それが分かった頃にはもう、勢いよく噛み付くような口付けを受けていた。

驚いて声のひとつも上げられなかった私に、彼は長々と唇を合わせてくる。咄嗟にぴっちり閉じた私の唇をこじ開けようとしているのは、ぜひ気のせいであって欲しい。

目を瞠った視界の隅で、一瞬息を止めていた参列者が、絶叫とも歓声ともいえない声をあげた。



・・・蒼鬼がこれ以上強くなったら、苦情が来るんじゃないだろうか・・・。







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