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もうひとりの君へ~まだ見ぬあなたへ~  作者: 三毛猫
 6.ひとりぼっちの少年
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ひとりぼっちの少年(1)

 GW明け。朝、俺の部屋を訪ねてきた桜葉は、最初から大人バージョンだった。

 いつもなら部屋に来るときには子供バージョンで、学校に近づくに連れて大人バージョンになっていくので、どうしたのだろうかと少し面食らっていると、

「おはよう、俊一郎」

 と、まるでいつもそうであったかのような、ごく自然な態度で桜葉が俺に挨拶した。

 しゅんちろ、という微妙な呼び方を気に入っているいう訳ではないのだが、そう呼びかけられなかったことに微妙に距離を感じて、挨拶を返すのが少し遅れた。

「……おはよう、いつきさん」

 桜葉は戸惑う俺の様子を気にすることなく部屋に上がってきて、いつものように手提げからおにぎりを取り出して俺の方に差し出してきた。

「おにぎり、食べますか?」

「……ああ、ありがとう」

 差し出されたおにぎりはラップでくるまれていた。今日のおにぎりは、海苔すら付いておらず、中にはなにも具が入っていなかった。ただの塩にぎりだ。いつもは三つほど作って来てくれるのに、今日はやや大きめのをひとつだけ。

 おにぎりを作って来てくれるのはあくまで桜葉の純粋な厚意であって、まったく、これっぽっちも文句を言える立場ではないのだが、流石にこれは、何らかの強いメッセージが込められているとしか思えなかった。

「あの、いつきさん、聞いてもいいですか?」

 なぜだか丁寧語になってしまう。お茶を淹れて桜葉に差し出しながら尋ねると、桜葉は、

「なんでしょう。俊一郎?」と無表情に小首をかしげた。表情が無いのが、微妙に怖い。

「何か、俺に対して、怒っていますか……?」

「怒ってなんかいませんよ?」

 お茶をすすりながら桜葉が言った。

「そもそも、わたしと俊一郎は、まだ付き合っているわけではないのですから、わたしが腹を立てるのは筋違いでしょう?」

「いや、俺はいつきさんに怒られて、嫌われても当然のことをしたと思っている。だが、」

「──時間です。学校に向かいながら、話しましょう」

 話をさえぎるように桜葉が言って、立ち上がった。

 自業自得なのはわかっていたが、なんだか拒絶されたようで少し寂しかった。

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