明日を夢見る少女(4)
それから、趣味のこと、好きな作家のこと、先ほど買ったばかりの小説やマンガの話、いろんな話をした。どちらかというと俺が一方的に趣味を語っていただけのような気もするが。
小一時間も他愛のない話をしたあと、「そろそろ帰ります」と朱雀妹が言った。
「ところで、俺の告白に対する返事はもらえないのだろうか?」
「あれは、本当に告白のつもりだったんですか? わたしを引きとめるための、ただの手段だったんじゃないですか?」
「赤の他人の立場じゃ、何を言っても君に届くとは思えなかったんでな。俺から一歩、君に踏み込む意思を示そうとしたら、結果的に告白になった」
「名前で呼び捨てにするのが、告白というのも、ずいぶんと自分ルールだと思います」
「ふむ。では改めて。俺と付き合ってもらえないだろうか?」
「とりあえず、初対面でいきなり、なんな脈絡もなしに告白してくるような男性に、好意を抱く女性がいると思いますか? と答えておきます。しかもその場で返答を求めるとか、デリカシーがないにも程があります」
「今のところ、俺に対する好意までは求めていない。興味をもってくれれば、それで十分だ」
「呆れた人ですね……。相手の好意を求めない告白なんて、ただの自己満足でしょう? それともあなたにとって、告白と言うのは誰にでもする挨拶のような言葉なのでしょうか?」
「恥ずかしながら、今のが俺の初告白だ。君を引き止める手段として使ってしまったことは申し訳なく思うが、内容に嘘を言ったつもりはない」
「……水無神さん。あなたの主張と告白を聞いた上で、あなたがわたしを呼び捨てにするのを今は認めるわけにはいきません。それは、あなたと恋人であるとわたしが認めたことになります。わたしに係わろうとすることを、認めたことになります。ですから、先ほど呼び捨てにしてもよいと言った発言は取り消させてください」
「了解した。ハヅミさん」
「……できれば、ちゃん、で。年上の方にさんづけで呼ばれるのはちょっと」
「わかった、葉摘ちゃん。だが、これは受け入れないという答えではないよな?」
「また、会いましょう。これがとりあえずの答えです」
「ああ。また会おう」
朱雀妹は、振り返ることなく去っていった。
ふう、と息を吐いて、それから時間を確認しようと携帯を見たとたん、携帯が震えだし、メールを着信した。俺のメールアドレスを知っているのは、妹と桜葉だけ。表示されている名前は桜葉のもので、件名が「ばか」となっていた。
おそるおそる本文をみると、「ばか」の文字が文字数制限いっぱいに書き込まれていた。
桜葉のやつは予言や未来視の力なんてないと言っていたが、絶対あいつは予知能力かなにか持っているに違いないと思った。
メールに返信。「すまん」ひとことだけ。
許してもらえるとは思っていなかったが、すぐに「ゆるす」とだけ返事が来た。