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【悲報】攻略対象が全員ボケ属性。~ヒロイン(仮)の私は実家の領地経営がしたい~  作者: 空丘ジル


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けつねうろん

「あー……けつねうろん食べたい」


 初冬の冷たい風が、学園の庭を歩く私たちの間を吹き抜けた。その寒さに、私は無意識に「前世の好物」を口にしていた。


「えっ、何が食べたいって? フローラ、すぐに使いの者を出そうか?」

 顔を覗き込んできたのは、超絶美形の第一王子ラルム様。

「それとも、僕と一緒に食べに行く?」

 反対側から甘い声をかけてくるのは、双子の第二王子キリム様。

 さらに、周囲を固めるハイスペック男子たちが一斉に食いついた。

「お腹が空いているんだね、可愛いな」と、微笑む宰相息子のトラス。

「ちょっと待ってろ。今すぐ旨いもんを仕入れてきてやる」と、駆け出そうとする騎士団長息子のゲイル。

「これでも食べて落ち着きなよ」と、魔法でどこからか菓子を取り出す魔導師団長息子のジャスパー。


 ……私は、固まった。

 今の自分の独り言で、脳内に「前世の記憶」が濁流のごとく流れ込んできたからだ。

(待って。私、日本人だったよね? 普通の会社員で、社畜ってほどでもなくて、死んだ覚えもないんだけど……え、ここどこ!?)

 パニックになりそうな頭で現状を整理する。

 キラキラしたイケメンたちに囲まれた私。これ、巷で言う「転生」ってやつじゃないの?

 そしてこの状況、もしかして私、逆ハーレムのヒロイン……?


(いや、喜んでる場合じゃないわ!)

 周囲を見渡せば、遠巻きに見ている生徒たちの視線が、ナイフのように鋭くて冷たい。

 もしここが乙女ゲームの世界なら「ハッピーエンド」で済むけれど、もしここが最近流行りの『ざまぁ系』の物語だったら?

(……詰んだ。この状況、間違いなく「男をたぶらかし、婚約者を放置させる悪女」として断罪される一歩手前じゃない!)

 国外追放、修道院送り、あるいは死罪。

 私の脳裏に、最悪のバッドエンド・リストが浮かぶ。


 冗談じゃない。今の私の夢は、卒業後に実家の領地経営を手伝って、バリバリ働く独身貴族(たまに結婚)ライフを送ることなのだ。


 そんな私の焦りを知ってか知らずか、王子たちはなおも無邪気に微笑んでいる。

「そろそろ寒くなるしね」とキリム様。

「あったかいものが食べたいね」とジャスパー。

「……よし、僕が庭で焼き芋でも焼こうか?」と、爽やかに提案するラルム様。

 キラキラした王子が、庭で、落ち葉を集めて、焼き芋。

 そのシュールな絵面に、前世のツッコミ気質が爆発した。

「なんで王子が焼き芋やねん!!」


 ……ぶふっ。

 周囲から一斉に変な音が漏れた。

 ハイスペック男子たちが揃って吹き出し、やがて腹を抱えてゲラゲラと笑い始めた。

(しまった、つい素が出た!)

 顔を赤くする私を置き去りに、物語は「ざまぁ」へのカウントダウンを刻んでいる気がしてならなかった。


 思い出した。すべては数ヶ月前、あの放課後の教室から始まったのだ。


 帰り支度を終えて教室を出ようとした私の耳に、彼らののんびりとした会話が届いた。

「今年の夏休みは、ずっと領地で過ごしていてね」

 そう語るのは、知的なはずの宰相息子・トラス。他の四人がフムフムと頷きながら聞いている。

「あまりに暑くて、急にスイカが食べたくなったんだ。でも、うちの領地では採れなくてね。困っていたら執事が言ったのさ。『お坊ちゃま、お暇そうですね。川釣りなどいかがですか?』って」

 トラスは真顔で続けた。

「そこで僕は思い出した。鮎という魚は、スイカの香りがするらしいじゃないか。……これだ! と思った僕は、毎日川へ通い詰めたよ。でも、結局一匹も釣れなくてね。王都に戻ってから、悔しくてスイカを買って食べた。鮎の味を想像しながらね」


(……なんやねん、それっ!!)

 声に出さず、心の中で猛烈にツッコんだ。……はずだった。

 だが、五人がバッ! と一斉にこちらを振り向いたのだ。その目は鋭く光り、まるでお腹を空かせた雛鳥が、エサを持ってきた親鳥を見つめるような、異様な期待に満ちていた。


(あぁ……あの時からやったわ)

 前世の記憶が戻る前から、無意識に関西弁でツッコミを入れていた自分。関西人の血、恐るべし。

 そこで私は一つの結論に達した。

(私、ヒロインちゃうわ。ただの『ボケが渋滞しとるのにツッコミが絶滅しとる地獄に現れたツッコミ担当のモブ』やわ。断罪なんかされとる場合ちゃうやん!)


 そうと分かれば話は早い。本物のヒロインはどこだ? と周囲をキョロキョロ見回すと……いた。

 木陰から、般若のような形相でこちらを睨みつける美少女。


(うわぁ、めっちゃ睨んどるやん。……ええよ、そのガッツ。でも、今はあんたにかまっとる暇はないんやわ。まずはこっちを片付けんと)


 私は休み時間、隙を見て五人の包囲網を鮮やかに突破した。

 図書館へ駆け込み、迷いのない筆致で二通の手紙をしたためる。そして、それを「彼女たち」の机へと、音もなく滑り込ませた。


「さあ、おいで、おいで……可愛い子猫ちゃんたち」

 私の仕掛けた「逆転劇」の幕が、静かに上がろうとしていた。

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