魔法模擬戦 カノンvsグラン
オリュートスの現代の魔法での戦い方は、魔装銃と呼ばれるリボルバーのようなシリンダーが付いた、大型拳銃のような見た目をしている魔装具を使うことを基本となっている
仕組みはシリンダーに四角い長方形の形状のメモリーが最大6本装填されており、そのメモリーに術式等を刻印、魔力を通すだけでメモリーに登録した術式の魔法を行使できるというものであり、6種類の魔法を素早く扱う
最大のメリットは兎にも角にも発動が早く、全くの別系統の魔法を素早く切り替えられる点である
6種類以外にも、シリンダーごと取り換えればまた別の登録した術式の魔法を行使できるようになる
妖魔大戦時代の魔法使いといえば、杖を持って、詠唱魔法、魔法陣の展開による魔法行使が基本だったが、魔装具、魔装銃の登場で発動のタイムラグを改善し、戦闘スピードを跳ね上げた
ただ、魔法戦闘の基本となった魔装銃であるが、いくつか欠点はある
商人貴族のグラス家。聖王都の住宅街からは大きく外れた邸宅であり、広い庭のある如何にも貴族らしい邸宅
その庭の一部に、カノンは招き入れられた。庭ではあるが、所々、地面が抉れたり、丸太に的が括り付けてあったり焦げた跡など…グランとユキナが魔法の練習にここを使っているのはあきらかであった
ユキナが立ち合いの元、カノンとグランの模擬戦が始まろうとしていた
「カノン先生、自分の我儘…セルゲイ先生の無理に付き合っていただいて、ありがとうございます」
「気にしなくていい、オレの意思で決めたことだ。早速始めようか」
グランのベルトには魔装銃を納めているホルスターと予備のシリンダーに、カードケース
ホルスターから魔装銃を取り出す
(…いい出来の良い魔装銃だ。使い込まれているけど、手入れもしっかりされている。メモリーは6本フル装填…そしてあのカードケース、大き目で枚数が多いか…それにブーツとガントレットも魔装具だな)
「…どうしたんですかカノン先生?魔装銃を抜かないんですか?」
グランの装備を観察することに集中していたカノンは、グランの声で我に返る
「おっと、そうだな」
腰付けていた装飾品を外し、魔力を通して杖に変形させる
「え?つ、杖?」
グランは予想外のモノを出してきたことで、変な声を出して困惑する。立ち会っていたユキナも同じ反応をする。それもその筈で
「杖を使う魔法使いなんて初めて見たって感じだな?」
「そりゃ、生まれてから魔装銃が基本だったので…カノン先生、魔装銃は?」
「相性が悪くて使っていないな。まあ、気にするな。いつでも、どこからでもかかってこい」
杖を展開しただけで、特に身構えることなく堂々と受けて立つ言わんばかりに杖を持ったまま仁王立ちするカノンに、若干の困惑がありつつ魔装銃を構えるグラン
グランは数発、魔装銃からビームをカノンに向けて打ち出す。カノンはそのビームを、魔力を込めた杖で叩き、弾き返す。弾き返したビームは地面や邸宅に当たり、地面は抉れて、邸宅の壁の一部のレンガ砕ける
「な…!?」
魔装銃から打ち出される、魔力のビームは熱量で溶かすとかではないが、当たれば格闘家の拳並みの威力、直撃すれば気絶する程度の威力はある。それが音速クラスの速度撃ち出されるのだが、カノンはそれを正確に数発全て叩き返したのだ。グランもこんな経験は無いので驚く
その後もグランはビーム撃ちまくる、それも途切れなく連射するが、カノンはそれら全てを見事に叩き弾き返す
(なんて反射神経と身体能力してるんだあの人!?その場を動かずに正確にビームの連射を全部弾き返すなんて、ユキナでも出来ないぞ!?)
埒が明かないとグランは判断すると、ブーツに魔力を込め、ビームをカノンに向けて撃ちながら高機動戦に持ち込む
カノンはその場を動かずに、周囲を動きながらビームを撃ってくるグランの動きを冷静に見ながら、ビームを弾き返す。カノン自身がその場から動かないからもあるが、この戦い方に覚えがあった
(グランのこの戦い方…空戦機動?なんでこの時代の者がこの戦い方を?)
カノンが知る空戦機動は、本来は魔装鎧を纏うことを前提とした戦い方の筈なのだ。それも妖魔大戦時代の空戦能力を持つ魔装鎧の戦い方
グランの動きは限りなくそれに近い動きをしている
(となれば、この後の動きは…)
ビームを弾き返し続けたカノンは、大きく隙を作る。その瞬間をグランは見逃さすずに、カノンに急接近しカノンの懐に入る。杖は大振りで振った後で、杖での迎撃が間に合わない
グランは至近距離からビームを叩き込もうとした…が
(!?防御術式!!)
悪寒を感じたグランは咄嗟に防御魔法を展開した瞬間、カノンの左掌底が叩き込まれた
その威力は抜群であり、まともに受けたグランは壁ごと壊して邸宅の中に入ってしまう勢いでぶっと飛ばされたのだ
「グラン!?」
立ち会っていたユキナが思わずに声をかける程、衝撃的な威力であった
(カノン先生の今の動き、一瞬だけ体全体が捻っていたような…それを左掌底に魔力を込めた叩き込んだ?あんな体術、見たことも聞いたことが無い…それに杖を扱う手馴れた動き…とても魔法使いとは思えないぐらい、フィジカルに振り切っているというべきなのか)
カノンは壊れた壁の穴を見ながら様子を伺い
「…迫る光、我が身を守りたまえ、防御術式展開」
詠唱魔法で魔法のバリアを張った瞬間、壊れた壁の向こうから極太のビームがカノンに向けて撃ち出されてきた
カノンのバリアはビームに特化した防御魔法であり、極太のビームを弾いていた
「どうやら、まだやる気だな?」
壁の向こうから、グランが姿を現す
(グラン・グラス。大した魔力と魔法行使能力…そして勘も判断力も素晴らしいものだ、よくぞあのタイミングで防御魔法、しかも適正な防御魔法を行使したものだ。それを信用して発勁を叩き込んだわけだがな…)
グランは体制を立て直すと、先ほどより、より速い速度の空戦機動を行う。カノンを中央に固定しつつビームを撃ちこむ
先程と同じようにカノンは杖でビームを叩き弾いていたが…
(!?弾いたビームがこっちに向かい直してきた!?いや、ホーミング!?追尾タイプのビームか!)
追尾ビームを地面に着弾するように、叩き返しつつ、グランから打ち込まれたビームもカノンは続けて叩き弾いていたが、これによって僅かに隙が出来たことでグランは次の手を打つ、カードホルダーから一枚カードを取り出し
「術式、フラッシュボム!!」
カードの魔力を通し、簡易的な詠唱ともに魔法が発動する
魔装銃は予め用意した術式を魔力を通すことで容易に発動出来るようになるが、複雑で威力の高い魔法の術式を書き込め切れないという欠点がある。その欠点を補う為の魔装具としてカードというモノが開発されたのだ。開くだけで魔法を行使できる巻物の応用の魔装具でもある。使用後は一時的に消失するが、その内にカードホルダーに戻る
グランが発動したフラッシュボムは、無数の光弾をカノンの周囲の地面に着弾し爆発し、地面が抉れて土煙がカノンの視界を塞ぐ
(悪くない発想だがなグラン…悪いが、オレは魔力探索に関しては自身があるんでな。目をつぶってもお前の動きはわかるぞ)
視界が塞がれた状態でも、カノンはグランの動きを正確に把握し、土煙の向こうから撃ち込まれたビームを叩いたが…
(!?凍結ビームか!?)
カノンの杖と持ち手の右手が凍り付いていた、凍り付くことで魔力を杖に通すことが出来なくなり
(魔法を叩き返すことが出来ないか)
カノンはそう判断すると、今度はビームではなくバインドが撃ち出されてきた。身を捩って避けるが、当然追尾してくるので避けるのに限度があり、土煙が晴れたころにバインドに捕まり、手足を拘束される
拘束されたカノンを視認したグランはビームをカノンの頭部を目掛けて撃ち出す
(勝った!)
(グランの勝ちだ!)
グラン、立ち会っていたユキナも勝ちを確信した瞬間、カノンはフィンガースナップ…指を鳴らした瞬間、カノンの足元の魔法陣が発動し、グランの撃ち出したビームが打ち消され、そしてカノンを拘束していたバインドも打ち消され、持ち手ごと凍らされた杖も瞬時に解凍する
「ま、魔法陣!?いつの間に!?」
グランもユキナもいつの間に描かれていた魔法陣に驚く、そもそも現代の魔法使いが実戦で魔法陣を描いてくるなんてことは無いのである。だが、布石はあった。カノンが今まで動かなかったのはこの為である
。グランの力量を測る為、そしてこの一瞬の困惑、一瞬の隙を作る為
カノンはその身のこなしで、グランに急接近し
「やあ」
グランがカノンの接近に気付いた頃には手遅れであり、構えようとした魔装銃は杖で叩き飛ばされ、抜こうとしたカードもホルダーごと叩き飛ばされ、トドメに足払いをされ、尻餅をついた状態で倒されて、立ち上がる前に、杖がグランの顔に向けられていた
「さて、これ以上続けるか?」
「いえ…完敗ですカノン先生。こっちも最善の手を打ったはずなんですが、ことごとく力技で無力化してくるし、かと思えばこっちの知らない魔法もつかってくるなんて…全然本気じゃなかったですよね」
「まあ、お前さんの力量を測る為もあったがな」
カノンは杖を引っ込め、グランの手を掴み、立ち上がらせる
「しかし、派手にやり過ぎたか?お前さん達の家といい、庭も滅茶苦茶にしちまったが」
「ユキナとやり合ってれば、いつもこんな感じですよ。まあ、家の壁まで壊すことは無かったんですがねぇ…カノン先生、直すの手伝ってもらえます?」
「オレのやらかしだからな、仕方ない」
その後、グラス家の邸宅は、カノンの手伝いもあって無事に元通りになったが、執事やお世話係に3人共こっぴどく怒られたのは言うまでもなく
ただ、グラス家の当主、グランとユキナの父親と母親に関しては
「元気があってよろしい!ドンドン壊したまえ!HAHAHA!!!」
「うーん、お前さん達の親、なんかズレてない?」