臨時講師カノンの授業
カリバーン王国 国立聖王都魔法学校
魔法を学ぶ教育機関として最高峰かつ名門学校。卒業生の多くが国に担う、エリートを輩出している
魔法省の幹部になった者、魔法研究機関として名を連ねる者、魔装開発者として社会に多く貢献している者、憲兵団か騎士団の魔法使い、魔法騎士、魔法研究者、錬金魔法術師、魔装開発者になる者等々…多岐、多分野に渡って、社会、国に貢献し、名を残す者の大半が聖王都魔法学校の卒業生である
他国の魔法教育機関に比べても一段とレベルが高いのは、聖王都魔法学校の設立者の一人として、セルゲイ・ローレルが教育者、指導者として貢献してきたこと。魔装魔法と魔装具の発案者であり開発者、そして指導者として優秀なセルゲイ・ローレルが教師として立っていたことが要因であり、そのセルゲイ・ローレルの元で学んだ者が指導者として育ち、聖王都魔法学校の教師になり…その繰り返しと改善をしていき、トップクラスの魔法教育機関として確立した
「しかし、オレがそのトップクラスの魔法学校の講師か…セルゲイ・ローレルも無茶を言う」
全校生徒の挨拶する場の袖で、カノンは現状を独り言をぼやく。それもその筈で、生徒達も教師達もカノン自身より魔法の才能、魔力が高いことは一目見てわかっていたのだ
魔法使いを名をしている以上、第一印象はまず相手の魔力で相手の力を測る。魔法使いを名乗るも怪しい程の魔力しかないカノンは、生徒から舐められるだろうなと考えてはいた
後はカノンの服装である
「ちょっとカノン、アンタその帽子を脱ぐつもり無いの?」
隣に立っていた紅の魔女が、カノンの服装…というより特徴的なトンガリ帽子を被ったまま来たことに指摘する
「アンタも分かっているだろ?コレはオレの父親と姉から大事な贈り物なんだよ。古臭いと言われようが脱ぐ気は無い」
「…まあ、ある意味生徒達に覚えられるだろうから、いいけどねぇ」
トンガリ帽子を被っていた魔法使いは、妖魔大戦時代の100年以上前であり、現在ではまず被るものがいないどころか取り扱ってる店も殆どなく、コスプレぐらいしか被る機会が無いとされる
その後壇上にあがり、全校生徒と教師達の前で自己紹介を終え、いよいよカノン・サイクによる授業が始まった
最初の授業を行うクラスには、例のセルゲイ・ローレルの弟子二人も在籍している
始まったカノンの授業は、東の大陸の主要国のジパンの旅の話から始まった
結果的に、授業は大盛り上がりで終えたのだった
元々東の大陸との交流が乏しく、情報がほとんど入って来ないカリバーン王国出身者には新鮮で刺激的な題材であり、そしてカノンの話上手なのが、盛り上がった要因となった
魔導書作成の為の魔法探索の旅は、現地の人や役人とのやり取りが避けて通れない、相応の交渉術と話術が否応なく要求される場面が多かった為に、カノンの話術は講師としても通用できるレベルまで鍛えられていた
授業もキッチリ時間通りに丁度良く切り上げたつもりだったが
「もっと続けてくれ!!」という声が上がる程であった
その後の他のクラスの授業も、同様に盛り上げ、お昼のランチタイムになった
カノンの講義を受けた生徒や、その噂を聞いた講師達が更なる話を聞こうとして、ランチタイムのカノンを探したが、カノンはそれを見越して姿をくらまし
「予想以上にウケてしまったか…コレじゃ飯が食えないな」
校内の人気のない場所で、ハムと卵のサンドと冷たいハーブティーでランチタイムを過ごしていた
そしてとある人物を静かに話し合いをする為に
「…さて、食事しながらの会話は些かマナーに欠けるかもしれんが、出てきなよ。その為に人払いをしたんだからな」
カノンが問いかけると、物陰から一人、生徒がカノンの前に姿を現す。その生徒はこの学校で最も優秀な魔法使いであることはカノンは一目見てわかった。それはセルゲイ・ローレルの弟子の一人
「君がグラン・グラスだな」
「え、ええ…」
グランは困惑しながら、返事をする
「おや?授業中に冷静にオレの魔力を測っていたとは思えないぐらい、慌ててるな?」
「そこまでわかって…いやそうでしょう。完全にカノン先生のペース乗せられてるんですから…ということは、自分がここに来るように誘導もしていたってことですか…」
「わざとお前さんが追えるようにな。かの大魔法使い、セルゲイ・ローレルの弟子ならそれぐらい出来るだろうなって思ったからだ。やはり、君は優秀な魔法使いのようだ」
「もはや嫌味にしか聞こえないんですがね…」
完全に会話のペースをカノンに持っていかれていたグランは、一旦咳ばらいをして話題を切り替える
「ごほん、改めて…自分がグラン・グラス。グラス家の三男で、セルゲイ先生の弟子の一人です…カノン先生については…うん、その…」
「…?どうしたんだ?歯切れが悪い言い方する」
「それが…セルゲイ先生の後任がカノン先生ということを聞かされたのが、昨夜の話で…」
カノンは、今の話から紅の魔女が肝心な所を抜いて…それか抜けて話したのだろうと察する
「いきなりどこの骨か知らない奴が後任とかは、到底受け入れられない…って所だろ?」
グランが言いづらいであろうことを、あえて自ら言うカノン
「…ハッキリと言えばそうです…名門のサイク家の人間だとしてもセルゲイ先生には及ばないと、思っていたんです…が、カノン先生の講義と行動、そして魔法の才能からしても印象が変わりました」
恐らくグランは何かしらに気付いたようであったが、あえてカノンは泳がせることにした
「…何を言うか、君ほどの魔法使いであればオレの魔力を測れるだろう?到底、君ほどの魔力を持っていない。こればっかりは才能というより、遺伝子による要素だがな」
「だとしても、常時魔力をコントロールしているのは常軌を逸してます。今でも僅かに感じれる程度をワザと出しているだけで、その気になれば完全に魔力探知出来ない程抑えれるのでは?」
カノンは紅の魔女の言葉を思い出す。『アンタの想像を越えて優秀よ』
「驚いたな、そこまで接していないし、こちらは一切魔法すら使っていないのにオレの魔力コントロールを見抜くとは」
「正直半信半疑でしたがね。一時的に魔力を抑えたり、一時的に魔力を消すことは出来ますが、常時となると相当な集中力と魔力をコントロールする技術がいります…というか狂人」
魔力のコントロール自体はさほど難しいモノではないが、グラン知りうる魔法の常識においては常時、長時間コントロールするのは難しい…というより現代の魔法使いでは到底出来ないことを、カノンはそれを息を吸うと当然の如くやっているのだ
「そもそもオレ自体の魔力が大したことがないからなそういう芸当が出来るだけだし、魔力の大きさで勝てないなら、それ以外の要素を強くするしかないからな。オレとしては魔法修行の一環だがな」
グランは、セルゲイが選んだカノン・サイクというこの底知れない魔法使いに興味、セルゲイを始めして、様々な教師達とは全く異なるカノンという魔法使いに魅かれつつあった
だが、どこかそれを認められない所もあり
「…カノン先生、自分と魔法模擬戦を受けて頂けますか?」
「ほう?オレが戦闘魔法を心得ていると思っているのかい?
「…カノン先生の体つきかしても、相当鍛えられたものだとお見受けします。おそらくその辺の魔法使いや教師達よりも場数を踏んでいるのでは?」
丈の大きいローブを羽織った状態からでも、よく見れば、かなりがっしりしているのがわかる程度にカノンの体付きは相当鍛えられたものだと判断は出来る
「まあ、魔導書探索決して平和で終わる旅とは限らないからな。荒事にはそれなりには自信があるがな。なるほど…魔力の力、大きさだけ測らなかっただけじゃなく、オレの魔力を自在にコントロールしていることを見抜いた上に冷静に判断して考えた結果、もはや実戦でやり合うのが手っ取り早いって結論に行き着いたって所かな?」
「そんなこと所です。カノン先生」
「君たちにはその権利はある。弟子にも師匠を選ぶ権利がな」
「やはり、自分にとってのセルゲイ先生は偉大な師匠。師匠より強いかどうか…期待していますよ、カノン先生」
「少々、君のことを過小評価し過ぎた。少なからず、魔法使いとして君のことに興味がある。いいだろう、受けてたとう。その上でオレのことを見極めるがいい」
「それでは、カノン先生、放課後にお迎えにきます」
グランは言いたい用事を済まして、その場から離れる。グランとの会話で食事の手が止まっていたカノンは食事に再開…せずに
「さて、兄の行動に心配して付いてきていたのかい?ユキナ・グラス?」
グランがいた方向とは違う物陰にカノンは話かける
そこから出てくるのは、グランと似た茶系の髪色と赤い瞳の可憐な女子生徒が姿を現した
「わ、私のことも気付いていたんですか!?」
「割り最初から…というよりそこまで強い魔力なら否応なく気付くよ」
ユキナの魔力はグランよりも強い魔力を持っていたが、グランは近づくまで魔力を抑えながら近づいていたのに関わらず、一切抑えていないか、抑えるの下手なのか
「正直、グランより君の方を真っ先に気付いたぐらいだ」
「ええ…」
ユキナは顔を真っ赤にして俯いてしまう
「さて、君がユキナ・グラスだね。こっちの紹介は今更だから、省くが」
「あ…はい、グラス家の次女、グランの妹に当たります」
「そして、セルゲイ・ローレルの最後の弟子の一人って所か…君はどっちかというと魔法使いという訳ではないな?」
カノンはユキナをよく観察する。年相応の女性の体付きであるものの、グラン以上に引き締まっていることに気付き
「魔法剣士って言ったところかな?」
「そこまでわかるんですか…確かにセルゲイ先生からその道を目指した方がいいと言われて、教えられています…まさかそこまで見抜くなんて…グランを言いくるめだけはあります」
「一部始終を見ていたようだな?君もオレの見極めるかい?」
「その必要はないかと…セルゲイ先生と紅様が選んだ人なら間違いないと思っています…まだ困惑はしていますが…グランなんて、昨晩は相当苦言を言っていました」
「いや、それについてはグランの反応方が正しい。ユキナは少し聞き分けが良すぎるぞ?」
ユキナという人物は、どこか抜けている部分やいい意味で言えば素直な娘なのだとカノンはそういう人物と判断する
「そんな文句と苦言たらたらのグランが、失礼なことをしないかを心配して見に来たんですが…まさか言いくるめるとは思わなかったので拍子抜けもありますが」
「言いくるめたというのは違う気がするが…グランはグランなりにオレを冷静に判断したんだ。そして見極める…いや、納得する手段としてオレに模擬戦を提案して申し込んできた。流石、セルゲイ・ローレルの弟子だ」
「カノン先生。私も、模擬戦に立ち会ってもいいでしょうか?」
「勿論だ、君にもこのカノン・サイクという人物を見極める権利があるだから」
カノンは残ったサンドとハーブティを一気に飲み干し
「さて、そろそろ昼休みも終わりだろ?オレも次の準備があるから、放課後にまた会おう。ユキナ・グラス」
「はい、放課後。楽しみにしてます」
「楽しいものかねぇ…ああ、そうだ。ユキナ、君のその髪色」
「はい、髪色ですか?」
「ああ、もう少し薄い色合いに染めた方が、グランの髪色と同じになるぞ」