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魔装十二騎士  作者: カサ
1章
4/21

カリバーン王国の事情

「…以上が、私が知りうるアクリエアスの話です」


しばらく宿泊することになる宿で、メノンと酒を交わしながら、カノンは例のアクリエアスの話を聞く。あくまでもメノンが知りうる情報になる

妖魔大戦終結から、極光のアクリエアスは主に聖王都の治安改善に努めていた。ただ、関わり方は主にテロや過激になったデモに対して武力行使がやむ得ない状況のみに、武力行使を持って制圧だけして、深く干渉はしない。政治的な解決方法などを提案する訳ではない

数年に一度程度に現れる程度だったが、ここ数年、活動家やテロリストなどが活発化し、アクリエアスが出張ることが多くなっている


「もう少し詳しく調べたり、資料とか漁ればもっとより情報がわかると思いますが…」

「いーや、その辺りまでわかっていればいいだろうメノン。実際にアクリエアスの行動を直に見た訳だから、おおよその検討は付くだろうし…調べれば出る資料に、知りたい情報があるとは思えない」


アクリエアスの今日の動きと、深く干渉しない、深追いをしないところを見ると、カノンはどうにも当人ではないと思っている

カノンはそれ以上の疑問をメノンに投げかける


「活動家たちの武器と魔装鎧、あれの出処ってわかっているのか?銃…シップ・ガンならまだ…と言ってもあの威力と使い勝手良さもおかしいし、魔装鎧に関してはもっとおかしい」

「…実のところ魔法省でもこの武装に関して、おかしいと思っているんですが…出処が掴めなてないのが実情です。活動家の武力行使自体は昔からあったんですが、数年前から過激かつ強力な武装、ましてや魔装鎧なんて兵器を持ちだすなんて事例が起きてるんです」


現在の憲兵や騎士団の武器として、銃は珍しくなく、小数ながら配備されている。現実世界で例えるならウィンチェスターライフルのようなレバーアクションの銃が最新鋭で、西部開拓時代の技術だと考えていだだければ伝わるだろうか


「引き金さえ引けば、当たるかどうかは別として誰でも扱える、魔力に関係なく。その危険性故に免許制度と重い罰則がある。ただ、原理としてはシンプルだから、鉄の筒と弾薬さえあれば簡易的、それこそ一発だけ打てるだけの自作銃、シップ・ガンを作る輩がいるって。以前に騎士団の関係者と話す機会があって、聞いてはいたがな」

「正直、素人が作るシップ・ガンは命中精度もそうですけど、弾薬自体もそこまでの威力があるものじゃなかったんですが…弾薬の方が、どうやら改良型?というよりひたすら威力をあげた弾薬が裏で流通しているらしく、至近距離からでも憲兵の防具を貫通、破壊に至っている」


カノンは先程のアクリエアスの戦い方を思い出す。アクリエアスは銃を向けられると分かった時点で物理的な盾で防いだが、あの盾の形状も受け止めるではなく銃弾を逸らすような形状をしていたことに思い出し


(ということは、あのアクリエアスはそういう手合いと何度も交戦しているということか?若い癖によくやる)


カノンはアクリエアスの正体に関しては、性別と年齢辺りまで特定出来ている


「シップ・ガンとやたら威力の高い弾薬なら、まだ手馴れの錬金魔法に優れた奴が悪さをしているだけで説明は付くがな…問題はあの魔装鎧だ。一体どこから、どんなツテがあればただの活動家、テロリストがあんなシロモノを手に入れるんだ」


魔装鎧、魔装具というよりは魔装兵器と呼ばれることがある高機動パワードスーツである

装着者の魔力と身体能力を引き上げ、使用者と使用用途によっては装備が異なるが、今回の活動家が扱っていた装備は魔力のビームをガトリング砲のように連射するモノであった

単純な銃や魔装具の武器よりも、より強力な攻撃手段と防御手段を両立するのだが、当然コレに関しては銃以上の規制があり


「基本的には騎士団の選ばれし精鋭が纏うことを許され、開発、製造方法も極秘。現在はドワーフ族のみしか制作出来ないものだった筈だが?メノン?」

「叔父様の言う通り、現在の魔装鎧は人間が作れないシロモノですが…ただ、活動家達が扱う魔装鎧は、少し違うというか…魔法省では「アレは魔装鎧もどき、出来損ない」って言われてます」


出来損ない…カノンはこれは複数の意味を込められていると考える


「…まず、活動家達が使っている魔装鎧は機動性に関して言えば皆無…せいぜい身軽に歩く程度は出来るが、それは()()()ではない…か」


騎士団が使う魔装鎧は、物凄く身軽かつ、空を飛ぶ魔法の応用で高速機動で動き回る。場合によってはホバー移動のような動きも出来る


「魔法省の方で、活動家達がこれまで扱ってきた魔装鎧を回収して、解析していって判明したのが、武装面と防御性能なら騎士団の魔装鎧よりは軍配が上がるんですが、機動力や魔力や魔法を行使する機能にかんしては騎士団の魔装鎧以下という評価です。大方素材面と制作方法に問題があるんですが…割とどこでも手に入る金属や木材の組み合わせと、質の悪い魔石…材質面だけなら一般の人でもそれらしいモノは作れるだろうけど、騎士団の魔装鎧ほどのじゃない」

「…だが、憲兵とかの魔装鎧の装備のない者や一般人には十分な脅威になるか。安易かつ安価で作れる魔装鎧か…意外と厄介だな」

「魔法省、騎士団、憲兵もこのことには重くとらえていて、調査はしているんですが…上手い具合に足取りが掴めないのが現状です」


カノンはこの話を聞いて、こういう事態は起きるのはわかっていたが、いざ聞くとやり切れない気持ちになっていた。妖魔という、このオリュートスの世界に生きる全ての生命体の敵である脅威が去っても、知的生命体同士、倫理観や価値観の違い、容姿や文化の違いで、一つ一つが小さな摩擦。しかしいずれは争いに発展する

妖魔大戦よりマシ、ある意味の平和の副作用として、カノンは割り切る


「しかし、アクリエアスの戦いを直で初めて見ましたが、やはり妖魔大戦時代の本物の魔装鎧は違いますね。騎士団の魔装鎧なんて目じゃ無いですね」

「だろうな、今の人類と魔族には作れないからな。妖魔大戦時代の魔装鎧は」


本物の魔装鎧は、対妖魔を想定して作られた、空戦機動魔導動力装甲鎧

自在に空を飛び、猛威を振るった妖魔に対して同様に自在に空を飛んで戦える力が必要だった

一応、空を飛ぶ等の魔法技術自体はあるが、魔装鎧を使うと超高速の空中戦闘が行うことが出来た

現在では空戦能力を持つ魔装鎧の開発技術は失われ、騎士団が扱う魔装鎧も


「…ある意味では騎士団の魔装鎧も出来損ない、劣化コピー品って言われても仕方ないか」

「叔父様もご存知だと思いますが、妖魔大戦終結後に人類と様々な種族が戦争状態になって、その際にも魔装鎧も扱われて、戦火広がる一方でした」

「だが、十二騎士の一人である”裁定者のライブラ”がそれを終わらせた。詳細はあんまり詳しくはないが、かなりの見せしめ的なことをやったらしいな」

「その結果、既存の魔装鎧を殆ど破壊。開発、製造方法も意図的に失わせ、オリュートスの知的生命体の倫理観が成長するまで封じた…というのが私たちが歴史で学んだことです。現在、空戦能力を持つ魔装鎧を作れるのはエルフ族とドワーフ族、それもごく一部の部族しか作れないとされています」


魔装鎧の存在を封じたのは正しい判断であるとカノンは考えている。自身も魔法やあらゆる技術に触れてきて、現在の世の中に広めていいものと、いけないモノが嫌って言う程彼は見て来た。魔装鎧そのものも、妖魔という存在が無ければ作られなかった代物であり、当時からしてもオーバーテクノロジーであり、今のオリュートスには必要のない物だとカノンは考えている


「しかし、なんでカリバーン王国がここまで治安が悪くなってるんだ?そこまで政治的や経済的には困窮してる印象は薄いが、ここまで過激になるか?」

「多分、後継者問題と聖剣に認められたカリバーン王国の第七王女の事故死によって、王に対しての民衆の求心力、支持率の低下が原因の一つかな?」

「…後継者問題はそれとなく小耳に挟んでいたが、王女の事故死は初耳だな」


少し驚きながら、カノンはメノンに、第七王女の事故死について詳しく尋ねる


「もう7年前になりますかね?カリバーン王国の第七王女が、馬車で移動中に崖から転落して死亡した…これがただの王女様なら、悲しい事故で済むんですが…聖剣に選ばれたカリバーン王国の王女というのが問題でした」


カリバーン王国の建国は、妖魔大戦より遥か昔、魔族と戦争していた頃、魔王を打ち取った勇者がいた。その名はユウガ・カリバーンであり、カリバーン王国初代国王であり、精霊から授けられたとされる聖剣エクスカリバーを始めとする複数の聖剣と魔剣を使いこなしていた伝えられている

聖剣に選ばれし者は、カリバーン王国の次期国王最有力候補とされている


「そんな国王…いや女王になるのか?有力候補が失われた訳か」

「ええ、聖剣支持派と否定派とか、まあそんないざこざがあるんですよね…100年以上振りに聖剣に選ばれた者。ただ、100年間、聖剣が選ばれなかった者が国王として統治してきたから個人的にはどっちでもいいんですけどね…」

「聖剣が王家の誰かを選ぶということは、何か重大な危機が迫っているいる聖剣が判断して、担い手を選び始める。妖魔大戦程の危機的状況が訪れる可能性があるのに、聖剣に認められた者を失わせるは、国民にとっては不安になるし、活動家達にとっては大義名分…っていうのはおかしいが、それを理由にしているとかだろう?」

「概ねその通りかと…100年前の妖魔大戦時代に聖剣に選ばれ、十二騎士の一人であり、カリバーン王国の王子、十二騎士の中で唯一素性が明らかになっているカリバーン王国の英雄、”聖剣のゴート”ことユーゴ・カリバーン様。今でもその逸話と功績が民衆に称えられ、愛されてしますから。それだけ聖剣に選ばれた者がカリバーン王国のとって特別か理解は出来ますが」

「…聖剣に選ばれるということは、それは過酷な未来が待っている。実際に”聖剣のゴート”は戦死という結末だ」


カノンはこの第七王女が事故死したことに疑問を持つ。本当に第七王女は死んだのか?そんな疑問が浮かんでいた

聖剣に選ばれた者が死んだとなれば、それはそれで騒ぎになり、求心力が落ちることはわかっていた筈。あまり褒められた手段ではないが、事故死を隠し続けることも出来なくはないかという悪い考えは浮かぶ。

妖魔大戦時代、”聖剣のゴート”は聖剣に選ばれた王家の王子という立場でなかなか自由に動けなかったとされている。もしかしたら…

ここまで考えてカノンは推測をやめる


(あくまでもオレの憶測に過ぎない…これ以上考えた所で、オレがどうこうできる訳じゃない)


カノンがアレコレ考えている最中、メノンはカノンがジパンから持ってきた酒を気にって飲み進めていた


「叔父様、このお酒物凄く飲みやすくて美味しいです!ジパンにこんなお酒があるなんて…」

「なんでも米を発酵させて作っているらしいぞ。いい水と良いコメを作れる余裕があったおかげで、作れるようになったとかなんとか」

「これお米なんだ…しばらく食べていないな…聖王都はパンが主食で、お酒もエールと葡萄酒ですからね。なんだろう、少しホームシックになりそう」

「メノンは本家にはしばらく帰っていないのか?」

「2年前に叔父様が帰ってきた時の一族総出で歓迎会を開いて以来、帰ってないですね…魔法省の仕事が忙しいのもありますからね。サイク家が世界各地で見つけた魔法技術と魔法知識、伝承を纏める役目、報告書の作成もあるのに、活動家達の事件処理に対応まで駆り出されて毎日忙しいですよ」


メノンが魔法省に勤めている理由の一つで、サイク家の立場と役目、使命である魔導書の選別と公表するか否かの選別をしている

サイク家から送り込まれる書類は膨大であり、割とどうでもいい情報まで送られくる為に作業量が多い

しかも現状ではメノンと魔法省の信頼できる者しか、書類に目を通してはいけないという情報管理も徹底している


「ということは、今日の事件もか?」

「明日を迎えたくないんですが叔父様…明日にでも魔法省に隕石降って来ないですかね?」

「そりゃ、ご愁傷様だな」


死んだ顔でとんでもないことを言い出すぐらいには、現状の仕事にメノンはウンザリしているのである


「ところで、叔父様は明日からどうするんですか?いきなり講師の仕事って言っても、準備とかもあるんじゃ?」

「初日は顔合わせで、資料の要らないジパンでの旅の話でもするかなって程度だ。どうにも東の大陸の情報って結構貴重だから、雑談程度の講義でも十分に授業になるとは、紅様は言っていたからな」

「いいなぁ、叔父様の講義…叔父様、隕石とは言わないので、魔法省ぶっ飛ばせる魔法ありません?」

「いや、知っても教えねぇよ?オレより年上なんだから、頑張れよメノン」

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