偽光のアクエリアス
帝国の領土の一部を任され、そして魔法使いの家系として、知る者は知る名家であるサイク家
領主として領土を治めるだけじゃなく、世界各地に失われた魔法を発見、発掘し、魔導書として記録を残すのを使命としている一族であり、一族の中でも腕と見識を持つ者が世界中を旅して、今日もどこかで魔法を探し、魔導書を書いている
それ以外にも魔法に関する施設や法律関係にも深く関わり、今日に至るまで魔法の界隈に貢献し続ける家系、それがサイク家であり、その中の養子として迎えられたカノン・サイクは、紅の魔女の要望にとりあえずは応えることにしたのだ
「叔父様が聖王都で私を頼ってくれるなんて、光栄の至りです」
聖王都の土地勘に乏しいカノンは、羽を落ち着かせる宿探しに、聖王都に住む親族、サイク家の人間
「助かるよメノン。魔法省務めで忙しいだろうに」
聖王都の魔法省に勤めているメノン・サイクに案内を頼んでいた
メノン・サイク。彼女が務める魔法省とは、魔法を統括管理する組織であり、法律や認可などの制定を行い世界のバランスを保たせること使命としている。聖王都に本部を構えているが、中立の立場であり、どこかの国の肩入れをしない方針であり、あらゆる人種と種族の魔法使い達が勤務している
「ここ最近…というより、この聖王都はしょっちゅう活動家が事件を起こすからその後始末ばっかり振られてますよ叔父様。正直、今日みたいに誘っていただけると、こちらとしてはサボれる口実が作れて助かります」
「活動家?…アレか、魔族と亜人族を受け入れられないとかほざいてる愚か者のか」
「ハッキリ言いますね叔父様…それもありますけど、今は魔法規制に関することに対することが多いですね」
「あー…なるほど、規制緩和しろとかそういうのか」
妖魔大戦以降、魔法に関する技術等が多く失われ為に新たな概念の魔法が必要となった。その一つとして魔装魔法というものだ。最大のメリットは容易に扱えるが、逆を言えば安易に犯罪行為に利用されてしまう点
「犯罪行為、ましてやテロ行為に使われては堪ったものじゃないから、魔装魔法もかなり規制があるんだよな」
「その一つが免許制度と魔装具の流通の規制と管理…そして、私達のようなサイク家とかが発見した失われた魔法が現在において手に負えないモノであれば規制、非公開にして封印する…だけどそれを快く思わない連中や、発展途上の地域からは独占とか言われる始末だし…」
「だから魔法省が動いている訳か。ただの魔法を使っての悪事、犯罪なら憲兵団と騎士団が捜査で済むが、キッカケが魔法省絡みだと動かざる得ない訳か…それまた迷惑なことだ」
「それでも彼なりの主張を一から否定できないですよ叔父様…今の魔法法律に思うところは無い訳じゃないですし。だからと言っても、暴力で訴えかけてくるのはやめて欲しいですね。被害に遭うのは一般民衆なんですから」
「ん?プラカード捧げて、デカい声をあげているだけじゃないと思ってはいたが、傷害事件レベルまで起きてるのか」
「所謂過激派ってヤツです叔父様。傷害事件どころか殺人事件までに発展させるので、困った話です」
「この平和の時代に何をやってるんやら…」
「だからこそ、叔父様には魔法省に入ってもらいたいんですよね。少なくとも被害を更に抑えることは出来ると思いますし、講師の仕事を受けるよりも」
メノンはワザとカノンが断る話を振る。カノンとしてもその話題、不満をぶつけられるだけの心辺りはある
「以前も言ったが、オレは基本的には目立つことや、現世に大きく関わるつもりは無い。今回引き受けたのは紅の魔女もそうだが、セルゲイ・ローレルの頼みであり、何か裏があると思って受けたに過ぎない」
「わかってはいるんですけど、やっぱ羨ましいと思いますし…というか私も叔父様に弟子になりたいです」
雑談交じりでカノンはメノンに聖王都を案内され、中央広場までやってきた。夕暮れで多くの人たちが行きあい、露店も出ており賑わっている。そして広場の中央に十二体の銅像が建てられていた
今日というより、毎日手入れされているであろうその銅像達はピカピカで綺麗に輝ていた
「叔父様はコレを見るのは初めてですよね?」
「…十二騎士の銅像か」
100年以上前、妖魔大戦を終わらせた12人の英雄達
星読みのアリエス、戦艦のタウラス、刃のジェミニア、生命のクラブ、破戒のレオ、閃光のバルゴ、裁定者のライブラ、爆裂のスコーピオン、黄金のサジタリアス、聖剣のゴート、極光のアクエリアス、月光のピスケス
それぞれが魔装鎧を纏った状態で、銅像が作られている
妖魔達を対応できる程の強さを持ち、妖魔大戦を終わらせたという事実以外、現在に至るまで様々な考察や話が盛られたり、吟遊詩人が詩として、物語として語られるが、彼らの素性と本名は一部を除き一般的には知られていない。それぞれの名前も偽名なのだ
聖王都を拠点として動いていた為、カリバーン王国のシンボルとして、民衆の誰もが知る英雄
「…まるでカリバーン王国のモノだって感じが出てるな」
「正直、あんまり気に入らないですよね…別にカリバーン王国の為だけじゃないのに」
「まあ、形あって残してもらえる。そして長く人々に英雄譚として知られるなら、彼らも本望…という訳じゃないと思うが、悪くないことだろ?」
「うーん…叔父様言うなら…」
二人が十二騎士の銅像を眺めていた時、カノンは魔力を感じた
(!?…攻撃的な魔力!?)
カノンが身構えてメノンの前に立った瞬間、露店の方から爆発が起きた。露店を吹き飛ばした所から複数の人影と鎧を纏った者が一人
「あれは…魔装鎧か?」
魔装鎧を纏った者が、次々と露店を攻撃…狙って攻撃している、露店とその主人達を
「アレは、反魔族の活動家達だ!魔族のいる露店を狙っている!」
反魔族の活動家達は、魔法によるビームや自作銃で次々魔族に攻撃を加え襲い、魔族が開いていた露店を破壊する。何かを主張、何か暴言を吐きながら
広場の人々が逃げ惑う中、カノンとメノンは物陰に隠れながら様子を伺う
「…まさか魔装鎧まで持ち出してくるなんて…一体何処から」
「…騎士団の中でも優秀な奴が纏うことを許され、管理も厳重と聞いたが?シップ・ガンならまだ分かるが、魔装鎧が活動家…いや、アレはテロリストだな。テロリスト風情が作れるものとは思えんがな」
魔装鎧は、妖魔大戦時代に妖魔に対抗する為に開発された所謂パワードスーツである
装着者の魔力と身体機能を強化、補助する
「とは言え、騎士が使うような感じじゃないな、実にお粗末な自作だろうが…それでも憲兵が対応できる相手じゃないな」
「そういえば、その憲兵の人たちが全然見当たらないんですが…」
「付近の憲兵達は既にやられてる。それらしき反応を察知出来るが…倒れてるのと、既に殺されているか…」
カノンは冷静に状況を把握し、どうするかと考える
少なくとも憲兵の増援がくるか、騎士団まで出張るとなると5~10分。その間に被害が広がることを危惧し
「メノン、お前さん魔装銃は?」
「いやいや叔父様!?…私、デスクワークメインの魔法使いですよ!?一人二人ならともかく、武器持ち相手じゃ無理です!!」
「そうだよな…オレが出張る…ん?んんん?」
身構えて出ようとしたカノンは、活動家達とは異なる魔力を察知する
(この魔力…まさか?いやでも…なんだこれ?)
カノンとしては覚えのある魔力と、覚えのない魔力が混ざって感知する
カノンが感じた方向から、その鎧を纏いし騎士は空から来た。マントをなびかせ、ツインアイが特徴的なフルヘルム、趣味的で、そしてそれは大半の人々がカッコ良いと口を添えて言うであろう魔装鎧を纏った者は、魔装鎧を纏った活動家に跳び蹴りを叩き込む、飛んできた速度をそのままに重たい一撃をお見舞いして登場した
それは、十二騎士の銅像の中の一体に酷似…というよりそのままの姿
「極光のアクリエアス!?…なのか?」
十二騎士の一人、極光のアクリエアスであろう者が無法を働く活動家達に対峙する
左手には魔装銃、右手には剣…少し独特な剣を持ちながら、剣は魔力を込められているのか魔力の光を纏っている
「アクリエアスが来てくれた!これなら…」
「メノン、アレはどういうことだ?」
メノンはアクリエアスの存在に何かしら知っている様子で、カノンは問いかける
「叔父様はご存知なかったんですか?極光のアクリエアスは今でも十二騎士の一人として、悪党…というより民衆に一方的に危害を加える者達を成敗しているんですよ。毎回という訳じゃないんですが…今回は早いですね、大概は憲兵がいるタイミングで現れるんですが…」
「極光のアクリエアスが…悪党退治を…?」
「ええ、神出鬼没で素性は不明だが正義の味方。それが今の極光のアクリエアスです」
カノンが知りうる極光のアクリエアスは、そんなことをするような人物ではないことを知っている。アクリエアスの魔装鎧を纏っているのは当人ではない
活動家の魔装鎧を吹き飛ばしたアクリエアスに、活動家達は一斉にアクリエアスに攻撃の矛先を向け、
アクリエアスも応戦する。魔装銃で放たれたビームを剣で切り払いつつ、圧倒的な機動力とスピードを持って活動家達に切り込んでいき、次々活動家達が剣を叩き込まれる。剣の重い一撃で一発で倒れ込む
シップ・ガンで撃たれそうになった際は、左手の魔装銃を錬金魔法で変形させ、自身の身を隠せる程の大型の盾に変えて、銃弾の攻撃を凌ぐ
「あの剣、模造剣という訳じゃないが…刃と刃先をワザと潰して切れないようにしているのか…まあ、ただの鉄の棒を叩き込まれと変わらんが、一撃でダウンさせてるところ、相当な剣の腕前だな。それにいくら魔装鎧とは言え、銃弾相手には鎧の装甲だけで受け止めるのは悪手なことを理解してる、下手すれば普通に貫通する。相当戦い慣れしているな、彼女」
「え!?あれ女の人何ですか!?」
「魔装鎧で体格はわかりづらくなってはいるが、剣の動きと動作を見れば推測は出来る。100とは言わないが、9割がた、あのアクリエアスの正体は女性だ」
アクリエアスは盾も攻撃手段として扱い、剣と盾で次々と活動家達を倒していき、あまりの強さに逃げ出す者が現れる中、吹き飛ばされた活動家の魔装鎧が立ち上がり、アクリエアスの前に立ちはだかる。
活動家の魔装鎧は、ビームを雨のようにアクリエアスに向けて撃ちだす。盾で受け止めるアクリエアスは、攻めあぐねていた
「ほう、あの魔装鎧の装備。割と馬鹿に出来な程の火力じゃないか…ますますどこのどいつが作ったか気になるな。もっとも機動力はアクリエアスに到底叶わないだろうな。十二騎士の魔装鎧は空を飛ぶ、空戦能力を備えているからな」
「アクリエアス、苦戦してますけど…助力しますか?叔父様?」
メノンが問うと、カノンは周囲の魔力を探索し、気付く
「どうやらその必要は無さそうだ。あのアクリエアス、どうやら協力者というか、仲間がいるようだぞ?」
カノンが見上げた方向から、ビームが活動家の魔装鎧に向けて、ホーミングして当たる。それも一発だけじゃなく、連続で数発当たる
魔装銃から放たれるビームは、生身で直撃すれば一撃で気絶させられ、例え魔装鎧であったたとしても、耐えきれても衝撃でダメージと態勢を崩すことが出来る
その瞬間をアクリエアスは見逃さずに、一気に距離を詰める。アクリエアスの魔装鎧の高機動は、活動家の魔装鎧の背後を難なくとり、魔力を込めた剣の渾身の一撃を叩きつける
相手が魔装鎧なだけあって手加減なく叩き込まれた一撃で、活動家の魔装鎧は砕け、機能を失い変身が解け、変身者の活動家が気を失ったまま倒れ込む
主力である活動家の魔装鎧が倒されたことで、他の活動家達も慌てて逃げ出す
アクリエアスは剣を鞘に納め、盾も魔装銃に戻しホルダーに納める
「…追撃はしないのか」
「後は憲兵に任せているんだと思います。あまり深い入り、深追いをしないらしんですよ」
メノンの言う通り、アクリエアスは勢いよく空に向かって跳躍し、そのまま何処かへ飛び立っていった
アクリエアスに倒せされて気絶している活動家や怪我人、怪我人を介護していた者やカノン達のように物陰に隠れていた人達がチラホラ広場に居たが、皆がアクリエアス絶賛し、感謝の言葉を送っていた
「…どうにも、この国も随分刺激的じゃないか」
「叔父様…何というか、やっぱり十二騎士を偽って活動している者は許せないですか?」
「いーや、悪さをしているならともかく、民衆の為に戦っているなら偽善であろうがいい事じゃないか。それに魔装鎧だけなら本物だろう」
「そうなんですか?」
「空戦能力を持った魔装鎧は、妖魔大戦時代の混乱で失われたロストテクノロジーだ。作れるとしたらエルフ族のごく一部と、ドワーフ族のごく一部と聞いている。現在の人間の技術で作れる魔装鎧は空を自在に飛べない。本物の極光のアクリエアスが何を思って託したのか譲ったのか、盗まれたかは知らんが…メノン、もう少し詳しい話を聞かせて貰えないかな?あの”偽光のアクリエアス“についてな」