百年祭 くもの怪人
百年祭の開催本部が設けられている、十二騎士の銅像の広場には沢山の人たがりが出来ていた
百年祭の主催者であり、カリバーン王国の国王の挨拶が行われていた
壇上に立ち、来賓や百年祭を運営関係者、この場に集まった国民や観光客に感謝の言葉を送り、一か月前に亡くなった偉大な大魔法使い、セルゲイ・ローレルに再度弔いの言葉から、少し笑える話まで、カリバーン国王のスピーチはつつまなく続く
「国王陛下、よくもまあカンペも無しで長々と話せるな」
「まあ…昔から国王陛下はそういうのが得意だからね…カノン先生とは違うタイプの話上手というか」
カリバーン国王のスピーチをしている壇上からかなり離れた位置で、ユキナとグラン、メノンは国王のスピーチを広場に集まった大勢の人たちともに聞いていた
国王が時折、話しながら壇上を見渡し、遠くに離れているユキナを見つける。それはユキナとグラン、メノンも気付く。そして国王は微笑みながら軽くウィンクする
「…マジか、この大勢の人だかり中からユキナを見つけたぞ国王陛下…」
「それもさりげなく…」
「…陛下ならやりかねないかも…伊達に3人の王妃と関係を築きあげて、10人以上の子供を作って、家族も大事にする父親でもあるからね」
ユキナは少し誇らしくも、寂しくもあるが、どこか嬉しそうでもあった。もう何年も会っていない、自身の容姿も変わっているはずなのに、それでもこの大勢の人たちの中から見つけてくれる父親に
「しかし…珍しい。こういう表に出る行事には母様…じゃなく、ミラー王妃が出ないのは本当に珍しい。普段なら一緒に出席するのに…」
「言われてみればな…ミーラ王妃は体調不良って話は国王陛下の最初の挨拶で言っていたけど…多少の体調不良でも表に出る人だよな?」
「よく知ってる…ってそうか、グランから見ればミーラ王妃は叔母にあたる人物にあたるんだよね」
そう言えばって感じでメノンはグラス家とミーラ王妃の関係性を思い出す
ミーラ王妃は、グランの父、グラス家の当主の妹にあたり、本来であればグランとは甥っ子と叔母という関係となる
「昔から付き合いありましたからね…ユキナとのくさ…縁もその頃から」
「今腐れ縁って言おうとしなかったグラン?」
思わず言いかけた言葉を聞き逃さずに、グランを睨みつけるユキナ。グランはそれをさほど気にせずに続ける
「ミーラ王妃が嫁いだのが16とかその辺って聞いてます、現在でも30代で若々しく綺麗な人だから、国王の隣に立たせるのに見栄えもいいから他の王妃様から代わりに表に出てくれって頼まれているって聞いたことがあるが…それだけに、本当に珍しいんです。良くも悪くもユキナと同じ頑固な人でもあるから、よっぽど体調が悪いのか…」
グランは考えられる憶測を、語るべくか悩んでいたが、ユキナが察して答える
「それかおめでたならいいことじゃないかしら?流石のミーラ王妃でも周囲が止めるよ」
ミーラ王妃の不在はそこまで心配せずに、楽観的に考えるユキナ
熾烈で地獄と評されることがある妖魔大戦。オリュートスに生きる知的生命体が団結して妖魔を退け、妖魔大戦を終結したこと、その出来事を忘れないように、今の平和を噛みしめ、妖魔大戦で亡くなったもの達にせめて平和なこのカリバーン国王と国民達が、あえて祝う形で行われる百年祭
かつてはお互いを敵視した種族が、共に生活し、共に新たな歴史を歩もうとしている百年祭
妖魔大戦を終わらせた十二騎士を称えるために、中央に十二騎士達の銅像を作り、平和の象徴となっているカリバーン国王首都、聖王都の中央広場
それに脅威が迫っていることに、誰も気付いていない。近くにいるのに、気付かない
ユキナとグラン、メノン。そして国王を護衛する魔装鎧を纏っている騎士達や、宮廷魔法使いもその存在に気付けない
それは巧妙に、気配と魔力の反応を断ち、国王がスピーチしている壇上に近づいていく
一歩一歩、民衆はそのどかされて進んでいる何かに気付かないまま…怪しげなローブを纏った何者かが国王に迫る
そして壇上の付近まで到達し、歩みを止め、ローブを纏った何者かは懐から何かを取り出そうとした、粗末な鉄の筒で作られた、粗末な自作銃を壇上にいる国王に向けて構える
ここまで接近されても誰も気付かない。引き金に指をかける
誰もこの暗殺に気付けない、余りにも巧妙な魔力遮断と気配遮断による魔装具か魔法に
…ただ一人を除いて
「させるか!!」
カノンは自作銃の持っている腕を強引に上げさせて、狙いを上空に向けさせて逸らせる
急に腕を掴まれたローブを纏った者は、上空に向けて引き金を引いてしまう
広場に轟く銃声に、一瞬静まり返る…そして
「じゅ…銃を持っている奴がいるぞ!!???」
いくら気配遮断しても、銃声によって広場にいる者たちはそのローブを纏った者の存在を認知し、そして銃声によって悲鳴が上がり、騒ぎが大きくなる
ローブを纏った者は逃げ出そうとしたが、腕をつかんでいるカノンに腕力から逃げることが出来ず、カノンは素早く地面に取り押さえる
「逃げられると思ったか?大した気配遮断と魔力遮断技術だが…目立ってしまえば意味がな…」
カノンは瞬時に感じ取る、これはマズイと。息の根を止める暇がない、そう判断し
「今すぐここから離れろ!!!」
カノンは指を鳴らし、一時的な暴風の魔法で自分とローブを纏った者の周囲にいた者達、壇上にいた国王や騎士達ごと吹き飛ばす
その瞬間であった、ローブを纏った者が強い魔力の反応を起こす、それは魔装鎧を纏う変身の魔力と同じ反応
カノンもすぐにその場から離れると、ローブを纏った者は苦悶の叫びを上げつつも立ち上がり、禍々しい姿へ変身する
「怪人…!」
それは両手両足の他に、自身の両腕よりも長い八本の脚というのか、虫のような脚が背中から生えたおぞましい人型の怪人
「…蜘蛛?」
蜘蛛の怪人、そう言い表すのが相応しい姿の怪人はカノンに急接近し襲い掛かる。空戦能力有する魔装鎧と同等の速度を出す怪人の急接近による攻撃を、カノンは瞬時に展開した杖で受け止めるものの、そのまま、広場で開いていた露店の一つに吹っ飛ばされ、露店を滅茶苦茶に破壊してしまう
邪魔者がいなくなった蜘蛛の怪人が次に国王のいる方向を向ける
「そこまでだ化け物め!!」
蜘蛛の怪人の周囲を取り囲むように、魔装鎧を纏う騎士達が剣を抜き、立ち向かう。カリバーン国王を護衛しる騎士達はカリバーン王国の近衛騎士団。この国の精鋭中の精鋭であり、最新の魔装鎧を纏う彼らは、憲兵団や他の騎士団とはレベルが違う
そう、あくまでも現代の戦力と比較してである
怪人相手にはどうにもならず、次々の蜘蛛の怪人に返り討ちにされ、突破されてしまう
「陛下!!逃げてください!!!」
倒れた騎士の一人が状況を判断し、国王に逃げるように叫ぶが、蜘蛛の怪人は国王の前に立ちふさがる
蜘蛛の怪人は右手を振り上げる。振り上げた右手は鋭い爪が展開しており、それは騎士の魔装鎧を容易く切り裂くほど鋭利なものである
今にも襲い掛かろうとしている蜘蛛の怪人に相手に国王は、逃げる素振りも慌てる素振りもしなかった、それどころかニヤリとほほを上げていた
その瞬間、国王の後ろから剣が飛んできて、蜘蛛の怪人の右手を切断する
一体何が起きたか、苦悶の悲鳴を上げながらのけぞる蜘蛛の怪人の目に映るのは、国王の頭上を飛び越え、倒れてた騎士が落とした剣を拾って、二刀流で襲い掛ってきたユキナであった
ユキナは躊躇うことなく蜘蛛の怪人に2本の剣で斬りにかかるが、残っている左手と背中の脚で刃をつかんでそれを防ぐ
「く…うおおお!!!」
ユキナは魔力と力を剣に込めて、蜘蛛の怪人を抑え込み、お互いに踏ん張っている地面がめり込んで亀裂が入るほどのユキナと怪人、お互いの怪力で拮抗する
「ユキナ!そのまま抑え込め!!!」
左側面から、魔装銃をパイルバンカーに変化させ、右腕に装着したグランが蜘蛛の怪人にパイルバンカーの杭を叩き込み
「術式展開!!バンカーファイヤー!!」
爆発共に零距離から杭を叩き込み、蜘蛛の怪人を数十メートルぶっ飛ばし、建物の壁に叩きつけることに成功する
「…や、やったのか…?」
騎士の一人がそう呟いた。その瞬間、土煙から蜘蛛の怪人は立ち上がる。その姿は鎧部分自体は破損している様子であったが、ユキナに切られた右腕は再生していた
蜘蛛の怪人は背中の8本の脚をユキナとグランに向ける
「…!?グラン!!何か撃ってくる!!」
「っ!?バリアブルライゼ!!」
最初に気付いたのはユキナであった。ユキナの言う通り、8本の脚から何かが連発して打ち出された
打ち出されたものをユキナは剣で払い、グランはパイルバンカーを盾に変形させて防ぐが
「ぐわぁ!!」「ぐう!?」
流れ弾が騎士に当たるほどに狙いはそこまで正確ではなく、流れ弾でも威力は魔装鎧を貫通するほどの威力のモノであった
グランは防ぎながら観察し、打ち出されているモノ…その正体に気付く
「これ…煙なのか…?煙を高圧縮して高速で打ち出しているのか!」
「煙って…そんなことが出来るものなの!?魔装鎧を貫通するなんて威力…」
怪人の能力は空戦能力を有する。それは蜘蛛の怪人も例外ではなく、怪人は飛び上がり、広場の真上に数十m上昇し、8本の脚を下の広場に向ける
グランとユキナ、そして数人の勘のいい騎士に戦慄が走る
魔装鎧を貫通するほどの煙の弾丸。今度は降り注ぐように発射されるようになれば、被害は広場で逃げ惑う民衆にも及ぶ
発射態勢に入った蜘蛛の怪人、発射されそうになった瞬間
〈マキシマムチャージ、シーケンス〉「術式展開!トルネードスマッシュ!!」
超高速で飛びながら、竜巻を纏わせた杖が蜘蛛の怪人の頭上に叩き込まれ、広場の地面に叩きつけられる
「間に合った…!」
グランは自分たちの時間稼ぎが成功したことに安堵する
叩きつけられた蜘蛛の怪人であるが、すぐに立ち上がる…そしてその目の前には刃のジェミニアが立っていた
「ジェ…ジェミニア様だ!!」
近くにいた騎士達が叫ぶ。十二騎士の一人である刃のジェミニアが駆け付けてくれたことに、安心と歓喜の声を上げる
ユキナとグランは、カノンがわざと蜘蛛の怪人にぶっ飛ばされたことにいち早く勘付き、正体をバレないように変身する為に時間を稼ぐ行動をしていたのだ
ユキナとグラン、そしてこの場にいる騎士や宮廷魔法使いの期待に応えるように、刃のジェミニアは言葉をかける
「勇敢な少年少女達、君たちに敬意を表する。ここはオレに任せて市民達を」
ジェミニアはユキナとグランと知り合いと悟られないように指示を出し
「十二騎士が一人、刃のジェミニア。勇敢な騎士と魔法使い達よ、この怪人の相手は任せてくれ…さあ、ショータイムだ!」




