百年祭前日5 炒飯
カノンの隠れ家は聖王都の郊外の森の中、人が迷いこんでも人払いの魔法を施しているのでそうそうこの隠れ家に辿り着くことはなく、人が寝静まる頃にはフクロウの鳴き声が丁度いい子守唄となるのが似合いそうな雰囲気である
隠れ家は2階立てでそこそこ大きく、2階はそれぞれの個室、1階がダイニングキッチンや魔法研究室、魔導書室になっている
グラン、メノンが寝静まっている中、ダイニングキッチンの大テーブルでカノンは本を読み漁っていた
サイク家の当主であるリーノと意識を共有化出来る帽子は、時間帯が時間帯なだけに脱いでいる。カノンとしてはリーノがこの時間には寝ているだろうと思っているからだ
集中して本を読んでいるカノンであったが
(!?殺気!?)
瞬時に背後から感じた違和感に咄嗟に反応し、カノンは振り向き、手刀を受け止める
「ダメか…やっぱカノン先生隙が無さ過ぎです」
背後からカノンを手刀で不意打ちを仕掛けたのは、寝起きのユキナであった
「…驚いたな、寸前まで気付かなったぞ。気配を消すコツを掴んだようだな」
カノンはユキナの不意打ちに対して咎めることなく、むしろ微笑しながら褒める
なぜなら
「不意打ちでも闇討ちでもカノン先生を倒せば、私の好き勝手にしていい。そう言ったのはカノン先生ですからね…今のは結構自信があった筈なんだけどなぁ…」
「その辺は場数が違うからな。流石に魔力の気配まで消されたのは少し焦ったが」
ユキナがカノンが設けた約束事に対して反発しており、挙句に殴り合いになるっている程であったが、カノン妥協案として『オレに倒せたらユキナの好き勝手にしていい。不意打ちだろうが闇討ちだろうがどんな手段でも構わない』というもので
最初こそはユキナは不意打ちなどせずに模擬戦で堂々とカノンを倒そうとしていたが、真っ正面から戦ってもカノンに歯が立たなさすぎて手段を選ばなくなっていた
「…なんかカノン先生の思惑かかっていて気に入らないというか…私が容赦なくカノン先生を倒せるように仕向けられているというか」
「本気でやり合わないとお前は成長しないタイプだからな…そのおかげで、段々オレが容赦なく叩きのめす、オレに剣以外に杖と魔法…それも風の剣まで使わせるようになってきたのはいい傾向だ」
「おかげさまで、ここ最近は気が付いたらベットの上ですからね」
カノンは嬉しそうに成長していることを褒めているの対して、ユキナは憎まれ口で返す
カノンはここでユキナの反応に違和感を感じる
「…なんか随分大人しいな?」
「そりゃまあ、寝起きですし…何というか昔の出来事を夢で見るし…それよりも何よりも」
ユキナはお腹の虫を鳴かせながら、お腹に手に当てる
「…カノン先生、お腹すいたから何か作ってよ」
ユキナは軽い冗談のつもりで言った。意見が対立している、自分が一方的に対抗心を燃やしている相手とは言え、自分とグランの面倒を見て、仮にも先生と呼んでいる相手にそんなことをさせるつもりはないのだが
「ふむ…学校から戻ってすぐだったし、夕飯も食べてないもんなー…米を使ったモノでいいか?すぐに出来る」
「…え?あれぇ?」
カノンはユキナの冗談に対して意外に快諾すると、冷蔵庫からご飯と各種材料、キッチンの棚から必要な調味料を出し、魔装具のコンロに火をつけ、ユキナが見たことがない深い丸底鍋を出して調理を始める
「え?あれ?あれ?」
余りの手際と予想外過ぎるカノンの行動にユキナは戸惑って突っ立ったままである
カノンは見事な腕前で中華鍋をまわし、手際よく更に料理を更に盛りつけてユキナの前に出す
「いつまで立ってるんだ。ほら座れ」
カノンは言われてやっとユキナは我に返り、カノンと向かい合わせになる形でテーブルに着く
カノンがユキナに出した料理は、ご飯と卵やその他具材を炒めたものであったがその香りに、思わずユキナはよだれが垂れる
スプーンでその料理をユキナは一口、口に入れる
「う…美味い!!」
「そいつはよかった。確かチャーハンでいいんだっけな?よく東の大陸にいた時に食ってたんだよな」
空腹とチャーハンに美味しさに思わずチャーハンを書き込むユキナ、ものの数分で完食
「美味しかったです…」
「そりゃよかった…それで、単純に空腹だけで大人しい訳じゃないようだな?何かあったのか?」
やはりいつもと調子と雰囲気がことなるユキナにカノンが問う。それもその筈で、隠や家生活になってからはカノンとユキナはひたすら意見の衝突が多く、カノンを倒せば自分の行動を制限されないことを条件にしてからはユキナは本気でカノンを叩きのめそうとして、返り討ちに合う…その繰り返しで、ここ最近はこの二人はピリついた険悪な雰囲気…というよりユキナが一方的にその雰囲気を出していたが、今は違うのだ。カノンからしては今のユキナが落ち着いていると感じる程大人しいのだ
「久しぶりに夢を見る程の安眠したせいか、頭がスッキリしたというか…昔、聖剣を使った夢を見たからかな?」
「お前さんが、ナナコを助ける為に聖剣を振るった時のことか?」
「…あれ?カノン先生にその時の話をしましたっけ?」
ユキナが首を傾げる。このことを知っているのは王家以外の人間でも極小数であり、グランすら知らない出来事であり、習慣づいている為にユキナもこのことをあまり話すことはしない
不思議がるユキナに、カノンはテーブルに重なってある本…というより分厚い手記らしいものを見せる
「セルゲイが残した資料にユリカ・カリバーンのついて書かれたことを読んだだけだ。おおよそのお前さんの過去に関してはコレで知ることが出来た…まあ、読み終わったのもついさっきなんだがな」
「あ…そうか、セルゲイ先生は事情を知っていたから…というよりわざわざ手記まで残していたなんて知らなかった」
「セルゲイの資料の大半はオレが引き継いだからな、これまでの自身の出来事やウロボロスや妖魔に関する資料…お前やグランに関する資料を含めれば100冊以上はあったな」
「ふぇ…凄い量…」
「オレ宛じゃない本も含めればもっと多いが…選別して、魔法省の方に譲渡しているがな。オレ宛に中には最新の魔装具の開発書まであったから、流石にオレとサイク家で保管するのもマズイと思うし…ここ最近毎日、暇を見て読んで選別しているって所だ」
「…カノン先生って、意外と暇じゃないんだ。私達が学校に行ってる間は何しているんだろうなって思っていだけど」
実はユキナとグランは、隠れ家生活してからも魔法学校は引き続き通っている。というよりカノンが通わせるように厳命している
「割と暇じゃないんだよな…お前さん達が学校に行ってる間は、魔法省の事情説明もあったし、他に協力者を探したり…やっと時間が取れてセルゲイの資料に目を通してる感じだな。本を読むこと自体は好きだからいいんだがな」
「なんというか…私自身が本を読むのが苦手だから凄いというかなんというか…」
ユキナは自身の過去を知ったカノンに、自身が迷っていることに聞く
「…カノン先生は…ナナコさん…ナナコのことをどう思います?どう思っています?」
「どう思っているというのは、ナナコがお前を裏切ったのか、それともそうじゃないのか…ということか?」
ユキナはカノンの言葉に、静かに頷く
「…一週間か程度しか知らない相手だからな…オレからは何とも言いないのがな…何かしら操られている、洗脳されている…その可能性はなくは無い。妖魔達の妖力や念力の概念を使う奴らの中には、洗脳や精神汚染の類を術を使う」
「ナナコもその可能性がある?」
ユキナはナナコが洗脳されていることの方がまだマシだと思い、縋る思いでカノンに聞くが
カノンは否定をする
「いや…そうだったらオレやセルゲイが気付かない訳がない。それだけ違和感や妖魔の気配を感じるからな…グランの奴は即答していたが、ナナコならやりかねない。オレとしてはグランの言葉信じるし…もし明確に敵対してくるなら、妖魔の力を行使するのであればオレは容赦なく倒す」
この時のカノンは倒すと表現はしているが、目つきは殺気に溢れていのをユキナは感じ取る
カノンは状況次第では確実にナナコを殺す…ユキナはそう思った
それを感じ取ったカノンは
「ユキナ、手段を選ばない相手ならお前自身だけじゃなく、容赦なくお前の周囲の人間が犠牲になる。それでもナナコと話したい、説得や和解をしたいというなら強くなるしかない…強くなければ何も守れない」
「…厳しいことを言いますね…だけど、私はナナコと話したい…敵対するにしても」
「お前がナナコに会って会いたいからって、危ない橋を渡る訳にもいかないからな」
「だからパトロールとかを禁止にしていたのはわかってはいましたがね…やっぱり、私は弱いんですかね?」
お互いに腹を割って話している雰囲気で、ユキナは切り込んでくる。カノンならバッサリ言うかと思ったが
「いや…単純な剣の腕と身体能力と魔力といい、かつての聖剣の担い手である聖剣のゴートよりは上だ」
「…え?」
意外な回答にユキナは間の抜けた返事をする、冗談かと思ったがカノンの表情は真面目そのものであった
「聖剣のゴート…十二騎士の一人であり正体は、ユーゴ・カリバーン…ユーゴ様より私の方が?」
「戦闘技術とかの技に関して言えばユーゴの方が上だがな…ユーゴの場合は優秀な剣の師匠と魔法使いの師匠がいたのもあるが、妖魔が全盛期で暴れていた時代だったからな。否応なしに実戦経験値の差がデカいな…才能ならユキナだが、実際にやり合ったらユーゴに敵わないだろうな…もっとも、確かめようがない不毛な話だがな」
そう語るカノンの表情は寂しそうに、そして何か後悔があるような表情にユキナは見えた
聖剣のゴートことユーゴ・カリバーンはカノンや他の数人の十二騎士と共に異次元空間で妖魔と決戦に挑み、帰らぬ人となった。そこまではユキナは知っている
「…カノン先生、十二騎士の一人であり聖剣の担い手…そして私にとっては祖先の血縁者に当たる聖剣のゴート、ユーゴ・カリバーンの話って聞かせてもらえませんか?当時を知り、実際に見てきたカノン先生の視点から」
カノンは必要以上に十二騎士のことをユキナやグランには多くは語らない、その理由は
「時が来れば否応なしに知る、ただ知る前に教えてしまって、万が一に十二騎士の能力や素性をバレるのは避けたい…ということでしたよね?」
「…まあな、ウロボロスだけじゃなく国家間の問題になりかねない能力を持っていた奴もいたからな…ただ、ユーゴに関してはユキナには知る権利はあるか…アイツに至ってはカリバーン王国でも有名過ぎる上に能力的にも結構知られているからな…この辺りは話してもいいが…」
カノンは少し考える…どこまで語るべきか
「…ユキナ、長い話になるぞ?ユーゴ、聖剣のゴートのことを語るとなれば必然的に数人の十二騎士の存在も語ることになる。裁定者のライブラ、爆裂のスコーピオン、生命のクラブ…この3人は最もユーゴと関わりが深い人物だ…それだけに長くなる」
「構いませんよ、カノン先生のせいで先程までぐっすり眠っていたので」
「そいつもそうか…茶も出そう」
カノンは苦笑しながら茶を沸かしいき。ユキナと自分の茶をテーブルに置く
そしてカノンは語る、聖剣のゴートの話を…カノンが知りうるユーゴ・カリバーンという男の話




