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百年祭前日2 カノンの隠れ家

セルゲイ・ローレルが亡くなって数週間後、ユキナとグランの取り巻く環境は大きく変化せざるを得ない状況になった

聖剣の担い手として、ウロボロスと一部の活動家に素性がバレたユキナのガードを固くせざる得なくなり、聖剣支持派の活動家達に襲撃されたグラス邸も…というより、ほとんどカノンのせいで猟奇殺人現場状態になってしまったグラス邸にそのまま暮らさせる訳にもいかない為、また、ウロボロスの魔の手から遠ざける為にユキナとグラン以外のグラス家の人間は聖王都から離れて引っ越しすることになった

カノンは、魔法省とサイク家の協力で、ウロボロスに対抗する為に様々な手を打つことになった。その一つとして、十二騎士の刃のジェミニアとして素性を隠すため、ウロボロスやカリバーン王国の人々にカノン達の活動を悟られないように、郊外に人が寄り付かない森に隠れ家を作り、魔法工房を兼ねた活動拠点としていた

ユキナとグラン、そしてメノンと共に隠れ家で寝泊まりしながら、カノンがユキナとグランの二人の修行も行っていた


「…全然、変わりないわね…アクエリアスの魔装鎧」


カノンの隠れ家に設置してある培養カプセルに、魔法薬付けにしてある、破壊されたアクエリアスの魔装鎧の残骸が入れてあった。魔法薬漬けに数週間、一向に効果がない様子にメノンは、カプセルのガラスに手を付けて喋る


「カノン先生曰く、魔装鎧は大概は自己修復するけど…ここまで破壊されたらどうにもならないって…自己修復を促す魔法薬を色々と投与しているみたいですけど…効果はなさそうですね」


ボロボロのアクエリアスの魔装鎧を見て、グランは少し落ち込む。なんにせよ、自分達が破壊した責任を感じていたからだ


「そこまで来ると、作った当人に直してもらうか…新規で一から作るしかないだろう」


カノンはユキナが使っている寝室の2階から、階段を降りながら会話に混ざる


「カノン先生、ユキナは?」

「そのまま睡眠魔法をかけて眠らせた。大方、寝れていないんだろ?丁度良かったから、そのまま快眠させてやろうかと思ってな」

「叔父様は強引ですね…」


カノンの行動に呆れつつも、あながち間違っていない行動にメノンは感心していた


「ダメ元で魔法薬漬けしたからな…やっぱ、自己修復出来ていない以上、魔装鎧としてはもはや使用不可能だ」

「貴重な空戦能力を持った魔装鎧が…妖魔の力で変異した怪人も、空戦能力を有している以上、これが無いのは痛手なのでは?カノン先生?さっきの言い方だと、直す方法自体はあるようですが?」

「この魔装鎧の制作者、オレの魔装鎧の制作者でもある、”極光のアクエリアス”こと、ルーズ・エーデルワイス。ハイエルフ族であり、恐らくオリュートスで空戦能力をもった魔装鎧を作れる数少ない人物なら可能だろう…だが、彼の元に赴くとなると、現状では無理だ。今は聖王都を離れるのは得策ではない」


元々、隠れ家を作った理由は襲撃を避ける為でもあるが、ユキナ自身もある程度の自衛能力はあるが、妖魔の力を使う怪人相手にはそういう訳にもいかず、現状ではカノンしか、怪人に太刀打ち出来る戦力がいないという問題である


「ハイエルフの森は、ルドン帝国領でも距離的にも遠いのもあるが、ハイエルフの森は結界のせいで、空から侵入は出来ない。途中から陸路で行くしかないから、最短でも数日、往復で1週間かかるかどうかで、魔装鎧も直せるかどうかもわからん、徒労に終わる可能性もある」

「カノン先生が数日間ここを居なくなるのは確かに手痛いですが…だったら、自分達も同行してしまえばいいのでは?」


グランの提案は、知らない者なら思いつくものであり、ごもっともなアイディアであるが、ハイエルフの特性や習慣を知らないからこそでる発言だなと、カノンとメノンは思っていた


「見知らない者がハイエルフの森に連れていけない、彼らと縁と面識のあるオレしか行けない」

「…でしょうね。叔父様なら問題なくハイエルフの森…彼らの国に行けるけど、私や、ユキナはダメですね…グラン君なら尚更」

「余所者は受け入れてもらえない、って所ですか?」


エルフと言えば、金髪碧眼の美男美女の長寿の種族であり、高い魔力を持つ

気位が高いという印象をグランは持っている。これはグランに限らず、エルフ族との交流が乏しいカリバーン王国の民衆は、大概そういうイメージを持つ者が多い

ルドン帝国の皇帝がエルフであり、吟遊詩人や物語語られるエルフは、そういう性格の登場人物が多く語られるのも、気位が高いイメージが広がった要因だったが、実際のエルフを知る、ルドン帝国出身者のカノンとメノンは違う


「いや、普通のエルフ族ならともかく、ハイエルフ…特に女性のハイエルフは、色欲魔なんだよ…」

「…はい?」


グランの間の抜けた返事に、そりゃそういう反応になるよなって、感じのカノン


「金髪碧眼の美男美女の耳長が特徴、その中で魔力と圧倒的な長寿を持つハイエルフ。彼ら自体は余所者はむしろ歓迎するぐらいには気さくな連中なんだが…その側面として、色欲魔として一面を持つ。特に女性のハイエルフに関しては」

「これが同じ種族ならまだ意外だなって思うじゃない?ところが、ハイエルフは気に入った相手なら、人間だろうが魔族だろうが、亜人だろうが、ゴブリンだろうが…異種族でも構わないって感じで…しかもかなり年下の異性を好むから、ハイエルフに迷った男の子がしばらく帰ってこなかったって事例もあるぐらいには…」

「それってつまり…」


その男の子は、さぞ歓迎されただろうと、グランは想像してしまう


「グラン君の年齢なら、ハイエルフの女たちに間違いなく絞られるわね…性的な意味で、たぶんトラウマになると思う。現に、その男の子、帰ってきたのはいいけど、しばらく女性不信になるぐらいには歓迎されたらしいし…」

「うわぁ…」


ここまで来ると、話していたメノンですらドン引きする程の内容である


「そのせいで、ハイエルフの森に行くには、ルドン帝国の許可が必要というのもあるが…ユキナとグランは間違いなく許可が下りない。そもそも、ユキナが絶対に同行しないだろ?オレよりも、ユキナが聖王都から離れたくないだろ?」


ユキナが聖王都から離れた方が、都合が良かったのはカノンの本音の一つであるが、どうにもできなかったことであった

ユキナが頑なに聖王都から離れることを反対したからだ


「この辺りは、カノン先生とユキナが揉めましたからね…というかシンプルに殴り合いの喧嘩になりましたからね」

「私が合流する前に、そんなことがあったんですか?叔父様」

「メノンには、今の状況の経緯をざっくりと言っただけだからな」


カノンは、ユキナとグランにいくつかの約束事させていた。その中で

一つ、正義の味方としての活動は、しばらく控えること

一つ、今後の監視魔石を使用を一切禁止する

この二つに関して、グランは渋々了承したが、ユキナがこれに今でも反発している

『困っている人や、助けられる人を見殺しにしてしまう』というのがユキナの意見であったが

『警告をした通り、監視魔石を逆手に取られて上に、捕まった己の力量不足を認めろ』『そもそもそういうのは憲兵団や騎士団とかの仕事だ。全ての人を救おうなんて、傲慢だ。ましてや借り物の力でだ』というのがカノンの意見で、ユキナとカノンは現在でも意見で対立している関係であり


「ユキナがコッソリ夜中に聖王都に出歩いて、パトロールしようとしたらカノン先生が文字通り、叩きのめして止めたり、ユキナがジェミニアの魔装鎧を持ち出して、カノン先生が叩きのめして…挙句には、カノン先生が監視魔石を全部破壊したとか言い出した時には、殴り合いになりましたからね…まあ、カノン先生が一方的に叩きのめしていましたが…」

「あの監視魔石、壊したんですか?」

「敵側に利用された以上、使うにも、残しておくにもデメリットしかないからな。セルゲイが設置場所の地図を残したあったから、回収して、全部壊した」

「何も壊さなくても…というより、到底思春期の女の子相手にやっている対応じゃないと思うですが叔父様?」


カノンとユキナの仲が悪いのではないかという雰囲気は、メノンも感じ取っていたが、大の大人と女子学生が殴り合いしているシーンは、如何なものかとメノンは思ってしまう


「というより…ユキナちゃんって、大人しそうな印象を持ってるけど…何というか、意外と過激?行動力があり過ぎるというか」

「この辺はオレも、初対面の時は誤解していたが…大人しく礼儀正しいグラス家の令嬢というのは、一種の仮面のようなものなんだろ?グラン?」


カノンの回答に、グランは静かに頷く


「もともとのユキナは、正義感が強いガキ大将、おてんば姫、馬鹿力女、理不尽を許さない、フィジカルお化け、暴走機関車…」


グランは両手の指で数えながら、ユキナに似合う表現のワードを言っていく


「…まあ、そんな表現が合うような女の子ですよ。昔よりは…というより、聖剣の担い手になって、王家から追放された辺りからは少しは丸くなりましたがね」

「なんか、いくつか悪口挟んでない?…私や叔父様のような、目上の人を話す時は上品さを感じられるような振る舞いだけど?」

「礼儀正しく奥手な貴族のお嬢さまというユキナ・グラスのキャラ付けが、ユリカ・カリバーンの素性を隠す仮面だったって所です。当時のユリカ・カリバーンを知っている者が、お嬢様としてのユキナを見れば、別人って思うぐらいです…じゃないと、数年間、ユリカ・カリバーンという素性を隠しきれませんからね」

「その立ち振る舞いの上に、髪色と目の色まで変えて、日常生活で目立たないように行動をさえしていなければ、王女様であることにそうそう気付かれることがないか。魔法学校での過ごし方は、マジでそんな感じだもんな」


事件の一件や、正義の味方として過激な行動をしてはいるが、ユキナの魔法学校生活では礼儀正しいそれなりの優等生という部分をカノンは知っている

友好関係もそこまで深くも、広くもない…悪い言い方をすれば、友人は少ない方である

ワザと、上手い具合には他人との距離を作って、素性をバレるリスクを減らしていた


「…何というか、叔父様に聞いたことがある。聖剣のゴート様もだけど…聖剣の担い手って、とんでもなく損な役回りじゃない?聖剣に選ばれたが故に、利用する者が現れたり、なんなら暗殺する可能性もあるし、自由に動けなかったり…ユキナちゃんは、本当の家族、王家から出ざる得なくなったし…可哀相だよ…」


メノンが語る、聖剣の担い手が不運になるということは、カノンもグランも同じことを思ってはいた。思ってはいたが、口には出さないようにしていた


「…メノン。間違えてもユキナにそれを言うな、同情はするな。それは、ユキナを傷つける言葉になる」


カノンは、メノンに釘を刺すように忠告をする。カノンの言葉に、グランは感心してしまう


「ユキナと真っ正面からやり合っているだけ、ユキナのことがわかっていますねカノン先生。ユキナにとっては、聖剣に選ばれたことは、自慢と自信の象徴みたいなもんですからね」

「聖剣に選ばれた誇り…それは、先代の聖剣の担い手もそうだったからな…ただ、それ以上に、ナナコがそれに近い動機でお前たちを嵌めたらしいからな。ユキナとして、そっちの方がキツイだろ?」


ユキナが情緒が乱れている一番の原因。ナナコが裏切ったことであった


「どうにも、ユリカ・カリバーンの頃からの付きっきりのメイドのお世話係で、反対を押し切ってまでグラス家の養女となったユキナに付いてきた…付き合いと、お互いに信頼できる関係なのは、短い付き合いながらもわかるぐらいだったが…グラン、お前から見れば、ナナコがそういうことをするタイプか?ユキナを裏切り、セルゲイを間接的に死に追いやることをする程度には…」

「やります。ナナコさんならあり得る」


カノンの問に、グランは即答する。なんの躊躇も、迷うこともなく


「ユキナに対しては、ナナコさんは盲目の如く慕っている…というより信仰をしているという言い方がしっくり来るかもしれないですね。ユキナが王国に追放されてことに、一番憤り…猛反対していたのがナナコさんです。ユキナ…王家の血筋で聖剣に選ばれたユリカが王様になるべき方…そう、語っていたぐらいには…聖剣支持派に付いたのも、ある意味、ユキナの為の行動だったということなら、納得出来てしまう…」

「忠誠心が暴走した結果って所か?」

「…ユキナの為なら何でもする。例えそれが本人が望まなくても、それが本人の幸せである…そして、ユキナが理不尽な境遇に遭っているのは間違っている…暴走したというよりは、条件が揃ったから、ナナコさんは実行した。そういう方ですよ、カノン先生」

「身近にいたグランがそこまで言うとはな…」


ナナコの人物像が、ある意味で想定外過ぎたことで、カノンは少し頭を悩ませる


「…妖魔の力の類を使う連中なら、洗脳する術を持っているだろうかと思っていたから、ナナコは操られている、利用されているんじゃないかと思っていたんだが…というか、そっちを信じたいんだが」

「ユキナの心情を考えたら、そうであって欲しい。ユキナもわかっていても、それでもナナコさんの真意を知りたい…だから、今は聖王都を離れたくないだろうし、ナナコさんに会える可能性があるとしたら、夜な夜な怪しい連中…活動家達を追っていくのが手っ取り早いと判断している…ただ、ここ最近、活動家達が鳴りを潜めてるんですよね…」


グランは、カノンの方をやや引きながら視線を向ける


「叔父様がジェミニアとして、過激派の活動家達の一斉武装蜂起した時に赴いて、撃退しましたもんね…しかも、見せしめの如く何人か惨殺もしてましたもんね…」


極光のアクエリアスが敗れた。そんな話が聖王都中に話が広まり、過激派の活動家達が邪魔者がいなくなったと判断し、様々な過激派が武装蜂起し、市民や街を破壊しようと動いていた所

カノン…刃のジェミニアが現れ、過激派活動家達を徹底的に倒しにかかったのだ。アクエリアスは懲らしめるという程度の手加減はしていたが、ジェミニアは容赦なく死傷者を出す戦い方をし、メノンの言う通り、捕まえた活動家の数人を、過激派活動家達に見せつけるように惨殺したのだ


「アクエリアスと違って、ジェミニアは容赦なく殺し来る…そういう認識、恐怖を過激派達に刻まれたから、そのせいで鳴りを潜めているんですよね…」


メノンは喋りながら、はっと気づく。カノンの行動の意味に


「…叔父様、もしかしてユキナちゃんが危ない橋を渡らせないように、過激派を黙らせたんですか?」

「やり過ぎるぐらいが丁度いいと思ったからな…とは言え、セルゲイがやってきたこと、信念を捻じ曲げることをしたのは、心苦しいかったがな」


カノンとしても不本意の判断であった。秘密結社ウロボロスが何らかの裏で手を引いている、または操られている、利用されている。特に洗脳で操られている、意識などを誘導されている可能性を考えたカノンは、そんな過激派を黙らせる為に圧倒的な恐怖を上書きさせるしかないという判断であった

結果的には、過激派をここ数週間沈黙させたことに成功はしている


「今のユキナに、ナナコと接触するのは悪手かもしれん。ユキナは確かにナナコのことを良く知っているかもしれない。だが、逆にナナコもユキナことを良く知っている。確実に逆手に取られる…前回もセルゲイを嵌めて、ユキナとグランの行動を確実に把握したのにも関わらずに聖剣支持派が失敗したのは、オレというイレギュラーの対応が間に合わなかった、情報が少なすぎた故だ」

「そりゃ…本物の十二騎士の一人が現代に現れるのは、想定外だと思いますが叔父様」


メノンは、刃のジェミニアなら、そりゃ何もかもがひっくり返るのも容易いと思っていた

だが、カノンは決して楽観的な考え方が出来なかった


「いや、オレを始末しない方向性で行くなら、ユキナを確保すること自体は出来たと思う。オレが徹底的に素性を隠していたのもあるが…時間をかければオレの手の内を知られた可能性もあったと思う。上手く回避できたのは、本当に偶然ながら、紅様が直前までユキナとグラン…そしてナナコに、オレがセルゲイの代わりに面倒を見るということを知らせなかったのが、計画を狂わせただと思う」


カノンが聖王都に来て、一週間越えた頃に、聖剣支持派の事件が起きたのだ


「そういう意味では、紅様の偶然のうっかりが状況を打破したキッカケだったんだろうな…だが、対策されていたら、マジでどうにもならなかった可能性の方が高い。ウロボロスについても、ナナコについても、こっちは情報が少な過ぎる上に手数もあちらの方が多い…楽な考えを持って挑める相手じゃない。オレだって弱点が無い訳じゃない。こちらが対策しなければ、次は確実に嵌められる」


あまりにも情報が少なく、得体のしれない組織、ウロボロスにカノンは打てる手を打って、警戒せざる得ない


「ガードを固める為のこの隠し家。そして、ユキナとグランには最低限の自衛手段を叩き込む。現状、奴らに出来る対策はこれしかない」

「うーん…それにしては叔父様、ユキナちゃんとグラン君の訓練内容、違い過ぎない?グランは魔装鎧と、戦闘魔法の座学と実習…ユキナちゃんはひたすら叔父様と手合わせ…しかも、ユキナちゃんに関して毎回ボコボコにしてるけど…大丈夫なんですか?なんと言うか、物凄く険悪な仲になっていません?」


ここ数日のカノンとユキナのやり取りを見ているメノンが、心配になる程、一見では二人の仲が悪い雰囲気が伝わっている。だが


「いや…むしろいい傾向だと思います。意見の食い違いによる口論、カノン先生が強引過ぎる部分があるかもしれませんが、真っ正面からユキナとやり合える相手は、身内の自分以外だと初めてなので…カノン先生相手に、ユキナが仮面を被ることなく素で接することがある相手という意味合いでなら、信頼関係は築けている」

「そういうものなのかな…?」

「ユキナに恨み節を言われる程度で丁度いいんですよ、メノンさん」

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