後始末 セルゲイ・ローレル編
「…ここは?」
セルゲイが目を覚ませば、赤い絨毯の上であり、周囲は無数の本棚と本…よく見れば魔導書であることがセルゲイは一目でわかり
「なるほど、サイク図書館ですか」
セルゲイは状況を瞬時に把握する、まるでここに来たことがあるかのような反応
「驚いた…まさかここに来たことがあるのか?セルゲイ殿?」
セルゲイがさほど驚かず、サイク図書館というのを言い当てたのをカノンは目を見らいて逆に驚く
「昔、お招きされたので。現実での私の体はもう、ダメみたいですね」
今の自身の悲観的な状況を、セルゲイは笑いながら受け止めている。自分の死を、後悔がないのかごとく
「悪いな、死んでしまったら、意識を持ってこさせることも出来ないからな…無理をさせてもらっているぞ」
「むしろ助かります。このままでは、カノン様に何もお伝えるすることが出来ないまま、棺桶に入る羽目になってしまいますので」
セルゲイは、洒落を言いつつ。そして咳払いをし、カノンに頭を深々と下げる
「カノン様。この度は私と、そして弟子たちを救っていただいたこと。私の無理な願いを聞いていただきありがとうございました。そして、自身の不甲斐なさ故に、詳し事情を話せずに、大変不信感を頂いたと思います。そして、極光のアクリエアスの魔装鎧を纏い、アクエリアスとして長年偽って活動していたこと、申し訳ございません」
セルゲイは感謝と、そして自身の失態…そしてアクエリアスとして活動していたことの罪を数える
「セルゲイ殿、頭を上げくれ。なんとなくは、アンタがオレを呼んだ理由は見当はついてる。罪の話ではなく、これからの話をしよう」
カノンはセルゲイの行いを許し、頭を上げさせる。カノンは図書館のテーブルにセルゲイを案内し、お互い、対面しながら座り、話を始める
「さて、色々と聞きたい話は盛りだくさんって所だな。こっちとして、偉大な大魔法使い、セルゲイ・ローレル殿には魔法、魔装具について語り明かしたいのはあるが…セルゲイ殿、アンタ、オレと100年前に会ったことあるな?」
「その通りですカノン様。妖魔大戦時代にお会いしています。私は…」
「カリバーン王国領土、オッリト村にいた、魔法使い見習いの一人だな?」
カノンは、セルゲイが言い終わる前に、言い当てる
「覚えてくれていたんですか!?」
「その時は名前を聞けてなかったが…この間、マジマジと対面した時に、面影があるのを思い出してな…もしかしたらと思ったら、当たっていたか」
セルゲイは思わずに涙を浮かべる、まさか、尊敬する人物に、自分のことを覚えていてくれていたことに嬉しかったのだ
「その通りですカノン様。私はオッリト村出身、あの頃の私は魔法使い見習いとして修業しており…妖魔大戦末期…オッリト村に妖魔の軍団が襲われた際に、貴方が村に来て、妖魔達を退けた」
「そいつは少し違う気もするがな…オレとあの村にいた者達、そして挟撃作戦に乗った、聖剣のゴートと破戒のレオ達の活躍だ。オレ一人の力ではなかったよ」
100年以上前、妖魔大戦末期のオッリト村に、妖魔の軍団が近隣の村を滅ぼしながら迫っていた。その際にカノンこと、刃のジェミニアは挟撃戦を提案、村に迫ってきた妖魔達を迎え撃つ防衛戦、その際にその村で戦える者や魔法が使える者、片っ端から協力をお願いし、村に被害を出させずに、そしてゴートとレオで挟み撃ちにし、妖魔を撃破した。本来なら、妖魔の軍団によって滅んでいたであろうオッリト村を、被害も死人も出さずに戦い抜いたことで、”オッリト村の奇跡”として、十二騎士の英雄譚の中でも有名で語られる話であり、吟遊詩人が話を盛って、詩にする程である
「オッリト村での戦い、カノン様は協力を申し出た場に、私もいました。あの日の貴方の姿と魔装鎧…今でも、昨日のように思い出します」
「よく覚えているよ…オレにとっては数年前の出来事だったし…その時に目をキラキラしていた魔法使いの見習いいたのを思い出してな…セルゲイ・ローレル、あの時名前を聞けずに申し訳ない」
「致し方ありません。当時の私は、うだつが上がらない魔法使いの見習い。同期の者と比べても、劣っていました…あの日までは」
セルゲイは当時を振り返り、懐かしむように思い出し、語る
「あの日の刃のジェミニアの戦い振り、勇姿と魔法が、私を奮い立たせました。いつか、貴方と並んで戦える日を憧れて、夢を見て、それを原動力として励みました…ですが、その夢はすぐに崩れました」
「オッリト村の戦いから、半年ぐらいか…オリュートスに存在する主力の妖魔とその根城と次元空間に干渉する場所を潰し、異次元空間で、妖魔を生み出す女王種の討伐。異次元空間の妖魔との決戦…」
「はい、その決戦にカノン様達が赴いてから、新たな妖魔の出現が出なくなって数か月…妖魔大戦終結の宣言をされました…ですが、ジェミニアを始めとする、いくつかの十二騎士は未帰還であると…この時はかなりショックを受けました。しばらく食事が喉に通らない程に…」
実際に、カノンや異次元空間の決戦に赴いた十二騎士達が、女王種を討伐するまで数日程である。ただ、女王種を討伐したの原因で、オリュートスに戻る際の時間の流れが大幅に狂い、100年後の世界に出口が繋がった
「女王種が異次元空間を制御していたせいで、討伐したことで時間の流れが変わって、元の時代に変えることは出来ない…前もってライブラとアリエスには言われてはいたが…」
「そのことを知らされたのは、私がアクエリアス様と魔装魔法の開発を持ちかけた際に、聞かされました…いつまでもショックで俯いてる場合じゃないと思い、私は新しく目標を立てました。この世界を救った十二騎士達の行為無駄にする訳にいかないと…当時のオリュートスは、各地が戦後の混乱で、復興が滞っていました。ならせめても、魔法をこういう時に活かすべきでは、もっと身近に使えるようにと…」
「なるほど、それが魔装魔法と魔装具の始まり…そして本物の極光のアクエリアスの出番だったわけか、魔装銃とかは、アイツの趣味全開だもんな」
カノンは、魔装具の概念を詳しく調べた時点で、アクエリアスが魔装具の開発に関わっていると確信していた
「オレの魔装鎧…刃のジェミニアの魔装鎧は、アクエリアス制作したものだからな」
「伺っております。アレは自信作だと、よくアクエリアス様は語っていました」
セルゲイは微笑しながら語る。よほどアクエリアスがジェミニアの魔装鎧を自慢しまくっていたのだ
「私はアクエリアス様から、カノン様はいつか…100年後に帰ってくると聞かされて、私は舞い上がり、そして決心しました。オリュートスを復興させて、貴方の帰る場所を、平和な世界を維持し続けるのが、あの時救ってもらった私が出来る恩返し…そして、十二騎士達の代わりに、私が出来る範囲で戦い続けるのが、私が出来ること…アクエリアス様から魔装鎧を譲って頂き、カリバーン王国内の混乱を納めました…もっとも、戦後の混乱を起こしたのは、自分が築き上げた魔装具だったのは、皮肉の話でした」
カノンは魔装具の歴史を調べてきた中で、法整備が追い付いていなかったことで、起きた争いや犯罪行為は知っているが、セルゲイは自身の失態のごとく話を続ける
「復興の手助けになったものの、開発した魔装具での犯罪、戦争の武器としての手段として扱われた…自身の尻ぬぐいをしていました…法整備をしつつでしたが…結果的に、悲しみや悲劇を生むことがありました」
「そいつは…違うじゃないかセルゲイ殿。グランの奴も言っていたが、魔装具は平和の為に作られたものだろ?魔装銃のような武器であっても、悪意のあるものを退ける為の自衛の為だ。そいつを悪用する奴が悪いだけで、作った者、開発者が悪いのは、筋違いだ」
「…そう言っていただけるだけ、気が楽になります」
セルゲイの反応、カノンは想像している以上に、罪悪感を感じているようであった。それは長年、悪意ある者を相当見て来たのであろうとカノンは推測し、これ以上の慰めの言葉言うのをやめた
「本来なら、この世界を貴方を静かに暮らせる世界を築き上げて、いずれ、魔法で語り合える日を夢を見ていたものですが…そうも、いかない事態が起きました。私にとっても想定外でした」
「…あの妖魔の力を持つ魔装具、ウロボロスカードの存在か…」
カノンが出した、ウロボロスカードのワードに、セルゲイは静かに頷く
「ウロボロスカード…その存在が明らかになったのは10年前の話です。聖王都内に、妖魔の力を持つ、異形な存在の目撃証言が相次いでいました。同時に人攫いも同時期に多発しており、同時進行で調査した結果…秘密結社ウロボロス、その組織の存在が判明しました」
「秘密結社ウロボロス…独自の魔装具に、人攫い…」
カノンはこのワードで、嫌な予感をしていたのだ。人を攫う理由なら、魔法使いとしてはどういう用途に使うか、想像出来てしまったからだ。それも妖魔絡みであれば尚更
「秘密結社ウロボロスは、攫った民間人や魔族を実験体に、ウロボロスカードに実験をし、人や魔族、様々な動物を妖魔化…というよりは理性を失った怪人を作り出す、極めて非人道なことをしていました」
セルゲイの手はプルプルと震えていた。カノンは何かしらの実験場の現場に、セルゲイは立ち会った…遭遇してしまったのだろうと考える
「私と”裁定者のライブラ”様、”破戒のレオ”様の三人で、秘密結社ウロボロスの壊滅に動きました」
「ほう?ライブラとレオが動いたか、魔族のトップと亜人族のトップ…最前線に出るような立場でもないだろうアイツら」
だが、あの二人なら知ったら黙っていないだろうということを想像し、カノンの苦笑してしまう
「結果的に、秘密結社ウロボロスは壊滅はしましたが、ライブラ様とレオ様その際に深手を負われてしまい、しばらく前線に立てない状態になりました。現在はご健在だと思われますが、想定以上に手強いことに驚愕されていました」
「…だろうな。鉄塊の怪人のように、妖魔の力を魔力に変換して、無尽蔵に魔法の行使してくるなら厄介だろう。妖魔を相手するより対策が取りづらいだろうし…」
妖魔と怪人、カノンからすれば単体戦闘力では怪人の方が厄介だと判断していた。ましてやライブラやレオでは、相性も悪いので、二人の意見に同意してしまっていた
「しかし、秘密結社ウロボロスは壊滅したんだよな?その際にウロボロスカードも存在も歴史から消すように貴方は動いたんだろ?」
「その通りですカノン様。あの魔装具の存在は、歴史に存在してはならない…」
「魔法省も、サイクの図書館ですら記録されていない魔装具の存在…なぜ、今になってその存在が出てきた?」
「…秘密結社ウロボロスは壊滅はしたが、全滅はしていなかった…ということです」
カノンの疑問に対し、セルゲイは言葉遊びのような言い回しをする。カノンはその言い回しで、いくつか思いつき
「…残党がいたのか?」
「というよりは、壊滅させた組織が、捨て駒の囮だった…表向きは壊滅させたようにみせて、ウロボロスはカリバーン王国の裏社会に溶け込んで秘密裏に力をつけてきた。ここ最近の過激派の活動家の派閥が、攻撃的になったのはウロボロスの仕業でしょう。彼らに武器を提供する見返りに、資金提供や妖魔の力の実験をしているのではないかと。聖剣支持派の鉄塊使いがウロボロスカードを持っていたのは、その一端であり、少なくとも聖剣支持派は関わっている確かな証拠であり、ほかの活動家の派閥に提供していると考えてもおかしくない」
「それは、貴方だけの推測かな?セルゲイ殿?」
セルゲイが断定する言い方に、大方は当たっていると思うが、一人の物の考え方の主観だけで判断するのは良くないと考える、カノンなりの言い方であった
「これは、ライブラ様との意見は一致しています。現状のカリバーン王国に、彼らに対抗するには力不足であったこと、そして、数十年前に亡くなった、”星読みのアリエス”様、彼が残した予言が気掛かりでした」
「アリエスの奴の予言…アイツの予言が気掛かりになることがあり得るのか?奴は確かに、ある程度の未来予知が出来る東の大陸でも珍しい陰陽師だったが…奴が見える未来は、変えることが出来る未来だ」
星読みのアリエス。十二騎士の参謀としての役目であり、作戦や戦略の提案をする。彼のもっとも特異としていた能力、未来予知。これによって、妖魔の出現するタイミングや位置を把握出来ていた。しかし彼が見える未来は、カノンの言う通りに変えられる未来
「一体、どんな予言を残したんだ?」
カノンの質問に、セルゲイは重く、口を開く
「近い将来、妖魔王が現れる…だが、それは敵か味方かは定かではない…ということです」
「…穏やかな話ではないな…」
妖魔には、十二騎士達が付けた強さのランクがあり、通常種、下位種、上位種、変異種、女王種。そして最大の脅威となる存在として、王位種、つまり妖魔王の存在があり
実際に妖魔王と出くわしたことがある、カノンからしたら、堪ったものではない。十二騎士全員揃えても討伐できるがどうかの強さなのだ
「ウロボロス、妖魔王、そして聖剣の担い手…この未曽有の事態に、私とライブラ様、カリバーン国王陛下は計画を作り出しました。新生十二騎士計画」
「…新生十二騎士計画」
「新生十二騎士は、その名の通りに、新たな十二騎士を迎え入れる、育てる計画。現在生き残ってる十二騎士と新たな十二騎士達ともに脅威に立ち向かって頂く」
「…その中の新たな十二騎士候補が、ユキナとグランか」
「聖剣の担い手として、まだ幼過ぎたユキナを、邪魔することなく強くする、刺客による暗殺も防ぐために王女という立場を捨てるように提案したのはライブラ様でした。致しかないとは言え、彼女にはこれからも苦難の道を歩むことになるでしょう…」
ライブラはもっとも、聖剣の担い手と関係が深く、現在のカリバーン国王よりも、聖剣について詳しく、歴史を見てきている。それ故の判断であったとカノンは推測する
「グランは、兎に角にも、様々な経験を活かして応用する柔軟性と器用さを持ってる、可能性がある魔法使い。ユキナと同様に正義感も強い…カノン様からしても、グランは気にっているのでは?」
「確かに、有望な魔法使いでもあるし、オレとしても気にっているが…オレよりも、うちの当主様の方が、グランを気に入っているようだがな…色んな意味で」
リーナから事の詳細は一応は聞いているカノンとしては、少し複雑な気持ちではあった。どこの馬の骨…までとは言わないが、可愛い姪っ子として扱っているだけあって、父性として情の部分があるからだ
「現状、私が用意した新たな十二騎士は二人…ライブラ様も色々と手を回している候補者も数名程…それにカノン様を始めとする残った十二騎士がいれば、戦力的にも十分かと思われます…手筈は整え、そして計画を貴方に伝えることが出来た…全てのピースは揃いました、カノン様」
セルゲイはテーブルから立ち、カノンの元に近づき、片膝をついて頭を下げる
「カノン様…いえ、ジェミニア様。貴方なら立場的にも、人脈的にも自由に動くことが出来ます。妖魔大戦を終わらせて、100年後の現代に帰ってきた貴方に再び戦うことをお願いするのは心苦しいですが…私たちの計画を引継いで頂けませんか?カリバーン王国の未来、世界の未来の為に」
セルゲイは、最も敬愛し、かつて自分を救った英雄に頼み込む。自分の最期の願いを
カノンも同じく片膝をついて、セルゲイに向く
「セルゲイ殿…いや」
カノンはセルゲイに敬称をつけるのは、今は違う気がすると思い言い直す。かつて、セルゲイが見た英雄、刃のジェミニアとして、堂々とした言い方で
「…セルゲイ・ローレル。お前の願い、確かに聞いた。妖魔が絡む相手である以上、十二騎士の一人、刃のジェミニアが動かない理由は無い…お前のこれまでの働き、オレたちに代わって長年渡って人々為に戦い、魔法を発展してきたことに敬意を評する…後は、任せろ」
セルゲイの意思を受け継ぐことを、そして彼に労いの言葉をカノンから言われたセルゲイは、涙ぐみつつもカノンの顔を見上げる
「…114年余り生き続けました。あの日、貴方の勇姿に憧れ、それを原動力として動き続けました…」
「人間にしては、随分と長生きし過ぎたな」
人間の平均年齢大幅に超えた、セルゲイの年齢を聞いて、カノンは苦笑する
「ええ、それも今日で終わりです」
セルゲイの体は少し光りながら半透明になっていく、以前のユキナとグランの時とは違う
「…どうやら、私の最期はこのサイク魔導書図書館のようですね…魔法使いとしては、冥利につくと言えばいいのか」
完全な死、最期の時が刻々と迫っていた
「カノン様、詳し詳細などは、あなた宛てに作った本に書いております。妻に言えば、渡してくれると思います…後は任せました」
そう言うと、セルゲイはサイク図書館から消滅する
妖魔大戦終結以降、新たな魔法体系、魔装魔法の発案者であり、大魔法使いと呼ばれたセルゲイ・ローレル。114年の生涯に幕を降ろす
彼を最後を見届けたのは、カノン・サイクと彼の若い妻であった。セルゲイ・ローレルの死に際の顔は穏やかで、微笑んでいたという
後に、セルゲイ・ローレルがカノンに向けて作った、新生十二騎士の計画書の最後のページにこう書かれていたという
”このオリュートスの未来、私の最後の愛弟子たちをよろしくお願いいたします。刃のジェミニア、カノン・サイク殿”
「セルゲイ・ローレルめ…粋なことを書く」




