鉄塊の怪人 2
グランが目を覚ましたのは、冷たい石床の上だった。手足は縄で拘束され、武器となる魔装銃もカードも取り上げられていた。口も猿轡をはめられ、詠唱も出来ない状態である
グランの顔は擦り傷や打撲の跡があり、全身の同様なのか痛みを感じ呻いていた
痛みに悶えつつ、一体自分の身に何が起きたかグランは思い出す
(確か…監視魔石に反応があった場所に向かって…今回は自分がバックアップでユキナがアクリエアスで…アレは…怪物…怪人…?)
徐々に思い出し、グランの自分の置かれた状況を理解する
監視魔石の反応があった場所にアクリエアスの魔装鎧を纏ったユキナが向かった先に、異形な人の形の怪物が待ち構えており、ユキナが交戦するが、ユキナが苦戦するほどの相手であった
カノン以上の相手と判断したグランは加勢に向かおうとした、そのグラン目の前に、ユキナが戦っている怪物とは姿が異なる、怪物2体、グランの目の前に現れる
グランは交戦するものの、従来の魔法とは異なる力を発揮してきた怪物相手に成すすべもなく倒された
そこまでがグランが覚えていることであった
(ここはどこだ…?)
グランは当たりを見渡す。わずかに日が入って薄暗いが、部屋の状態がある程度伺える。随分使われていない物置なのか、棚や机に埃がかぶっている
(…どこかの廃墟の屋敷…か?あの場で殺されていないところ、ユキナも捕まったか?大丈夫…かもしれないな)
グランは襲ってきた相手の素性はわからないが、捕まえたという点でユキナ狙いではないかと考える。グランもユキナの素性を知っているが故に、その可能性に考え至る
(しかし、カノン先生に言われた矢先にコレか…なんとも情けない)
グランは拘束されている手を何とか動かし、爪で自分の指を何とか切る
「つぅ…ぐうぅ…」
全身の痛みに悶えつつも、グランは指を流血させて魔法陣を描き、火の魔法を発動させて手首の縄を焼き切る
グランは自由になった手で、拘束を解き、猿轡も外し、深呼吸して落ち着いて冷静に状況を考える
「…ここからどうするべきか、部屋を出たところで、丸腰では…」
グランが考えを巡らしていると、部屋の外が騒がしいことに気付く、次第に音は大きくなって、悲鳴と叫び声と同時に
「…魔装銃のビーム弾の発射音…いや、発射音は!?」
グランは聞きなれた音の魔装銃の発射音と共に、怪しげな服装の者が物置の部屋の扉を壊してにぶっ飛んできたのだ
「こいつらの服装…聖剣支持派の?」
活動家達は、その所属によって支給される服装があるが、過激派の聖剣支持派の服装は聖王都で住まう者なら知っている程の知名度はある
「ここにいたのか、グラン」
魔装銃を片手に部屋に入ってきたのは、白髪で整った白髭を生やし、老人であるが背筋はしっかりとし、その老人は魔法を携わる者なら誰もが知る現代魔法使いの祖たる人物であり、グランとユキナの師
「セ、セルゲイ先生!?」
セルゲイ・ローレル。その人であった
セルゲイは部屋の様子、焼き切ったであろうロープとグランの様子を見て安堵をする。が、それはそれとして
「…バリアブルライズ」
セルゲイは持っている魔装銃をハリセンに変形させて
「え?セルゲイ先生?」
困惑するグランの頭に、セルゲイはハリセンを思いっきり叩く
「い、痛いぁぁぁぁ!!!!」
「ふむ、それだけ元気があれば自力で歩けるなグラン?無事でよかったぞ」
グランは頭を抱え込む、先ほどの体の痛みよりよっぽど新鮮で痛かったのだ
「セ、セルゲイ先生…いやまあ、頭を叩かれる心当たりはありまくりですが…今ですか!?というか安否の確認の仕方!!」
「アクリエアス様から託された、大事な、それは大事にしている魔装鎧を無断で持ち出して、挙句にボロボロにさせておいてこの程度で済ませておくだけ寛大だと思って欲しい所だがな?」
カードを見せながら、セルゲイは微笑みながらグランを諭す。何がともあれ、グランが無事であったことをセルゲイは安堵しているのだ
「アクエリアスの魔装鎧のカード…!ユキナは!?」
「おそらく無事だろう、変身が解けたユキナを奴ら…聖剣支持派の連中が連れていった…っと、なんとかあの場を逃げ切れたナナコが私の所に来て、このカードと事態を知らせてくれたんだ」
セルゲイがグランに見せた魔装鎧のカードは、良く見ると亀裂が入っている状態であった
「カードに亀裂が…」
「魔装鎧の自動修復も間に合わないレベルのダメージを受けたんだろう。使えないことはないが…とりあえず、ここを出てユキナを探すぞ、グラン」
「は、はい!セルゲイ先生!」
セルゲイとグランは、物置の部屋を出る。通路にはセルゲイが倒した、数名の聖剣支持派の活動家が倒れて気絶し、バインドで拘束されていた
グランが連れてこられた屋敷は廃墟ながらも、相当な広さであり、探索しながらグランは疑問に思っていたことをセルゲイに話しかける
「セルゲイ先生、面会謝絶状態だったと聞いていたんですが。お身体は大丈夫なんですか?」
「うむ…実はな、怪しい連中に襲撃を受けてな、その時に呪いの魔法をかけられて体が思うように動かなくなってな…どうにか回復はしたが、後遺症で利き手の感覚がない」
「え?でも…」
利き手の感覚が無いというセルゲイは、魔装銃をしっかり握っていたのだ
「お前さん達が捕まったと聞いてはそうも言っていられん。ヤバイ魔法薬を投与して、何とか動いている状態だ」
「大丈夫なんですか!?」
グランは思わず声を荒げてしまう
「正直に言えば、命を前借している状態だ。ハハハ、なーに。カノン先生がいるんだろ?私が死んでも、お前さん達には大した問題ではない」
セルゲイは微笑みながら、自分の状態を語る。グランには理解出来ない様子であった。自分の命を危ういのに笑っている、上機嫌なセルゲイの様子が
「カノンさ…カノン先生とは上手くやっていけてるか?」
「…どうなんでしょう。正直、魔法の知識と応用力、魔法での戦い方は凄いと思っています…でも、カノン先生はどこか遠慮しているというか、あまり自分のことは語りたがらない、あくまでも面倒を見るだけで、深く干渉はしない…無理は無いと思ってます。セルゲイ先生という師匠がいるのに、関係のないカノン先生にとっては不義理だと…」
「…そうか。あの方にはまだ私の口から事情を話していないからな…」
セルゲイは最初こそは言い直したものの、カノンに対して深い敬意を抱いているのが、グランは感じていた
「セルゲイ先生は、カノン先生とはどういう関係なんですか?カノン先生は、面識が無いって言っていましたが…」
「昔、故郷を救ってもらったことがある。私が一方的に覚えているだけで、カノンさ…カノン先生が面識がないと思っていても仕方ない。あの方は、私にとって恩人であり、私の中では最高の魔法使いだよ」
思い出すように語り、ここまで嬉しそうに人を語るセルゲイ・ローレルは、グランは見たことがなかった。まるで小さい子供がヒーローに憧れるかの如く、セルゲイの目は輝いていた
この場にいないカノンが疑問に思っていたことの、答えを聞き出す前に、セルゲイとグランは屋敷のエントランスにたどり着き、ここでセルゲイはグランを止めるように手で静止させた
エントランスの中央には、一人立っていた。それは聖剣支持派の服装に、魔装銃を持った男
セルゲイとグランは、魔力とその雰囲気で勘づく
「…私達と同様の魔法使いか…」
セルゲイは魔装銃をその男に向ける。そして男は口を開ける
「セルゲイ・ローレル。あの呪いから復帰するとは…やはり、あなたは直接を手を下さないといけませんか」
言葉使いや立ち姿は品を感じるが、セルゲイに対して明らかな敵対心を持ってる男も、魔装銃をセルゲイに向ける
「…コンバート。アイアンシュート」
男の魔装銃から、両手で持てそうな大きさの鉄の塊、正方形に整った鉄塊が形成されると、それは銃弾と同じスピードで、セルゲイに向けて放たれた
セルゲイは驚きつつも、近くにいたグランを蹴飛ばし、自分の周囲から離す
「バリアブルライズ!ブレード!」
銃身を刃に変えた魔装銃で鉄塊を斬り払う。両断された鉄塊は、そのままどこにも着弾せずに消失していく
なんとか攻撃を凌いだセルゲイであったが、魔装銃を持っている手が震えていた
「…魔力変換で、ここまでの質量の鉄塊を形成してくるとは…さしずめ”鉄塊使い”か」
魔力変換。自身の魔力で物質を一時的に形成させる魔法。通常なら単純な棒や剣などを形成させるものだが、質量が重い、構造が複雑な物を形成させようとすると多大な魔力を使う。セルゲイとしても、魔力変換で鉄塊を飛ばしてくる相手は初めてであった
それも刃こぼれさせるほどの強固な物質でもある
「驚くのはまだ早いですよ、セルゲイ・ローレル。コンバート…」
鉄塊使いは、今度は魔装銃からだけじゃなく、自分の周囲にも複数の鉄塊を形成させる
「!?グラン!!全力で自分の身を隠せ!自分の身を守り切れ!!」
先程の鉄塊の威力、そしてその使用用途を理解してしまったセルゲイは、自身だけではグランを守り切れないと判断し、自衛するように叫ぶ
そして鉄塊使いは、複数の鉄塊を放ってくる
「バレット!サイクロン!!」
セルゲイは鉄塊を避けつつ、避けきれないモノは風の弾丸を魔装銃から撃ち出し、鉄塊を軌道を逸らす
逸らされた鉄塊は屋敷の屋根に穴を開け、エントランスの階段を粉砕していく
セルゲイは鉄塊を避けながらも、鉄塊使いに攻撃をしていくが、鉄塊使いも次々の鉄塊を形成してセルゲイ向けて放ちまくる
鉄塊の弾幕にキリが無いと判断したセルゲイは、魔装鎧のカードを取り出し
「キャストアップ!!」
セルゲイの周囲に強固な魔法防壁が形成される。変身を阻害されないように、数秒間だけだが、強固な防壁は放たれた鉄塊を防ぐ
セルゲイの腰に、魔石が中央にはめ込まれているベルトが出現し、魔石が強い輝きを放つ
「変身!!」
その掛け声と共に、魔石の輝きがセルゲイを覆い、アクリエアスの魔装鎧をその身を纏う
「出たな、本物のアクリエアス…だが、その姿ではな」
鉄塊使いが思わず苦笑する。アクリエアスの魔装鎧は、ボロボロで何とか機能が生きている状態であった
「今度は、完全に破壊してくれるぞ」
「その言い方…ユキナを倒したのは貴様か…!」
セルゲイがアクエリアスの魔装鎧をボロボロにされた理由が検討がついた。この鉄塊使いの鉄塊を何度も当てられればここまでのダメージを受けるのも無理もないのだ
鉄塊使いは、再び無数の鉄塊をセルゲイに向けて放つ
「なるほど、剣と盾のユキナだと相性が悪いか…だが!!術式展開!トルネードバスター!!」
セルゲイの魔装銃から強力な竜巻を撃たれる。その竜巻はセルゲイに向かってきた鉄塊を全て吹き飛ばし、鉄塊使いに竜巻が向かっていく
「…コンバート、マテリアルライズ」
鉄塊使いは、分厚い鉄の壁を四方に展開し、竜巻を防ぐ
「ならば!!術式展開!!」
セルゲイのベルトの魔石が輝き、右足に魔力と風が集中し、その勢いのまま鉄の壁を展開している鉄塊使いに向かっていき
「ウインドストライク!!」
風の力を纏った跳び蹴りを叩き込む。が、強い衝撃と威力で鉄の壁に亀裂が入りはしたが、破壊までには至らず
セルゲイは防御に集中している間は流石に攻撃に転じないと踏んでいた。アレだけの無数の鉄塊を魔力変換を使い続ける不可解な所があるが、それでも防御に徹している間は攻撃がままならないと判断
セルゲイは宙返りしながら、カードを取り出す
「マテリアルライズ!!バンカー!!」
魔装銃を巨大なパイルバンカーに変化させ、右手に装着。そして亀裂の入った鉄の壁にパイルバンカーを撃ち込む
強い衝撃と共に、バンカーが鉄の壁を貫くかと思われた…鉄の壁は破裂した。爆発的な勢いで。
そして無数の鉄の破片がセルゲイに直撃する
「ぬう!!!??」
まともに受けたセルゲイの魔装鎧は、鉄の破片で更に砕かれていく。そう、鉄塊使いの罠に、セルゲイはかかってしまったのだ
セルゲイは膝をついて、動けなくなる。魔装鎧を砕く威力、中の身体も相当なダメージを受ける
「終わりだ、セルゲイ・ローレル」
鉄塊使いは、ダメ押しと言わんばかりに無数の鉄塊を展開させ、セルゲイに向けて放つ
避けることも、防御することも出来ないセルゲイは無数の鉄塊の直撃を受ける
「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
セルゲイの苦悶の悲鳴がエントランス中に響く。粉々に粉砕された魔装鎧は、形を保てなくなり、消失して粉々に砕けたカードに戻る
辛うじて、セルゲイの体の原型を留めてはいたが、全身血まみれで倒れ、虫の息の状態であった
「しぶといものだ…だが、コレでトドメだ」
鉄塊使いは魔装銃から、鉄塊を形成。そしてセルゲイに放つ。倒れて無防備なセルゲイにコレが当たれば確実に死ぬ
「バリアブルライズ!!シールド!!!」
グランがセルゲイの元に駆けつけながら、セルゲイの魔装銃を拾い、変形魔法で形成した盾でセルゲイを守る
しかし、グランの想定よりも威力のある鉄塊を何とか逸らすのが精一杯であり、盾が砕けながらも鉄塊の軌道を逸らしてセルゲイを守り切る
「ぐぅぃ!!」
その際の衝撃に耐えきれずに、グランの右手が折れる。右手を抑え、苦悶の表情をするが、グランは鉄塊使いを睨む
「やはり君は優秀なようだな、グラン・グラス。私たちの協力者たちが欲しがるのもわかる」
「協力者…だと?」
グランは、てっきり聖剣支持派だけの行動だけだと思っていたが、鉄塊使いの口振りからするとそうでもないようなのだ
「グラン・グラス。君たちに抵抗する手段はもう無い。大人しく捕まってくれればそれでいい。私とて、死体の状態で彼らに引き渡すのも気が引ける…ああ、そうだ」
鉄塊使いは思い出したかのように、絶望的な言葉を言う
「助けは期待しない方がいい。カノン・サイクは既に、私達の仲間が始末した」
「な!?カノン先生まで!?」
グランも驚くが、セルゲイはもっと信じられない表情をしていた。虫の息ながらも、立ち上がろうとしそうな程に
「カ…ノン…様…」
「厄介なイレギュラーだと思っていたが、対策さえ施せば、ただの魔法使いに過ぎん」
鉄塊使いは、魔装銃から鉄塊を形成し、グランとセルゲイに向ける
グランは折れた右手を抑えながらも、セルゲイの前に立ち、守ろうとする
「なるほど、美しき師弟仲だ。だが、残念だよグラン・グラス。全く、彼らには申し訳ないな、死体で渡すことになるだから」
鉄塊使いは、グランとセルゲイに向けて鉄塊を放つ。銃弾と同等の速度で撃ち出される鉄塊、グランがかばおうとしても、グランとセルゲイ、どちらも死ぬのは確実であった
「カノ…ン様…カ…ノン様…!」
鉄塊がグランとセルゲイに当たる、その直前であった
すざましい速度の何かが、その鉄塊をすり抜けた。鉄塊は真っ二つに切れると、形が保てなくなり消滅する
「え?」「なに!?」
困惑するグランと、驚く鉄塊使い。一体何が起きたのか…
「この…魔…法は…!」
それを理解できたのはセルゲイだけであった、そしてその魔法使いはエントランスの窓を蹴り破ってきた
「―術式展開!!ウインドストライク!!」
それは、時代遅れのトンガリ帽子を被った、クラシックなファッションの魔法使いが、風の力を纏った跳び蹴りを鉄塊使いにお見舞いしたのだ
完全に不意を突かれた鉄塊使いは、防御の体制をとったものの間に合わずに、まともにウインドストライクを叩き込まれ、ぶっ飛ばされて、壁に叩きつけられる
それは、鉄塊使いが始末したと言っていた魔法使いが、グランとセルゲイの前に立つ
「カ、カノン先生!?」「カノン様!!」
「どうやら、間に合ったようだな。グラン…そして、初めましてだな。セルゲイ・ローレル殿?」
極光のアクリエアスのスペック(セルゲイ・ローレル装着時)
パンチ力 約5トン
キック力 約15トン
主な魔装具
魔装銃、カード
使用魔法
サイクロンバレッド
トルネードバスター
錬成変形魔法 パイルバンカー
必殺技
ウインドストライク
最高速度(空戦時)
マッハ1.5




