鉄塊の怪人 1
魔法の発展によって、通信機能のインフラは整えられており、カリバーン国王の聖王都、ルドン帝国は一般家庭にも普及しているほどに馴染みのある物、発展していない地域でも設備さえ整えれば長距離通信も不可能ではない
一般レベルに普及されているだけあって、聖王都内での情報の伝達は意外に早い
昨晩、極光のアクリエアスが謎の集団に襲われて負けた。そんな話が聖王都中に広まったの早朝のことであり、カノンの耳に届いたのも、紅の魔女から連絡があったからだ
『カノンは、状況はわかっている?』
カノンは身支度しながら、通信してきた紅の魔女の話を聞く
「アクエリアスの件だろ?その様子だと、紅様はグランとユキナの活動を知っていたな?」
『その言い回しだと、気付いていたのね。アンタなら早々にアクエリアスの正体を暴くのは想定内だったけど…セルゲイがアクリエアスとして活動していたことは知っていた。けど彼が倒れてからは、誰があの魔装鎧を纏っているかは知らなかったわよ。大方の想像はついてはいたけどね…しかし参ったわね…私、今は聖王都から離れているのよね…』
紅の魔女は数日前にルドン帝国領にいる。定期的な魔法学校同士の会議であったのだが、アクリエアスの負けたという話は早々に伝わっていた
「これから悪ガキ二人とその協力者の安否を確認するつもりでグラス邸に赴くつもりだが…もしかしたら、とっ捕まった可能性があるぞ。ワザとおびき出して…目的は…邪魔なアクリエアスの排除って所か?」
『まさか…そんなことある?神出鬼没のアクリエアスの魔装鎧を纏ったグランとユキナを?』
紅の魔女は、グランとユキナの実力はおおよそは理解はしている。そうそうヘマ、ただの悪党相手に捕まる、遅れをとる二人ではないと
しかし、カノンはそんな楽観視はしない
「…アイツらの監視魔石の存在をわかって、逆利用して誘い出したとしたら捕捉するのは難しくない。先日も小規模な事件にも監視魔石は反応し、アイツらは出動した…誘い出す手段がわかっていて、相応の準備と対策を取ってしまえば、アクリエアスの魔装鎧を纏ったアイツらを捕まえるのは不可能ではない。確かにグランとユキナは宮廷魔法使い、騎士クラスの才能はある。ただ、実戦に慣れしていない」
『実戦に手馴れた相手なら遅れをとる?』
「そういうことだ。ただ、アクリエアスが死んだとかの確実な情報が入って来ない所を考えると捕まった可能性の方が高い。アクリエアスに煮えにを飲まされた連中が、そう簡単に殺す訳がないだろうしな…」
カノンは、少し気がかりなことがあった。彼らの活動を支援していたナナコのことだ
彼女なら、いくらグランとユキナにもしもの時があったら、必ず誰かに助けを求めるのではと思っているのだ。それなのに自分の所にそういう情報が入って来ない所を考えると
(もしや3人とも消息不明になったか?それとも既に…)
カノンは、そういう最悪なケースが脳裏によぎっていた
『…それにしても、アンタ。随分と冷静ね?というか余裕?私と通信している暇があるぐらいには』
「いや、こっちも先手を打っていてな…おっと、そう言っていれば」
カノンはもう一つの通信魔装具の着信を受け取り、返答を聞く
「…そうか、すまないなメノン。朝から忙しいだろうし。借りはいずれ」
通信相手はメノンであった。カノンはメノンに頼んだことを返答を聞いて、確証を得ていた
『何かあったの?』
「どうにもこっちが打った先手に返答が来てな。答え合わせはグラン邸になるがな…悪いがそろそろ切るぞ」
『そう…わかった。頼んだわよカノン』
「アンタが帰ってくる頃には、全てが終わっているよ」
カノンがグラス邸に着いたのはそれから5分後のことであり、そこには憲兵の小隊がグラス邸にいたのだ
グラス邸の門にいた憲兵達に、カノンは「自分はここの、ご子息とご令嬢の先生である」と説明し、憲兵達はグラス邸の主人に確認を取った後に、カノンは中に入ることが出来、応接室に案内されたのだ
「カノン先生!もう耳に入っていたのですね!」
いつもはおちゃらけで、ノリのいいグラス氏が相当慌てている様子であった
「うちのグランとユキナが何者かに連れ去られたと、今朝のアクリエアス様の騒ぎと何か関係があるのではないかと、ここにいる憲兵の皆さんがそう…カノン先生もその話を聞いてきたんですよね!?うちの妻はその話を聞いて、倒れてしまって…」
カノンが聞くまでもなく、事情を話してくるほどであった
「まあまあ、グラスさん。落ち着いてください。あなたがカノン・サイクさんですね?どうぞお座りください」
憲兵の隊長らしき人物がグラス氏を落ち着かせて、カノンに席に座るように促す。応接室には隊長らしき人物と部下が二人、ライフルを持っている
席に着いたカノンは憲兵の隊長らしき人物から話を聞かされる。おおよそ、グラス氏が先ほど話した通りの話であり、アクリエアスの騒ぎの際に、その現場に何故か居た、グランとユキナが何者かに連れ去られたということ
「…ということなんですが、カノンさんは何か心当たりはありますか?グラス氏の話だと、この家から出たのかはわからないということだったので」
「…さあ?今朝の騒ぎで聖王都中が大騒ぎでしたからね、二人が騒ぎで学校に遅れないか、心配で来ただけですよ。一応、彼らの面倒を任されたので」
憲兵の隊長らしき人物の聞き取りに付き合っているカノンは、当たり障りのない回答をする
「そうですか…もっと詳しい話を聞きたいので、我々の駐在所に案内します。馬車の用意は出来ています。さあ」
憲兵の隊長らしき人物は、カノンとグラス氏に自分達の駐在所に来るように促し、グラス氏は立ち上がろうとするが
「その必要は無い」
カノンは立ち上がろとしたグラス氏を止め、憲兵達の案内を拒否する。
「…何?」
憲兵の隊長らしき人物は少し怪訝な顔をするが、カノンはお構いなく続ける
「ところで、オレの親戚には憲兵や騎士団にツテがある者がいてだな。今朝の話を聞いたついでに、聞いたんだが、グランとユキナ。それどころか、誰かが連れ去れたという話は聞いていないそうなんだ。憲兵団の情報共有は素早いらしくてな、余程じゃない限りは一つの部隊だけが情報を独占的に知っているということはあり得ないということらしんだがな…」
今朝、メノンから聞き出した話をカノンは憲兵団と騎士団の動きを彼らに話す
「それに、グラス邸に向かった憲兵の部隊はいないという話も聞いたんだが…さて、お前たちは一体どこの部隊の所属かな?」
カノンが言い終わると否や、憲兵らしき二人はカノンとグラス氏にライフルを向け、憲兵隊長も拳銃を抜きカノンに向ける
憲兵達らしき者達に銃を向けられた、グラス氏は青ざめて手を挙げるが、カノンは腕を組みながら堂々とした余裕の態度であった
「やれやれ、大人しくしていれば痛い目を見なくて済むぞ?」
「本性を現したか」
偽憲兵達は本性を表し、カノンに大人しくするように促してくる
「魔法は無駄だぞ?我々の魔法使いが既にこの屋敷全体を魔法封じの細工をしている。貴様が来る可能性があったからな、用意はさせてもらった」
「…なるほどねぇ…そこまで用意周到ってことは、グランとユキナを連れ去ったのはお前たちのお仲間って所か?」
「答える必要があると思うか?奴らはやり過ぎたんだ、我々、聖剣主義派の邪魔立てをするガキには、相応のお仕置きが必要だからな」
「聖剣主義派…活動家達の組織の一つだな」
偽憲兵の正体は聖剣主義派。聖剣に選ばれし者が、王として相応しいと主張している、過激派の活動家達である
「さあ、大人しくついてきてもらおうか?喜びたまえ、貴様達は殺しはしない。我々の支援者が殺すなと言われいるのでな…だが、抵抗するなら殺さない程度に痛めつけることになる」
「過激派の割には、随分紳士的な対応じゃないか…まあ、オレから一つ言えることは、直ちに銃を下ろせ。2度は言わんぞ?」
「馬鹿な。魔法も使えない貴様が何が出来る?」
魔法が使えず、戦闘力皆無なグラス氏がいる状態で抵抗する術が無いと判断している偽憲兵がカノンを煽る
「言ったはずだ、2度は言わない。警告は済んだ…残念だよ。グラス氏、悪いがこの部屋の掃除は面倒なことになる」
カノンが指を鳴らした瞬間、3人の偽憲兵の銃は両断されて使いものならないように破壊され、ライフルを持っていた二人は首を切断され、リーダー格が両手が切断され、応接室は血しぶきが飛び散る
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ―――――!!!!!!!!!」
偽憲兵のリーダー格の言葉にならない悲鳴と断末魔が部屋中に響く
「ば、ば…ばか、馬鹿な…なんで…」
息を荒く、痛みに悶え、倒れ込みながら疑問に思っていた偽憲兵の体を片足で踏んで抑え込みなら、カノンはその回答をする
両手を切られた偽憲兵の前に、壊れた魔装銃3丁を応接室の床にぶちまける
「魔法使いの存在がオレが気が付かないと思ったか?オレがここに来る前に、怪しい魔法使いは…お前たちのお仲間の魔法使いは既に潰した。少なくとも、一か月は病院のベットで起き上がれない程度にはな?おかげで魔法封しも発動していていない訳だ。あと、外とこの部屋以外にいるお前のお仲間も、お前たちと話している間に、オレの式神が始末した」
カノンは、メノンから得た情報から敵の動きを読んでいた。というより考える可能性の一つとして、先手を打っていた
「おかげで手間は省けた」
カノンは杖を出すと、その端部を偽憲兵の口に強引に入れる
「ふごぉぉぉぉぉ!?ごぉぉぉぉ!!!!!」
勢いよく口に突っ込んだせいで、偽憲兵の前歯が砕け、悶え込む
「さーて、あんまり時間が無いから手短に済ませてやる…グランとユキナはどこにやった?大人しく喋るならこの場で苦しむことなく殺してやる…答える気がなければ、苦痛という名の苦痛を味わせて殺してやる、グランとユキナを既に殺しているなら、蘇生魔法で永遠と体を再生させて、長く、惨たらしく殺してやる」
今の状況、口に突っ込まれた杖が口内を貫通しそうな、ミシミシと音を感じつつ、腹部を力一杯踏まれて、胃の中が出そうな感覚だが、杖が口の中に入っているせいで吐くことも出来ずに、窒息しそうで失禁し始める偽憲兵の見る光景は、無表情だが、ドスを効かせた声で語りかけ、明確な殺意を向けているトンガリ帽子の魔法使いの顔であった
その後はとても文章で表せることが出来ない、凄惨な光景だったと…後にグラス氏は語っている
数分後の応接室の外
「…さて、グランとユキナの居場所はわかった。グラスさん、本物憲兵を呼んでください。オレはグランとユキナを助けに行きます」
「ええ…ですが、カノン先生。この現場は…」
応接室は凄惨なことになっており、猟奇殺人事件現場状態なのである
「全部、オレがやったことにした方がいい。下手な嘘をついても魔法の痕跡から辿れる。魔法の専門家集団の魔法省の人間を誤魔化すのは不可能だ」
「しかし、カノン先生。あの魔法は…殺人魔法」
グラス氏が言う魔法とは、瞬時に偽憲兵二人の首、拷問した偽憲兵の両腕を切断した魔法のことである
「さすがに魔法学校に通わせている親なだけはあって、ご明察です。お気遣い有難いですが、気にしなくていいです。むしろあんな現場を見せてしまったことを詫びなければなりませんね」
「いえ…ユキナを迎え入れた時から、こういうことが起きるのは覚悟はしていましたから」
「やはり、ユキナ絡みか。聖剣主義派って言っていたから、だろうなって思ったが」
カノンの返答に、グラス氏は驚く
「気付いていたんですか!?」
「まあ、彼女の本当の親族には縁がありましたからね」
カノンはユキナと初めて会った時から、気付いていた。ユキナはかつての友の血縁者であること、そして選ばれた者であることを
「グラスさん、二人は必ず助け出す。安心して待ってくれ」
カノンの言葉自信に溢れ、虚言でもハッタリでもないことがグラス氏に伝わる
「カノン先生。極上のワインを用意して待っていますよ、私のとっておきを出しましょう」
「でしたら、うちの姪の分もお願いしますよ」
カノンはグラス邸を出て、杖に跨り空を飛ぶ。グランとユキナを助けに




