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5 作戦

「どうかしたのか?」

 拠点の中央に集まっていた魔物の間を縫うようにして抜け出ると、輪の中心にリーナがいた。腕組みをして難しい顔をしている。彼女はケイヴに一瞥くれてから、また配下に鋭い視線を戻した。ケイヴの質問に答えるつもりはないらしい。

「敵の規模は?」とリーナが猿の配下に訊ねる。

「見えているのは3体です。ですが、囮の可能性もあります」

「遠距離魔法で仕留めるのはどうでしょう?」とまた別の配下が言う。

「そんなに派手な攻撃すれば、援軍が近くにいた場合包囲されるぞ」と昨日の虎人ディグが吠えた。

「ならば、こっそりと近づき暗殺するか」

「近づくこと自体リスクが高い! とっととずらかるべきだろ」

「だから! ずらかるにしたって援軍がいたら鉢合わせるだろ!」

 議論が白熱する中、リーナは腕組みをしたまま、一点を見つめ未だ黙っていた。

 ケイヴは空気を読まずリーナに耳打ちする。

「お前らそんなに弱いのか?」

 配下にも聞こえたのか、白熱していた議論は止まり、全員がケイヴに殺意のこもった視線を向けた。

 はぁ、とリーナがため息をついてからケイヴに視線を流した。

「敵は人間3体。今会議に参加している誰を送っても5分で仕留められるわ」

「ならなんでそうしないんだ?」

「あたしらがビッグネーム過ぎるからよ。あたしの配下の幹部級の子は人間にもある程度情報を掴まれてるの。これまで散々蹴散らして来たから、当然っちゃ当然だけど。有名武将のこの子達が狩りに行って、もし奴らの別の部隊がそれを目撃したら、魔王リーナの縄張りが広がったと人間は考えるはずよ」

「それが何かまずいのか? 別に勘違いさせとけばいいじゃん」

 人間がリーナを警戒して、てんで的外れのこの地に兵を派遣したとして、何か不都合があるのだろうか。俺なら積極的に勘違いさせておくまである、とケイヴは考える。

 だが、リーナは「ダメよ」と首を振った。

「この辺りは蜘蛛の魔王の縄張りなの。この地の人間軍の警戒が強まれば、蜘蛛のに迷惑がかかるわ」

「魔王とは思えない気遣いだな」と茶化すと「貴様! 舐めとんのかァ!」と灰色の肌をした鬼に怒られた。

 リーナが無言で視線を送ると鬼は「すいやせん」と口を閉じた。

「今この世界に何人の魔王がいるか知ってる?」

「いや。100人くらいか?」

「13人よ。たったのね」

 魔王は寿命がないと聞いた。そして今までに167人、ケイヴの前に魔王がいたと目覚めたときにリーナは言った。つまり154人の魔王が既に死んでいるということだ。

「人間に殺られることが多いけれど、魔王同士で侵略し合うことも珍しくないわ。ここで警戒度を上げると蜘蛛のを敵に回すことになる。それは避けたいの」

「蜘蛛の魔王はそんなに強いのか」

「どうかしらね。格下のように見えるけど、実力を隠すのは常套手段だから。まぁ、上か下かに関わらず、なるべく敵を増やさないことが生き残る秘訣よ。覚えておきなさい」

 ケイヴは大きく頷いて、リーナに応じた。

「事情はよく分かったよ。要は情報が足らないんだろ? 援軍がいなければ迂回して避ければいいだけだし、援軍がいても援軍の場所を把握すれば上手く逃げられる。相手の規模が分かれば俺らの勝ちだ」

 虎人ディグが、口を挟むなとばかりに猛り吠えた。

「簡単に言ってくれるな! そう簡単に情報を得られるか! 我らは姿を見られればそこまでなんだぞ!」

 ケイヴは薄く笑った。良い流れだ。話の終着点は既に決めていた。

「ならば、俺が行こう」とケイヴは自分の胸に手を当てて名乗り出た。

「はぁ? あんた正気?」リーナが真っ先に反応を示した。

「本気だ。俺なら見た目が人間そのものだから、『会話』が成立する。少なくともいきなり攻撃してきたりはないだろ。で、上手く話を聞き出す」

 リーナは口を結んで目を瞑り、延々と唸っていた。最善の手と認めつつも、ケイヴを動かすことを躊躇っているようだ。

「リーナ様」と虎人ディグがリーナに耳打ちする。だが、魔王が皆そうなのかケイヴだけの特徴なのか、ケイヴの聴力は異常に発達していた。ケイヴはディグの声をはっきりと聞き取った。

「仮にコイツが失敗して消されても、リーナ様は面倒な世話役から解放されます。自ら行きたいと志願したのですからリーナ様が消したことにはなりません。是非行かせましょう」

 聞こえていないと思ってディグは好き勝手言っていた。いや、聞こえていてもコイツはいつも無礼か、と思い直す。

 リーナはケイヴをじっと見つめて尚も悩んでいた。

「早くしないと人間3人組がここまで来ちまうぞ」

「……分かってるわよ。いいわ。行きなさい。あんたも魔王なら、これくらいの仕事はできるでしょ」

「その『このくらいの仕事』ができなくて困ってるのは誰だよ」

「貴様ァ!」とまた鬼の配下が立ち上がった。いちいち反応する面白い奴、というケイヴの高評価を得たことを彼はまだ知らない。

「エイプ、偵察班を連れてケイヴの様子を見てて。ケイヴが合図を出したら、あたしに知らせなさい。そして戦闘が始まったら加勢して」

「はっ!」エイプと呼ばれた猿の配下が頭を下げた。

「ケイヴは援軍がいるかどうか探るのに集中して。援軍がいるのなら左手を上げて知らせて。その場合は潜入を続行して援軍の場所を特定しなさい。援軍がいないなら右手を上げて。そのときはあんたは戦線離脱。戦闘になったらとっとと逃げなさい」

「俺は戦わなくていいのか?」

「固有能力も使えない生まれたての魔王がどうやって戦うのよ。あんたに死なれると世話係のあたしの失態になるのよ?! 間違っても戦おうなんて思わないで!」

 ケイヴはゆっくりと頷いて、柔らかく微笑んだ。

「よく分かった」

「よし。行って」


 程無くして、作戦は開始された。

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