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3 忠実なるしもべ

 眩い光が容赦なくケイヴを射抜いた。出口だ。

 近づくにつれて光は強くなった。はじめは腕で光を遮って進んだが、出口を抜ける頃には目もすっかり慣れていた。

 無骨な岩の足場が白い砂に変わる。そしてついに洞窟を抜けた。

 この洞窟は海岸沿いにあるのか、辺りには砂浜が広がっていた。そして、その更に向こうには遥か彼方まで続く青い水平線。海だ。海面に反射して写し出される白い雲が波で揺らめいている。

「やーっと抜けたわね。まさか4日もかかるとは……足手纏いがいるとダメね」

「悪かったな足手纏いで」

 文句を垂れつつも、ケイヴは浮かれていた。生まれて初めての外の空気だ。しかも快晴の空に、美しい海がケイヴを歓迎してくれている。

「トカゲとかサソリとか食うのはもう懲り懲りだ! おい、魚食おうぜ魚」

「あんたそんなもの食べてたの?」

 若干リーナの顔が引き攣った。

「仕方ないだろ。食うものがなかったんだから」

「魔王は3ヶ月くらい食べなくても死なないわよ」

「死ぬ死なないの問題じゃない。『生きること』とは『食うこと』だ」

 ちょっと何言ってんのか分かんない、とリーナが一蹴したときだった。


「リーナ様! リーナ様ァァ!」

 

 野太い声が上から聞こえたと思えば、直後にどデカい本体も降ってきた。

 白い虎——が鎧を着て人のように二足歩行で立っていた。いや、虎とも違う。毛がなく、代わりに鈍く光沢した硬そうな鱗が棘のように生えている。リーナはほぼ人型で少し羊の要素が混ざった容姿をしているが、目の前の男はほぼ虎(のような生き物)で少し人間のような特徴がある、といった様相だった。


「リーナ様! ご無事で何よりです!」

 ははぁ〜、と土下座のように頭を下げる虎にリーナは「あー、悪かったわね。予定より遅れちゃって」とぺしぺし虎の頭を叩いた。

「いえ! とんでもございません! リーナ様の深きお考えに(われ)ごときが異を唱えるなど、あり得ませぬ。我にとってリーナ様は——」

「——なぁ、お前鱗の上に鎧着る意味あんのか?」

 恍惚の表情で饒舌に話していた虎男は、話に割り込んできたケイヴに血走った目を向けた。

「……貴様が新たな魔王か」

「知らんが、どうやらそうみたいだぜ。よろしく。ところで、俺今腰巻き一丁なんだけど、それでもお前に乗っていい?」

「なんでディグに乗る前提で話してんのよ」とリーナが呆れて目を細めた。

「だって、こいつ足だろ? お前のダンジョンまでの」

「誰が足だ! リーナ様ならいざ知らず、貴様のような者を乗せるわけがあるか!」

「それは騎乗用じゃなくて戦闘用に生み出した配下よ。馬は別の場所で待たせてるから、そこまでは我慢して歩きなさい」

 そう言いながらリーナはよじよじとその戦闘用の配下——ディグに登って、肩に座った。

「戦闘用じゃなかったのか?」

「だって疲れたじゃない。こんなに泥だらけでヘトヘトのあたしに歩けって言うの?」

 ケイヴが口を開く前にディグが「滅相もございません!」と叫ぶ。

「リーナ様の御身を乗せられるのなら、これまでの苦しい鍛錬や仲間の死、それら全てが報われます。この上ない喜びが——」

「——おい、俺も乗せろよ。泥だらけでヘトヘトな上にノーパンなんだぞ」

「な……ッ?! 貴様! よじ登るな! やめい! ノーパンで座ろうとするな!」

「ちょ! 揺らさないでくれる?! あぶ、危ないから!」

「し、しかしリーナ様! この男が——」

「ところで、鱗の上に鎧着る意味あるのか?」

「じゃかあしい! よじ登りながら聞くことか!」

「…………」

「黙ってよじ登るなァ! よじ登るのをやめろ!」

「ああああああ! もう! 揺らすなって言ってんでしょォ!」


 結局リーナの命令でケイヴも乗せて出発したが、馬の待機場に到着するや否や、ディグはふらっと姿を消した。

 その後、馬小屋の水溜めでディグが一生懸命肩をすすいでいる姿が目撃されている。


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