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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

実はにゃんこは

作者: 壱原 一

小学校低学年の頃に家族ぐるみで引っ越しました。


市の中ほどから端へ移った具合です。周囲の景色が住宅から田園に変わりました。


新しい我が家のお隣の家がとても豪華で、親に連れられて引っ越しの挨拶に伺った時、立派なお庭に大きな岩やら広い池やらひび割れたスポーツコートやらを見かけました。


我が家とお隣の家とは、お隣の敷地を囲う分厚い生垣で隔てられていました。我が家の前の小道から大きな道へ出る際は、深緑の葉がみっしり生えたごわごわ硬そうな生垣に沿って、いくらか歩く必要がありました。


生垣は結構たけが高く、地面すれすれから茂っていて、地面はお隣の敷地に向けてなだらかに落ち窪んでいました。


このためお隣の敷地はしっかりと目隠しされていて、時々お隣の敷地から野良猫ががさっと生垣を鳴らし抜け出てくるのに出くわすと、場合によっては驚いてつんのめったり飛び退いたりしていました。


とはいえ猫が好きなので、お隣の敷地から生垣ががさっと鳴る時は、はっと胸をときめかせて近くへしゃがみ、猫の鳴き真似をしたものです。


おおらかな猫は生垣を抜け出てきて存分に撫でさせてくれましたし、遊び好きの猫は生垣越しに鳴き返してこちらが草でじゃらすのを待ってくれました。


こうした中にとびきり焦らし上手な猫がいて、みっしり生えた深緑の葉の隙間から、ほんの少し白い姿を覗かせつつ、高くとろける甘えた声で盛んに鳴き返してくれるのに、一向に出てきてくれません。


つれない態度に躍起になって、この鳴き声が返される度、鳴き真似の抑揚を変えたり、じゃらし方に緩急をつけたり、工夫に余念がありませんでした。


ある朝も例の如くに鳴きつ鳴かれつした直後、生垣が大きく揺れました。


ついにと待ち受ける間もなく出て来たのはお隣の奥さんでした。


ごわごわ硬そうな生垣から、ぼっと頭が突き出され、いたずらに成功した笑顔で「実はにゃんこはおばちゃんでーした!」と茶目っ気たっぷりに言われました。


ほつれた髪や白い服に葉っぱを付けておどける様子がおかしく、また大人が同じ目線で構ってくれたのも嬉しくて、けらけら笑って別れました。


今まで毎回だったのか、地べたに待ち伏せしていたのか、もしずっと奥さんだったなら、あるいはあの時だけ奥さんだったとしても、なんだか妙に感じはじめたのは、少し経ってふと思い出してからです。


以降こちらから鳴き真似はせず、猫が自ら生垣を出てきてくれた時だけ、撫でたり遊んだりしていました。


今は生垣が取り払われて、お隣の敷地の囲いはブロック塀になっています。



終.

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