灯花はわたしの飴を舐めたいへんたい2
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「そういえば、ふたりっきりだね」
灯花がぽつりと口を開いた。実際、放課後の図書室にはわたしたちの他には誰もいない。だから本来私語厳禁の空間でもこうして自由にふるまえる。
「ほんとは放課後って図書室閉まってるよね?」
「原則としてはそうだね」
「あたしたち、勝手に使っていいの?」
「いいの」
わたしは力いっぱいうなずく。
「わたし、図書委員だから、特別におっけいなの」
「あ、職権の悪用だ」
「有効活用って言ってよ」
「物は言いよう」
「減るもんじゃないし、いいの」
「加奈ってこういう時、ちょっと不良だよね」
「人聞き悪いな。こんなにテスト勉強がんばる不良はいないよ」
わたしは自分を正当化しつつ、十日ほど前に担任の先生から渡された試験範囲表をながめる。そうしているとふと気になることが見つかる。
「そういえばデータの分析って出るかな?」
「データの分析? 数学の?」
「うん」
「どうだろ。一応テスト範囲には一年の全範囲も含まれてるけど」
「でも一年の範囲なら三角比とか二次関数の方が出そうじゃない?」
「たしかに。できればそっちの勉強に時間を割きたいね」
「かといって復習せずにテストに挑むのは不安だな」
「相関係数とか四分位数とか案外細かいところ忘れてるかも」
相関係数? 四分位数?
「な、なんだっけ、それ?」
「あ、加奈、忘れてるな」
「い、今から思い出すからいいの」
わたしは数学の参考書をめくって該当するページを探しつつ、話題を灯花に切り替える。
「灯花はどうなの? ほとんどの理系科目、一年の総復習が試験範囲に入ってるけど、ちゃんと覚えてる?」
すると、灯花はいつもの調子で、
「あたしはだいたいなんとかなるから」
とひとこと。
「たしかに」
わたしはこれまでの灯花の成績の推移を思い出し、うなずく。
「灯花って見かけによらず頭いいよね」
「見かけにらずとは失礼な」
「ほめてるんだよ」
「そうは聞こえない」
事実、灯花はとても成績がよかった。毎日こつこつと勉強するタイプなのだ。だからテスト直前に慌てて猛勉強しなくてもしっかりといい点数をとる。でも、そのことを知っているわたしからしても、少しこどもっぽい雰囲気のある灯花が学年でもトップクラスの成績を収めていることは、やっぱりちょっと違和感がある。
そんなことを考えながら、わたしは自分の鞄から袋を取り出す。一袋二百円強ほどの、小さな棒キャンディが詰まった袋だ。わたしは袋からソーダ味のキャンディをつまみ上げ、個包装されている袋から引っ張り抜き、口に入れる。
「あ」
わたしのその様子に灯花が気付く。
「図書館は飲食禁止でしょ」
「わたし図書委員だから」
「職権の悪用だ」
「今回は認める」
わたしはあめをなめながら降参するようにうなずく。それからもう一つ、袋から橙色の棒キャンディを取り出し、灯花に向ける。
「灯花も食べる?」
けれど、灯花からの返答はなかった。わたしの顔をじっと見つめたまま、突然無言になる。
こんな風に灯花が急に静かになることは昔からよくあることだけど、こういう時の灯花の表情は何を考えているのかよくわからないから、いつもわたしは困ってしまう。
「え? なに? 灯花、オレンジ好きでしょ?」
けれど、やっぱり灯花は何も言わない。じーっと穴が開くほどわたしの顔を見つめている。
「オレンジじゃだめ?」
「……」じー。
「ソーダにする?」
「……」じー。
「いちご味?」
「……」じー。
「もしもーし?」
「……」じー。
「……えっと」
わたしはどうすることもできず、左手に持った飴をぺろりとなめる。口の中でソーダの甘い味が広がる。
すると。
「ねえ、加奈」
依然としてこちらをじっと見つめたまま、灯花がようやく口を開いた。
「なに?」
わたしも同じく灯花の顔を見つめ返す。
同い年なのにどこか少しあどけなくて、いつも少しだけ眠そうな女の子。
灯花はその表情を変えずに言った。
「加奈、好きだよ」
「なっ」
唐突な告白にわたしは一瞬うろたえ、その後、
「わ、わかってるよ」
となんとか言葉を絞り出す。
すると、灯花は、
「うん」
と小さくうなずいて、もう一度、
「加奈、好きだよ」
と言った。
口の中でソーダの味が濃くなった気がした。




