灯花はわたしの飴を舐めたいへんたい1
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とある火曜日の放課後、図書室でシャーペン片手に参考書とにらめっこをしていると。
「ねえ、加奈。ちょっと暑くない?」
隣で勉強している灯花が言った。
「たしかにそうかも」
わたしはうなずいて同意する。五月も後半にさしかかるということもあってか、夕暮れ時の図書室は座っているだけで少し汗ばむ。いよいよ夏が始まるって感じだ。
「灯花は夏、好きだっけ?」
わたしはなんとなく灯花にたずねてみる。
すると灯花は首を横にふった。
「きらい」
「なんで?」
「だって暑いじゃん」
「まあ、夏ってそういうもんだし」
「でも、毎年律義に暑くならなくてもよくない?」
そんなことわたしに言われても。
「夏の間だけ南半球に引っ越そうかな」
「逆渡り鳥か」
「加奈はあたしが南半球に引っ越したら、悲しい?」
「なにその質問」
話に突拍子がなさ過ぎて想像できない。
「あたしが南半球に引っ越したら、加奈は泣く?」
「泣かない」即答してみる。
「ええー」
灯花はちょっとがっかりした声を出す。
「加奈はあたしと離れ離れになっても悲しくないの?」
「いや、まあ、でも、今ネットがあるからすぐに連絡できるし」
「そんな」
灯花は大げさな声を出す。
「加奈はいつも現実的すぎる」
「現代っ子だからね。クールでドライなの」
「まるでハバロフスクの冬みたい」
「そんな世界規模じゃないと思うけど」
「いや、加奈は世界レベルで冷酷」
ひどい言われようだ。
「逆に聞くけど、灯花はどうなの?」
わたしは灯花に質問してみる。
「もしわたしが南半球に引っ越したら、灯花は悲しい?」
「うん」
こくりと灯花はうなずいた。
「泣く?」
「泣く」
即答だった。
「どれぐらい?」
「この町に第二のカスピ海ができるぐらい」
「……それ、日本沈まない?」
「沈むよ」
「こわ」
「だから引っ越したりしないでね」
「引っ越さないって」
ってそんなことより。
「どうする、灯花。暑いなら窓開ける?」
わたしは壁沿いに並んでいる閉じた窓を見ながらたずねる。
「開けよ」
わたしと灯花は立ち上がり、それぞれ自分の近くにある窓を開けていく。がらがら、と音がして部屋の窓がいくつか開くと、外の風の音が強くなる。同時に夕暮れ時のひんやりとした風が図書室の中に吹き込んでくる。
「寒くなったら閉めよ」
わたしは提案しながら再び椅子に戻り、参考書との格闘を再開する。灯花も同様にわたしの隣の椅子に座り、勉強を再開する。ふたりだけの空間に筆と紙の音がする。
ご覧のように、わたしと灯花は現在、猛勉強の最中にあった。とても憂鬱な気持ちになるからあんまり考えたくないことなのだけど、この週末から定期試験があるのだ。




