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トマトだ

「無職になるって思っていたより、あっけない物だな」

 いきなり職を失った。本音では店長に文句の一つも言いたかった。しかし、店長は御年90才の老人で、俺がガキの頃からお世話になった恩人でもある。

 なんとも言えない、モヤモヤした気分で田舎道を運転をする。対向車は皆無だ。歩行者も見かけない。人間が住んでいるのかも怪しく思える田舎だ。

 自宅の前に車を停めて、玄関を開けようとした時に、今朝見た森を思いだした。


「あの森・・・ どうなった?」


 俺は庭を経由して家の裏へ廻る。そこには、トマト畑が有った。家庭菜園で作っているトマトだ。恐る恐る触ってみる。

「うん。トマトだ」

 まだ青いが確かにトマトだ。赤くなる前に追肥として液体肥料を与えようと思っていた。

 裏玄関のカギを開けて、今日の朝与えようと思っていた液体肥料を探すが見つからない。

「まぁ 良いか。 新しい肥料を開封しよう」

 肥料を片手にドアを開ける。



 森!

 森!!

 森!!!

 数分前に見たハズの家庭菜園は、影も形も無い。


「またですか?」


 不意に本音が出た。

 俺は後ずさりして家の中に入ると、ドアをゆっくり閉めた。



 一度、大きく深呼吸をする。


「落ち着け・・・ 落ち着け・・・」


 2度も同じ幻を見るなんて普通ではない。何か原因が有るハズだ。朝と今の共通点を見つければ、原因が特定出来るかもしれない。

 朝は・・・トマトに肥料を与えようとして。今も、トマトに肥料を与えようとして・・・

「!」

 俺は思わず左手に持っていた肥料を床に落とした。

「もしかして、この肥料の成分が手から吸収されて幻覚を見たのか?」

 俺はあわてて台所に行き、手を洗う。何度も何度も手を洗っていると、冷静さを徐々に取り戻せた。

「触るだけで幻覚を見るような薬品が市販されているか?」

 海外ならゼロとは言い切れないが、俺は大手の通販サイトで買った。そんな危険な商品が日本で売ってるハズがない。

 俺は手洗いをやめて、携帯で購入履歴を確認する。

 購入した液体肥料は、国内のメーカーだった。レビューを読んでも、それらしい評価は1つも無い。どうやら、手から薬品が吸収されたという推測は違っているようだ。


「では、何が原因だ?」


 俺はソファーにドッシリと座り、他の共通点を考えた。



「わからん!!」

 幾つかの共通点は有るが、それらは今回に限った事では無い。

 ドアノブを右手で握った事、ドアを開けたのが俺だという事、下着やメガネも同じだが、どの共通点も今日に限った事ではない。

 考えても何も解らない。共通点も原因も解らないが、再現可能か確かめてみよう。何かが解るかもしれない。


 まずは正面玄関から出て、庭を通って家の裏へ向かう。家庭菜園のトマトが見える。トマトをさわる。裏玄関のドアを開けて中に入る。床に落ちている液体肥料を見て、少し躊躇した。

 この肥料は安全だと知っている。知っているが素手でさわる事を躊躇してしまう。


「あ。火バサミを使おう」


 トマトの苗を植えた時に、なぜか火バサミが落ちていた事を思い出した。ゴミに出すのも面倒で、そのままトマト畑の側に置きっぱなしにしたような気がする。



 ドッン!


 火バサミを取りに行こうとドアを思いっきり開けた瞬間、ドアに大きな衝撃が有った。ドアノブを握っていた感覚で、何かがぶつかったのが解かった。

 音と衝撃にビックリはしたが、俺の口から出た言葉は


「液体肥料は関係無いのか!」


 目の前には、森が広がっていた。

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