『告げる者』
リハビリがてら書いた物です。
リアルが落ち着いたらこの物語に関する物を連載するかもしれません。
私は今まで此処のもの達にそう言われてきた。
『告げる者、告げるモノが、来たぞ』と、嗤い声と共に。
ケラケラ……クスクス……
ああ今日も、最高で最低な一日が始まる。
しゃりん、と鈴の音が鳴る。動く度に私の行動を制限するように、耳障りに鳴り続けるのだ。この音は枷だ。私が余計な事をしないように常にこの音が見張っている。
しゃりん…しゃりん…しゃりん…
部屋をぐるぐる歩き回る度にうざったいほど付き纏う鈴の音に苛立ち、八つ当たり気味に体重を乗せてベッドへ座り、横へ倒れる。
さて、何をしよう。
何かをしようにもこのうるさい音が鳴り響き続ける限り、この消化できないむしゃくしゃした感情は解消できないのだろう。
何度確認したって身体にも服にもどこにも鈴なんて付いてやしないのに、ずっと金魚の糞のように鳴り続ける。いや、いっそ金魚の糞の方がまだマシだ。
はぁ、と息を吐いて腕でランプの光を遮る。
そうだ、猫に逢いに行こう。
そうして今日の一日のスタートは、猫に逢いに行くところから始まった。
しゃりん、しゃりんと鈴の音を鳴らしながら野良猫たちのたまり場へ進んでいく。
彼らは鈴の音で私に気付いたのか、にゃーと挨拶をしてくれた。
真っ先に駆け寄ってくる灰色の猫の機嫌を取りながら他の猫たちを眺める。じゃれあったり、寝たり、こちらをチラチラと見てくる子もいたり、今日も平和そうで何よりだ。
ひとしきり撫で終わった後、じゃあね、と手を振ってその場を離れる。
「やぁ!久しぶり。最近どう?」
次はどこへ行こうかと帰路を歩きながら考えていたら、知り合いに声を掛けられた。
「最高で最低な毎日だよ。」
「それはどっちなんだい」
困ったように眉尻を下げてツッコまれた。
「何事もなくて良いけど普段の生活の問題に悩ませられていてね」
そう肩を竦めると、ああ、と納得している。
「いつも鳴っている鈴かい?大変だねぇ」
「そっちこそ。いつも『白の使者』の役割、お疲れさん」
「ありがとう〜そうだ。黒ちゃんからいただいたパンがあるんだー!良かったらどうぞ」
配っているのだろうか、ご丁寧に様々なパンが入っている紙袋を貰った。
「ありがたく貰うよ。『黒の使者』にもお礼伝えておいて」
「うん、じゃあ僕はそろそろ帰るねー」
ひらりと私たちは手を挙げ、それぞれ別の道を歩いて帰る。
手元からパンのいい香りがする。今日の夕食はシチューにでもしようか。当分、明日の朝ごはんにも困らなさそうで料理のやる気が湧いてきた。今日の夜ご飯は豪勢になりそうだ。
そうして今日も一日は終わる。
そしてまた次の朝を迎えるのだ。
自身の使命と共に。……鈴の音は使命の付属品であるから、あれも一緒に。やめてほしい。
「告げる、次のミッションは──」
さっさとこのゲームも辞めてほしい。