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その姿勢、必要ですか? 2022年10月21日

 この小説は、作者が「星空文庫」で執筆している『宗教上の理由』シリーズの世界設定を使ったスピンオフです。読みたい方は、星空文庫にて作品名または作者名「儀間ユミヒロ」で検索をお願いします。

 もちろん、この小説単体でも話がわかるようにしておりますので、安心してお読み下さい。

 山奥にあるという設定の、架空の小さな村、このはな村。この村にあるコミュニティFMを舞台に、DJのおしゃべりを文字でお送りする、ちょっと変わった形の小説です。

 この小説は言うまでもなくフィクションです。

 おはようございます。このはな村インフォメーションです。この番組では、このはな村に関するさまざまな情報をお送りしております。

 このはなFMでは、村外からこのはな村へお越しになる方への情報発信も兼ねて、この放送のネット配信を行っております。


 今日は、村役場一階、歴史民俗資料室にて開催される企画展、

「からだに優しい農業・このはなの伝統農法に学ぶ」

の紹介です。

 農業において、しゃがむ、腰をかがめる、などの姿勢は不可欠とされています。また重いものを運んだり、暑さや寒さの中での作業を強いられる場面も少なくありません。

 しかしながら、これらの姿勢や身体の動きは健康への影響が懸念されます。特に腰・ひざなどを痛める危険性が高く、今後労働人口の高齢化とともに、身体への負担を強く感じる農業従事者はますます増えるものと思われます。

 このことを踏まえて、このはな村保健衛生課では村教育委員会と共同で、伝統的な農法のなかに解決のヒントを見出だす企画展を行うこととしました。


 この企画展では、村の伝統的な農業のかたちを振り返り、その中にみられる、健康な状態で農業を続けるためのポイントを紹介していきます。

 このはな村は寒冷な気候や栄養分が少ない土壌のため、農業には不向きな土地とされてきました。しかし村人はそれらの悪条件にも耐える作物を選択し、広い面積に畑を展開することで必要な収穫量を確保してきました。

 その広い畑を管理するためにも、農作業の効率化が必要でした。人口の少ない村では人手も限られており、労力を最小限にしなければ農耕が成り立たないのです。

 この効率化は、同時に農作業の負担軽減にも繋がりました。具体的にどのようなことがなされたのか、今回の企画展では三つのトピックに分けて紹介します。


 まず、村の風土に合った農機具の開発です。

 このはな村には、戦乱を逃れて来た高い技術を持つ刀鍛冶が鉄加工の技術をもたらしたとの言い伝えがあり、その技術が農具の作成に活かされたと言われています。

 現在その技術を受け継ぐ作業所は村内に一軒のみですが、高度な技と独創性によって造られた農具の数々を展示します。立ったままでもテコの原理で根菜を収穫できる道具や、従来のかたちにとらわれず三次元や幾何学的概念を取り入れた形状の(くわ)(すき)はその技術力を示すものです。

 さらに使う人の体格や体力にあわせて、大きさやつくりをカスタマイズした農具もあり、前近代の農村社会において個人の特性を重視したものづくりがあった事は特筆すべき事柄です。

 その中でも、村の一番社である天狼神社の宮司や神使が使ったと伝えられる農具は特に貴重なもので、当時、寺社領同様に村の運営を一任されていた天狼神社の神職が自ら農耕に従事したことを示す、近世の身分社会の見方に一石を投じるものです。


 次に、農事のなかでもとくに重労働である除草作業を、最小限にとどめるための工夫の歴史も見どころです。

 雑草の除去はしゃがむ動作を伴うため、腰などへの負担が大きくなります。しかし、村には作物の成長を阻害する植物とそうでない植物を見分け、前者にあたる植物がはびこることをあらかじめ阻害し、除草の手間を最小限にするための知恵が蓄積されてきました。

 日本の農業においてこれは画期的なことです。村内の農家に伝わるこれらの知見を科学的に検証し、現代、そして未来の農業、また造園など他分野にも応用できる可能性を提示しております。


 そして、本来腰を曲げて世話をする葉物野菜についても、無理のない姿勢のまま栽培から収穫まで行う伝統農法を再現し、展示しております。

 この農法は地面に溝を掘り、そこから出た土を溝と平行に積み上げていき、そのまま畑の(うね)として利用するというものです。元々は雪解けを早くするために土を高く積み上げたのが始まりだと言われていますが、その結果立ったままの姿勢で作業ができるようになり、身体に優しい畑の構造として見直されています。

 村では現在でもこの方法で作物を育てる農家は多くありますが、今回、さまざまな角度から見られるジオラマを作成しました。これにより視覚的にこの農法への理解が深まることを期待しております。


 この企画展は十一月末まで、このはな村役場内資料室にて行っております。

 村内で農業に従事されている方はもちろん、新規に就農をお考えの方、家庭菜園やガーデニングを趣味とされている方にもおすすめです。仕事や趣味で無理な姿勢をとる機会を出来るだけ減らし、健康を維持するための一助としてご活用下さい。

 なお入室の際には、村が設置したPCR検査場または民間検査機関などによる三日以内に検体を採取した陰性証明書が必要となります。ワクチン接種および抗原検査の証明書はご利用できません。

 以上、企画展のお知らせでした。


 このはな村インフォメーション、担当は板谷でした。

 痛いんです。腰も肩も痛いんです。ひざも時間の問題です。

 実家のチンケな庭でほんの半刻くらい雑草を抜いただけでも腰が悲鳴をあげます。好きでやってる庭いじりが苦痛になっては意味が無いので、ああこれはもうこれ以上手を掛けなくてもいいというサインなんだと思って、やんぴにしちゃいますが。


 しゃがんで腰を曲げる動作は、とにかく痛みのもとです。出来るだけ避けるに越したことはありません。

 ま、素人の植物いじくりで腰痛になっても自己責任でしょうけど、プロの農家や造園乗車は仕事として大量の雑草を除去しなければならないわけでして。ではプロにはプロなりの工夫があるのかと思いきや、あんがい手作業だったりするんですね、これが。草刈り機で一気になんて場合もありますが根っこが残っている限りまた草は生えてくるものですから、文字通り根こそぎ持っていくにはしゃがんで一本一本抜いていくのが確実なのでしょう。


 地方移住とか新規就農とか、やりたい人は多くいるだろうに、農村の衰退はなかなか止まらないように見えます。その背景には、農業が基本的にとんでもない重労働である、ということが関係しているのでは? と思います。

 農村の過疎化・農業従事者の高齢化・耕作放棄地の増加。互いにリンクし合う問題を根本的に解決するには、「だって農業って大変なんでしょ?」というところにメスを入れないと無理でしょうね。いやそうでもないよ、と農村の人々がためらわずに言えるような農地のすがたを作り出さないと、地方の人口減少は止まらないのではないかと思います。


 というわけで、今回も好き勝手に理想の村を思い描いてみました。

 


 

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