緩めません 2022年9月30日
この小説は、作者が「星空文庫」で執筆している『宗教上の理由』シリーズの世界設定を使ったスピンオフです。読みたい方は、星空文庫にて作品名または作者名「儀間ユミヒロ」で検索をお願いします。
もちろん、この小説単体でも話がわかるようにしておりますので、安心してお読み下さい。
山奥にあるという設定の、架空の小さな村、このはな村。この村にあるコミュニティFMを舞台に、DJのおしゃべりを文字でお送りする、ちょっと変わった形の小説です。
架空のラジオ番組の文字起こしという体裁のため、文法や文中記号の使い方が本来のルールとあえて異なった形になっている点をご了承願います。
また、この小説は言うまでもなくフィクションです。
おはようございます。このはな村インフォメーションです。この番組では、このはな村に関するさまざまな情報をお送りしております。
このはなFMでは、週末に放送するいくつかの番組をネット配信しているほか、村外からお越しになる方への情報発信も兼ねて、この番組も配信を行っております。
今日はまず、このはな村の今後のウィルス感染対策についてお知らせします。
このところ、国や都道府県で新型ウィルス感染症に対する対策を緩和する動きがありますが、このはな村ではこれまで通りの感染対策を継続いたします。
村では現在、村役場本庁舎および分署・道の駅このはな・村保健センターで無料PCR検査を実施しており、この事業につきましては十月以降も同じ内容で続けてまいります。
このPCR検査による陰性証明は、村内各宿泊施設およびレジャー施設・一部の小売店や飲食店を利用する際に必要となります。また陰性証明により独自の割引やサービスを受けられることもありますので、検査を受診したうえでの観光をおすすめします。
検査は通常、約一時間で結果が出ます。
次に、村内にある発熱外来のご案内です。
村内の発熱外来は岡部医院にあります。発熱の症状が出た場合にはこたらでの受診をお願い致します。
予約は必須ではありませんが、事前の電話予約を推奨しています。予約した場合、待ち時間の少ない比較的スムーズな受診が可能です。
受診にあたっては、公共交通機関の利用はご遠慮下さい。自動車等をお持ちでない方、運転または徒歩で病院に行く事が困難な方は、このはなタクシーの利用が可能です。利用の際は直接このはなタクシーに電話または公式SNSで、発熱外来受診の旨を伝えた上で迎車をお申し込み下さい。使用車両は運転手への感染対策を施したバリアフリータクシーです。運転席と後部座席がアクリル板で区切られておりますので、運賃のお支払いは現金のみで、トレイを使用した受け渡しとなります。運賃は村内どこからでも片道五百円均一ですが、生活保護世帯・中学生以下・六十歳以上・障害者手帳や療育手帳をお持ちの方は無料です。
岡部医院では、発熱外来専用の待合室を準備し、待ち時間の身体への負担を出来る限り軽くするよう努めております。なお、本日の岡部医院からの情報では、九月は最大一人から二人待ちで受診が可能でしたが、寒くなると患者が増える事が予想されるので電話での予約をした方が良いということです。
また、夜間や休日についても診察可能な場合がありますので、岡部医院にご相談ください。ただし、発熱された方の病状が急を要するものであった場合、救急車の要請をためらわないようお願いします。
このはな村インフォメーション、担当は板谷でした。
いわゆる新型コロナのまん延は未だ収まる気配を見せていません。発見されてから三年以上経つとは言えど未だに効果的な治療薬も開発できず、劇症化も後遺症の深刻さも季節性インフルエンザ等のそれとは比べ物にならないほど恐ろしいものです。
この段階における感染症の対処としてもっとも有効なものは検査におけるウィルス媒介者のあぶり出しであるはずなのですが、肝心の初期段階でこれを怠った日本が感染者数世界一になるのは必然ですし、それが世界一にならずに今年までかろうじて持っていたのはマスクなどによる個々人の自衛が大きいのでしょう。
今や「誰でもコロナにかかる可能性がある」というのはかなり確からしい考え方です。しかしそれを「誰でもかかり得るのならマスクは無駄」だとか考えるのならそれは大きな解釈ミスです。
それは「誰でも泥棒の被害に遭う可能性がある」からといって「家に鍵を掛けるのは無駄」と言うのと同じことです。完全に開けられない鍵は無いし、絶対に侵入出来ない家というのもありません。
もちろん、感染した人が「まるで出かけるときに鍵を掛けないうっかりさん」だと馬鹿にするのも論外で、鍵=マスクをしていてもすり抜けてくるウィルスはいるし、車の運転で例えるならば、暴走した車の貰い事故で「ぶつけられる方が悪い」と言う人が冷たい奴だとそしられても仕方ないのと同じです。
発熱外来の地獄ぶりやら、医療機関のてんてこ舞いやらをもって、感染症としての扱いをもっと下等なものとすべきだとの論調もありますが、逆です。
COVIDウィルスを制圧することによって、発熱外来や医療機関に安寧が訪れると考えるのが正しい順序だと思います。
いっぱんに冬はウィルスの活動がさかんになる時期ですので、個人も行政も予防の手を緩めないことが肝要ではないかと思います。