2022年9月2日 地球温暖化へのささやかな抵抗
作者儀間朝啓の妄想から産まれた架空の村、このはな村。このはな村には作者が理想とする自治体のあり方が詰め込まれています。
この小説は、このはな村のコミュニティFMから放送される村の情報番組を書き起こすという体で、作者の作り出した架空の世界妄想にお付き合いいただくというものです。
おはようございます。このはな村インフォメーションです。この番組はこのはな村に関するさまざまな情報をお送りする番組です。
このはなFMでは、今年度より週末に放送するいくつかの番組をネット配信しておりましたが、夏休みの観光シーズンに合わせて村外からお越しになる予定の方へも情報を発信するため、この番組もネット配信を開始いたしました。そして、ご好評を頂いておりますので九月以降も当番組の配信を継続いたします。今後とも宜しくお願い致します。
本日は、このはな村の薪・木炭ストーブ購入補助制度についてお知らせいたします。秋を迎え朝晩の冷え込みが厳しくなってきており、暖房の買い替えを検討している方もいらっしゃると思います。そこでこのはな村では、薪ストーブや木炭ストーブを購入される村民ならびに村内に不動産物件を持つ方に対し、補助をおこなっています。
石油や石炭・ガスのストーブは、地中に埋蔵されている炭素を掘り出して大気中に二酸化炭素を放出するため、地球温暖化に関与しやすいと考えられています。
一方、薪や木炭の原料は地上の樹木です。樹木を伐採して薪や木炭を製造したのちも、適切な方法で森林を再生させることによって大気中に放出された二酸化炭素を回収することが可能です。
このため、村では下記の場合に補助金を支給しております。対象となるのは薪や木炭を使用したストーブを購入した際、また修理が必要な場合や、より高性能にリニューアルする場合、使用していない暖炉や囲炉裏を修繕して使用する場合なども対象になることがあります。補助金額は購入・修繕費用の最大五割です。詳しくは村役場までお問い合わせ下さい。
続きまして、このはな・植物を増やそうキャンペーンについてのお知らせです。
このキャンペーンは、少しでも空いた土地があればすかさず植物を植えることで緑を増やし、地球温暖化を少しでも抑えようと呼びかけるものです。このキャンペーンについて寄せられた質問に対する、このはな村各担当部署からの回答をいくつか紹介いたします。
まず、
「道路舗装の割れ目や隙間から雑草が生えている箇所が多い。除草してほしい」
土木建築課からの回答です。
「道路に生えた草につきましては、車両の通行や路面の維持に支障が無い限り除草を行っておりません。また、村では雑草という概念を原則用いません。植物は周辺環境によって有益か有害かが変わりますので、一概に雑草として取り扱うことは出来ないからです。ただし、美観の面から形を整えることはあります。村では舗装の隙間から育つ植物も二酸化炭素吸収に貢献するものと考えておりますので、ご理解をお願い申し上げます」
次に、
「外来種・帰化植物についてはどう対応しているのか」
環境衛生課からの回答です。
「海外産の植物、また国内でも本来上信越山間部に自生していない植物につきましては、その植物が村の生態系にどの程度影響を及ぼすかによって対応が異なります。繁殖力が強く、在来植物の生息を脅かす可能性のある外来種は適宜除去します。例えばセイタカアワダチソウ・ブタクサ・ナガミヒナゲシなどにつきましては特に警戒と除去に力を入れております。一方シロツメクサなど、村在来の植物と比べて相対的に繁殖力が弱く、かつ動植物に害をほぼ及ぼさないとされるものにつきましては、ある程度の繁殖を黙認しております。シロツメクサに関しては、似た環境を好むカタバミなどが圧倒的に強く、繁殖地の拡大がかなり抑えられていることが分かっています」
また、建築土木課からも補足回答がございます。
「シロツメクサ、すなわちクローバーにつきましては、道路舗装の隙間等から生えることも多く、これにつきましては原則除去を行いません。また公有地でシロツメクサを採取することにつきましては村では原則黙認しております。四つ葉のクローバー探しや、花の首飾り作りなどにお役立ていただければ幸いです」
最後に、
「外来種の侵入を阻止するために何か施策を行なっているか」
まず産業交通課からの回答です。
「このはな村営バス事業係です。村営バスでは乗車の際に靴の裏に付いた土などをマットで取り除くようお願いしておりますが、このマットから植物の種が発見されることが多く、外来植物の侵入防止に多少なりとも寄与していると考えております。また村営バスは村役場バス停に立ち寄る際、特殊な舗装の上を通ります。この舗装でタイヤについた植物の種を吸着します」
これを受けて建築土木課からの補足です。
「村役場は、このはな村の玄関口と考えております。よって役場敷地内の車道の一部に特殊な舗装を施し、外来の種が捕捉できるようにしています。この舗装はスタッドレスタイヤと同じ原理で細かい凹凸が種を捉えるというものです。ここで吸着された種は一日三回決まった時刻に塩素水で洗い流し、下水道へと誘導されます。また村道が隣の町村との境界に差し掛かるところは砂利道にしていますが、こちらも砂利の振動でタイヤやボディの種を落とすもので、定期的に水を流したり、そこで発芽した外来種を都度除去するなどの処置を行なっております」
また、環境衛生課からは、
「外来の動植物は車などの移動に伴うことが多くありますが、完全に防ぐことは困難です。村では侵入した外来種について迅速に対応しておりますが、民有地については対処が困難なこともあります。村民の皆様は、ご自分の庭や農地に意図しない植物が生息しているものを発見した場合で、それが外来種だった場合は早急に除去するようお願い致します。ただし種類によってはトゲがあったりかぶれの原因となる液を持つものもありますので、外来種かどうかの見極めが付かないときや、安全な駆除方法が不明な場合は、環境衛生課にご相談をお願いします」
本日の情報は以上となります。このはな村インフォメーション、担当は板谷でした。
というわけで、新しい連載をはじめました。作者の脳内に展開する空想の村、このはな村。ここから、「実在しないけど実現したら良いな」と作者が勝手に思っていることを発信していきます。
地球温暖化問題は対策待ったなしの段階に来ていますが、では何が出来るのか、どうすればいいのか、というのは難しい問題だと思います。
二酸化炭素の排出量を抑えることは有効な方法だと思いますが、幸い地球には植物という、二酸化炭素を酸素に変えて吐き出す能力を持つ生きものがいます。
化石燃料である石炭は、植物が長い時を経て形を変え、地中に眠っていたものですから、それを掘り起こして燃焼させれば寝ていた二酸化炭素の素を大気中に取って返すことになるので問題なわけです。動物が変化した石油も同様です。
要は差し引きの問題で、長い年月をかけて地中に埋もれた石油や石炭を燃やしたならば、それを炭素と酸素に分解して地中に戻すのはものすごい時を要することになります。
一方、地上にある木を伐って燃やすぶんには、伐採地の管理をしっかりして森林を再生させるかぎりにおいては大気中の二酸化炭素量はいわゆる「行って来い」になるはずです。ただ個人的見解として、輸入材を使った炭は森林の保全状況が怪しいとみています。もちろんこのはな村は設定上木々の豊かな村ですので、燃料も地産地消です。
さて、森林を保護することは重要ですが、それだけではすでに放出された化石燃料由来の二酸化炭素を減らすことは困難です。それを実現するには新たに植物を育てなければいけませんし、地球温暖化をストップさせるにはとてつもない面積の森林を新たに築かなければならないはずです。
ですから、このはな村の試みは本当にささやかな抵抗です。ですが、それでもやれることはやろうじゃないか、ただし無理の無い範囲で。そんなことをもう少し脳内妄想をこじらせた上で書いて行きたいと思います。
本連載は原則週一回、金曜日の更新を予定しております。