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III / 『黄金』

 粘液状の体が何者かの足音に揺れて振動する。


 突然、誰かがこちらに向かってくることに粘液状の生物は気づいた。


 複数の足跡が、ガシャガシャ、たったったった、と聞こえて彼の耳に聞こえてくる。




 《勇者》アアアアアア《戦士》ゼツダイナル・ゴウソウ《モンク》テンプル・キシ・クールニャノ・エルサレム《大賢者》チビナノ――

勇者パーティーの登場だ――。



 〈勇者〉アアアアアアは、全速力で走りキュっ、と角を曲がった。


 身体を軽妙にひねり動かすと、すぐに再び走り出す。


 黄金に輝く豪奢すぎる鎧が、火に揺らめいて、夕日のような金色に光っていた。


 黄金の軽鎧は、火を反射させると、全身をあたためて彼を祝福しているかのようだった。


 〈勇者〉アアアアアアが叫ぶ。



「おい! ここだ! ここ! 魔王に先に辿り着くのは、俺が1番先だぜ! 早く来いよお前らもよ!!」



 他の3人のパーティーメンバーも遅れているが、全力で追いつこうと走った。



「俺が1番先だ!」



 〈勇者〉アアアアアアは、キョロキョロとあちこち視線を動かした。 



「さて、魔王はどこだ! どこにいる魔王!! また現れやがって! ちょっと前にリンチ&ぶっ殺しただろうが!!」



 魔王なる最弱な粘体は、その足跡と声を聞き、自分を助けにきてくれたのだと勘違いした。



 勇者が彼に向かって走り込む。


 そして、向かってくる人間の勇者に向かって、あろうことか叫びだした。


 自分がまさか駆逐されようとしている魔王だとはつゆ知らずにだ――。


 彼は必死に、



「おいここだ!!! 助けてくれぇ〜〜! なんか失敗した粘液状のスライ……」


《勇者》あああああは、ふとうんちみたいなものを見つめた。「ん!? なんだ!! 

なんで雑魚モンがここにいんだ!!」 


 

 そして、言い終わる前に、粘液状の身体が蹴られて吹っ飛んだ。



 勢いよく跳ね飛ばされ、ものすごい勢いで身体は宙を舞っていく。



 宙空で何回転もしてぷるぷると回りながらかなりの距離を飛ばされた。



 そして、やがて地面にべしゃりと落ちると、うげェァ、と情けない声を上げた。



 それからも、勢いは止まらず、展延性の体がべたべた、と転がっていった。



 彼は、"ダメージ"という不思議な感覚をはじめて感じとる。



 それから、潰れた巨大プリンのような姿になって止まった。



 壁のある端まで、勇者のサッカーボールキックで吹っ飛ばされてしまったのだ。



 アアアアアアは、蹴り上げた腑抜けたモンスターが、まさか勇者が倒すべき宿敵、《魔王》だったとは、思わなかった。



「きっしょ! なんだアレ!? 雑魚には用はねぇんだよ! 俺は魔王に用があんだよ!!」勇者は吐き捨てるように言い放った。



 戦士と大賢者とモンクが、遅れて魔王城――魔王の間にたどり着く。


 〈戦士〉ゼツダイナル・ゴウソウを一番前にして、その後ろに〈モンク〉クールニャノと〈大賢者〉チビナノが走り続ける。



 《戦士》の全身甲冑のゴツい武者鎧がガシャガシャと鳴った。


 

〈大賢者〉チビナノは、7、8歳ぐらいの背丈の子供の女の子のようだ。



 彼女は、《モンク》クールニャノの裾を掴みながら、てくてく、と走っている。



「アアアアア! おま! この前の前みたいに、出会って5秒で即殺しはなしだかんな〜」〈戦士〉ゴウソウ・ゼツダイナルは、アアアアアアに叫んだ。


「おっかしなの~。伝説の勇者パーティーが集まったら魔王は死んでましたー! おっかし~なの~。

 ねぇねぇニャノ~! 今回の魔王はどんなんだろ!? ねぇニャノ! どんなんかな~!? わくわくするね~!」


クールニャノがクールに答えた。「気色の悪さとスキルは、毎回毎回あいつらユニークだからなぁ……でもわくわくはしねぇなぁ」


「えーしないのー! チビナノだけの思いなのっ……! がーんっ!」チビナノはムンクの叫びのポーズをした。



 戦士と大賢者とモンクは、勇者に追いついた。


 〈勇者〉アアアアアアは両手を腰に当てて大威張りで言った。



「ははは、遅ぇな! 俺が一番のりに魔王の玉座に辿り着いたぞー。

 出会って5秒で即殺しをやりたかったが……いねぇ!

 魔王がいねぇぞ! 

 どうなってんだ! チビナノ! 魔王はここにいるで間違いないんだろう!!」


「魔王出現は特定の波動を出しているのですよ。それは冒険者では察知できないし、勇者のパーティーである大賢者チビナノでなければわかりません。

 ここで間違いありませんよ?」チビナノは、わざと、往々しく、敬語で言うと、宝石の飾りがついた豪奢な黄金のダテ眼鏡をくいっ、と上に上げた。



〈勇者〉ああアアアアアをリーダーとする4人のパーティーは、きょろきょろとせわしなくあたりを見渡した。



 4人は、ふざけたような金ピカの格好をしていた。


 その様は、まるで子供が金ピカ格好をして、おままごとをして遊んでいるようにも見えるのだった。



「いねぇな」


「いない」


「いない……これ見えない系のあれなの?」




 伊藤和士火は、「……今、勇者のパーティー……とか言ったか……???」と小さな声でつぶやき、柱の影のところで彼らの様子をそろりと伺っていた。

 

 しばらくすると彼は「ああ、ああああ」と恐れにも似たおののきを発声しながら、驚愕した眼差しで彼らを見つめた。



 彼ら4人の容姿を見て唖然としたのだ——。



《勇者パーティー》は、9歳から11歳ぐらいのまだ子供のような容姿をしていたからだ――。



 第二次成長期前、思春期初期に入ろうとしているような餓鬼の姿――。



 ――ああ、なぜ彼らはこんなところに……、彼らはまだ幼さの残る子供じゃないか――なぜあんな格好を……???



 的を得ない彼の思い。



 《大賢者》チビナノは、小学校の低学年のようなまだ幼い少女の見た目をしていた。背がかなり低くのだ。

 

 勇者パーティーは、豪奢な装備をそれぞれがしている。



 驚くことに、彼らは、王族の衣装を着ているような、金ピカの格好をしている。



〈勇者〉アアアアアアは、黄金の軽鎧をラフに着こなしている。


 そこには、宝石が品良く装飾されていた。


〈戦士〉ゴウソウ・ゼツダイナルは、黄金の全身甲冑を装備している


〈大賢者〉チビナノは、特に変わった格好をしている。


 美しい少女で、目が垂れている可愛らしい顏貌――。


 でんと乗ったフクロウのメイス――。


 ピュアスノーに輝く賢者ローブには、繊細な色をした豪奢なもこもことしたマントを羽織っている。


 黄金と宝石で輝く、可愛らしい小さな賢者という出で立ち――。


 そのマントの裏地には、なんとも立派な装飾までなされている。


 それに加えて頭には大きな黄金のリボンがちょこんと乗っている。


 そして、黄金の伊達ダテメガネ。


 そんな派手で黄金な彼女の姿だが、不思議と7、8歳の子供みたいな見た目と調和して美しかった。



 チビナノは、大きめの丸い黄金の伊達メガネを、クイ、とわざとらしく上に上げた――。



〈モンク〉クールニャノも違った意味で変わった姿をしていた。


 彼女は、動きやすそうなミニワンピースのような黄金の拳法着を着ている。


 その拳法着には、小さな宝石がかわいらしく宝石箱のように散りばめられている。


 その姿は、決して下品ではなく、むしろおしとやかだ。


 クールで静かでかっこいい彼女の容姿に加えて、黄金の可愛らしい拳法着の姿だ。


 髪型はハンサムショートで、スペースグレーの髪色をしている。


 それがとてもクールで、彼女のツンとした容貌に合っていた。


 


 彼ら装備一式は、王族の着る衣装よりも豪奢にでき、また強そうで、

 ――かつ品が良く見えた。


 加えて彼らの武器もまた、煌びやかで、キンキンピカピカに目立っているのだ。



「嘘だろ…………?」伊藤和士火は小さく、無意識につぶやいていた。



 何も理解していない、伊藤和士火の蠢く粘体。


 そのちぐはぐでおかしな目は、彼ら4人を見つめていた。



 自分のおぞましきモンスターの身体を忘れながら観察していた。



 人間だった時のように……ただ、純粋なる興味を持って……。



 


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