I / 『弱強』
粘液状の身体が、右へぐしゃり、と傾く――。
その姿は、固形型のグミのようなスライムを溶かして崩したかのような異様な姿だ。
ふと、ほのかに、その不定形な体に不可思議な色が付きはじめる――。
生命のなかったはずのその粘液状の体に生気が宿っていく――。
崩れた粘液状の身体がたぷたぷと、溶岩が流れているかのように動きはじめた。
人間だった、その魂がゆらゆらと空中で揺らいでいる。
――その姿は、運命を受け入れられないというようにいやいやをしているようだった――。
だけど、観念したのか、
はたまた、強制的にも思えるが――魂がその奇妙な身体に根を下ろしはじめだした――。
異世界への、魂の転生――。
淡々と粛粛と、人間だった魂が……。
そして、この世界のシステム――世界の声が、まだ意識のない彼に響く――。
それはまるでRPGのゲーム、そのものかのようでいて――機械的な無味乾燥的な声だった――。
<<伊藤和士火はレジェンド職業1魔王と職業2古の粘液状生物《ネオ・インフィニット・エルダー・ウーズ:ゼノ》】に転生をした。】
彼は、この世界で最強種と呼ばれるレジェンド職業《魔王》として転生を果たした。
しかし、生まれ落ちて、すぐに”呪いのスキル”が発動される。
それは、この世に彼が課された『運命』――。
再び、世界声が、彼の意識に響いた―。
不快な絶望的な音が流れる。
<<呪い効果が発動された。伊藤和士火は進化1に退化した。
<<呪い効果が発動された。伊藤和士火はレベルが1に下がった。
<<呪い効果が発動された。伊藤和士火は【絶滅系譜】古の粘体に退化した。
<<呪い効果が発動された。伊藤和士火は【特殊能力】古の老魔王の加護、絶望の衣、魔王氣の暴虐、闇核、常闇の化現、暗黒不滅、闇眼を失った。
<<呪い効果が発動された。伊藤和士火は【状態異常耐性】を失った。
<<呪い効果が発動された。伊藤和士火は【武器タイプ耐性】斬撃、刺突、打撃、射撃、魔法を失った。
<<呪い効果が発動された。伊藤和士火は【属性耐性】火、氷、風、土、雷、水、氷、闇、冥府、光倍加、聖倍加を失った。
<<伊藤和士火は【称号】を獲得した。
<<伊藤和士火はレベル1および魔王、古の粘液状生物(ネオ・エルダー・ウーズ:ゼノ)の職業により【称号】を獲得した。
<<伊藤和士火は【称号】『レベル1の最弱魔王』を獲得した。
<<伊藤和士火のステータスが開示された。
【名前】 伊藤和士火
【職業1】 魔王
【職業2】 古の粘液状生物《ネオ・エルダー・ウーズ:ゼノ》
【レベル】 1
【系譜】 魔王
【系譜2】 古の粘体
【属性】 闇
【体力】 227
【魔力】 212
【攻撃力】 139
【防御力】 82
【素早さ】 35
【賢さ】 111
【運】 64
【スキル】 十二転再誕の黒神龍、核細胞オーバーロード、簒奪のビック・バン、消化ディープラーニング、次元の魔王城と古の老魔王、異世界転生初心者サポート
【耐性】聖属性倍加(極大)
【特殊能力】 闇の護神龍の後光(不死)、古の老魔王の加護、転生の魂、古の老魔王と最弱魔王の呪い、永遠変形体、全異世界語マスター、勇者パーティ全属性攻撃弱点(極小)、魔王城・魔王領域での全能力上昇と護神龍の効果大幅アップ、【状態異常】毒、マヒ、眠り、精神、クリティカル弱点(特大)、魔王氣エネルギー体、行動鈍化(特大)、最弱魔王進化の呪い(手足なし)
【称号】 レベル1の最弱魔王
【戦闘力】 100/99999
彼が背負ったこの世の二度目の人生は――
〈魔王〉でありながら、絶滅した最弱の〈粘液状生物〉――、
彼は、異形の王《9属性系譜王》を統べる魔王となるべくこの世界に生まれたのだ――。
だが……、しかし。
最弱の呪いとこれからの未来への不幸な3つの《変身》を課されながら、
彼の強靭な魂は、戦いの道――修羅道へと足を踏み入れる。
――――
この不幸な転生者は、前の記憶と経験を持ったまま――。
脆弱な、絶滅したモンスター、粘液状生物として――、
また、最強種であるレジェンド個体〈魔王〉として――転生を果たした。
そして物語が始まる。
彼の物語、
彼と、9属性系譜王とそして、勇者との物語が奇妙にもおかしくも、
幕が上がった。
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不定期更新です。