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だから俺は、諦めたい

 絵梨奈と絶交した翌日の昼休み。

 俺は食堂へ行こうと席を立った。


「あれ、リュウ君どっか行くの?」


 いつものように絵梨奈の席に移動していた遥が首を傾げた。


「ああ。食堂にな」

「学食? お弁当はどうしたの?」

「今日からなし」

「へ? うーん……」


 遥はあごに手を当てて考えるポーズを取ると、今度はポンッと手を叩いた。


「じゃあ明日からは私が作ってきてあげようか?」

「まじで!? 超助かる! ぜひお願い――」


 その瞬間、俺の声を吹き飛ばす程の勢いで、絵梨奈がバンッと机を叩いた。


「遥。ほっときなさいってそんなアホ猿」


 冷たい声で絵梨奈が言った。


「お弁当くらい自分で作れるようにならなきゃ」

「他人なんじゃなかったのか? 今は俺と遥が話してるんだ。部外者が邪魔しないでくれませんかね」


 絵梨奈が顔を上げて、俺をキッとにらんだ。


「あんた死ねば?」

「なんだと、おい」

「ストップストーップ!」


 今にも掴みかかりそうな俺と絵梨奈を、遥が慌てて止めに入った。


「また喧嘩したのぉ? 勘弁してよぉ……最近やっと仲良くなってきてたのにぃー……」


 絵梨奈がそっぽを向いた。


「別に、そんなんじゃないし……」

「もう! まあたしかにリュウ君も、自分でお弁当くらい作れるようにならなきゃね。とはいえ急には可哀想だし、作れるまでは私が作ってあげるよ」

「いや、その必要はないぜ!」


 と、突然俺達三人の会話に同じクラスのアホが割り込んできた。


「おいおい、アホとはなんだ」

「当たり前のように心を読んでくるのやめてくれない?」


 アホ――別名野立(のだて) 亮也(りょうや)。クラス一番のイケメンでムカつくほどの女たらし。

 中学の時に隣の席になり、そのままなんとなく話すようになった。要するに腐れ縁だ。俺と一緒にいることが多い分、自然と絵梨奈や遥とも話す機会が増え、当たり前のように仲良くなった。


「てことでせっかくの好意悪いな。こいつはしばらく俺と学食だ」

「お前、彼女はどうしたんだよ彼女は」

「そうだよー! 最近めっきり合わなかったくせに、いきなりそれはないんじゃない?」


 あれは三か月前。いきなり「俺彼女と飯食うことになったから。今日から一緒は無理だわ。わりいな!」と言って、先輩のクラスに走っていった。


「いやあ、それがついさっき別れちまってさ。いつもはお前らに合わせてコンビニ弁当だったけど、竜太郎も弁当ないなら二人で学食もいいよな」

「いやまあ、別に問題はないけど……どーせすぐに新しい彼女作るだろお前なら」

「いや、そういうのはしばらくいいや」

「あーそう」

「てことで二人とも、竜太郎はもらってくぜー!」


◇◇◇


 食堂はすでに、ほとんど満員状態だった。


「まあちょっと遅れちまったしな。おいどうする?」

「まかせとけって」


 亮也はそういうと、女子のグループへ近づいた。

 と思ったら、少し話したのち女子たちが目をハートにして席を離れていった。

 亮也が俺を見てサムズアップする。


「お前、恐ろしいな……」

「なんだよその化け物を見る目は」

「いや、どっちかっつーとケダモノだよお前は」

「失敬だな! せっかく席取ってやったのに」

「まあいいや。お昼休みの終わりもある。とっとと食おうぜ」


 学食一番の人気メニュー、唐揚げ定食をを持って、俺達は席に座った。

 

「要するにお前はさ、女の扱い方がわかってねーんだ」


 飯の途中でうっかり絵梨奈と大きな喧嘩をしたことを話してしまい、そのまま相談するような流れになっていた。


「お前に言われると無性に腹が立つな」

「本気で言ってんだって。今はまだなんとかなってるけど、絵梨奈は生活の要だったんだろ? 絶対大変だぞ後々」

「いや、そんな理由で仲直りするってのもどーなんだ」

「んなこと言ったら、案だけ喧嘩三昧だったくせにいつも一緒にいた今までの方がおかしいぜ」

「それはそうだけど……」


 別に喧嘩だってしたくてしてるわけじゃない。

 あいつは彼氏もいて、俺のことなんてたまたま家が隣で幼馴染なだけの嫌いな奴一号くらいにしか思ってない。そのくせに変なところで律儀で必要以上に俺の近くにいて、いつも俺ばっかりドキドキして、あいつの匂いとか、声とか、顔や体。表情の一つ一つ。でもあいつは嫌そうな顔で。

 それを見るたびに脈はないって。なんども諦めようとしてるのに。

 それなのにあいつは、そんな気微塵もないくせに近づいて、諦させてくれなくて。

 そんなとこがどうしようもなくムカついて、気づいたらいつも喧嘩腰で話しちまう。

 諦めたいんだ。叶いもしない恋なんて、とっとと忘れたい。

 だからもう、俺に話しかけてくるな。俺に近づくなって…………あれ?


「そ、そもそも! 仲直りしたいなんて思ってねーから!」


 そうだ。むしろ今の状況は長年の目標が達成されて、ラッキーなくらいで。俺もやっと前に進める。

 …………それなのに。

 くそっ

 胸の奥がぎゅっと締め付けられるようだ。

 これでいいはずなのに、どうしようもなく苦しい。

 ちくしょう。近くても、遠くても、たとえあいつに彼氏がいたって、どれだけでも意識して、どこまでも好きだ。情けないくらい、好きで好きで仕方ない。


「あのなあ……」


 亮也がため息をこぼして言った。


「お前らの感じが悪いと一緒にいる俺や遥まで気まずいんだって。仲良くしろとは言わねーけど、せめて普通に話せるくらいになってくれなきゃ困る」


 なんつー自分勝手な理由。


「でもまあ……そうだよなあ」


 亮也はどうでもいいが、遥に迷惑をかけるのは気が引ける。

 とわいえ俺にも、譲れない理由があるし……。


「それに、俺結構好きだったんだぜ」

「何がだよ」

「お前らの喧嘩」

「それなら今してるだろ」

「そうじゃねーよ。……そうじゃなくて、お前らの、なんつーか息の合った言い合い。喧嘩するほど仲が良いみたいな。今みたいな険悪なやつじゃなくてな」

「別にそんなんじゃ」

「わかってるわかってる。けど、俺からすりゃ、見てて飽きないっつーか、気に入ってたの。この三か月でなんど恋しくなったことか……。だからな、お前らには仲直りしてもらう必要がある」

「いやだから俺は…………、というか、仮にするとしてもどうやってだよ」

「だから言ったろ? お前は女の扱いがわかってねーって。慣れが必要なんだよ。……てことで、今日合コンセッティングしといたから!」

「結局それかい!」


 肩がずるっとなったわ。ずるっと。


「ていうか、お前しばらく彼女はいいって言ってたじゃねーか」

「お前アホだなあ。合コンは彼女作りとは別。純粋に女の子と遊ぶためにあるんだぞ」

「そんなセリフが適用されんのはお前みたいなモテモテなやつだけだよ。俺は行かねーぞ。そんなめんどくさいとこ絶対嫌だからな」


 ムカつくやつだ、ちくしょう。


「相手は他校なんだけどよ、なんかめっちゃ巨乳な子もいるんだって」

「任せとけ相棒」


 今は絵梨奈を諦めるのが最優先。じゃなきゃ仲直り何て無理。

 そのために、新しい恋をするってのは悪くない考えだ。うん、絵梨奈を忘れるためにも、俺には何か出会いが必要だ。つまりこれは俺が前に進むための第一歩。

 決して、巨乳に釣られたとか、そういうんじゃない。今は真面目な話をしてるんだ、すぐ茶化そうとするな、いい加減にしてくれ。


 そして放課後。

 カラオケボックス内。


「美崎絵梨奈です」


 恐ろしく冷たい目で俺を見ながら自己紹介をする絵梨奈が、俺の目の前の席に座っていた。

 いやなんでいるんだよ、お前……。



新キャラです

ラブコメには欠かせない主人公の友人ポジです。

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