EP92 そうだ 俺達は<神隠し> に遭っていたのだ! そう言う事にしよう *
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_____転移
第29日目 日本時間推定 8月29日 午前11時45分
俺達を乗せた<ピーピング・トム号> が、異世界ジャーブラ島の青空に向かって発進すると、やがて次元転移ホールを展開するカウントダウンが始まった。
ポーン
アテンション アテンション
「皆様、転移ホールは間も無く開きます。そしてホールを潜ればそこはすぐ東京の上空となります。当機<ピーピング・トム号>はステルスモードで、裏飯神社の森の上空に滞空した後、優雅さん達とアンドロイド4体、おまけのヘドラー糞ジジイを反重力エレベーターで降りてもらう予定となっています。ではシートベルトの着用をお願いします」
ポーン
この<ピーピング・トム号>というのは、ステラさん達がジョセとプレアの妹二人を捜索する為に、銀河宇宙の業者からレンタルした探索宇宙船なのだ。そのナビアンドロイドである筈のアイリーンまでが東京に残るのは、俺としてはどうかと思うのだけど、アイリーンの決意は固かった。
「優雅、いよいよ異世界ともお別れね」
そうだね
「プレイアデスのCAさんよ、尿漏れ用アテントはあるのか?」
「ある訳ないでしょ!」
「リーダー、後ものの15分もすれば、あたし達は懐かしい裏飯神社の森の中だわさ」
「日本の東京という町は......異世界人のあたしには想像がつかないわ」
「メーダ、町なんかじゃないよ。そこは大都市だからね」
エロフのメーダはエルフの里の異世界人。きっと東京を見たら腰を抜かすに違いない。
俺達が29日間過ごした異世界ジャーブラ島。名残は尽きないけど、地球人で日本人の俺達は、元の世界に戻るのが普通なのだ。次女ペロンが泣きながらカウントダウンを始める声を、俺は複雑な思いで聞いていた。
5・ 4・ 3・ 2・うわ~ん
「出てよジャンプホール! うわ~ん」
「それ、魔法の詠唱なの?」
すると今まで青空だった空間に、漆黒の渦が現れたかと思うと俺たちの宇宙船が、まるで水洗便所の水流の渦に、うんこが吸い込まれていくように突入していった。
それなのに振動とか音とか、そんなものは一切感じなかったが、すぐにまた青い空の中に居る事が分かった。
ポーン
「グス、皆様、只今東京上空で御座います。間も無く滞空態勢に入りますので、御準備を......お願いしたくは無いのです」
早かったけど複雑。
そのアナウンスに、俺は自分の持っている三種の神器を確認した。
「あるある、シャークテック・ナイフにOasio Z-shock腕時計、十徳ナイフ......お前達がなかったら俺達は帰れなかったかもしれないな」
三種の神器
俺があの異世界に転移した初期は、サバイバル生活で随分と助けられたものだ。
「ふ、ココナッツとか、バナナ定食とかマンゴーとか......懐かしいな」
「それにしても優雅、その小さなナイフが伝説の<天空の剣>だったなんてね、それに勇者様だったなんて、今でも信じられないの」
「レイ、お前だって伝説の<ファイアードラゴン>をブチ噛ましたんだぞ」
あれね、あは。
「あたしは<Absolute Zero>だわさ」
「<エクストラ・ボウ>最高だったわ」
これらのスキルは、異世界ジャーブラ島に別れを告げた瞬間、二度と使う事は出来なくなっているのだ。
俺たちのスキルは消失し、ここに居るのは普通の? いや超絶ハーフ美少女のレイとラン、メーダとジョセはそのままだが、俺だけはクラスで変人と言われた高校生に戻っている。無論、股間のモッコリも復活していて、もうハーフの美少女ではない。
ポーン
「み、皆様、裏飯神社上空で御座います。優雅さま.....超名残惜しいのですが、プレイアデス六姉妹は、これにてお別れで....御、御座います」
グスン ぁあぁん バカぁ
見れば長女ステラさんを始め、六姉妹は全員嗚咽を上げて頬を濡らしていた。
「ジョセ、お前は本当にいいのか? プレアデスに戻らなくても?」
ジョセフィーヌは、1945年以降ずっと南極の秘密基地で暮らしていたのだ。それにヘドラーの<新たな世界征服>であるロックバンド"The Cutie Bunnies" の一員という自負を持っている。
「あたしは残るの。心配しないで皆。私達 "The Cutie Bunnies"の活躍を、プレアデス星団から見ていて。あたし、がんばるから」
長い間ジャーブラ島に転移し、冒険者ギルドで生活をして来たプレア自身も、本当はユウガ様について行って残りたかったのだが、自分が残ると言い出せば、他の姉達も残ると言い出し兼ねない。その為、心に楔を打つが如く耐えたのだった。
『ユウガ様......わたしは出会ったその日からずっと」
おぇ おぇ
汚い嗚咽が聞こえて来たかと思えば、その発生源はヘドラーの糞ジジイだった。
「なんと、なんと涙を誘う姉妹の別離、だが心配は無用じゃプレイアデスの方々よ。私が全身全霊エロく"The Cutie Bunnies"を世に送り出し、必ずや銀河宇宙にも轟く程の超人気バンドにして見せる。あ、活躍は後でYoutubeで見てくれればよい」
はぁ?
汚い糞ジジイのせいで、姉妹の涙と感動の別離に水を差してしまったが、やがて反重力エレベーターの降り口が開いた。
ヴゥゥゥン
「ではプレイアデスの皆さん、お世話になりました」
俺が頭を下げると、レイ、ラン、メーダとジョセも俺に続いた。
アンドロイド組も頭を下げ終わると、俺を先頭に反重力エレベーターで地上に降下していった。
東京の懐かしい地上に降りて空を見上げると、ステルス状態の<ピーピング・トム号> が一瞬姿を現し、そしてすぐ視界から消えてしまった。
「優雅、今のは別離のつもりなのね」
あぁ、きっとそうだ。
見慣れていた筈の裏飯神社の森は、随分と懐かしい匂いがする。そして俺達の服装が、ユニケロのパーカーを着ている事を改めて確認するのだった。
「さぁ帰ろうか、まずは俺の家で休憩しようぜ。レイとランは俺の両親は知っているけど、総統とエルザ、バンジョにアイリーン、エマをどう紹介したらいいんだろう。これは頭が痛いよ」
「ふんリーダー、そんなの簡単じゃん。あたし達は29日間、森で<神隠し>にあってて、同じように<神隠し>になってた人達だって言えば」
そんな馬鹿な!。
ランのボケた話に俺は閉口したが意外にもレイが。
「それ、案外いけるかもよ。超常現象なんて解明出来ないんだから、この糞ジジイさんも時空の迷子だったので連れて来たと言えばね」
IQ200のレイが、こんな誰にも信じて貰えない話を肯定するなんて。しかし他に説明しようが無いのも事実なのだ。
「まぁ後で谷敏太郎先生とか、追矢純一先生にゴリ押しして貰うと言う手もあるか」
そんなハッタリが通用するのかと思案に暮れながら、裏飯神社から俺達は徒歩で、我が家に向かって歩き出した。
______東京時間 午後1時。
「只今ぁぁ、母ちゃんに父ちゃん、優雅だよぉ。腹が減ったから飯頼むわ」
その声を聴いて、ミサイルのように飛び出して来た母亀代と、父鶴吉の驚きと喜びは、今まで見た事がなかった。
「優雅、本当に優雅なの?」
「お前が本物の息子なら、俺の趣味を知っている筈だ。それを言って今すぐ証明してみせろ」
「なんだよ、俺が宇宙人か幽霊で詐欺師だとでも? だけどアレを言っていいのか? 母ちゃんにバレると血を見るぞ」
「構わん!」
「エロビデオ」
あ、あんた!
「よし間違いなくお前は息子の優雅だ。大勢いるがまず居間に上がってくれ」
俺の後ろには、死角になっていたレイとランが続いて立っていた。
「あぁ! あなたぁ、行方不明だった優雅の嫁! レイちゃんとランちゃんも居るわ!」
「義理父はずっと待っていたんだよぉ!」
エロビデオで一瞬怪訝になった空気が、レイとランの顔を見た瞬間、我が家はバラ色の空気に変わった。レイとランは、夢野家のお家断絶を救う救世主の嫁なのだ。
そしてヘドラーの糞ジジイの顔を見た途端、バラ色の空気がうんこ色に変わるのを俺は見てしまった。
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______事情聴取
行方不明事件として、警察やら地元捜索隊には、レイも賛同した神隠しだったと、全員が口裏を合わせた結果、超常現象研究家の敏太郎先生や追矢先生のリモート会話で、なんとか事は収まってしまったのだった。
その日の午後6時。
警察や新聞、テレビの取材陣がようやく帰ると、夕食を終えてからまたヘドラーが俺の部屋に沸いて来た。
「少年優雅君、いよいよ私の<新たなる世界征服>を始める時が来た」
糞ジジイヘドラーの目は、興奮して千葉真一いる。
「あのな爺さん、俺の部屋は6畳なんよ。あんたはどこかのビジネスホテルを探して、出て行って欲しいんだけどさ」
「そうね、ビジネス! それがいいわ糞ジジイさん」
レイの本音は、優雅の部屋で二人だけになってイチャつく計画であり、そこに糞ジジイとIQ200も無用である。
「まぁまぁ、今からでは遅いから、居間で皆さん休んで下さいな」
ゲェ
『嘘! やめてぇ』(レイ)
母亀代は何も知らない。俺達がこの糞ジジイと闘って世界を救った事を。
しかしなんだかんだ言っても、今日はもう寝て明日考えればいいのだ。
8月末では、クーラー無しでは居られない。
「ヘドラーを叩き出して野宿させるのも後味が悪いかもな」
俺の部屋で散々今後の話をした後、寝なくてもOKのアンドロイド組とヘドラーは、居間にすごすごと戻っていった。
「......で、レイとランなんだけどさ、家に帰らなくていいのか? 両親が心配してるぞ」
俺の返事にレイとランは、言いにくそうに口を開いた。
「「でも~、だぁって~、いつも優雅の腕枕で寝ていたのよ、わたし、あたし、枕が変わると寝れないの」
「よさ」
「なんだ、それならあたしだって、優雅くんの腹の上で寝たい」
レイもランも、メーダまで無茶な事を言い出した。
「そんな所を亀代や鶴吉に見られたらどうすんだよ」
ふふん
その言葉にジョセがニヤリと笑って、次のようにほざいた。
「IQ 500のあたしに不可能は無いのよ。この部屋に優雅くん一人が寝ているように、偽ホログラムを投影して、おまけに結界で音と振動を出さないようにすれば....全く無問題だわ」
「ジョセ、お前もか」
「なんであたしだけ!」
忙しくて疲れ切った俺は、全てを明日に丸投げして、異世界でそうして来たように、腕枕と腹枕をして眠りについた。つこうとした。
「こんなんで眠れるわけないだろうが!」
目まぐるしかった今日と言う日は、明日という日にバトンを渡す為に終わろうとしていた。
きっと明日はもっと過激な日が待っている事だろう。




