EP9 レベル0の初戦 *
<<転移>>
______第8日目 推定8月8日 午前8時過ぎ
朝飯はいつものバナナ定食に戻った。しかし俺はホタテパワーのお陰で力が沸いている。閻魔帳のHPは、相変わらず10のままだ。
「レイのお陰だよ」
「そ、そう よかった」
何か視線を合わせないレイに、今日の作戦を話す。
「レイ、1時間休憩したら、作戦どおりこのベースポイントから内陸へ300m入ってみよう。今日は様子見、無理に戦わなくてもいいから」
俺はそう言うと自分の装備を確かめた。
ユニケロ パーカー上下OK
グレイキャップOK
軍手 OK
トレッキングブーツ OK
携帯食バナナ2本入りウェストバック OK
肝心のシャークテックナイフ OK
VICTORINOX 十徳キャンパーナイフ OK
背負い式に改造したペットボルト1本 OK
HP10......「不安だ」
俺の装備は整った。レイはと言うと
ユニケロ パーカー LV1 OK ね
ウイッチ用皮グローブ LV1 OK よ
トレッキングショートブーツ OK で
ユウガ特製 流木のスタッフ兼 槍
HP10 MP2
「わたし こんな ところ」
「じゃあレイ、軽くストレッチを済ませてから行こう。ブーツの紐は緩んでいないか、ちゃんと確認する事」
うん わかった
「万が一の事を考えて、木の先端を削った槍を作ったんだ。レイはこれを持っててよ。丸腰じゃ危険すぎるからさ」
形の良い流木を利用した簡単な槍の頭部は、なんだか丸く渦を巻いていて、亀仙人が持っている杖と良く似ていた。レイは魔法使いなので、取り合えずスタッフ代わりと言った所だ。
「ありがとう......でも」
そっけない返事だったが、それでも感謝してるのだろうと思い、俺たちはまったりとした時間を過ごした。
「ボンジュール 閻魔帳!」
レイが突然閻魔帳を呼び出した。
「しかし俺の呼び出しとは違う」
......あっ これ!
「Ciao!(チャオ )閻魔帳」
閻魔帳を閉じたレイの顔が、少し微笑んでいた。
「閻魔帳を閉じる時、俺のはミートグッバイだぞ! 同じじゃねぇのかよ。ジョセフィーヌの狸ばぱぁ、使えねぇな!」
「ユウガ 聞いて わたし 攻撃力 スタッフ兼 槍 LV1 戦える」
予想もしなかった話だが、これは吉報だった。何しろ俺の攻撃力はLV0 のトーシローでケンシローではない。それなのにレイは、俺の作った槍を持たせただけでLV1になったのだ。
「なんだよ。レイは俺より強いじゃん。南斗水鳥 の ......あ、いい何でもないから」
「これも 内助の 功」
「またまた内緒の項って、俺も閻魔帳で確認出来るんだからさ」
「ユウガ バカ トンチンカン」
出がけに、ちょとしたボーナスと罵声を同時に貰った気分だ。
「じゃレイ、行くよ」
「うん 後ろ 任せて」
こうして二人はベースポイントから内陸に向けて歩き出した。
無論、俺は右手にシャークテックナイフを握っている。
ガサ ガサ
俺を先頭にして内陸へと向かう。
歩測でちゃんと300m以上にならないよう、カウントしながら細心の注意を払っている。
安全だと思っていた湧水ポイントは、小屋から50mの距離にあった。下手をすればモンスターと遭遇していたかも知れない。モンスターだって水は飲むだろうから。
ギャァ ギャァ バサバサ
上空では俺たちに気づいたのか、鳥が騒がしく鳴きながら旋回をしていた。
「鳥だ。あれがニワトリだったらな......」
「! ユウガ 前方 歩測外 20m 警戒!」
「鳥瞰図 モンスター表示 出てる LV1 一体」
「そうか、鳥瞰図には俺たちの居場所が出てた。それなら歩測外でも、近くに居るモンスターが表示されるのか! しかもLVまで! レイは凄いな! 礼を言うよ」
「レイ 後 任せなさい 言ってる」
「そういう意味じゃ。相変わらずのレイ語録かぁ?」
鳥瞰図の意外な使い方に俺は安堵した。
「これなら索敵出来る! 20mは余裕が無いが、モンスターの存在が事前に分かるのは、情報戦と同じだ」
「レイ、相手はLV1 しかも一匹だ。戦闘準備!」
Oui! ウイ!
俺は右手のシャークテックナイフに力を込めて握る。
そろり そろりと鳥瞰図を展開しながら前進すると、モンスターがこちらに振り向いた。
「チッ、気とられたか?」
「湧水 目的かも」
距離15m
「アレだ」
「定番の弱小モンスター、ゴブリンだ」
そのLV1 のゴブリンは、俺たちより小さい癖に緑色の体を揺さぶって、肩で風を切って歩いてくる。
「あれはチンピラゴブリンだな。グラサンみたいな目をして、俺たちにメンチ切ってるぞ」
チンピラゴブリンの武器はこん棒。当たれば威力はありそうだ。
「じゃぁレイ、作戦どおり俺が威嚇する。チャンスと見たらファイアーボールで。一発しかないから、ミスったら即退却、いいな」
「Oui 任せる!」
オウ オウ オウ
チンピラゴブリンは、口でオウオウと叫んでいる。
「あれが鳴き声なのか?」
「オウオウオウ 見かけねえ ツラ おまえ 俺の飯」
「チ、チンピラが喋った!」
これはとんだ盲点だった。ゴブリンには知能があったのだ。これはこの島が特別なのかも知れない。
俺はホタテパワーでゴブリンに接近、シャークテックナイフで威嚇する。奴もこん棒で俺を殺そうと、全力でこん棒を叩き下ろして来た。
GUEEEE!!
ドスゥ
こん棒はかなりの威力があると分かったが、重量がある分ゴブリンの動きは緩慢だ。
これなら、大振りなこん棒は避けられると判断した俺は、シャークテックナイフで距離を取りながらけん制、レイのファイアーボールを撃つチャンスを作り出す。
ゴブリンから湧水までが獣道である事が幸いし、俺がナイフでけん制すると、ゴブリンは真上にこん棒を大きく振りかぶるしかない。その動作が緩慢で、ゴブリンに大きな隙が出来た。
「レイ!」
と叫ぶと同時に、俺は身を屈めた。
「ファイアーボール!」
GuAAAAA!
絶妙の掛け合いで、レイのファイアーボールが、チンピラゴブリンの顔面にヒット! 毛の無い顔と頭がボウと燃え上がり、悶え苦しみながらチンピラは絶命した。
「やったなレイ!」
俺たちは初戦勝利で、歓喜の余りハイタッチ。
パシィ
「でも ユウガ ファイアーボール 倒せなかった ゴブリン 酸欠 死」
「まぁいいじゃないか、威力が無くても酸欠で倒せるなら、問題はないよ」
うん ありがとう
「それでモンスターってさ、倒すと装備だけ残して消滅するのが、ゲームのお約束だよな」
などと言っている間に、ゴブリンは煙のように消滅し、こん棒と魔石が一つ落ちていた。
「うわ~、これゲームそのものじゃん。こん棒は椰子の実割りに使えるけど、魔石はどうするんだ?」
______コングラチュレーション!
突然、聞きたくもない声が、俺とレイの頭の中に飛び込んで来た。
「ユウガ ジョセフィーヌ 沸いた」
「やぁおめでとう少年、初戦突破したね。閻魔帳でステータスを確認すれば、何がレベルアップしたか一目瞭然よ、私は説明しないから。では後はヨロピクぅ」
プツゥゥ
「言いたい事だけ言って、すぐ帰るな。まあイライラしなくて済むけどさ」
俺たちは、こん棒と魔石を持ってベースポイントに戻り、早速閻魔帳を確認する事にした。
「まずは初戦勝利、やったなレイ!」
では
「ヘロー 閻魔帳!」
「ボンジュール 閻魔帳!」
ふたりがそれぞれの閻魔帳を呼び出し、自分のステータスを確認すると
俺は
名前 夢野 優雅美 ? 16歳
称号 サバイバルナイフ戦士 LV1
HP 12 高校生レベル
MP 2
スキル 試行錯誤 LV1 もっと頭使うヨロシ
武器 舶来シャークテックナイフ LV1
防具 ユニケロ パーカー上下 LV1 軍手 LV 0
魔女の加護 ロック中
鳥瞰図 LV2
閻魔帳+
わたし
名前 北川 霊 超絶ハーフ美少女 16歳
称号 魔法使い xxxのx LV2+
HP 12
MP 12
スキル 無い物ねだりLV1+ ねだる物により消費MPが増減
武器 殴打兼用 ユウガ自作流木スタッフ 兼槍
防具 ユニケロ パーカーLV1+ ウイッチの皮グローブ LV1+
トレッキングショートブーツ
攻撃魔法 初級ファイアーボールLV1+ MP2消費
魔女の加護
鳥瞰図 LV2
アラビカ魔法 LV1
閻魔帳+
「おいちょっと待てよ。チンピラゴブリン一匹で、サバイバルナイフ戦士がLV1 になったり、HPとMPが2ポイント上がったのは理解出来る。だけどさ、俺の名前 バグってるじゃん! なんだよユガミってさ」
「ジョセフィーヌ タイプミス? ユウガ 興奮 また 声 甲高く なってる」
あーあー
「レイは確実にHP MP と無い物ねだりが LV1+ に上がっているよ」
「MP たくさんないと 意味 ない ユウガ MP2 何?」
「そうだよな~なんだろ。それにしても二人共防御力 低すぎじゃね?」
魔法のスキルを持っていれば、レベルアップごとに、MPの上昇率は上がるのだ。戦士はその分、HPの上昇が早い筈なのだが、二人はまだ駆け出しで、いろいろな裏事情を知る筈もないのだ。
「なぁレイ、ゲームだとさ、戦士は魔法使いよりHP 高いよね普通」
「ユウガ 低い わたし わからない」
「次にモンスターを倒せば、何か分かるかもな」
鳥瞰図を閉じようとしたレイが、何かを発見した。
「ユウガ 見て ギルド マーク 出た」
「なにを馬鹿なって、本当だ。益々ゲームだよ」
______「ジャ~ン、困ったときのジョセフィーヌちゃん 呼ばれて只今参上」
「呼んでねぇし、ジョセフィーヌの存在が俺には惨状なんだよ」
チッ
「丸投げはよくないと思って、情けをかけて出て来たらコレですか? 少年、美人な女性には敬意を払わなくちゃいけないよさ」
声しか聞こえないのに、美人かどうかわからない。ネットで自称アイドルだと言っているようなものだ。
「少年、島に冒険者ギルドがあるのよさ。そこで魔石を売るなりして、武器や防具も買えるって寸法。勿論、冒険者登録は必要だけどね~」
プツゥゥ
「また言いたい事だけ言って消えたな」
鳥瞰図を見ると、確かに冒険者ギルドのマークが点滅していた。これは鳥瞰図LV2のお陰だろう。
ギルドは4.5km ブロンズCDのあったポイントから、更に5kmほど 海岸線に沿って歩いたところで点滅していた。
「ユウガ いく?」
「うーむ まだ遠すぎるな」
ギルドを確認したいのは確かにある。しかし魔石一つを持って売りに行くのも、まだ早いのではないかと思案したのだ。
「魔石を10個くらい ゴブリンを10匹倒してからなら、俺たちのレベルも上がっている。それからでどう?」
「わたし ユウガ 一身同体、生きる 死ぬ 一緒 それでいい」
またレイが妙な事を口走っているが、弱小モンスター10匹を倒し、レベル上げをしてギルドに行くことに決めたのだ。
そして大事な事が分かった。
「冒険者ギルドって、じゃあこの島には人間が住んでいるんだ。無人島じゃない」
「そう 周囲 100km ある 不思議 じゃない」
「鳥瞰図LV1 では表示出来なかったんだ。なるほど」
人間が居ると分かっても、今まで誰にも会った事はないし、それらしいゴミなども見た事がなかった。唯一発見した物が ヘブシコーラのメール ボトルだった。
「しかしアレは......海から流れて来たんだし.......分からん」
明日もまた初心者用モンスターとの戦いになる。レイのMPはゼロ、昼飯と晩飯はいつものバナナ定食だ。
「レイ、明日は2匹でも挑戦して見るか。ファイアーボールが6発撃てるんだから試してみよう」
「3匹だったら迷わずエスケイプ、いいな」
うん
初戦勝利の余韻を味わいながら、俺とレイは眠ろうとした。
「ユウガ 腕枕」
と言って、レイがまた俺にしがみついて来た。
くんくん
『え~匂いやぁ~』
レイの気持ちも知らず明日に備えて、ユウガは今日も眠りについてしまった。
バカ