EP81 "Cutie Bunnies" 最後の闘い⑦ 1,000,000PSの<ザ・グレートヘドラー>*
ざばっ ざばぁ ざばっ
アンドロイドのバンジョが、泳ぎが苦手な事もすっかり忘れて、南極秘密基地から逃れて来た<虚ろ船型飛行体>に向かって泳ぎ続けている。
「マイ・マスターは、わたしが!! 」
ごぷごぷ
そう叫ぶバンジョのAIが思う事は、自分が何故もっと早くマスターと出会わなかったのかと悔しい思いで溢れていた。
「うん、それでもいい。手も握った事の無いあのマスターの為に死ねるのなら......それがわたしが作られて、今までこの世に存在して来た本当の理由......でもね、チューは......して欲しかった」
攻撃を免れた白く美しい浜辺では、バンジョをただ黙って眺めているしか無いヴィクトール、ゲッツ、ヴァルター兄弟達元四天王組は、今は全く無力な只の4人の男でしかない。
「せめて、俺の<マジンガーX> があれば......」
確かに総統ヘドラーの戦闘ロボット<ザ・グレートヘドラー> は、ヴァルター兄の<マジンガーX>が設計のベースになっている。
それを聞いたゲッツが、ヴァルター兄を睨んで吐き捨てた。
「馬鹿が忘れたのかイッヒヒ・ヴァルター(兄)、総統の<ザ・グレートヘドラー>は馬力だけでも <マジンガーX> の20倍の100万馬力だぞ。お前が出て行った所で瞬殺、何の時間稼ぎにもならん!」
ましてや、弟のマンナン・ヴァルターが作った合成生命体<キング・ゼリー>など、全く勝負にはならないことは明白だった。
くっ
むぅ
「ゲッツ、それはハンスも同じでは無いか! 奴のセニアカーでいったい何が出来る! 」
「落ち着け二人とも! 我々四天王に出来る事は......この状況を見届けるしか無いのだ」
二人に苛立ったものの、ヴィクトールは理解している。
『少年が抹殺されれば次は四天王の番か。せめて我々だけで済めば良いが』
ハンスのセニアカーが次第に小さくなって行くが、搭載している熱線砲が、<ザ・グレートヘドラー>の超合金で覆われた装甲に通用する訳は無い。それでもハンスは、バンジョの捨て身の行動で、彼女の熱い想いに胸を打たれたのだ。
『ちきしょー、アンドロイドの癖にいいカッコするじゃねぇか。バンジョ、私はお前ともっと話が出来たら良かった。そうならきっといい相棒になってたかもってな。続きはお前と天国ってのも悪くない......さて私も逝くか』
バンジョは常に格納庫の中であり、ハンスと会う事など殆ど無かった。もしもっと早くから出会っていたなら、バンジョの良い友人になっていたかも知れない。
特攻するハンスとバンジョ。それで総統ヘドラーの<ザ・グレートヘドラー>を倒せるとは誰も思ってはいない。しかし、何もせず優雅を見殺しには出来ない強い衝動が、一人と一体を突き動かしていた。
その衝動は浜辺で何も出来ずにいるレイ、ラン、メーダ、ジョセとプレイアデス姉妹の全身を貫いていた。但し、彼女達のものは、衝動よりもユウガを想う更に熱く強い愛だ。
ヴァルター兄には<マジンガーX>があるが、ヴィクトールは同じ搭乗型戦闘ロボット<クライン>が、ゲッツにも搭乗型ロボット<メビウス>がある。本来ならば、このロボットも総統ヘドラーが戦うより前に、ダンジョン内でユウガを始末する筈だった。
その2体もまた、ヘドラーの駆る<ザ・グレートヘドラー>のパワーには及ばない。
それら3体のロボットは南極の秘密基地格納庫に、秘密結社トゥーレ協会とヴリル協会のメンバーにより厳重に保管されており、その3体のロボに搭乗して異世界に逃げ込む事は、時間的にも到底不可能だった。
ハンスとバンジョの遠ざかる姿を見つめるヴィクトールの両目が、更に良く視界に収めようと細くなる。
そしてヴィクトールは思う。
「戦闘中にもしもなど無い。目の前の現実が全て! 超科学知識があっても、私はこんなにも愚かで無力だ。ふん100万馬力か、あんな化け物を総統ヘドラーの為に喜んで作っていた私とは......救いようの無い大馬鹿者よのぅ」
ヴィクトールはまた懺悔の心に打ちひしがれた。
科学知識とは、使い方次第で天使にも悪魔にもなる。目の前の100万馬力、無敵の<ザ・グレートヘドラー>は、四天王が作り出してしまった正に悪魔のロボットなのだから。
◆◇◆◇
キュイィィン
意識しか無かった俺の体が、銀色のモザイクタイルが回転して再構成されていく。やはり転移先は総統の<ザ・グレートヘドラー>の前だ。
「再構成した瞬間、俺はシャークテック・ナイフを振るう! 問題は距離」
優雅のシャークテック・ナイフは、レベルMaxにはなっているが実戦使用した事がない。果たしてどんな結果を生むのか、これはシャークテック・ナイフに全てを賭けた一発勝負だ。
対する総統ヘドラーの顔は、喜びに歪んでいた。
「ふふ、この瞬間をどれ程待ち侘びた事か。長年に渡って余の邪魔になる兎少年、今この場で余の悪夢を断ち切る! この距離なら <エマ>、まず右ストレートをぶち噛まし、奴を失神させてやる。後はじっくりなんとでも料理出来るからな! これぞ余の美学だ! 」
総統ヘドラーは勝利の瞬間を想像しながらも、一撃で仕留めようとはしない。少しずつ少しずつ、予言の邪魔者、優雅を弱体化して最後に美しくトドメを刺すつもりだ。
やがてユウガの体の、再構築が完成する。
「ふ、これを食らえ! 」
グゥゥオオン
そこへタイミングを狙った、<ザ・グレートヘドラー>の右ストレートが向かって来る。
「しめた近い! このロボットの間合いの中なら、シャークテック・ナイフが届く」
スキル<試行錯誤>が起動している為、優雅は次の行動の予測シュミレーションに移る。
「あの右ストレートが届く瞬間、レベルMaxのシャークテック・ナイフで右腕の関節を狙う! 頼むぞ、俺の三種の神器! 」
ユウガの三種の神器とは、サバイバル用のシャークテック・ナイフ、Oasio製Z-shock腕時計と十徳ナイフの3つ。文字通りナイフに生き残りを賭けた瞬間がやって来た。
右ストレートが顔面に届きそうになる頃には、俺の右手はシャークテック・ナイフを抜いている。
「右ストレートを間際で躱して関節に一撃を入れて右腕を使用不能にするんだ。これが成功しなければ、"Cutie Bunnies" はここで解散だ。問題はシャークテック・ナイフの威力にかかっている」
左手だけになった<ザ・グレートヘドラー>の攻撃力は必ず落ちる。
「死中に活を見いだせ! 」
足場の無い空中で、俺は<ザ・グレートヘドラー>の放った右ストレートに全神経を集中する。
勝機は一瞬、ユウガは全てをこの一瞬に賭けた。
◇◆◇◆
浜辺では、時間的な矛盾を抱えながらも、アイリーンが5セットの反重力バック・パックを両手に抱えて急ぎ運んで来ていた。
どさ どさ
砂浜にアイリーンが降ろすや否や、レイがその1セットを掴んで叫んだ。
「この反重力バック・パックはわたしが使う!」
レイがそう言うと、すぐに反重力バック・パックを背負って振り返る。
「ランちゃんとメーダ、あなた達もお願い」
「「もちろん!!」」
「ちょっと、あたしだって"Cutie Bunnies" のメンバーなのよ! あたしも飛ぶわ!」
声を荒げたのは、戦力にはならないがジョセもチーム"Cutie Bunnies" の参謀なのだ。これにはレイやラン、メーダに異論はなかった。
アイリーンが急ぎ運んで来た反重力バック・パックは全部で5つ。
「残った一つはユウガに! それはわたしの役目! アイリーン、あなたはバンジョの自爆攻撃を、なんとしても止めさせるのよ!」
レイの口から、参謀役のジョセよりも早く的確な指示が飛んだ。
「先に行くわ! 」
スゥゥオォォン
レイがユウガの為に、反重力バック・パックを掴んで飛翔して行く。
「あ、あたしも出る!」
「行くわよラン!」
スゥゥオォォン
スゥゥオォォン
レイの残した見えない航跡に、ランとメーダが追随して飛んで行く。
しかしその瞬間。
ズガァァァン
100万馬力のパワーは大幅に抑えているだろう<ザ・グレートヘドラー>の右ストレートが、ユウガに炸裂した閃光を伴う爆音が響いた。
「ユ ユウガぁぁ! 」
「リーダーぁぁ! 」
「何て事! 」
「ユ ユウガく ん! 」
美しい南国の青空には到底似合わないレイ、ラン、メーダ、ジョセの絶叫が空しく響き渡った。




