EP78 幕間 加護者レイママVS加護者ランママ *
異世界ジャーブラ島へ、総統ヘドラーが駆るスーパーバトルロボット<ザ・グレートヘドラー>が転移して来たその頃、夢野家では一騒動が起きていた。
「あなた、それでどうだったの? 優雅は裏飯神社の森に居たの? 」
「亀代......それがだな」
今までサバイバル修行に寛容な態度をとって来た父鶴吉でも、息子の安否が確認出来ない事で、後悔の念を捨てきれない。
「亀代、どこを探しても優雅は......見つけられなかった。神社の社務所でも、パーカー姿の高校生は見かけていないと、バイトの可愛い巫女さんや、禿げ上がった宮司さんもそう言っていたよ」
「そ、そんなぁ。禿げた宮司さんまでが! あなた、 私達これからどうすればいいのよ! 」
世間では変人と言われていても、大事な一人息子である。その息子が行方不明とあっては、いつも脳天気を誇る亀代でも平静ではいられず、鶴吉の胸倉を掴むと正拳をドスドス叩き込みながら泣き叫んだ。
せりゃぁ! はぁっ! ひぇ~ん
ぐはっ
「わかったから亀代、わかったから ぐはっ 南斗正拳は止めろ」
もうこうなっては、父鶴吉も只事ではないと、やっと警察に捜索願を出す事にしたのだ。
「夏休みはもう終わると言うのに、あの馬鹿息子はいったいどこに居やがるんだ。俺はひょっとして息子に甘すぎたのか? 」
鶴吉と亀代が近所の交番に駆け込むと、警察から事情をいろいろ聞かれ、そこで警官の口から更に深刻な話を聞く事になった。
「夢野さん、あの裏飯神社では息子さん以外にも、二人の女子高校生が行方不明になっていましてね、夏休みが始まって数日後に捜索願いが出ているんです。これは息子さんの行方不明と関係があるかも知れません」
警察の言う関係とは、恐らく何らかの事件に巻き込まれた可能性を指しているのだろう。交番に居合わせた刑事の目が、獲物を狙う鷹の目ように鋭く光った。
これが事件なら、猟奇殺人事件の可能性も捨てきれない。
『優雅と二人の女子高校生の遺体が、トランク詰めにされた土の中から! 』
そう思うと、駆け込んだ鶴吉と亀代の背筋に、氷のようなぞっとする悪寒が走った。
「あなたぁ......優雅は 優雅はもしかしたら......」
「落ち着け亀代、連続殺人事件のドラマじゃあるまいし、妙な事を考えるんじゃない」
だってあなたぁ オロオロ
取り乱した亀代を見て、警官はその女子高校生の名前を告げた。
「落ち着いてくださいお母さん。その二人と言うのは、息子さんと同じ高校の名前は北川 霊さんと萌牟逗蘭さんと言うハーフの超絶美少女で、写真を見た瞬間、本官もすっかりファンになったんですが、この二人をご存知ですか? 」
はっ?
「「ハーフの超絶美少女! レイちゃんとランちゃんが!!」」
二人の名前を聞いた途端、鶴吉は顔面蒼白となり、亀代はこの世の絶望と終わりを悟り、その場に崩れ落ちた。
「「ふ、二人とも、う、うちの息子の嫁です!!」」
はぁ?
深刻な猟奇殺人事件に発展するかも知れないと、眼光がずっと鋭かった刑事の目が、タイムセール直前になったスーパーのパック詰めされたイワシの目のように濁った。
「優雅君の親御さん、深呼吸してまず落ち着いてください。気持ちを強くもって冷静になりましょう。今は現実逃避している場合じゃありませんよ。なんですか、高校生の息子さんに嫁が二人って。本当なら未成年の上に重婚で逮捕しますよ」
(※婚姻届けが出せてないのだから、重婚は成立せず逮捕は無理だと思うのですが)
鶴吉と亀代の言った事は、親の度を越した願望ではあるのだが、初めて会ったあの二人の超絶ハーフ美少女が、本人の意思を無視して優雅の嫁になる事は、既に夢野家の決定事項なのだった。
「もう終わりだ。夢野家は今 断絶した」
へ?
「おまわりさん、私達もうクォーターの孫に会えなくなってしまったの! どうしてくれるのよ! ヨヨヨ」
はぁ?
優雅の通う高校へも、行方不明である事を伝えると、学校では教職員が呼び出されて、臨時会議が行われていた。
「ええっ、夢野君もですか、いったいあの神社で何が起きているんでしょう? 」
変人の優雅はともかく行方不明の二人は、高校どころか世界でも活躍出来る超絶ハーフ美少女だ。近所のハゲたおっさんまでも巻き込んで、間もなく大掛かりな神社一帯の捜索が始まった。
______保毛山校長の腹の中
「IQ 200のハーフ美少女が世界で活躍すれば、わが高校の誉れとなり、校長の私の名もテレビで有名になると思っていた。そうなれば教育委員会にも鼻が高い......しかしその計画が殺人事件のニュースになっては、私の責任が追及されてしまう......」
保毛山校長の突き出た腹は、もう自身の保身に向けられた。
総統ヘドラーの狂った世界征服計画は許せないが、人間の心など状況によって善にも悪にも傾いてしまうものだ。保身に傾いた保毛山校長は、身近なそのいい例だろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
レイの母親とランの母親は、事件を通じてお互いに話し合うようになっていた。
レイの母親はフランス系で、<魔女の加護>の血を強く受け継ぎ、日本人のランの母親も、<B'sの加護>を引き継いでいる事により、お互いに当初から初対面とは思えない直感を感じていたのだった。
『このママと私は、きっと何かある』
初対面で出会った時、二人は同じ事を思い感じている。
警察やら学校への事情聴取を終えると、時間の空いた二人は最近お気に入りのコーヒー専門店 <Plus&Minus> のテーブルに居た。
当初、コーヒー専門店らしからぬ奇妙な名前に惹かれたのだが、出て来たコーヒーはとても美味かった。
「ランちゃんのママ、このお店の名前は変わっているけど、流石に専門店。いい仕事してるわね」
「なんでもマイナスを掛け合わせて、プラスにしようって前向きなオーナーが考えたらしいわよ。それになんとB's神の大ファンだって! わたしはなんと信仰までしてるんだから」
ほへぇ~、B'sの......。
「それは天元様でしょ! こっちよこっち」
あっ おぅ そっちね。
「ところでランちゃんのママ、私はレイの事で全然心配をしていないけどあなたはどうなの? 」
そう問われたランママも、娘が行方不明になっている割には落ち着いていた。
「私は娘ランが無事な事を、何故か振動で分かるの(股間の)」
「あらまぁ奇遇ね。わたしもレイが無事な事は、振動(股間)で分かるのよ」
たったこれだけの会話の中に、実は大変な秘密が隠されていたのだが、二人の母親達はその大きな意味に気づいていたのだろうか。
そう言うと、二人がニコッと笑顔を交わした。
季節はまだ蒸し暑い夏だが、レイママの頼んだ熱くて深い香りが漂うコーヒーと、ランママが頼んだアイスコーヒーを口にするのだった。
ふぅ~ 美味しい。
カラ カラン
ほんとに。
「そう言えばね、レイもコーヒーが美味しいなんて、ずいぶん生意気な事を言うようになって。親が知らない内にレイはもう大人の女なのよね。クラスになんだか気になる子が居るみたいだし」
うふ
お互いに高校生の子供を持つ年代ながら、二人は妖艶な色気が漂う美魔女である。
居合わせた男性客の視線が、チラチラ向けられていても気にはならないらしい。
「それはうちのランも同じ。転校して早々なのに、妙に綺麗に大人っぽくなっちゃって、あの子 恋でもしてるのかしら。青春してるっていいわねぇ」
はぁ~ほんとに。
二人の美魔女が、右斜め上の空間を見つめ、はぁ~と溜息をついている。きっと過去の旦那との甘く切ない出会いを思い出しているのだろう。
『『仕事が忙しいのは分かるけど、今じゃただの同居人みたいで......』』
他愛もない青春話と一杯のコーヒー。そしてこの二人に共通しているのは、娘の心配を少しもしていないように見える事だった。勿論異世界ではたった今、総統ヘドラーと生死を分けた最後の戦いが始まっているのだが、娘が行方不明と聞いても二人のこの落ち着きようは実に不可解だ。
少し冷めてきたホットコーヒーを、口に含んでそれを飲み干すレイのママ。
コクン はぁ~
「冷めたコーヒーをまた温め直すとね、もう最初の深い香りには戻らないの。だから熱いうちに飲むのがいのよ」
「そうそうレイママ、温くなったアイスコーヒーをまた冷やしても、美味しくないの。何か別物に変わっちゃうって言うか」
コクン はぁ~
......。
「ところでなんとか成りそうかしら、ランちゃんのお母さん? 」
レイママがテーブルに肘をついてランママを見つめると、ランママも同じ仕草をしてこう答えた。
「ふふ、なんとかなるような。そんな感じかな? レイちゃんのママ」
「「それなら安心ね」」




