EP70 「異世界転移・転性サバイバル 責任者出て来なさいよ! 」*
ぼろぼろに壊れたウェスタン扉を潜るなり、俺が頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた隣では、同じようにレイ、ラン、メーダとジョセも目を覆っていた。
それは見渡す限りの冒険者ギルドの広いフロアが、阿鼻叫喚の地獄絵図となっていたからだ。
日本で俺の住んでいる街は、幸いにも過去に大きな災害とは縁の少ない場所だ。台風の被害は少なからず毎年あったのだが、緊急に避難退避するような事態の経験が無い俺は、これが初めて見る光景だった。
こっちへ誰かヒーラーだ、ヒーラーを寄こせ!
そのヒーラーが、殆んどダウンしちまってるんだ!
それなら薬草は? 薬師はどこだ?
薬師も薬草も足りねぇんだよ!
大勢の冒険者と薬師達が、被災者と怪我人の間をぬってボランティアで走り回っている。ここではEクラスだろうがAクラスだろうが、今はそんな事はどうでもいい。
「こ、これ程とは! 」
「防御シールドが無かったら、私達も」
「ナ、ナビコマちゃんに感謝するのよさ」
『主、有難きお言葉で御座る』
「あたしは、すぐにナース服に着替えなくては」
あぅー あぁー ひぃぃ
暗い! 目が 目が見えねぇのか?
俺の手と足はどうなっちまったんだ
ほんぎゃ~ ほんぎゃ~
誰かぁ~、うちの子を知りませんかぁ
痛てぇぇ 何とかしてくれぇ
ヒールは、ヒールはまだかぁ!
悲鳴と呻きと共に、錆びた鉄のような血の匂いが漂っている。声を上げられる者はまだいい。無言で床に横たわる被災者も居るのだ。
医薬品やベッドと毛布、食料など備えの無いジャーブラ島は、前代未聞の事態に翻弄されていた。
「ジョ、ジョセフィーヌぅ! 」
怪我人の絶叫に紛れて、一人の女性の声が聞こえたような気がした。
ほえっ?
しかし声はすれどもギルド内は、大勢の怪我人と冒険者で溢れている。雑踏の中では、その声の主が誰なのかジョセは見つける事は出来なかった。
「突然大声なんか出してプレア、知り合いか? だがよ、それは後回しだ。今は怪我人の治療と介護、炊き出しとやる事は山ほどある。人手が足りねぇ時だ。すまねぇ」
巨漢のガルガノスは、雑踏の中でも目立つ存在だ。プレアはそのすぐ横で、怪我人の介抱にあたっていたというのに、ジョセは見つける事が出来なかった。
「はい、分かりましたガルガノスさん」
『あれは間違いなく、行方の分からなくなった妹。同じ島に居たなんて、今までどうして気づかなかったんだろ』
怪我人は閃光で失明しかけている人、爆風で建物に激突した人、熱風で火傷をした人などで溢れていた。ガルガノスは避難所となったギルドの責任者として、逞しくリーダーシップを発揮していた。
「おいそこぉ! Bクラスヒーラーのリグだな。手が空いたら次はこっちだ! 」
「あう! 私も死にそうなんです。ガルガノスさん、わたしが死んだら骨は拾ってくださいよぉ! 」
「自分で拾うんだな」
この鬼ぃぃ! リグ、ベーダ! (※インド古代バラモン教聖典)
引退したとは言え、Aランク冒険者の経験で臨時のリーダーに抜擢されたのは、そのタフな精神力と人望だ。
「おうやっと来たかAランク」
「はい、俺たちがやれる事を、これから分担してお手伝いします」
「今は猫の手だろうと構わねえ、そりゃ助かる」
「あたし達、猫並みだわさ......それじゃリーダー、早速あたしはヒール専門で」
頼むよラン
わたしは今必要な物を、MPで作り出すわ
レイ、医薬品と包帯を頼む
任せてユウガ
あたしはこのナース服で、怪我人の介護とかいろいろ
「メーダ、エロフは封印だからな」
「あたしは見掛けだけだって! 中身は正純派の乙女なんだから」
「まぁそのモンペ服なら大丈夫だろうけど」
「ナース服でしょ、これって」
オロオロ
病気や怪我の治療など、科学と医療の発達しているプレアデス星系では、介護とは縁の無かったジョセは、自分はどうしたらいいのか戸惑っていた。ましてや応急処置など、した事も考えた事もなかったからだ。全ては医療アンドロイドが解決してくれていたのだから。
「ジョセ、お前は俺と炊き出しの手伝いだ。料理なら出来るだろ? 」
あっ はひぃ
そう言うと俺は、ジョセの手を掴んで外に出た。
あん
ギルド内の厨房だけでは間に合わない為、仮設テントの中でも大量の飯を作るのだ。
ギルド内にあった備品は、全て外に運び出して避難民と怪我人の収容スペースを確保したのだが、それでも怪我人は次々と運ばれて来る。
「ヒールが使える冒険者が足りてないぞ! 」
「はぁはぁ、ダメ、リグちゃんはもうMP切れなの」
リグを含めてMPが切れたヒーラーが続出しているが、もともとヒーラーの数は少ない。
「ふぅ、これじゃ仮設テントも増やさないと」
「ゲッツの核ミサイルが、密集した市街地の近くだったから、被害がこれ程大きくなってしまったのね」
おや! あれは。
俺は傍らの運び出された備品の中の、クリスタル・プレートが目に入った。
「ついでだから、試しにちょっとだけ確認してみるか」
ピンチをくぐり抜けると、今までは大抵クラスアップしていた。試しにとばかりに俺はさっと手を置いた。
ビッ ビッ
「ユウガくん、どう? 」
ピカァ プレートが今までになかった虹色に発光し、点滅を開始。そして結果が出ようとしていた。
パァァァ~
<おめでとう! 最高クラス CEO=S>
パパァン パパァン
紙吹雪が舞い、クラッカーの効果音まで出たのには驚いた。
外の仮設テントのせいか周囲の騒がしさで、クラスアップが聞こえたのは俺とジョセだけだ。
「や、やったよジョセ、これはびっくりの最高ランクのSになってしまった」
大型核ミサイル3発を、皆で全力を出して防いだからだろう。ランクSなら、四天王ナンバー1にも対抗出来るかも知れない。
「ユウガくん、もうあたしは裏からバックアップ出来ないけど、あたしの最高傑作"スペシャル・バニースーツ" はランクに合わせて自動で強化されるから、ランクSなら防御力は大幅に上昇している筈よ。確認してみて」
「それは心強いのか?」
しかしだ。今までの四天王の攻撃を考えると、防刃仕様が強化されても、スーツは溶かされてばかりだった。
「ジョセ、溶解スッポ対策は万全なのかな?」
......。
無言だ。
「なんでだよ、無言って事はまさか対策してねぇのかよ」
「だぁってぇ。バニースーツはあたしの究極の美の結晶なの。溶解対策まで装備したら、バニースーツの究極の美が台無しになるでしょ」
『あの事は言っても混乱するだけだしね......』
そんな事知らんがな
命を守る事より、ジョセにとって美の方の天秤が重いらしい。
「四天王ナンバー1が、また溶解液を繰り出して来るとも思えないし、強化されてるのならと俺は理解を示す事にした。
_____転移
第27日目 推定 8月27日 午後9時。
炊き出しの夕食も配り終え、俺たちはひとまず"寄ってっ停"に戻る事にした。
レイもランも、既に持てるMPを使い果たし、これ以上は出来る事がなくなっているからだ。
「みんなお疲れ。帰って休もうか」
そうね、リキャストタイムは24時間、明日からはMP無しで」
あたしお腹空いたぁ
このナース服は動きやすいわ
ぷっ
「メーダそれは結構、明日も頼むよ」
疲れているのは俺たちだけでは無いのだが、Aランク冒険者が駆け付けただけでも、それだけで感謝されていたのだ。俺たちは、他の冒険者からも礼を言われながら宿に戻って来た。
帰って来ると、簡単な夕食を作ってアイリスさんが待っていてくれた。
おにぎりとみそ汁、お新香程度と質素だったが、アイリスさんも活躍してくれた後だし、空腹にまずい物は無いのだ。
夕食を食べ軽く汗を流して部屋に戻ると、レイとラン、メーダを前にして、俺とジョセが対面に並んだ。
「みんな聞いてくれ。ホットなニュースがあるんだよ」
8月にホットジュース? でもあたしは飲みたいぃ(ポン)
「今日確認したら、なんと俺たちは冒険者ランク=Sになってた!」
ええ~っ! ユウガそれホント?
Sugakiya ラーメン のS (ポン娘)
S......冒険者最高ランクのS 信じられない!
「あなた達のステータスが大幅に上がっているから、それは閻魔帳で確認してね。だけど小さな問題が一つあってね、それはまた後で話すわ」
問題とは、バニースーツへの拘りを貫いた、ジョセの設計思想の事だろう。
『ジョセ、なんでお前はそんなにバニースーツの美に執着してるんだよ。防御は大きな問題だろうが! それで負けたら意味がねぇし』
『なぜ防護服がバニーガールなのか、異世界転移とそれにも秘密がありそうね、ユウガ』
「異世界に転移させ、その上俺を転性させやがって! 責任者出て来いや! 」
ここに居る俺たちは、全員が同じ想いに怒りがこみ上げる。
ユウガ、なら私もぶつけるわ。怒りを!
「無人島? 異世界転移・転性サバイバル 責任者出て来なさいよ! 」
!
「レイ、SFが抜けているわさ」
「なんなの? その人気の無いラノベのタイトルみたいな怒りは?」
俺とレイが罵倒した責任者とは、第四帝国総統ヘドラーなのだ。




