EP7 レイの知られざる秘密 *
<<転移>>
______第6日目 推定8月6日 午後
俺は、召喚されたばかりのレイに、聞きたい事がたくさんある。だけどいきなりの質問責めもかわいそうだと思い、まず熟したマンゴーを勧めてみた。
「なぁレイ、言っておくけど、ここにはジュースとか気の利いたものは無くてさ」
俺がマンゴーをナイフで切り分けようとする手に、レイの手がそっと重なって来た。
「ユウガ いいの わたし やる」
「ああ、助かる。これからはレイが居るんだし、何か出来る事は手伝って欲しかったんだ」
ユウガは、レイには話し相手をしてくれるだけで、この先遭遇するだろうモンスターとの戦闘に、加わって欲しいとは思っていない。
レイのナイフを使った皮むきは手慣れていた。しかも俺のシャークテックナイフでだ。ちょっと嫉妬してしまった。
シャリ シャ シャ
サク サク サク
あっと言う間に俺が剥くマンゴーより、綺麗なマンゴーが切り分けられて、バナナの葉の上に乗せられたのだ。
「ユウガ はい どうぞ」
「皮むき、上手いんだね」
「わたし おんな だから」
「女だと、そうなの?」
「内助 の 功」
「別に内緒にする事でもないんじゃ......?」
「ユウガ バカ トンチンカン」
ハーフの超絶美少女が、女である事を強調して来ると、何か得体の知れない幸福感が、じんわりとユウガの体を包んだ。
「やっぱり一人じゃないって、いいよなレイ」
Oui もち!
そのユウガの言葉に、レイが嬉しそうに微笑を返した。
二人で仲良くマンゴーを食べ、一息ついた所で俺は本題を切り出した。
「レイ、まずこの島と俺の事を説明するね」
うん
ユウガはなるべく簡単に説明出来るように、箇条書きスタイルで説明を始めた。
①いいかい、まず俺たちは日本から、地球じゃない異世界のこの島に転移召喚された。
OK?
Ouiウィ
②俺は夏休みが始まってから、裏飯神社裏の山中で、サバイバルの修行をしていた。そしてここに転移してから、島の地図を作りながら食料を探している。
OK?
Ouiウィ
③この島には得体の知れない魔獣らしきモンスターが居て、遭遇したら戦闘になる。その場合、俺はひとりでこのナイフ一本で戦う事になるけど、俺の戦闘レベルはゼロだ。
OK?
Non ノン!
初めてレイからNonが出た。
それはそうだろう。モンスターが出たら戦闘になるなんて、か弱い美少女レイは想像すらしていなかっただろうから。
「ユウガ わたし 戦う」
えっ
俺はレイの言葉を理解出来ず、手にしたマンゴーが転げ落ちそうになった。
「ユウガ わたし 話したい こと あったの たくさん」
透き通ったブルーとグリーンのオッドアイ。その瞳がマジだった。
それからレイの長い話が始まった。
ユウガが説明したのを真似て、レイも箇条書きスタイルだ。流石に効率を重視して優秀だ。
①学校 わたし 毎朝 ユウガ 話したいこと あって ボンジおはようしてた。
OK?
じゃぁ、俺に何か話したい事があって、毎朝教室のドアに立ってたって事?
Oui ウィ
②それ わたし 家系 秘密 誰にも話せない 話したら わたし 信用 ない 身の危険 ある。
OK?
OKじゃねぇよ。訳わかんねぇよ。
「じゃぁ 話すね」
うん
立場が逆になった。
「わたし 超常現象 研究して しかも 実践している ユウガ 調べてた」
「そ、そうだったんだ」
「ユウガ 学校 クラスメイト たくさん 見てる ゆっくり 話す 時間 なかった」
「それで朝早い時間に俺を待っていたのか? レイはハーフの超絶美少女アイドルだから、いつも見られてるもんな」
「ユウガ イヤ! アイドル Non! わたし そんなん じゃない!」
ぷくぅ
『そうは言っても、近所の禿げたオヤジたちまでが、レイを見に来るんだから、Nonじゃないんだけど』
「えっ 怒ったのレイ? 御免よ。でさぁ、何を話したかったのかな?」
レイにとって心に刺さる核心の質問だったのか、途端にレイは口籠った。
「ユウガ わ......わ わたし ま 魔女 なの」
ユウガの視線が、レイの瞳に釘付けになり、レイが何を言ったのか、言われたのか思考が止まってしまった。
「何急に変な事言い出すんだよ、レイが魔女な訳ないじゃん。どこから見てもハーフ美少女のレイだよ」
「ユウガ またぁ!」
ぷくぅ
ユウガに信じて貰えない事に、レイは少し頬を膨らませたが、意を決してある行動に出た。
なら......これ
「ファイアーボール!」
なんと俺の目の前でレイの手の平に、こぶし大の火の塊が現れたのだ。
それはまさしく、ラノベやアニメに登場するファイアーボール。そして魔法使いが使うあの初級魔法だった。
ボゥゥゥ
「ユウガ 信じた?」
OK?
俺は驚きの余り、ブリキのおもちゃのように、頭を高速で盾に振る事しか出来なかった。
コクコクコク まるで神社で歩いている鳩だ。
「信じた、信じましたとも! レイは魔法使いでファイアーボールが使えるんだね。それならこれからのサバイバル生活に、火が使えるって訳だ!」
ユウガの切り替えは早い。既にレイのファイアーボールを、サバイバル生活に組み込んでいた。
「ユウガ 違う わたし 戦う 言った でしょ」
「そうだった。確かにレイはそんな事を」
「わたし 母方の 魔女の家系 生まれた 子孫 それ 隠す為 フランス じゃなく 父の 日本に 移り 住んだ の 」
なるほど、中世ヨーロッパでは、魔女狩りがあった。現代でもヨーロッパでは、魔女という冤罪を押し付けられて、傷害事件になった事もあったほどだ。
「日本では魔女なんて誰も信じない。まぁ妖怪とか幽霊の方が信じる人は多いからね」
うん
お、俺のペースが戻ってきた。
徐々にレイの秘密がわかって来たが、一つ重大な謎が残されている。
「レイは何故、俺が転移したこの異世界に来ているんだ?」
それは既にレイの口から、解答の一つは出ていた。
レイが召喚された時、ユウガの問いに対して
「ユウガ わかってる わたし 望んだ の」って言っていたのだ。
「わたし ユウガ 後を追ってた ユウガ 亀代お義母さま 鶴吉お義父さま 裏飯神社 修行して いる 聞いた」
「俺の両親に会ってたのか?」
「挨拶は もう 済んでる 」
ポッ
『挨拶? 俺の家に来た時の社交定例の挨拶だろう。しかし、さっきの言い方は......お義母さまとお義父さまって感じたけど? まあいいか』
「お揃い パーカー ZーSHOCK トレッキングブーツ 身 固めて わたし ユウガ 後 追った ユウガ わたしと 身 固める そしたら偶然 道 迷った ユウガ どこ? ユウガ 会わせて 祈ったら 銀色の光に包まれて 気が付いたら 転移 してた」
「レイ、偶然道に迷うって? そんな事があるの?」
「あった の」
「なーる、全ての断片が、一本のロープのように繋がった訳だ。ほえ?? 身を固める?」
「うん まだ続き あるの ユウガ 聞きたい?」
ここまで来て、聞かない訳がない。それに何を聞いても、もう驚かないのだ。
「あのね 女性の声が したの ユウガのところ 異世界転移 させてあげる そして あなたは 魔法で ユウガと 共に 戦うのよって」
銀色に女性の声。嫌な予感しかしない。
「ユウガ 追伸 その声 女性 自分のこと ジョセフィーヌ って」
ゲロゲロぉぉ!!
ドッカーン! 悪寒と予感がバッチリ、どストレートに決まった。
俺は驚かないつもりだったが、見事に驚いてしまった。
「じゃぁ、レイはこの異世界で、俺とモンスターと闘うって事になるんだよ。勿論、レイにはファイアーボールがある。妙なチンピラモンスターなら一撃かな?」
しかしユウガは、初めて聞いたレイのファイアーボールの威力を知らない。
「う~ 秋 栗の実 向けて 使った そしたら 程よく焼けて 食べ頃 なって た」
「威力があるのか無いのか、よー分からん」
そして思い出した。あの閻魔帳の事を。
「ねぇ、俺にはさ、課題クリアのブロンズ特典でさ、ステータスを見れるスキル"閻魔帳"があるんだけど、レイのステータス見てもいい?」
ジョセフィーヌからは、詳しい事は聞いていない。レイもゲームのステータス位は知っていた。
「うん いいよ なに を されても......ユウガ なら」
ぞくぞくぅぅ
「い、意味深な事ばかり言うな、レイ。なら、ヘロー閻魔帳!」
うふ
ヴゥゥゥゥゥン
現れた40インチテレビ画面をスクロールして、レイのステータスを見た。
「あった! 出た」
「出たの? わたし どう?」
......??
名前 北川 霊 超絶ハーフ美絶美少女 16歳
称号 魔法使い xxxのx LV2
HP 10
MP 10
スキル "無い物ねだり" LV1 ねだる物により消費MPが増減
武器 無
防具 ユニケロ パーカーLV1 魔法使いの皮グローブ LV1
トレッキング ショートブーツ
攻撃魔法 ファイアーボールLV1 ファイアーボール一発にMP2消費
魔女の加護
鳥瞰図 LV1
アラビカ魔法 LV1
閻魔帳
「魔法使いがいきなりLV2か、魔女の子孫だし素質の差だな。防具もLV1ってどういう事? それに鳥の図と閻魔帳、レイも持っているのか」
「鳥の図? ユウガ 変 わたし 見る」
......。
「ユウガ これ 鳥瞰図 って 読むの」
へっ?
「そうなの、真ん中の漢字が読めなかったから、鳥の図鑑かな~なんて思ってたよ」
「はぁ わたし 来てよかった これ マップ 上から 鳥が 地上を 眺めたように 見えるマップ」
それを聞いたユウガの体に電流が流れた。
「マップ 俺が苦労して作ろうとしていたマップか!」
「わたし 使える みたい ちょっと やってみる」
「スキル 鳥瞰図!」
「あ そうやって使うんだ。知らんかった」
二人共スキル鳥瞰図を持っているので、レイが呼び出せばユウガも見れる。スキル閻魔帳も同じだ。
「すげぇ、島の全体図が見えた。瓢箪みたいな縊れた形だ。点滅している所が俺たちだな。ちゃんと2つ光ってる」
「仲 睦まじく......もう わたし たち 永遠に 離れられない」
......??
但し、島の輪郭は分かったが、詳細な部分はユウガが歩測した部分だけだ。残りはグレーではっきりしないのだ。
「この感じだと、俺の歩測は島の5%未満だな。形から推測して島の全周はおよそ......100kmか」
あっ はっ ひぃ~
「ユウガ わたひ お腹 いたいぃ~」
隣ではレイが自分も使える閻魔帳で、俺のステータスを見て笑い転げ悶絶していた。
名前 夢野 優雅 ? 16歳
称号 サバイバルナイフ戦士 LV0 鍛えろよ
HP 10 高校生レベル 並丼
MP 0
スキル 試行錯誤 LV1
武器 舶来シャークテックナイフ LV1
防具 ユニケロ パーカー上下 LV0 軍手 無いよりマシ
魔女の加護 ロック中
鳥瞰図 LV1
閻魔帳
はぁふぅ~
「お腹 痛 かった ユウガ 戦士レベル 0 体力 並丼 試行錯誤だけ レベル1 赤点」
「ちっ、笑うなよ、そりゃレイは最初から魔法使いLV2だからな、笑いたけりゃ笑いなよ。それにHPは同じ10なのに、俺には並丼表示だよ。なんなんだよ、これは!」
『あれ、確かHPが5ポイント上がっている筈が、まだアップしてない。バグかよ』
「ユウガ 少し バカ わたし 一生 必要って こと ユウガ 漢字 あんまり 読めない だから わたし 一生必要 なの」
「一生?」
Ouiウイ
どさくさ紛れに、レイがまた怪しい事を宣ったが、とにかくサバイバルや、戦闘に必要なスキルは増えたのだ。
「レイ、現状確認するよ」
うん
「まず食べ物はバナナ、椰子の実の脂と中身のジュース。そしてマンゴーだ。ここのベースポイントには湧水があって、このボルトに真水を汲んだり、出かける時は海水を10%混ぜるんだ」
OK?
Oui ウィ
「基本、日の出から日没までが俺たちの活動時間だ。その間に歩測でマップをバージョンアップしながら、食料探し。今は芋とかニワトリが居ないか探しているんだ」
OK?
Oui ウィ
「レイには悪いが、晩飯も同じバナナ定食だ。これはどうにもならない」
OK?
Oui ウィ
「ユウガ 心配ない わたし ファイアーボール 高い所にある椰子の実とか 焼き落とせる 食材探し きっと 今より 楽に なる」
「そうだ。バナナの葉で包んだ蒸し焼きとか、温かい物が食べれるな。こりゃ有難い」
俺は無邪気に笑った。食材の確保と調理に目途がついたのだ。これは喜ばずにはいられない。
するとレイが、かけているポーチを開けると、中身を俺に差し出してきた。
「板チョコと、カロリーメイド 持ってる」
やった!
と喜んだが、板チョコが2枚と、カロリーメイドは一箱だ。すぐに消費してしまうが、いざという時に食べればいいと俺は考えた。
「レイって、本当に頼りになるな!」
「もち わたし 内助の 功」
うふ
「また内緒の事なのかよ」
レイも幸せそうに笑ったが、それはユウガとは違う意味でだ。
同日午後7時
______喋る話題も減り、そろそろ日没を迎える時間になった。
「レイ、夜は冷えるから、俺の100均の合羽を貸そうか?」
するとレイは首を横に振った。
Non!
「ユウガ こうして 寝れば いい」
突然、美少女レイが俺に抱き着いて来た。確かにこれは暖かいし、匂いもいい。
「お互いの体温で、体を温めるサバイバル術だな。凄いじゃないかレイ」
などと俺は、とんでもない勘違い発言をブチかましてしまったが、疲れていたのか俺はそのまま眠りに落ちていく。
「ユウガ 腕 枕 して」
うん? いいけど
「むにゃ あったかいよレイ なんでそんなにいい匂い......」
Z Z Z
ユウガは物事をいいように解釈し、即切り替えられる男なのだ。
「......ユウガ バカ わたし ドキドキ 眠れない」
「スキル アラピカ」
パァァ
「ユウガ ほんと バカ なんだから」