EP67 善と悪 心の表と裏 *
_____転移
第26日目 推定 8月26日 午後10時頃の"寄ってっ亭" 2階マイ・ルームには、新たにジョセが転がり込んで来た。
身の危険を感じたジョセは、もう南極の秘密基地には戻らないと言い出したのだ。 四天王の一人ゲッツ・ホルテンでさへ、情け容赦無く殺せる総統ヘドラーに恐怖を抱き、もう戻りたくは無いのが理由だ。それは当然だろう。
ジョセが異世界ジャーブラ島に密かに転移して、ユウガ達と会っていた事を知られたなら、次はジョセが消される番なのだ。総統ヘドラーとはそんな男だ。
「みんな、ジョセの安全を考えれば、俺たちと一緒の方がいい。それにジョセはハンスと同じ大切な情報源でもあるし」
『嫌よ、情報源だからってそんな理由は悲し過ぎるじゃない。あたしの、あたしの存在ってそれだけなの? ユウガくん』
何かとてもショックを受けた表情で、ジョセは酷く沈み込んでいた。
「へん、あんなの演技だわさ」
渋々ではあるが、ゲッツが殺されたと聞いては、レイとメーダはもうジョセを追い出す理由がない。
これは止む無しね
ヤムチャ!
空いてる部屋は無いの?
「なんなら、豪華な私の屋根裏部屋はいかがかな? 」
瞬間、ジョセの右ストレートがハンスの鳩尾にヒットし、ハンスは悶絶して転げ回った。
ゲボォ
本当のところは、"寄ってっ停" には空き部屋はまだあるのだが、アイリスさんがジョセが増えた事で、何か波乱が起きそうだと期待し、ソロバン勘定抜きで成り行きを楽しむつもりなのだ。
"家政婦は見た"のように、興味津々のアイリスさんが、そっと俺の部屋の様子を覗いていた。
『うふ、わたしには負けてるけど、あんな美少女四人とユウガくん、ワンコは問題外としても、これは楽しくなって来たわ~私も混じっちゃおうかしらね』
怪しい妄想癖のあるアイリスさんだったが、流石にガルガノスが帰っているのだから、妄想だけにしておいた方が家内安全と言うものだ。
「今日はみんなありがとな。もう遅いからハンスの茶番はこれ位にして、もう休もうか」
「バニー殿、私は本気の親切心で。下心など毛頭」
「ハンス、あたしはヤングレディ、それもピッチピチの! あんな段ボールベッドで、ハンスと一緒に寝ろと言うのかしら? 」
『ちっ......。ヤングって、ジョセは何年生きてるんだよ。あれから、俺たちと同じ年数は生きてるよな』
ジョセが今日から仲間になったのは大歓迎なのだが、今日一日を振り返ると、それは恐ろしい一日だった。ゲッツと闘わなくても良くなったのは幸運としても、俺の心は酷く重かった。
『同じ人間だろうが! 生まれて住んでいる所が違うだけじゃないか! ヘドラー! 』
思想と主義、一握りの人間の考える事が、多くの人間を情け容赦無く殺してしまう事など、あってはならない事だ。
世界の幾つかの大国のトップが、核を所有する事で自国の安全を確保出来ると考える愚かさ。それは<プレイアデスの七姉妹>も危惧していた。
ゴゥン ボボボ ポスプス
______レンタル捜索宇宙船<ピーピング・トム>号の船内。
「ステラ姉さん、私たちあの時、彼らを助けた事は間違いだったの? 」
彼らとは、総統ヘドラーを含む第四帝国の軍人達を指している。
「いいえ、ターニャそれは正しくはないわ。結果はともかく、爆撃と銃弾の中で助けたあの人達の誰かが、戦争の愚かさに気づいてくれたのなら、それが私たちがテラに撒いた<平和と希望の種>になるの」
姉ステラの言う事は綺麗ごと。罪も無い人間がその為に大勢犠牲になるのは許せないとターニャは考え、顔が少しばかり歪んだ。
それもまた主義と思想。
「たった一人の意思で発射した核爆弾で、何万の人間が殺戮されてもですか? 」
すると五女ターニャの視線は、部屋のとある方向に向けられた。
ステラはターニャの言いたい事を、向けられた視線で十分理解している。
視線の先には、包帯を巻かれ治療を受けたゲッツや、<ヴリル・オーディーン>の乗組員が数名ベッドに横たわっていた。
っつ、体が痛む。
「私と乗組員は助かったのかゲッツ? ここはどこだゲッツ? 」
「おや気がつきましたか? ここはテラの南極大陸上空。私たちのレンタル宇宙船の中です。私の名はステラ、この船のリーダーですが、あなたは確かゲッツさんでしたね、私の顔をお忘れですか? 」
ステラは優しくゲッツに微笑みかけた。
テラ? ステラ?
「あなた達の反重力飛行物体は、テラの軌道上でミサイルによって撃墜破壊されたのです。こちらの船内転移装置で、緊急回収しましたが間に合わず、怪我をされたのですよ」
『しかし、あの飛行体のデザイン......あれはテラの物じゃない』
「俺は怪我をしているのか? 」
『確かにあの時、緊急警報が鳴っていたゲッツ。しかしミサイルを誰が? 』
ごふ ごふ
「ゲッツ様、ご無事でしたか。我々は、南極大陸から発射されたミサイルで撃ち落とされたのです。あれは我々の基地のミサイルに間違いありません」
そんな 馬鹿な事が!
唖然とするゲッツ達を横目に、航法ナビ担当の次女ペロンから
報告が入った。
「ステラ姉さん、ジョセの股間信号が、次元世界αのジャーブラ島に転移してます。六女プレアとの距離はほんのわずかの位置にあります」
「それは好都合! 分ったわ、直ちに異世界ジャーブラ島に急行して! その男達は動けないから、このまま連れて行くわ」
了解です!
「ジャーブラ島! それにジョセフィーヌが転移している? 俺が核ミサイルを撃ち込んだ島だ。そうだデス・ゲッツ3機と核ミサイルはどうなったのだ? 」
「核ミサイルを行使したのですか! なんて愚かな事を! 今から異世界のその島に向かいます。ゲッツさん、その目で自分のした事と結果を良く見るのです」
ゲッツはステラやターニャの顔に見覚えがあった。1945年に命を助けられているのだ。その恩人の顔は忘れてはいなかった。
「俺は、二度も助けられたのか。しかしあんた達には悪いが、ジャーブラ島は今頃蒸発して消滅している筈だ。核ミサイルを三発使ったからな」
「それを今から確かめに行くのです! 」
会ったばかりのステラの顔には、先程とは違って怒りと悲しみがあった。それはあの時、俺たちを憐れんで助けた時の顔とはまた違う顔だった。
「俺はまた助けられたのに、道を......間違えたのか」
______その頃ヴィクトールの心も大きく揺れていた。
「私は科学者。総統の元で研究さへ出来れば良かったのだ。それがヘドラー総統の野望に加担していると知っていてもだ」
ヴィクトールが思い出すのは、1945年のあの時だ。
「我々は<プレイアデスの七姉妹>に救出された。今生きていられるのは、ジョセを含めた七姉妹のお陰......。なのに総統はジョセを騙し、更には当時ジョセには秘密にして<アルデバラン>の生命体と接触していたのだ。全ては我々の軍事科学力を強化する為に......そして世界征服」
「ジョセは知らない事だが、ゲッツを乗せた<ヴリル・オーディーン>は、<アルデバラン>から得た科学知識により、大戦中に建造された第四帝国の秘密兵器だ。
実践投入は出来なかったが、大戦がもっと長引いていたなら、連合国側に多大な損害を与え、歴史は大きく変わっていたかも知れない。
<アルデバラン>と<プレイアデス>の科学力で、総統は<新たな世界征服>を企んだ。その野望はここまでは上手く運んで来たが」
ヴィクトールは、傍らの額に入った写真を見つめた。
それは、ゲッツとハンスが二人仲良く微笑んでいる写真だ。恐らく1945年以前に撮影されたものなのだろう、全体が変色した古い写真だった。
「ゲッツ、ハンス、俺たちは科学者だ。それがどうだ? 今や総統の世界征服の手助けをしているとはな。おかしくは無いか? 」
写真に写るゲッツは、両手の人差し指をピンと伸ばし、ハンスはそれを見て大きな口を開けて笑っている。
「ゲッツ、ハンス、そしてヴァルター兄弟、俺たちはリーダーを間違えたのか? 」
道を間違えたと思い始めたゲッツと、リーダーを間違えたと思い始めたヴィクトールだが、その言葉が指し示すのはたった一人の男。




