EP66 加護者の愛に包まれて*
_____転移
第26日目 推定 8月26日 午後8時頃の"寄ってっ亭" 2階 レイとラン、メーダ付のマイ・ルーム。
レイが夕食の準備が出来たからと、俺を起こしに来たらしいのだけど、すっかり爆睡していた俺は、これが全く覚えていねぇのよ。
よく眠っている俺の顔を覗き込んだレイは、俺をそのままにしておいてくれたのだろう。俺の事なら何でも分るみたいで、着実に外堀を埋められていくのをビシビシと感じる今日この頃だ。
『確かにな。レイってポン娘と違って、すーぱー良妻賢母型で欠点が無さ過ぎる。しかも頭脳はIQ 200の上、母亀代と父鶴吉がすっかり夢野家の嫁認定してたみたいだし......。
まぁポン娘も、鶴吉と亀代に挨拶済 (俺の居場所を聞きに来ただけ) だそうだが、日本に帰れたらすげぇ騒ぎになる予感がする』
と、起きた俺が回想したまでは良かったのだが、これにはもう少し続きがあった。
Z Z Z Z
『可愛い寝顔をして。ユウガはよくあの状況で私達に指示が出来たわね。とっても凛々しくて立派だったわ。流石わたしのダーリン』
チュポン
だったらしいのだ。頬のキス・マークがその証拠だとランとメーダが騒ぎ出して、やはりレイと一悶着あったと言うのだ。
そんな事、俺は知らんがな。
『お馴染みになった展開なんだけど、全員が命を拾ったあの後だから、騒がしくしてた方が気が紛れるのだろう。しかしなぁ』
晩飯を断った俺の周りには、まだ睨み合いが続いているレイとラン、メーダが纏わり付いているけれど、今日だけはそれが何だかとても暖かくてホッコリする気分なのだ。
『だけど高校生なんだよね、俺』
ぐいぐい
『みんな死にかけたんだから、密着したい気持ちは分るけどさ、そんなに俺の顔にぐいぐい頬っぺをくっ付けられても』
むぎゅう くるぢぃ
「ほらレイ、あんた離れなさいよ」
「妻だから それは無理 わたしは今接着剤なの」
「じゃ、あたしは強力剥離剤になるわさ」
ええぃ
「馬鹿な二人はほっといて ユウガ、早くあたしに耳カプしてよぉ」
嫌だ!
ビェ~ン バカぁぁ
"超羨ましいんだよ、ハーレムじゃないかユウガ! いいからその顔を一発殴らせろ" (誰あんた? 作者です)
俺はと言えば、さっき抱いた様々なピースがまだ頭から離れていない。
メーダの加護もそうだが、レイとランの加護にも何か未知の秘密があると思えるからだ。
それにジョセと姉のプレアの<プレアデスの加護>は、全部で七つもある。それが全て揃った時、俺の身にいったい何が起こるのかもだ。そしてその意味も。
『総統ヘドラーが<新たなる世界征服>を企み、ジョセを利用した事は分っている。そのヘドラーは俺の殺害を企てる為に、わざわざ"誘惑のケイヴ"内で四天王に殺害を命令した。ハンスもそれは証言しているし、実際今回のような絶体絶命のピンチに、俺達は様々な加護に命を助けられている』
『楽しみにしていた夏休みのサバイバルの修行が、とんでもない命を賭けたリアル・サバイバルになったもんだ。こんな高校生は絶対に居ないだろうな』
「そんなの世界にユウガ一人よ。それでも異世界でわたしはユウガと一緒。 幸せ えへっ」
「レイってば、またリーダーと何デレデレしてんのさ! あんた達本当に怪しいんだわさ」
『ユウガに耳カプさせて、早く夫婦の既成事実を』
「それにしても思い出すだけでも、メーダの加護だと思うけど、あれは凄まじかったな。とするとレイとランの加護も、メーダ程の......待てよ、最後に見た<灼熱の龍 ファイアー・ドラゴン>って、あれもまた加護? だとするとファイアー・ボールを主力とするレイが、無意識に出現させた? 本人は全く意識していないだろうし、<魔女の加護>にはもっと深い秘密が? 」
「わたし、自分の加護の事、良く知らないの」
「それを言われたら、あたしのB'sの加護だって」
「ユウガ、あたしも」
わからん! ええぃ次だ。
思えばあの時のプレアは、時間の流れを緩やかにしたように思う。あれがプレアの加護? だとするとジョセも同じ加護持ちだと推測出来る事になるぞ」
メーダもVBを使える事を考えると、ランのB'sの加護とメーダは何か関連しているとも思える。
「あ~、頭が混乱して来たぁ! 本当にパズルか知恵の輪だよこりゃ。俺はレイみたいにIQ 高くねぇしさ」
「もう! IQ なんて関係ないってば」
「あ~BBQ したい」
「耳カプで、IQu IQu ポッ」
それでもユウガの中で少しずつ、一本の糸が撚れていく感覚を覚えた。
「俺は守られている......それは総統ヘドラーの暗殺からなのか?......総統ヘドラーの<新たなる世界征服>に俺が邪魔になる?! でも何で俺が邪魔になるんだ」
そう考えると、細い糸が一本完成したように感じる。辻褄が合って来るからだ。
それはとても細くて切れそうなのだが、分厚い小説の最も重大なネタ晴らしに相当している、そう直感したのだ。
更に記憶を辿ると、ジョセの言った言葉が気になった。
「いい? ここまではお遊びだったのよ」
それだ。
"誘惑のケイヴ" 2階層の攻略までは、ピンク・ゴーレムにスッポにされ、動画を撮影されただけで命は助かっている。3階層のマジンガーXからは、本気で俺が殺されそうになった事。
「総統ヘドラーの<新たな世界征服>......俺が邪魔になるなんて、それが理解出来ないのだが、ジョセとハンスにもっと聞くしか無いだろうな」
ここまでの俺の独り言の推測は、ジョセが聞いていたらしい。なんとハンスの屋根裏部屋でだ。
ガサゴソ
俺達の部屋の天井には非常扉が備えてあり、そこからジョセとハンスが顔を出して来た。
「ゲッ ジョセ! おま」
「「ジョセぇぇ? 」」
いつの間にジョセが!
俺が驚いた顔を見て、ジョセは安堵しているように微笑んだ。
「ユウガくんお久と言うか、よく生きて......あたし」
シュタっとジョセが飛び降りて来た途端、ジョセは俺に抱き付き、大粒の涙をポロポロと流し始めた。
「おい、どうしたんだ? 」
俺はいつもと違うジョセの肩を、軽く抱きかえしてやった。
止めてぇぇ!
それは妻のわたしの特権なんです
女の涙を信じちゃダメだわさ! (全くその通り! 誰あんた? )
奥義なのよ! 涙は耳カプみたいな
※<実録 女の涙は嘘だらけ> 保毛山書房 刊 著者 やまじじい
ヒック ヒック
「ご免ねユウガくん、あたしが馬鹿で騙されたばっかりにこんな事に。本当にユウガくんが死んでしまったのかと思ったのよ。それと大変な事が起きたの! 」
ビェ~ん ビェ~ん チ~ん
号泣するジョセを見て、堪らずハンスも飛び降りて来た。
あのジョセがこんなにも変わるとは、ハンスも驚きを隠せなかったが、ハンスもまた本当ならあの時死んでいたのだ。
「ジョセ、泣くだけ泣いたら、バニー殿にあの事を話さねばなるまい。それと大変な事とは何の事だ? 」
「わ、わかってるわハンス。あたしはソレを話す為に来たんだから。それにそろそろ、基地のあたしの立場も怪しくなって来ているしさ」
「あの事? 大変な事? 」
ジョセが度々、隠れてジャーブラ島に転移しているという情報は、何処からとも無く漏れ伝わっていたが、幸いにもヴィクトールや総統ヘドラーまでは伝わっていなかった。
配下達の<ホウ・レン・ソウ>の不徹底に救われた形だが、ジョセ自身そろそろユウガの元へ逃げ込もうと考えていた矢先の<ゲッツの核攻撃>だった。
そのゲッツは今頃。
「聞いてユウガくん、四天王ナンバー2の<ゲッツ・ホルテン>が死んだの」
「死んだ? 待てよあのゲッツが?」
驚いたのは俺たちよりハンスだった.
「今回の核ミサイル攻撃はゲッツの独断。それが総統へドラーの逆鱗に触れて、基地に帰還途中のゲッツのヴリル型UFOを撃墜したの! 」
おわっ!
「ゲッツ......短気なお前の事だから心配したが、やはりそうなってしまったか」
四天王と言うより、お笑いを追及する仲間として、ハンスはゲッツを友人のように思っていた。そのゲッツが総統の命令で殺された事に、ショックと怒りを隠せなかった。
「するとジョセ、四天王のゲッツ戦が無くなったと思えばいいのか? 」
ヒック ヒック
「そう。そうなると次は四天王ナンバー1の<ヴィクトール・シャベル>の出番になるわ」
四天王が一人減ったとは言え、俺には後味が悪すぎる。
「仲間だったんだろうが! 総統ヘドラー、それをお前は! 」
「バ、バニー殿ぉぉ」
『武士に有らざる鬼畜の振る舞い! 』
俺たちをジャーブラ島ごと消し去ろうとしたゲッツだが、味方に消されたと聞いては、同情もしたくなる。
「俺は甘すぎる」
「いいのユウガはそれで。私たちは人間なの。ゲッツも総統に従っていただけて、本当はいい人間だったかもしれないのよ」
レイの言葉を聞いて、ハンスが頷く。
「バニー殿の奥様、ゲッツとは共にお笑いを追及し合った身。短気な所はありましたが、根はそれは善人でしたぞ」
『恐らく、人間は生まれたばかりの時は白い純粋な魂だった。それが両親や生活環境次第で、その色を変えていく......善にも悪にも......ゲッツもまた』
「ゲッツも、ハンスみたいに俺達の仲間になってたら」
「私もバニー殿達を一時は......殺害しようとしていました。しかし悪いのは全て総統ヘドラーなのです」
ぐっ
俺は知らないうちに、握り締めた掌に爪が食い込んでいた。
「ユウガ、血が」
ヴィクトールが改めてヘドラーの残虐性を知ったように、俺、レイ、ラン、メーダ、そしてやり場の無いハンスの怒りが、同時にピークに達していく。




