EP65 異世界南国ジャーブラ島伝説 *
レイが持てるMPを全て注ぎ込んだ最大出力のファイアー・ボール3弾に、ランとメーダのフルパワーBVが重なると、ファイアー・ボールの炎が渦巻き状にその姿を変えた。
これに名前を付けるなら、<トルネードバスター・ファイアー・ボール>=TBFとでも呼べばいいのだろうか。それは凄まじい三条の炎のトルネードに変貌した。
シュバァ シュバァ シュバァ ピィィ
次いで時間差でハンスが放った、Full Powerの高熱線6射が瞬時にTBFに追いついた。
正確に核弾頭ミサイルの信管に直撃する瞬間、その姿が紅蓮の炎の矢のように見えたのだがそれは一瞬。
ズ轟ゥアアァァン
凄まじい灼熱の炎と破壊音波の矢が、核ミサイルを直撃した。
それはメーダの<愛のバクダンの加護>が、四人が放ったファイアー・ボール弾とBV、ハンスの熱線を更にパワーアップさせ、有り得ない程の相乗効果を齎した結果だった。
ビリビリぃ
これは?!
俺の体に突き抜ける衝撃。レイとランの<加護>とも違う感覚に、以前メーダが言っていた加護の事を思い出した。
『メーダの魔弓は、メーダにしか使えなかった。しかし俺はあの戦いで使えるようになっていた。これはその再現か? かなり違う感じだけど』
メーダが愛する人、すなわちユウガ本人のみだけではなく、ユウガを愛するレイとラン、そしてハンスまでもが<愛のバクダンの加護>を受けたのだ。
「あたしのこの身に代えても!」
最愛のユウガをここで失いたく無い! 一途な女、メーダの悲痛な願いが、スキルに奇跡を呼び起こした。文字通りメーダの愛の加護が、ウィルスのように爆弾の爆発の如く伝播したと言えばいいのだろうか。
『メーダ、お前はいったい? 』
メーダの過去は本人から聞いてはいたが、メーダの持つスキルや、エルフの里では異質な存在だった事に、今まで俺は疑問が沸いていたのだ。そしてメーダも、自分の両親がどこの誰だかを知らない。
レイ、ラン、メーダ、ハンスの攻撃は確かに核ミサイルを直撃したが、<愛のバクダンの加護>を受けた紅蓮の<トルネードバスター・ファイアー・ボール>=TBFは、またその姿を変え、空中で燃え盛る炎が何かの形に変形していった。
まるで炎の神<イタクァ>が<トルネードバスター・ファイアー・ボール>にその手を翳しているかのように。
GYAooon GYARrrrn
何?
まるで怪獣のような、炎の雄叫びさへ聞こえて来た。
「灼熱の龍!! 」
唖然と見つめていたアイリスさんが叫んだ。
「あれはジャーブラ島伝説の灼熱龍 ファイアー・ドラゴンよ! 」
※この町の名前 "Zenithian sword town" は、勇者がファイアー・ドラゴンを引き連れ、<天空の剣>で巨悪を共に倒した事に由来している。しかしそれは絵本に描かれた島のお伽話だ。
「ママぁ、絵本の勇者ちゃまが 助けに来たの? 」
「アイシャ、出で来ちゃダメ!」
その場に居る全ての者の目には、一瞬巨翼を拡げた<灼熱の龍>が見えたのだ。
カッ
「目を閉じろ! 失明するぞ」
辺りは太陽が二つ出来たかのように眩しく、とても目を開けていられる状況では無い。
「ハンス、核ミサイルは、ミサイルはどうなった? 」
「今確認します。ゴーグルを遮光モードに」
しかし、ミサイルが破壊出来たのかどうかよりも、熱波と暴風が俺達の体に容赦なく襲い掛かる。
「まずいですぞバ、バニー殿、ここはひとまず」
きゃぁぁ ユウガぁ~
熱うぃぃ 焼けるぅぅ
跳ばされるぅぅ~
むっいかん!
『広範囲物理防御シールド展開! 皆、目を閉じるので御座る! 』
スゥォォ~ パァァァ~
「ランちゃんにあげた、わたしのスタッフが......威力が増しているの? 」
ナビコマちゃんが、咄嗟に物理防御と遮光シールドを展開させ、俺達を守ってくれたのは助かった。
轟ぅぅ
爆風と熱波が、南国ジャーブラ島の大地と大気を揺るがし続ける。
たわわな実をつけていた椰子の木は薙ぎ倒され、海面は津波のような波が押し寄せて来た。
くっ
「退避! 宿の最上階、ハンスの部屋へ行け! 」
俺が叫ぶと同時に、全員がハンスの狭い部屋まで退避を始めた。
俺、レイ、ラン、メーダ、アイリスさん、アイシャちゃんとハンスが無事、狭い屋根裏部屋の三畳間に逃げ込んだのだ。
「みんな大丈夫か?」
確認した俺の言葉に、皆が声を出せずに頷いた。ランとメーダは、フルパワーで出したBVで喉をやられている。
ゴーグルを着けているハンスだけは、外を確認出来る為、小窓から顔を突き出した。
ひょこ
「バニー殿、空中の爆発雲からして、核ミサイルは破壊したと思っていいでしょう。さもなくば我々は、今頃蒸発しているのですから」
爆風と熱波をやり過ごすこと5分が経過して、ようやくジャーブラ島に元の静けさが戻って来た。
『もう物理防御シールドは解除するで御座るよ』
核ミサイルの恐ろしさを知らないアイリスさんは、むしろ<伝説の灼熱龍ファイアー・ドラゴン>を目撃した事に驚いていた。
ふぅぅ
「もう大丈夫、核ミサイルは消滅した。俺達は生き延びたんだ」
俺がそう言っても、レイ、ラン、メーダの反応は鈍かった。
MPを全て使い切った反動なのか、放心状態で現状をすぐに把握出来ないでいた。
アイリスさんが、レイとラン、メーダにヒールをかけてくれたお陰で、ランとメーダはやっと声を取り戻した。
ユウガ
リーダー
「あたし、今何かしたの? 」
「バニー殿、やりましたな! もうミサイルと言う手段はありますまい」
______ハンスの言葉どおり、総統へドラーと成すすべの無かったヴィクトールも、互いに顔を見合わせて安堵していた。
「ふぅ回避しおったか」
安堵したのも束の間、やがて総統へドラーに怒りが込み上げ、顔面を赤くして叫んだ。
「夢野優雅がどうやって核を......やはりアイツは守られている! あの者達の予言は正しかった。今のがその証拠だ。ヴィクトールとヴァルター兄弟、核ミサイル発射を実行したトゥーレ協会の首謀者を拘束するのだ」
御意。
「してゲッツの処分は、どうされるのです? 総統」
憤懣を隠せない総統へドラーは、ゲッツが戻り次第、重罰を与える事に決定済みだ。
「ゲッツはとりあえず監禁する。ゲッツが何をほざくか、それを聞いてから夢野優雅抹殺計画を再開する」
「なんですと総統! ここは四天王ナンバー1の私が出撃してもよろしいのですぞ」
総統ヘドラーには、片腕と信頼しているヴィクトールを駆り出す計画はない。ヴィクトールがもし敗北すれば、次はラスボスであるへドラーの出撃となるからだ。
『余が敗北しては、<新たな世界征服>は完成しない。余が敗北するなど在り得ないがな』
待て。
暫し目を閉じていた総統へドラーは告げる。
「いやヴィクトール、ゲッツに今回の責任を取らせると言う罰もある。その罰とは、奴が死んでも構わないという意味だ。わかるな? 」
この時ヴィクトールは、総統ヘドラーの残忍性を改めて認識する事となった。
『我々は総統に忠誠を誓った科学者であり、四天王と呼ばれるまでになった存在。それをそのように簡単に......殺せと仰せか』
ゲッツは今、ヴリル・オーディーン型UFOに乗り、南極基地に帰還途中の身である。暫しの沈黙の後、ヴィクトールは配下に迎撃ミサイルの発射命令を下した。
『総統の御命令だ。許せゲッツ』
_____転移
第26日目 推定 8月26日 午後6時頃の"寄ってっ亭" 食堂
ほとんど全員が、経験した事の無い出来事に唖然とした時間が続いていた。
ランとメイダなど、床にペタンと座り込んだまま動けない。
核ミサイルを撃ち込まれるなど、そんな経験をしたのは、世界でも俺達が最初の人間だろう。
地球のある独裁者、黒電話書記長と総統ヘドラーは、残忍性においても、とても良く似た存在と言える。
「爆風と熱波は、ナビコマちゃんの広範囲シールドで守られてはいたが、宿の建物を確認すると、あちこち修理が必要な悲惨な状況でもある。
「皆さん、ちょっと夕食が遅れるけど、待っててくれないかしら。うちのガルガノスもまだ帰って来ないの」
この状況で夕食の準備をするとは、アイリスさんの女将魂は半端では無い。
全員、核ミサイルで蒸発していたかも知れないのだから、皆生きている事に安堵し、夕食の事などもうどうでも良いと思っていたところなのに。
......。
「あ、俺部屋に戻ってるから、夕食が出来たら呼んでくれない? 」
うん、いいけど?
松茸一人食いだわさ
耳カプして
待ち時間で何もする事が無い俺は、一人部屋に戻るとある推測に想いを巡らせていた。
「俺がサバイバルで、この島に転移して来た理由と抹殺される理由。そして大きな存在に助けらているのには、きっと何かがある」
<優雅の回想>




