EP6 またまた謎のSILVER 特典 だと! *
<<転移>>
______第6日目 推定8月6日 午前
「あの狸ばばぁ、何がブロンズ特典だ! まったく昨日は酷い目にあったもんだ」
日の出に合わせて起きた早々、俺の口から出た最初の言葉だ。
あー、あー。
「少し声の調子が......なんだか擦れたような、少し声が上ずっているというか......冷えて風邪をひいたのか?」
「そりゃそうだ。病気の想定はしていても薬は持って来ていない。弱った事になったぞ」
今更後悔しても遅いが、俺はサバイバルの知識で、漢方薬に使われる薬草の種類は齧って少しは知っていた。
「初期の風邪なら葛根湯辺りが一般的だけど、原料の葛根、生姜、甘草などは中国原産系だろ? だからこんな島には恐らく存在していないと思う。早い話が、若くても体力が落ちているから風邪をひきやすい。早く栄養をつけないと」
朝飯はいつものバナナ定食だが、昨日からマンゴーが一つ増えている。今はマンゴー様の栄養価に頼るしかないのだ。それでも絶対的にカロリーが足りていない。
「いただきます」
味気なくなったバナナ定食を食べながら、栄養補給をどうするかを考えた。
それは島に鳥、つまり卵を産むニワトリはいないものかである。卵一個の栄養価は非常に高いのだ。卵の殻だけでもカルシウムの補給用に殻を砕いて、粉にして飲むという方法もある。
「そうそう、閻魔帳に出てた鳥の図、あれはどうやって使うんだろ?」
言うが早いか、俺は例の呼び出しワードを口にした。
「ヘロー閻魔帳!」
ヴゥゥゥゥゥン
「これだな鳥の図、でもどう使うんだ? わからん!」
「ええい! 出でよ鳥の図!」
叫んでも何も起きる筈はない。そもそも読み方が全く違うのだから当たり前なのだ。
鳥瞰図なんて単語は古い用語だ。高校生のユウガが知る訳はなかった。
「......やっぱり使えねぇか、しゃあない。なら歩測をしながら食料と、野生のニワトリを探すとするか」
「探すとしても、昨日のFCP(狸ばばぁ)ポイントには行きたくない」
昨日のネェチャンと出会った場所は、脳が激しくNOと言っているのだ。
「それには俺も激しく同意さ。よっしゃ、では旧ベースポイント経由で、反時計周りで2kmポイントを作ろう」
バナナ定食を食べ終えると、ペットボルトに真水と海水をブレンドした、スペシャル・ドリンクを肩に掛け、熟れたマンゴーを一つ持って出かけた。
「旧ベースポイント異常なし。では未踏の2km地点に向け、いざ出発」
新たな2kmポイントまで、あっけなく到着してしまった。目印の石を2個置くと、何も無かった事にガッカリしたのか、俺はその場にペタリと座り込んだ。
ん?
座り込んで思わず手をついた砂地に、何か固くてツルっとした感触があった。
俺は砂を払い現れたそれを確認すると、途端に背筋に悪寒が走った。
ゾワゾワ
「なんでここにCDが!? それも今度は銀色に光り輝いている」
"コングラチュレーション!!"
ギクぅ
「やったね少年、あんたは本当にラッキーボーイだわさ。SILVER CDなんてさ、滅多に当たらないんだよ。わざわざこうして砂地の下に隠してあったのにさぁ。ふっ流石チェリー......なんてラッキーボーイなのよさ」
「おい、今チェリーボーイって言おうとしたな狸ばばぁ。お前、ブロンズ特典で、確かHPが15になっているって言ってたよな?! あん?」
「むっ、スーパーレディのこの私に向かって、狸ばばぁってなにさ!」
「コホン、今の暴言は......忘れてあげましょう。アレですね......このあたしに、また手違いがござんしてね。だけど少年、小さな事でぶつぶつ言うとは金ボールが小さいのです。漢ならここはドーンと忘れなさいよね!」
バチコーン
「おい、妙なウィンクして誤魔化したな! しかしネェチャンは、俺のどこまで知っているんだ?!」
「ゴクリ、チェリー少年の全て......金ボールが小さくて、チューもまだなんでしょって言ったら?」
「くそぅ そこまで!」
ぞみぞみぃぃ
俺は今日はあの声を聞かなくて済むと思い、反対周りにした途端のご対面だった。
「でさぁ聞くけど、SILVER CDだとどうなのよ?」
俺も段々と、ネェチャンに対して馴れ馴れしくなってきた。
「聞いて驚くなかれ、なんとユウガ少年を 超お気に入りの......一人召喚出来るのです!」
「召喚ねぇ......あのなぁ、俺にはお気に入りの人物に、全く心当たりはねぇよ。俺の脳もキッパリNOって言っているぞ」
「もしもしぃ~、あたしの話、聞いてたぁ?? 少年がじゃなくてぇ」
狸ばばぁとここでスッタモンダしても始まらない。サバイバルの仲間を一人召喚出来るなら、これは有り難いとは思う。なんせもう一人喋りしなくていいし、ちゃんと会話が出来るなら。
「なら狸ネェチャン、なんでもいいから早いとこ召喚してくんない?」
「えっ!?......本当にいいんですね? 異世界人召喚ですよ?」
「いいよ」
「本当にホンマ でっか!? 絶対に? マジで? それは本心でっか!?」
.......。
「そ、そこまで言うんなら止めようかな......」
「ふっ 今ビビったわね。では召喚!」
「するのかよ!」
狸ネェチャンは相変わらず声だけだが、背後で数珠がジャラジャラ音を立てているのが聞こえる。
ジャラ ジャラ カ~ン
「おい、お経でも始める気かよ?」
「少年! シャぁらぁっぷゥゥ !」
「狸ばばぁ、どさくさに紛れて屁こきやがったぞ!」
「こいてねぇわ!!」
ぷぅぅぅ~ ブリッ
「ゲッくさ、今怒ったら出てしもたがな」
コホン
「銀ぃぃん河ぁプレア宇宙の神ぃぃアルテ様ぁぁ 我は願いたもう......」 おお!
「この彷徨える子ブタチェリーに 神の慈悲を~」 ガク
「ラーメン、ソーメン、味噌うどん」 ゲェ
「この異世界チェリーの為にぃぃ ここにあいつを召喚!」 なぬ?!
「出でよ! レイ! ハァ~っ!!」
ブリっ
......!
「何ぃぃ! 確か今レイって?」
轟轟と光が渦を巻くと、中には銀河宇宙が見えた。
「あれはプレアデスか?」
そして花火大会のスターマインのような火が、俺の前に吹き出す光景は、正に玉屋と叫ばずにはいられない程だ。
シュゥゥゥゥ
眩い光と花火が収束していくと、一人の人影が指を組んで祈りを捧げているように見えた。
「ま、まさか! あいつが!? なんでだよ!?」
俺はその姿に硬直し、ただ唖然として見続けるしかなかった。
そこに現れたのは、俺と同じ色違いの赤いパーカーを着たあの美少女だった。
やがて、その美少女が俺に瞳を向けて囁いた。
「ユウガ......ユウガ なのね やっと 会いたかった......」
「チ、チミ は!」
「わたし チヂミ ちがう チヂミ 食べ物 でも わたし フルーティ 食べ頃 」
「チヂミよりフルーティな食べ頃って?」
「わ・た・し」
「チッ、やっぱりいい雰囲気じゃん。私のベストチョイスに感謝してよね。邪魔しちゃ悪いから、私は今日はこの辺で。後は......」
「ヨロピクぅぅだろ! 」
「残念、今日はどうもヨロチクビ~でした」
「違うのかよ」
「それと少年、私の名前、あんたのジョセフィーヌだから ねっ! ユメユメ忘れる事なかれ! だわさ」
ウィンクでもしたのか? 道路の違う案内をされて、イライラさせられるナビみたいな奴の事は、もうどうでもいい。
俺は現れたレイの顔を確認する為に、三歩前に出てレイの瞳を除き込んだ。
『へぇ~、ブルーとグリーン、チミってこんなに綺麗なオッドアイをしてたのか』
惚れ惚れするようなレイの瞳の美しさに、俺の声が上ずり擦れてしまった。
「チ、チミは、ポ、ポンジュースのクラスメイト、北川レイさんだよな?」
「ボンジュース? ......あはっ ボンジ おは よう 」
「おはよう......ボンジ.....ジュース?」
普段の朝の挨拶が抵抗なく口に出た。いつもはこれで終わっていた、あの朝の挨拶。久しぶりの丁度いい機会なので、俺より15㎝は低い北川さんを、またマジマジと見つめてしまった。
「夢野 くん、近いの そんなに......見つめて わたしを 食べたい? 」
「ここじゃ、いいものは食べてないけどさ、モノホンの北川さんかと思ってさ」
「モノホン? わたしは わたし ホンモノ 食べ頃 新鮮 キタガワ レイ だよ 」
北川さんは、クスリと笑顔を見せた。
ドキィィ
ドキっとはしたが、まず俺は北川さんに聞きたい事がたくさん出てきた。それを確認する為に北川さんの手をとり、砂地の上に座るように勧めると、北川さんの手の柔らかさと温もりが伝わって来た。
あ
「柔らかい......あっ、ごめん」
「イヤ じゃ ない よ ちょっと びっくり した だけ」
『こ、これはもしかして、エニシングOKのサインか!』
しかし今、異世界人召喚と言う見た事もない奇跡を体験した割には、俺は結構冷静だった。
「あのさ、北川さん」
「あ、あの、夢野くん わたし わたしのこと レイって 呼び捨てに して......強く レイって」
『ドMか?』
北野さんは、何か俯き加減で瞳を合わせようとはしない。
「そ、そうだよな。ここは俺とレイさんの二人だけだからね。じゃぁ俺の事もユウガでいいよ」
「うん、でも さん いらない。 レイ 」
二人だけの異世界でユウガとレイは、これからここで暮らす事になったのだ。呼び捨ての方が気楽でいい。俺はそう思う事にした。
「では改めてレイ、久しぶりだね。学校じゃこんなに話をした事はなかったから新鮮だよ」
「わたし いつも、もっと 話したいと 思ってた の」
「へぇ~そうだったの?」
「でも 恥ずかしくて いろいろ 言えなかった の」
「朝のあれって、そうだったの??」
うん。
我が高校ナンバーワンのアイドルハーフ超絶美少女が、俺と話をしたかったなど、俺には晴天の霹靂だった。
それにレイの席はユウガの隣だった。そしてチラチラとユウガの顔を見ていた事すら、ユウガは気づいていなかった。
『そう言えば、やたらと席替えをしろと、クラスの男どもが騒いでいたな、ん~何でだったんだろ?』
そんな事は普通に分かる筈だが、ユウガには大きな謎だった。世間一般的に言えば、その病名は"超鈍感"だ。
「レイ、ここじゃ何だから小屋へ戻ろう。俺が作ったんだ。小屋でゆっくり話を聞きたいから」
うん。
言葉少なめのレイに、なんだかぞわぞわするものを感じる俺だったが、レイの手を取って俺たち二人は、1km先のベースポイントへと向かったのだ。
「レイ、砂地は不安定だから、俺と手を繋ごうか」
ギュッ
あぁん
「ユウガってば......積極的......うふん」
砂浜の砂にレイが足を取られないよう、手を繋いで歩きながら俺はレイの装備を確認している。
『服は赤いパーカーとデニムの超短パン、健康的な太もものラインを強調するニーハイソックスが眼福すぎる。靴はと......えっトレッキングブーツ? 時計はOASIO ZーSHOCK。あれはいつもしてた、色違いな俺と同じ赤い女性モデルだな。後は赤いキャップに大き目のポーチか......戦闘になったら俺はレイを守りながらって事になるよな......レイがナイフなんか持ってる訳ないし。それにしてもパーカーにトレッキングブーツ、ZーSHOCKとは、まるで俺に合わせているみたいだ』
無言で歩いているので、レイが気になったらしい。
「ユウガ、どうか した の ? 」
「ああ 何でもないよ、少し考えてた」
「レイの こと? 」
「あはは、まぁそんなとこ」
「そう だと 思った うふ」
俺とレイの会話はぎこちなかった。
「なぁレイ、俺は歩きながら距離を測っているんだ。一歩を40㎝として、毎日この島を歩いている。島のマップを作る為だよ」
途端にレイが明るく笑った。
「 ユウガ 賢くて えらい! 」
頭脳優秀なレイなら、当然もっといい方法を考えるだろうから、そんな事は自慢にはならないのだ。
仲良く手を繋ぎながら、青春ゴニョ話をしているうちに、ベースポイントへと帰還した。
「レイ、粗末すぎるけどバナナの葉を使った小屋だ。中に入ってよ」
そう言いながら、俺はレイと繋いでいた手を離そうとすると、なんだかレイの瞳が懇願するように俺を見上げた。
あぁん......
『ユウガ イヤ もっと このまま......繋いで いて ほしいの 』
レイは言葉少な目だが、彼女もまた、この異世界に転移して来て、どう対処するのかを悩み、考えているんだと思う。
「レイはここに日本から転移召喚されたんだよ、あんまり驚いていないみたいだけどさ。しかもここは地球じゃない、異世界の地球によく似た島なんだよ」
長い睫毛も魅力的なオッドアイの瞳をパチクリさせて、俺を見つめるレイがひどく眩しい。
「ユウガ わかってる それ わたしが 望んだ の 」
へっ?
突然の爆弾発言に、本日二度目の驚きだった。
「ど、どういう事なのさレイ!?」
驚きの余り、あれもこれも聞きたい事が山積になった俺は、何から聞いていいのか混乱して、また声が甲高くなってしまった。
今日はもう何もするつもりはない。これから日没まで、ゆっくりとレイの話を聞けばいい。それは今まで眠るだけだった、明かりの無い夜中でもいい。聞けば何か転移の真相が分かるかも知れないのだから。