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EP5 課題クリアと謎のブロンズ特典 *


   <<転移>>

______第5日目 推定8月5日


 日の出の赤味がかかった太陽の光が、ユウガの瞼に朝を告げる。

「もう朝か、すっかり眠ってしまった。それにしても誰かが俺を呼んだような気がしたけど......あれは夢だったのか」


 やはり栄養不足が祟っているのか、日増しに体力が落ちていると感じている。

 「これは不味いな」


 ふとマンゴーの実を見ると、緑色が黄色く熟していた。触れると柔らかく、甘い香りもする。南国の温かさで、収穫したマンゴーは熟すのが早いからだろう。


「やった! 今日の朝飯にマンゴー1個追加だ」

この予想外の出来事に、ユウガの腹は更に空腹の不満を訴えた。

 ぐぐぐぅぅ


「わかったわかった。今日は朝からご馳走だからな、びっくりして腹を壊すなよ」

 俺はわくわくしながら、早速マンゴーを切り分けると、十徳ナイフのドライバーをフォーク代わりに刺して口に運んだ。


「おほほほ~、久しく忘れていた芳醇な甘さが、ジワーと五臓六腑に染み渡っていくのが分かるわぁ。俺、幸せぇぇぇ」


 おほほとは男なら言わないが、感激の余り思わず女性言葉になってしまった。そして人間は腹が満足すると、何事も冷静に見れるようになるものだ。


 至福の時間を存分に味わった俺は、だらけた顔でぼんやりと打ち寄せる波を眺めていた。



チカッ

 俺の視界に、何か海に光る物が飛び込んで来た。

 「何だあれは?」


 ユウガの居る場所からおよそ100mだろうか、それは波の上を漂っていた。

「よっしゃ、これは確認するしかない!」


 そう言うと、急ぎ素っ裸になって海へ飛び込んだ。へっぽこクロールでその物体まで泳ぎ着くと、俺はそれを直視して驚きの声を上げた。


「こ、これは!」

 早速、物体を手に取り浜辺まで戻ると、今度は歓声を上げたのだ。上げずにはいられなかった。


++++++++挿絵(By みてみん)  ボトルメール


「マジかよ、これはヘブシコーラNEXの1500mlペットボルトだよ。ラベルも付いているから間違いない。これは古いな、B'sがCMでやってたボルトで、俺もあの時は亀代にせがんで箱買いした奴だ」


 中身は空だが、それは間違いなくヘブシのペットボルトだった。

「ここは異世界だぞ、誰が流した? 否捨てた? いったいどこから?」


 疑問は尽きないが、懐かしいボルトを眺めていると、中に白い紙が二つ折りになって入っていた。


 「おい助さんや、これはボトルメールじゃありませんか?」

 孤独なので、つい誰かがいるように話をしてしまう。


「角さんや、ならばその紙を取り出したらいかがなものか?」

「ごもっともで御座る」

 酷い一人芝居だ。


 俺はボルトのキャップを捻ると、中の紙を取り出そうと四苦八苦する事になった。

「口が狭く、奴が抵抗して自首してこないのだ」


 木の枝を突っ込んで、暫く格闘しやっと取り出す事に成功した俺だった。


「確保! ふむ、やはり手紙だな」

取り出した手紙をドキドキしながら開くと、そこには日本語で文字が並んでいた。


 白い便箋一枚を1/4位にカットして、ボールペンで書かれている。

「紙を無駄にしていないところが実に合理的だ。では、よ、読むぞ」


 訳の分らない理屈を口にしている割には、そこまで緊張しなくてもいいのだが、書いてある内容が有益ならこれは有り難い情報になる。


 <前略......中略......主文

これを拾って読んだ人は、警戒してください。島には凶悪な何かが居ます。身を守り備えなさい X>


「って、ここは島なのか!?。で凶悪となると相手は島に生息する魔獣とかモンスターとか、それが人間を食ったりするとしたら、これはヤバイぞ。今までゴキブリにさへコンニチワした事がなかったんだ。このメッセージがモノホンなら、超まずいじゃん!」


「それにしても最後のXって何だろう?」


 無人島ならゴキブリはいない。今まで危険な猛獣のたぐいに遭遇しなかったのは、単なる偶然だったのかもしれない。


 「俺が海岸線沿いを歩いたり、内陸部に深く入らなかったお陰だったのか?! となると武器はやはりお前だけだ」

 ユウガは高価なシャークテックナイフを改めて手に取ると、どう戦うのかを考え始めた。


「切ったり削ったりの刃渡り20センチのアウトドア用だからな、ナイフで戦うなんて想定外だよ」


「兎に角、内陸部に深く入らなければ、魔獣かモンスターと遭遇する確率は低い筈だ」

 

 改めてボトルメールのペットボルトを見て、やっと気づいた。

「これ、水筒に使えるんじゃね! 容量は1500mlもあるから、コレ使えるじゃん!」


 メールはそら恐ろしい内容だったが、このペットボルトの存在は有り難い。

 これで行動半径が大幅に増えるのだから。


「それならバナナを収穫したら、あのブロンズの光まで行ってみよう」


 簡単に言うが、今いるベース・ポイントからバナナポイントまでは1kmで往復2km、更に2kmポイントから約2km先のブロンズの光だ。往復してベース・ポイントまで戻るとなると、計10kmにもなる。


「一日の歩測で最高の距離を歩く事になるけど、今はペットボルトが手に入ったのだ。スタミナ切れは心配だが、携帯バナナを持って行けばなんとかなる」


 あのブロンズ色の光を確かめない理由はない。そして今は水筒代わりのペットボルトが偶然にも手に入ったのだ。


 俺は真水を1/3分位入れたペットボルトを、柔らかい蔦で腰に下げれるように細工して、まずバナナポイントへと向かった。


「しかし結構邪魔だな」

と思って蔦をショルダー式に改造し、具合を確かめてから、また歩き出した。


 バナナポイントでバナナを一房収穫すると、旧ベース・ポイントでまた休憩をとる。

「思ったより疲れていないのは、朝のマンゴーのお陰だろうか。マンゴーの果糖がエネルギー補充に役立っているのだろう」


 

______「よし,ここから往復8kmの旅だ」


 今度は、真水1/3に海水10%を混ぜて塩分補給をし、特別に熟したマンゴーも1個も持参する事にしたのだ。


「通常の8kmじゃない。ここは慎重に行こう」


 魔獣などの脅威を気にしながら、右手にシャークテックナイフを持ち、歩測で2kmポイントまでは無事に到着した。

「今まで危険を考えずに歩測してたなんて、危なかったなー」


 周りの安全を確認すると、またブロンズ色の光まで歩を進めた。

「休憩するなら光に着いてからだ。何かの反射だったら、そこでガッカリして休めばいい」


 目測で2kmだと思ったが、光は思ったより遠くにあった。

「歩測で2.5kmだな」


 距離は延びたが、無事ブロンズの光まで到着する事が出来た。

「なんだコレ? 」


 それはCD位の大きさで、ユウガの身長177cmの高さに浮いていた。

「コレって? 見た目はCDそのものだぞ。裏に回ってもCDだし」


 そのブロンズ色を放つCDは手を伸ばせば取れるのだが、いきなり素手で触るのも危険だ。俺は木の枝で軽くつついてみた。


 「何も反応はないな」

何かのトラップで、いきなり電流が流れて気絶させられる事も考えられるからだ。

 そこで持っていた軍手を嵌め、恐る恐るブロンズCDに触れてみた。


 パァァッッッ

 途端、美しいブロンドの光が一瞬で俺の体を包み込んだ。


  " コングラチュレーション!! "


 いきなり俺の頭に、女性の声でサバイバルとは無縁の勝手な言葉が流れ込んで来た。


「何がコングラチュレーションだ! 意味が分からん。だけど害はなさそうだな」

 その俺の言葉に気をよくしたのか、そのCDのねぇちゃんが機嫌良さそうに解説を始めたのだ。


 

 「おめでとう少年! 見事課題をクリアしたので、少年には現在の能力が分かる、"スキル・閻魔帳" を進呈するよ。使用方法は至ってシンプル、"ヘロー閻魔帳"と叫ぶだけでOK、しまう時は"ミートグッバイ閻魔帳"です。では後はヨロピクぅぅ」

プツン


「ミートグッバイって肉? 離れ? 肉離れじゃねぇか! おい、ちょっと待てよ、おい」


++++++挿絵(By みてみん) いわゆるひとつの Meat Good-Bye


叫んでも、頭の中に聞こえたねぇちゃんは出て来ない。いつの間にかブロンズ色したCDも消えていた。


「肉離れに注意しろって事か? 長嶋さんじゃあるまいし、とんだハプニングだったな。しかし休憩しながら、ねぇちゃんの言った事が、モノホンかウソかを試すしかないな」


 どんな事態でも、切り替えの早さがウリのユウガだ。

今のが超常現象なのか異世界の幽霊なのか、そんな事は些細な事だと割り切ったのだ。


 「ではいざ参る!」

 「へロー閻魔帳!」


 ヴゥゥゥゥゥン

 俺の目の前に、40インチくらいのテレビ画面が出現した。

「これの事か!? 凝ったギミックだな、ねぇちゃんよ」


 よく見ると、ねぇちゃんが囁いたとおり、HPやらMPといったゲーマーならお馴染みのステータスが表示されていた。


名前 夢野 優雅 ? 16歳

称号 サバイバルナイフ戦士 LV0

HP 10 高校生レベル 並丼

MP 0

スキル 試行錯誤 LV1 常駐

武器 舶来シャークテックナイフ LV1

防具 ユニケロ パーカー上下 LV0 軍手 無いよりマシ

魔女の加護 ロック中

鳥瞰図 LV1

閻魔帳


 「なんじゃこりゃぁ! ほぼ現状そのままじゃねぇか! 丸投げかぁ? そりゃサバイバルナイフ戦士って、ネーミングはカッケーけど何で戦士なんだ? しかもレベル0とは、トーシロー以下じゃねぇか。まぁ魔獣と闘うと言う意味の戦士なら納得だが......それにしてもレベル0とは使えねぇ」


 閻魔帳に出現した項目とデーターは、残念感が多すぎたのだ。

「思考錯誤は現在実行中だしな、魔女の加護ってのが唯一スキルっぽいが、何故魔女? それにロックが掛かっている?? 他は鳥の図って、島にいる鳥の紹介本か?」


 「ミートグッバイ閻魔帳!」

「チクショー、なんてダサイんだ」

不貞腐れて閻魔帳を閉じた俺に、またねぇちゃんの声が響いた。


「あの~もしもし、あたしとした事が重大な事を、すっかりぽっかりと言い忘れてましたぁ」

「むっ なんだよ今更」


「まぁそんなにプリプリしないでよ、若いわねぇ。あのですね、サバイバル戦士として戦うには、現状のHP10じゃ足りませんの」


「いいとこに気づいているじゃん」


「そうでしょう。少年がブロンズに輝く光を浴びてCDに触れた時、期間限定のブロンズ特典で、HPが15に増量してるんよ。15と言うのは、いっぱしの大人の体力で、チンピラ魔獣程度なら勝てるんじゃないかなぁ。では、後は用法容量をご確認の↑、ヨロピクぅぅ」


 プツン


「チンピラって、普通弱小モンスターとか初心者用モンスターとか、言い方はあるだろうに」


 ここで俺は再度ステータスを確認してみた。

「ヘロー閻魔帳!」

 ヴゥゥゥゥゥン


 HP......10

「何がブロンズ特典じゃ! 全然変わってねぇ! あの狸ばばぁ!」


 何もパワーアップしている訳でもないので、ベース・ポイントに帰る時はまた慎重に警戒しながら帰る事になる。


「はぁ~、あのねぇちゃんにすっかり毒気を抜かれたな、もう帰って寝るわ俺」

 折角歩測したので、4.5kmポイントの石を置き、名前を狸ばばぁと出会ったファースト・コンタクトポイント、"FCP"と命名した。


 ぶつぶつ言いながらも、俺はベース・ポイントに辿り着き、持っていたマンゴーをガブリと口にした。とても疲れていたのだ。


「この甘さ、今日の疲れが飛んでいくぅぅ~」

この時、俺は気づいていない事が二つあったのだが、それは後々判明する事になる。



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