EP40 4階層攻略 葛藤二つの<降りる>選択
南国そのものの異世界ジャーブラ島は、日本の真夏とは対照的に蒸し暑くも無く、とても涼しくて快適で、パーカーを着ていると汗ばむ程だ。
俺達は日陰に腰を下ろすと、車座になってギルドでは話せなかった事を確認していた。
座長は当然、リーダーの俺だ。
「今日は、ギルドで俺達がクラスアップし、<kacho=B>になった事を確認出来た。Sランクはスーパースター、Aランクは一流、Bランクは実力者のランクと認識されているんだ」
しかし、いくら実力のあるBランクになったとは言え、何の情報もないま明日"誘惑のケイヴ"4階層攻略に向かう訳にはいかない。
その理由は、3階層攻略を決断した無謀な挑戦をした事を、後悔していたからだ。
「なぁみんな、ここはもうジョセフィーヌに頼るしか無いと思う。アイツに頭を下げてでも、<挑戦権>の意味を教えて貰わなければ、4階層攻略は無理だと思っている」
俺の言葉の意味は、もしもジョセフィーヌに答えを聞けたなら、4階層の攻略に向かうと言う事だ。
そんな俺の言葉の意味を悟ったメーダの瞳が、みるみる曇っていく。
「あのさユウガ、あなた達が4階層に挑む理由って......それは何?」
「そうかすまないメーダ、これは俺とレイ、ランが元の世界に帰る為にする挑戦だ。この世界のどこかの大陸か、島から流されて来たメーダとは、住んでいた世界が違うからだよ」
『ぐっ、住んでいた世界が違う......』
それを聞いた途端、メイダの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。そして何か喋ろうとしたのか、小さくて紅い唇が震えていた。
「ねぇ、ユウガ。命を掛けてまで4階層に挑まなくても、あ、あたし達4人はもう、同じ冒険者チームなのよ。もう家族と言ってもいいくらいにね。それなら、この島でこのまま一緒に暮らせばいいじゃない」
とメーダから悲壮感が漂って来た。
もし"誘惑のケイヴ"の全階層を攻略したなら、その時はメーダとの、お別れを意味している。それを敏感に肌で感じたメーダの瞳が、それは嫌だと訴えているのだ。
確かに俺達3人とメーダは、ケースは違うが良く似た状況でこの島に来た。このジャーブラ島で、このまま冒険者として生きていくと言う選択肢もあるのだろう。
「なぁメーダ、俺にもレイにも、ランにも両親が居る。親が居るのはメーダも同じだろう? それに学校のクラスメート、つまり友達もいるし、将来したい事や夢があって、それはこの島では叶わないんだよ」
夢......メーダにとって夢とは何か、今まで考えた事もなかった<夢>を、ひとり自分の心に問うてみた。
『わたしの夢......そんな物ない。友達......そんな人も居ない』
「ユウガ、あたしね、自分の親を知らないの。どこの誰だか分からない。あたしはね、エルフの孤児院で育ったのよ」
「......そ、そうだったのか」
メーダは孤児として育てられたが、院の中でもその美貌とスタイルとボインに嫉妬され、不細工な孤児達が結託して、年に一度ある<ミス・エルフ>常勝のメーダを追い出したのだった。
メーダが優勝すると、大会主催者からは賞金や食料、流行の衣服などが贈呈される為、孤児院としてはメーダをずっと勝たせる計画であり、そこに愛情はなかった。
早い話が孤児院もメーダの存在は、金を呼ぶ都合の良い手札くらいにしか思っていなかったのだ。 若いメーダの瞳は、敏感にその事実を捉えていたが、その思いを隠し、孤児院で生活するしかなかった。
両親の愛にも同属の愛にも飢えていたが故に、エロフと化してしまったと言えるだろう。
『......あたしの事をエロフと呼ぶ人は多い。それはあたしが、仮初の愛を求めて来たからなの。でも今は違うの! やっとあたしの居場所を見つけたの。それはユウガ......あなたの傍なの』
「メーダにそんな悲しい過去があったとはな」
ユウガは同情はしても、レイとランだけでも、日本に返してやりたいのだ。その為のダンジョン攻略だと思っている。
「なぁメーダ、俺達"Cuty Bunnies" がどこまでやれるかは分からない。何階層あるか不明のダンジョンなんだから、駄目だと思ったら、その時に考えればいいじゃないか」
うん......そう ね
俺の慰めに、なんとなく希望を感じたのか、メーダの瞳が少し輝きを取り戻していく。
「メイダ、わたしもユウガの考えに賛成だから」
「あたしは、味噌活が食べれるし、こっちの世界もまんざら悪く無いとは思っているのよさ」
レイもランも、ダンジョン攻略に"失敗"したとしても、その時はその時と腹を括っていたようだ。
メーダを含めて、そんな3人を愛おしいと思い始めた俺だった。
だが4階層攻略には、ある重大な問題が存在していた。
______『なになに? そんな場所で、しんみりタイムかな? チェリー少年』
「ジョセだわさ!」
「ああ、居留守を使う狸ばばぁだ」
「最低! 100倍つーん」
ジョセフィーヌは、どうやらレイにも嫌われたらしい。
『レイちゃん、そんなにツンケンしなくても。ほら少年達が聞きたがっていた情報なんだけどさ、それを伝授しに来てあげたのに、その態度は無いのよねぇ。少年、あんた確かあたしに土下座するような事、言ってたのにさ』
『こいつ! やはり覗きながら、居留守も使うヤツだ』
「ジョセ 食えぬヤツだわさ」
「つーん」
「ああ言ったよ、言ったとも。それで俺が土下座すれば<挑戦権>の意味を教えてくれるのか?」
ジョセフィーヌが何を企んで、俺達をこんな目に合わせているのか真意は依然として闇の中だ。だが、真相が分からなくても俺達は日本に帰りたい。その為なら、俺は土下座も厭わない。
「頼む。教えてくれ」
『少年、あたしにも、もう余り時間がないのよさ。心の準備が出来次第、4階層へ行けば階段はすぐ降りられるんだよ』
そうジョセフィーヌは言うが、本当のところはXXXのGOサインが出ていたからだ。
『大きな声では言えないから。いい? ここからが本当の正念場なの。4階層の敵は<四天王>、わかる? 強敵なんだからね』
「なにぃぃ!」
<四天王>の言葉に俺は硬直した。それは今までのモンスターが格下だと、ジョセフィーヌはそう言っているのだ。
「俺達Bランクで倒せる相手なのか? そんな奴はAランクでないと倒せないのでは無いのか? 今までは運が良かっただけなのかも知れない」
『少年、レイ、ラン、エロフ、良く聞いて。今まではお遊びみたいなモンスターだったのよ。四天王と戦えば必ず誰かが......し』「もういい! それ以上喋るな!」
『そうね、じゃぁ あたし 戻るから......』
プッツン
俺のワナワナと震える手を、レイ、ラン、そしてメーダが握って来た。
「大丈夫 わたし達 最後まで 一緒」
「リーダーらしくもないわさ」
「ユウガとなら......いいよ」
リーダーとして、俺はなんと頼りないのだろう。美少女達に慰められるなんて。四天王相手に"Cuty Bunnies" が敗北したら、それは恐らく4人の誰かの"し"を意味し、その責任は全て俺にある。四天王とは、ジョセフィーヌの言葉で、それ程に凶悪で強いと断言出来るのだ。
「四天王と言うからには、ボス配下のモンスターが4体......眷属モンスターなんかも出て来る可能性がある。どうすればいいんだ俺は」
『危険な四天王が待ち構える4階層へは降りずに、この島で冒険者稼業を続ければ、なんとか4人で生きていける。俺達の夢を降りる事になるけど、ここはメーダの願い通りにという手もある......な』
それは逃げ出した訳では無い。命を天秤に掛けて葛藤した結論、それは一つの選択であり、誰にも責める事は出来ない。
※(Kakedasi=D Ippasi=C Kacho=B Bucho=A CEO=S)




