EP32 出たぞキング・ゼリーだ!
______転移
第19日目 推定 8月19日 午前5時過ぎの俺達の部屋は、まるで火事場の跡のようだった。
俺、ラン、メーダの体に黒い煤がこびり付き、俺達の着ていたパーカーは、見るも無残にボロボロになっていた。
ランの上半身など、ヨロチクビがなんとか隠れている程に、絶妙な匙加減で焦げていた。
「レイあんた、あたしが何したって言うのよさ!」
ランの怒りは当然なのだが、俺が朝飯も大盛りでと言ったら、案外すぐ納得してくれた。
チョロイ チョロ過ぎる!
メーダと言えば元々マッパッパーだったので、今は革ジャンと短パンに着替えているが、俺とランのパーカーは焦げて穴だらけなのだ。
どうしてこんな事になったのか? その原因はレイの嫉妬にある。
俺は朝まて一睡も出来なかったのだが、そのお陰で一つ分かった事があった。
それは俺の腹の上で、マッパで寝ていたメーダの事だ。
夜中にメーダが、いきなり寝言だろうと思ったが、その極一部の内容から、メーダの過去を知る一端となったのだ。
______<みんなで私を追い出すなんて酷いわ>
すーすー
メーダがそんな寝言を言った時、レイも気づいてその言葉を聞いたのだが、マッパースッポンで俺に覆いかぶさっているメーダを見て激怒し、情け容赦無いファイアーボールをぶっ放したのだ。
「ちょっと待てよレイ。おいちょっと待てってば」
と、キムラ・タコヤになった俺は、詠唱を始めたレイを制止したのだが、時既に遅かった。
「このドロボーエロフぅぅ!」
ボゥゥ
でこの有様となった訳だ。
俺とランが、レイのファイアーボールの巻き添えを食らって、お陰様で3人共完全に目覚めた。
「レイおま、ヤリ過ぎだ!」
「だぁってぇぇ ユウとエロフが あんな事 そんな事 ヤッてると......ゴメンなさい」
『レイの言葉が、段々とエロくなったのは、俺のせいか? 』
「そうよ」
また心を詠まれている。俺は順調に外堀を埋められているような気がしてならない。
「......小娘レイ、あんた意外に根性あるわね」
そしてまたこのエロフが、俺の身元で囁く。
ぷ~ん
夜中もこのエロフのフェロモンで、俺は余計に眠れなかった。レイとランとは違う、何か野生風味溢れる独特のかほりなのだ。
「どうだった? あたしのバディ。ちゃんと見てくれたかしら?」
夜中にそんなものが見える訳がないけど、感触はすんげぇよかった。
「メーダ、今日は3階層の攻略だけを考えろ! いいな!」
俺のリーダーとしての迫力に、エロメーダも反省したのか小声になる。
「うん、そうだった。ご免ねリーダー......ユウガくん」
メーダというエロエルフは、案外純粋な奴かも知れない。
朝飯前に侘びとして、メーダが寝言の真相を話してくれたが、その内容に俺は驚いた。
今で言うなら"イジメ"である。
メーダは、他の大陸から同属の女エルフ達によって、ジャーブラ島に流されたと言うのだ。俺達は転移だったが、メーダは島流しだ。
俺がこの島でエルフを見た事がなかった理由、それはジャーブラ島にエルフは、メーダひとりだったからだと理解した。
ただメーダが狩猟で生きていけるようにと、愛用の魔弓だけは持たされたらしい。
それは全てメーダが、魔法で昏睡させられている間の出来事であり、メーダが気づいた時には、名も知らぬこの島の海岸に、粗大ゴミの札が付けられて捨てられていたのだ。
粗大ゴミ回収日などある訳がない。しかしメーダは挫けなかった。
その後、メーダは森で一人サバイバル生活をし、俺達のようにギルドの存在を知ってからは、時々獲物をギルドで買い取って貰いながら、命を繋いでいたと言う。
______「お前さん、随分と酷い目にあったんだな」
当時、同情したギルドのガルガノスが、獲物を割りと高く買ってくれたお陰で、メーダはなんとかここまで生きて来れたのだ。
ガルガノスは、メーダが持ち込む肉や魚、時には大豆を、将来の宿屋経営の為にと、自分の料理研究に使っていた。それほど質が良かったのだ。
ガルガノスが造る味噌、大豆を醗酵させると言う知恵は、森で生きるエルフの知恵だった。
この時ガルガノスは、アイリスと結婚して冒険者を引退、宿屋のオーナーになると言う計画を立てていたのだが、しかしメーダがそれを知る訳がなかった。
顔は強面だが、心優しいガルガノスにメーダが次第に惹かれていくのも、自然の流れか。
『アイリスとはどんな関係なんだろ?』
アイリスの存在を疎ましく思いながらも、レンジャーとして優秀だからを猛アピールし、そして当時のガルガノスとアイリスペアに、強引に仲間に割り込んだという経歴の持ち主だった。
ガルガノスはメーダを仲間にした事で、それぞれの頭文字を取って、チーム名を<GIM>に改めた。
「......そうだったのか」
俺はメーダの身の上話に、少し同情してしまった。
「本当にあたしって罪な女よね。エルフナンバーワン美女のあたしに嫉妬して、あたしを島流しにするなんて。本当に嫌よねぇ」
ガク
そして俺は、メーダの認識を元へと戻した。
______転移
第19日目 推定 8月19日 午前10時
新たにメーダを仲間にした"Cuty Bunnies"+1は、いよいよ出たとこ勝負となった3階層に挑もうとしていた。
俺はメーダに、ジョセフィーヌと言う何者かが、バックアップしている事を既に伝えてある。
そして、ジョセフィーヌの計らいで、メーダにも強化スペシャル・バニースーツを用意してもらっていたのだ。どうやらジョセフィーヌが作ったバニースーツは全部で5着、予備に1着が完成していると言っていた。
『一人だけ無しと言う訳にもいかないしねぇ』
ついでにボロボロのパーカーも、瞬時に修復が終わっていたので、ランのヨロチクビはもう安全だ。
「あいつが何とかすると言ったのは、たぶんメーダのバニースーツの事だろうな」
いつものように、ダンジョン前に誰も居ない事を確認すると、全員で変身の言葉を唱えた。
「「「「チェンジ バニー うっふん」」」」
パァァァ~
クルクルクル
シュタァァ~ン!
4人のバニーガールが一斉に着地して、お互いを確認し合うとメーダが歓喜の声を上げた。
「何コレぇぇ! 超エロいんですけどぉ」
普段エロいエロフが今更である。
メーダは愛用の魔弓を手にしながら、結構バニースーツが気にいったようで、上機嫌なご様子。
ララ~なんて鼻歌を歌っているが、それが妙に心地よいのだ。
「リーダー、あたしも絶好調だわさ」
腹がか?
レイは眠気覚ましのファイアーボールをぶっ放したせいか、妙にスッキリした顔をしている。
『レイにとって、久し振りのファイアーだからな、ガス抜きになったんだろう』
「ユウ わたし 妻なのに お預け ばっかり ガス 溜まってる」
「俺の心を詠むな」
なとど思いつつも、寝不足で絶好では無いのは俺だけなのだ。エロフは徹夜に強いみたいだ。
______恒例となった神の言葉で、俺達は円陣を組んで幕が開く。
「「「「ナマ イッチョウ!!!!」」」」
と雄叫びを上げて、2階層に到着。4人が入ったと同時に扉が閉じた。
ギィィィ ゴゴゴ バタム
「やはりな」
「嘘、リーダーユウガくんが言った事は本当だったのね」
メーダは驚いているが、俺達は閉じる事を前提で攻略に来ているのだ。もう驚きはしない。
ジョセフィーヌが更にパワーを上げたらしく、バニースーツの放つフォース・フィールドの光が、以前より明るく2階層を照らしている。
ドス ドス ドス
「距離30m」
レンジャーのメーダの目には、正確な距離が分かる。
「ユウガくん、来たわ! ピンク・ゴーレムが3体」
弱点はもう分かっている。レイがスキル<サンダー・ライデンドロップ>を見舞おうと準備を始めたが、それより早くメーダの魔弓の風切り音が先だった。
ヒュン ピュン シュン
ガス ガス ガス
ピンク・ゴーレムが、ブロウやビームを発射するより早く、赤い弱点に3本の矢が見事にヒット、弱点が粉々になってゴーレムがゆっくり沈んでいった。
ドスゥゥゥ
発見してものの15秒だ。
「凄いなメーダ!」
なるほど、アイリスさんとジョセフィーヌの言っていた事が、正しかったと証明された瞬間だった。
「言ったでしょ、あたしは目がいいの。それにこの鏃はダイアモンドなのよ。魔法で合成しているから、すぐに消えちゃうけどね」
予想に反して、メーダは勝ち誇ったりはしなかった。
『これは3年前の経験があったから。初見だったらあたしは死んでいたのよ......』
「なーる! 魔弓とは便利な武器だ」
レンジャーのメーダが居るだけで、俺はこれほど心強いとは思わなかった。
2階層のピンク・ゴーレムは、またレイの御開帳のお世話になると確信していた俺は、少し残念な気分だ。
「ユウ!」
またバレてる。
バカぁ! つーん!
レイに睨まれながらも、俺達は3階層の入り口まで降りてきた。
これは? 2階層の扉より歪なのは......
「内部から酸を浴びて、変形しているからよ」
一度は来ているメーダだから、その通りなのだろう。
「これはかなりの強酸だぞ、岩が溶けている」
「みんな、言っておくがバニースーツは酸には耐えられない。酸は避ける事に専念してくれ」
『酸性だけに 賛成だわさ』(ラン)
とは言ったものの、もし酸を浴びてしまったらと思うと背筋が寒くなる。ここはランのヒールに頼るしか道は無い。
「みんな行くぞ」
うん
帰ったら大盛りだわさ
またアレが......来るのね
思いは様々だが、これから生死を分けた戦いとなるのだ。リーダーとして、今回はもっと慎重であるべきだったのではなかったのかと、後悔も過ぎる。
一歩二歩と、俺達は進んでいく。
最近はしていないが、浜辺の歩測を思い出し、俺は歩数を数えている。特に意味は無いのだが、そうしないと心が落ち着かないのだ。
ドク ドクン ドクン
緊張し過ぎているのは自分でも分かっている。
ここで全員が死んだら、もう日本には帰れない。一人が欠けても、あの約束は果たせないのだ。
歩測にして200歩だろうか。それはゆっくりと現れた。
「主、警戒せよ」
「ナビコマちゃん何匹いる?」
生体モンスターなら、ナビコマちゃんの出番だ。
「キング・ゼリーLV8 後続にスリープ・スライムLV7 更にパラライズ・スライム LV7 ポイズン・スライムLV7+」
体長2mはある4体の丸いスライムが、ユタユタと近づいて来る姿は愛らしいが、敵は死を齎す凶悪なモンスターなのだ。
「みんな酸と昏睡、麻痺、毒のスライムだ。絶対に攻撃を食らうなよ」
前衛は俺だ。しかしナイフとシミターで切り掛かっても、スライムを倒す事は出来ないだろう。奴の体の中には、六角形の青い核が見える。アレを破壊すれば倒せる筈だが、2mの巨体の中心にある核までは、恐らく届かない。
スキル「Ultra Soul!」
ランが精神強化のスキルを発動、するとメラメラと闘志が沸いてくるのと同時に、あるアイデアが浮かんだ。
「レイ、お前の<ユウラン>を貸してくれ」
その一言で、レイは俺が何をしようとしているか、瞬時に理解した。
「スーパーヒート・ファイアーボール!」
レイが撃ったファイアーボールは、チタンで出来た穂先を轟々と赤熱させた。
チタンを赤熱させるなど、レイのファイアーボールの威力が格段に上がってるのでは無く、これは強引にMPをつぎ込んだ結果だ。恐らノーマルの10倍のMPを消費している。
真紅に赤熱した穂先で、俺が先頭の<キング・ゼリー>の防御を溶解突破し、核を突く事をレイが察知したコンビネーションプレイだ。
はぁぁぁ!
ジュゥゥ
ぐにゃり
「駄目だ! 核に届かない!」
<キング・ゼリー>の表面から中層までは溶かしたが、ゼリーの防御は厚かった。<ユウラン>は惜しいところで弾かれてしまったのだ。
まずい!
「ユウ 今のでMP 半分 撃てても イッパツよ! イッパツ」
「レイ、何を強調しているんだ。もうファイアーボールは撃つな! MPを温存して、今はスライムの攻撃を避けろ!」
「うん わかった! 今夜の為にね」
レイの持てるスキルでは、もはやスライムには通用しない。それはナイフ主体の俺も同じだ。
その時、ナビコマちやんが叫んだ。
「主、<チャント>で御座る!」
「なに? チャンスじゃないだろ、今はピンチじゃねぇか!」
ナビコマちゃんの主ランには、すぐにその意図を理解出来た。
「リーダー、あたし分かったわ! 見てて」
次は毒で仕留めるつもりか、<キング・ゼリー>が後退して、<ポイズン・スライム>が先頭に出て来た。
「なんて毒々しい色! 食欲が無くなるのよさ」
「何をする気だラン! <ポイズン・スライム>が接近しているぞ、毒を浴びる! 逃げろ!」
俺の言葉を無視して、ランが両手の指を組んだ。そして......




